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真装神竜

「あの……ローズさん」

「うん、何?」

「お城の方が騒がしいです……」

「え?」

 セリカの城へレンを乗せ、魔動車で移動している最中の事。

 城までは相当距離がある。

 ローズは一瞬、レンの言った事を勘違いしたのか思ってしまった。

「セリカの城の方、よね?」

「……はい」

「ここから分かるものなの?」

「…………はい、私はセイレーンです。音に関してはとても敏感なので」

「なるほど。さすがに何が起こっているかまでは、分からないのよね?」

「はい、そこまでは…………けれど、人が大勢いる事は確かです」

 転生者達がセリカの城を襲撃しているのか、リンの身に何か悪い事でも起こっているのか、不安な事が脳裏を過ぎて行く。

 レンに一言断りを入れて、魔動車の速度を上げ城への道を急ぐ事にした。

 岩場が続く細い道。

 そこを抜けると開けた平地が現れ、更にそのまま進むと右手側へ森が出現し、森の奥深くへセリカの城へ続いて行く。

 その細い道をローズは器用に運転し、岩場を抜け広場へ出るとそこには。

「……何が、起こっているのよ、これ」

 平地には大勢の転生者がいて、皆が上空を見上げて佇んでいた。

 それに釣られるように見上げると。

「レン、知っていたら教えて。このスタープラムの世界で、人が浮遊する事なんて可能なのかしら?」

「…………少なくとも、今まで生きて来て……一度も見た事はありま、せん」

「そしたら、あれは一体どう言う事なのかしら。新手の転生者? それとも、統制者の一人かしら?」

「えっと、ローズさん。いくら空を飛べるモンスターの統制者だとしても……空、を飛ぶ事は、出来ないんです……羽や翼は、ありませんから……」

 そうなるとやはり転生者なのだろうか。

 とも思ったが、空を見上げている転生者達からは、自分達と同じ転生者だと言う感じは見受けられず、どちらかと言えば敵対しているような雰囲気が感じられた。

 現に、地上にいる転生者は全て武器を手に取り、空に浮いている人物を見上げているその事実は、少なくとも仲間同士では無い事が明白。

 それならあれは、本当にいったい何者なのか、そうローズが考えていると空に浮いている人物が動きを見せる。

「?! レンっ、魔動車にしっかり掴まってっ!」

「え……?」

「説明は後よっ! 早くっ!」

 ローズは素早く運転席から飛び降りる。

「火葬化っ! レンっ、シートに伏せて掴まるのよっ!」

「は、はい……っ」

 空の人物が腕を振り下ろしたその直後。

 気のせいか、と錯覚する程、刹那的な光が一瞬チカリと輝き、光輝く細い帯状の無数の光がが地上にいる者達の身体を貫いて行く。

「こ、んな……強力な魔法力を…………放つなんてっ!」

「ロ、ローズさんっ」

(マズイッ、このままじゃ、魔法障壁が保てないっ!)

 ローズは魔法力を上げ、障壁の強度を上げる。

「くっ、ううっ! …………黒曜っ! 負ける、ものっですかぁぁぁあっ!」

 バチンと音を上げ、光の帯を弾き返す。

 ローズの魔法力を持ってようやく弾き返す事が出来る様な魔力の帯。

 それを浴びた転生者達は、それはとても綺麗に身体を切断されていた。

「レン、運転席を空けて頂戴。今直ぐこの場を離れるわよ」

「は、はい……」

 火葬化を解除し、魔動車を飛ばす。

 城へ続く森へ入った途中の事だった。

「リンっ」

「あ、ローズさんっ!」

「事情は……知っているようね。とりあえず城へ戻るわよ。着いて来れる?」

「はい、素早さには自信がありますからっ!」

 合流したリンは、ローズの操る魔動車から離される事も無く、程無くしてセリカの城へと辿り着いた。

「リン、時間はあるのかしら?」

「いえ。無い、と思った方が良いかと……」

「そう。じゃあ、手短に。この子は、レン。セイレーンの統制者よ。それから、この子はリン。スライムの統制者。二人は顔見知りなのかしら?」

 二人は同時に首を横に振る。

「悪いわね、レン。せっかく城へ来たのに、ゆっくり持て成す事も出来なくて」

「い、いえ……私は、大丈夫、です……ので」

「事が片付いたら、ゆっくりしましょう。それでリン。アレは、何? とんでも無い魔力だったわよ……」

「あの子は…………真装神竜バハムート」

「やっぱりそうなのね……」

「と言ってもまだ、見習いみたいですけど……」

「五年程経ったのかしら、バハムートが転生者に討伐されてから」

「そう、ですね……」

「その復讐、とか?」

「ついさっきまではそうじゃなかったんです」

 リンの話しに寄れば、バハムートの見習いは生き残っていた小さなドラゴンを連れ、セリカの城に訪れようとしていた。

 ただ、そのドラゴンに目を付け、刈ろうとしていた転生者は多く存在し、連れ出そうとしている所を阻止する為、次々と集まって来た。

 後少し、と言うところで、小さなドラゴンを守り切れず転生者によって命を絶たれる。

「…………それで逆鱗に触れたって事、かしら」

「はい……そうだと思います」

「なんて愚かな事を。見習いと言っても相手は真装神竜……五十人程居たようだけれど、全滅、でしょうね」

 そう言った所でローズは、入って来たばかりの扉へとゆっくり歩み始めた。

「ローズさん、何処へ……?」

「何処へって、決まっているでしょう? 真装神竜のところ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! 今帰って来たばかりなんですよっ?!」

「そうね。けれど、放っておくわけには行かないでしょう? たぶん、あの状態の彼女は四日四晩暴れるわよ? 五年前の真装神竜バハムート。あれの逆鱗に触れた時、それだけ暴れ回ったから」

「じゃ、じゃあ、どうするつもりなんですか?」

「大人しくさせる他無い、かしら。一発ガツンとすれば目を覚ますでしょ。まだ見習いだし。二人は城の中にいなさい」

「ちょっとローズさんっ!」

「リン、レンの事頼んだわよ。服とか身体を綺麗にしてあげてちょうだい、色々……あったから」

「そ、それはもちろんですけど……でも」

「大丈夫よ。私はまだ死なないから」

 そしてローズは単身、森を抜けた先の広場へとやって来る。

「ま、当然の結果よね」

 広場の中には転生者の無残な亡骸だけが転がっていた。

 上空を見上げると全滅させてその人物が、先程と同じ位置から動く事無く、地上を見下ろしている。

「あの金色の目。本当にあなたは真装神竜なのね……引いてくれる気はあるのかしら?」

「…………」

 ローズの問い掛けには応えない。

「でしょうね。あなたの先代を……殺したのは私達。今まで、何事も起こらなかった方が不思議なくらいよ」

 そのきっかけを作ったのは、紛れも無く、真装神竜が片手に抱きかかえている転生者に殺された小さなドラゴン。

 復讐なんて馬鹿げた事をするものでは無い、と言う事が出来ないローズ。

 最後には両親に見放された過去を考えれば、憎い相手に報復する事だって起こり得る事だし、ローズでなくても考える事だろう。

 理解出来ているからこそ、ローズは真装神竜へ向けて告げる。

「どれだけ暴れ回るか分からないけれど、まずは、私を倒してからになさいな。そうしたら、復讐でも破壊でも殺戮でも、好きなようにすればいい」

「…………」

「でも……私には果たすべき事がある。だから、あなたには絶対負けないわ。私が負けるのは……この世界でただ一人。セリカ、だけなのだから」

 勝てる保証は無かった。

 先の魔力、黒曜を使ってようやく跳ね返したあの一撃。

 それだけで勝てるかどうか分からない事を知ってしまっている。

「愚かね。人間の分際で、神に抗うだなんて」

「何よ。話せるじゃない。それなら、引いて貰える願いも考えてくれないかしら?」

「…………あたしは、バハムート……お父さんを殺された時、我慢した。この世界の転生者を全て殺し尽くす事を……。それなのに、アイツ等……転生者は、また同じ過ちを犯したっ! もう我慢しないっ! 真装神竜の名に懸けて、アタシは転生者共を…………今度こそ殺し尽くす!」

「……どうやら、その中に私も含まれているようね」

「ええ、そうよ。それが例え”元転生者”だとしても……逃がさないっ! 真装化っ!!」

 漆黒の輝きを放つ外装を身に纏う。

「先代には及ばないけれど、私一人で勝てるかしら…………それ以前に、一発入れられるのかしら、ね」

 今まで転生者に大きな口を聞いて来たのは、自身が過酷な特訓をして来た事による自信。

 心底、負ける気はしなかった。

 だが今対峙している真装神竜は、転生者とは全く能力の高さが違う。

 正に桁外れ。

「あんた、名前は?」

「それは転生者だった頃の話し? それとも、今?」

「今よ」

「今はローズと名乗っている。セリカを復活させる為、この世の理を取り戻す為、転生者を殺すのが私の今の役目」

「ふーん、それじゃあ、あたしと同じじゃない」

「”殺す”事については同じ。でも、私とは過程が違う。セリカを復活させる為に、この世の理を取り戻すには、”セリカの身内である”事が必要なのよ。魔王が復活する、と言う意味が必要なの」

「ふーん」

「で、もう一度提案だけれど、このまま大人しく引いてくれないかしら? ”殺す”目的は同じなのだからいいでしょう?」

「…………元転生者のあんたを信じろって? 冗談キツイわね。誰が信じるモノですか」

「分かった…………火葬化っ!」

「へぇ、凄い魔力。転生者なんて雑魚じゃない」

「よく言うわね。あなたの魔力なんて、火葬化の私を超えているくせに」

「見習いでもあたしは真装神竜。神ですら……あたしには手を出さない。あんたの冒険は……ここで終わりなんだからっ!」

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