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勇者死す

「雷葬華っ!」

 放った雷撃の魔力をロッドが吸収し始める。

「お前がどんなに強くなろうとも、そのロッドの魔封法がある限りっ意味が無いんだよっ!」

「それは、事実を見てから言いなさいっ!」

 ローズの魔力は更に上がる。

 いかに魔封法を持つロッドだとしても、その魔力の強大さに数秒と持つ事は無かった。

「魔封法を破った、だと…………ば、化け物め」

 ローズの魔力を忘れていたわけでは無い。

 ただ、状況が変わったから勝てる、そう思っていた。

 それなのに。

「納得出来るかっ! 転生者よりも強い人間がいるなんて、認められるかよっ!」

「別に認める必要なんて無い。ただ絶望を感じて諦めなさい」

「く、くそっ!」

 能力の差は歴然。

 ローズに勝てる見込みが無い事は、アデルも理解出来ている。

(俺はこの世界を救った勇者だぞっ! それがなんだっ?! 魔王でも無いぽっと出のガキにこんな所で…………死んでたまるかよっ!)

「自慢のロボットも全滅。後はアデル、あなただけよ」

「お、俺を殺せばお前は確実に狙われる事になるんだぞっ?!」

「どうしてそう言い切れるの?」

「俺は魔王を倒した勇者だぞっ! その俺を殺せばお前を倒して勇者と名乗る奴が出て来るはずだっ!」

「別に私に取ってはとても好都合ね。転生者をわざわざ出向く事無く、殺せる事になるのだから。それに、あなたが勇者であろうとなかろうと、結局、この世界に取って大した影響なんてないだろうし。たまたまちょうど運良く、セリカを倒せたってだけなのだから」

「…………」

「魔王一人に対し、どれだけの転生者が挑みに来たと思う? それも、セリカの都合なんて考えず次から次へと四六時中。そんな事をされてしまえば、いかにセリカが強くても、いずれはやられてしまうでしょう? だから、あなたが倒したのはたまたまでしか無いのよ。それを良い事に魔王を倒した勇者だなんて、よく言えたものよね」

「お、俺は転生前の世界で不幸でしか無かったんだっ! ようやくまともな人生になったところを邪魔されてたまるかよぉおっ!」

 アデルが手にしている魔動銃のトリガーを、何度も繰り返しローズへ向けて引く。

「…………ば、かな」

「あなたが以前持っていた、ネストデリンジャーの方がまだマシだったかもしれないわ」

 全ての弾丸をローズは素手で掴み防いでいた。

「なんでこれを防ぐ事が出来るんだよっ?!」

「何度やっても同じ事よ。だって私には”見えている”のだから」

「……み、見えているって…………弾丸、が見えている、の……か?」

「ええ」

「…………転生者を止めたお前が、どうして俺達よりも上になるんだよ」

「だから言ったでしょう? 私は特訓をした、と。元々このスタープラムの世界は、魔法も使えるし能力の向上だっていくらでも出来る。これもまた世界の理なんでしょうね。それを知らずに与えられた能力だけで満足しているような転生者達では、到底今の私には追い付けない」

 こんな事になると分かっていたら、ローズの前に姿を現さなかった。

 面白半分で炊き付けた事を、ようやく理解して後悔をするが、もう遅い。

(こいつは俺を絶対に見逃さない…………いや、待て。まだそうと決まったわけでは無い。そうだよ……ガキで甘ちゃんのコイツならきっと……)

「諦めて、私に殺されなさい。そしたらせめて、何も感じない内に殺してあげるから」

「…………ルナ。お、俺が悪かった。お前を殺そうとしたのも、統制者の奴等を虐げた事も、全部俺が悪かった」

「…………」

「で、でも、仕方が無かったんだよっ! 転生前の世界じゃ、俺は心底不幸でしかなかった! だ、だから、こっちの世界だって同じようにして生きなければいけないと思ったんだよ!」

「…………」

 しばらくお互いに無言のまま視線を交わす。

 どちらに取っても、相手が何を思い何を考えているか理解は出来ていない。

 かつで同じパーティの仲間だったとしても、転生してたまたま組んだだけの関係。

 意思疎通が出来る程、長い時間やお互いの事を話した事も無かったのだから。

 何も会話せず時が過ぎ、やがて、ローズが行動を起こす。

 アルファの持っていた長刀を拾い上げ、アデルの前に投げ落とした。

「どう言う、意味なんだよ、これは……」

「死にたくないのであれば、抗う事ね。力が無いわけじゃ無いのだから、自分で、この場をどうにかしなさい。そうしたら、見逃してあげる」

 長刀とローズを交互に見てから、アデルが告げる。

「……勝てる、ような見込みが無いから、お前にこうして頭を下げたんだぞ? それをどうやって、抗えって言うんだ?」

「知るものですか。私はあなたを見逃すつもりなど」

 ローズの発言を遮り、アデルが長刀を拾い上げ急襲する。

「はっ! 油断したなぁっルナっ! 今度こそ殺してやるよぉっ!」

「…………」

「な、んだ……と?」

「私がいつ油断したのかしら? あの下半身だけになった転生者も、そして、あなた自身も言っていたわよね? あざとく卑怯な方が生き残る、と。わざわざそう言っているのだから、隙や油断を作ったりするとでも思った?」

「く、そっ! 外れ、ねぇっ!」

 長刀の平地を素手て掴み上げているローズ。

「せめてネストデリンジャーであったなら、まだ少しはマシだったでしょうけれど、そんな使えもしない武器ではどうやっても……私には傷一つ付けられない」

「て、めぇっ! それ、を狙ってこの長刀を渡したなぁっ?! 汚ねぇぞっ!」

「もう一度言いましょうか? あざとく卑怯な方が生き残る、それを伝えたのは……あなた達」

 キン、と音を立て長刀が折れる。

「…………そんな、馬鹿、な。素手で折るなんて」

「アデル。驚くべきところを間違えているわ」

「な、にが、だよ…………」

 ローズの視線を追うと、それはアデル自身の右腕の辺りへ。

「腕、が…………無い?!」

「本当に腕だけ、なのかしら?」

 ローズの言った事へ理解が追い付いたのと同時に、身体がぐらりと傾き始める。

「うあぁ、ああ…………あぁぁああああああっ!」

「…………」

 無言のままアデルを見下ろしながら、残っている足をローゼンギルティで切断した。

 アデルの絶叫とも悲鳴とも取れる叫びが響き渡る。

 その周辺は血溜まりがみるみると広がって行く。

「人の痛みを分かろうとしない人間の末路としては、お似合いだわ」

「うあ、あああうあぅつっ! 死に、たくねぇっ! まだ、俺は……俺の、人生は……これ、からだってのにっ!」

「…………」

「頼む、ルナ…………。俺、は……転生前の、世界で……不幸、だったん、だよ。や、っと……掴んだ、幸せ……なん、だっ! 頼むよっ……死に、たくねぇ……助け、助けて、くれ……ルナ、仲間、だろ?」

 火葬化の外装によって、ローズの表情は見えない。

「頼む、頼む、よ……」

「ふざげた事を言わないでっ! フェーやレンにして来た罪を受けもせず、あなたに生きる資格なんて無いわっ!」

「ル、ナ…………」

「あなたがどれ程の不幸を転生前の世界で背負っていたかなんて分からない。あなたが不幸だったように私だって充分不幸だったっ! 不幸の度合いなんて、人それぞれで、その不幸の中にいる人間は、他人の不幸なんて気にして上げる事なんて出来ないのよっ!」

 残っている腕をローズへ向けて伸ばすアデル。

「助けて、くれ…………頼、む……ルナ……」

「ぐ……ホント、あなたは勝手な事ばかりっ!」

 そして。

「……………」

「……最後よ。金輪際、私はもうあなたに情けは掛けないわ。だから今直ぐ、この場から消えて」

 ローズの治癒魔法によりアデルは回復をした。

 有無を言わせないローズの表情を読み取ったアデルは、何も言わずその部屋を後にする為、黙って起き上がりゆっくりと歩き出す。

「た、大変っ! 何があったんですかっ?!」

 アデルが向かっていた出入口から飛び込んで来たのは、メディカルセンターでローズの相手をしていた看護師の転生者。

「あ、アデルさん……? こ、これはいったい……」

「あぁ、これか…………これは……」

 その看護師の姿を見たアデルの表情が変わって行く。

 蒼白していた表情が、悪意に満ちた表情へ。

「え……? アデル、さん……何を?」

「そこに立っている鎧姿の奴がいるだろう? そいつは……魔王の配下で、勇者の俺を散々痛め付けた悪人だっ! 今ここで始末しておかなければ、世界は終わるっ! その為の犠牲にお前は選ばれたっ! ははっ! 感謝しろっ!」

 看護師の腕を後ろに取り、その頭へまだ腰に隠し持っていた魔動銃の銃口を突き付ける。

「ルナっ、こいつの命を救いたいのなら、今すぐその状態を解除しろっ!」

「…………」

「おいっ! 聞いているのかっ!」

「……どうかしているわね、あなた。私がその人を救う理由等何処にあると思っているのかしら?」

 アデルの脅しには屈せず、一歩ずつ歩みを進めるローズ。

「やってる事も言っている事も滅茶苦茶。そこのあなた、悪いわね。私はあなたを助ける義務も義理もが一切無いから、死んでも恨まないでね」

「それ以上近付くなっ! マジでこの女っぶっ殺すぞっ!」

「アデル、私が”一瞬たりとも気を抜かない事”と言ったのを覚えている?」

「そんな事、覚えてもねぇよっ! いいから、さっさとそれを解除しろぉっ!」

「あぁ、そう。もういいわ」

 歩いていたローズの姿が消えたその直後、アデルは天井を見上げていた。

「がふっ! ごほっ! い、つの、間に…………」

「言ったでしょう? 一瞬たりとも気を抜くな、と」

「ひっ!」

 アデルの腕から解放され、足元に転がっているその余りにも惨いアデルの姿を見た看護師は、短い声を上げ気を失った。

「くそっ、ちく、しょおっ! あの時……殺しておくべき、だった…………。はぁっ、はぁっ! ごはっ! な、んで……お前のような、ガキに勇者の、俺が……ルナっ!」

 振るえる手で手にしている魔動銃をローズへ向ける。

「…………悪いわね。もう私は、ルナって名前じゃないのよ」

 魔動銃を意に介さず、アデルの腕を思い切り引き上げ、ローズはその上半身だけとなったアデルの身体を上空高く投げ飛ばした。

「これが私からのせめてもの情け」

 火葬華の炎がアデルへ迫る。

「あなたの運命はここで終わり。もう不幸も幸福も、何もかも考えず永遠に眠りなさい」

「あ、あぁぁあああぁああああっ!」

 炎はアデルを一瞬で灰と化した。

 自信の下半身を残して。

「不幸である事なんて、不幸だった人間に伝えたところで同情なんてされないのよ……。だって、不幸の中にいる人間は、自分が誰よりも一番不幸だって感じているのだから…………」

 アデルが焼失した上空を見上げながら、ぽつりとローズは言った。

「…………さようなら、アデル」

 火葬化を解除し、レンの元へと歩み寄り声を掛けた。

「レン、帰りましょう。セリカの城へ」

「ローズさん……私、は…………私のせいで犠牲になった、フェーちゃんを……置いて、帰れません…………」

「…………」

「私のせいで、フェーちゃんは……」

 レンの瞳から大粒の涙が溢れ出す。

 それは、ローズには理解出来ない程、レンとフェー、二人に結ばれた強い絆の証。

 レン自身も酷い仕打ちを受けながら、健気にも世界に存在しなくなったフェーの為に見世物となっていた事は辛い出来事だったはずなのに、レンはフェーの事を思い涙を流した。

「レン。フェーの最後の言葉は、聞いたわよね?」

「……私、は…………強くなんて、生きられません……、無理、です……」

「辛い事や悲しい事なんて、そう簡単に乗り越えられないわ。その事を我慢して頑張れなんてことは言ってはいけない。それなのに、どうしてフェーは強く生きろ、と言ったと思う?」

「分かり、ません……」

「たぶん、辛い事や悲しい事は生涯忘れられないけれど、それでも、生きて欲しい、とあなたへ願ったんじゃないかしら?」

「フェーちゃん、が……いないのに、生きろなんて……私には、頑張れません……」

「それでもね、あなたは生きなくてはいけないの。フェーが望んだ事なんだから。酷い事を言うけれど、あなたに生きて欲しいから、フェーは自分を犠牲にしてまで助けたのよ? その思いを、レンは無駄にすると言うの?」

「……したく、無いです。でも…………フェーちゃんのいない、世界なんて……」

「レン。今、悲しいのよね?」

「…………はい」

「もし、あなたまでここで命を絶ってしまったら、私は悲しいわ……とても。その思いを、私にさせないで欲しい、もう二度と……」

「ローズ、さん?」

 レンはローズの目を見て感じ取る。

 この人も、誰か大切な人であったり、身近な人を亡くしたんだ、と。

「辛くても、悲しくても、あなたは生きている。だから、フェーの分まで生きてあげる為に」

 ゆっくり、だけど力強くレンは一度だけコクリと頷いた。

「帰りましょう、セリカの城へ」

「……はい」

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