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主張の条件

「ふぅ……」

 溜め息と一緒に気持ちを落ち着かせる。

 レンとフェーがいる以上、ローズ単体で動くのとはわけが違う。

 自身の行動一つで、二人の命に関わってしまうかもしれない。

 だからこそ、冷静になる必要がある。

「とは言っても、あまり考え過ぎてもダメよね。さて、どうしたものかしらね」

 タワーの中へ入ると 中はスタープラムの世界とは別世界の様相をしていた。

「自分達の世界からこっちへ転生して来たのに、わざわざその世界を真似るなんて……まったく、どうかしてるわね……」

 受け付けを担当しているであろう女性へと話し掛ける。

「ちょっといいかしら。メディカルセンターはどの階なのか教えて貰える?」

「あちらのエレベーターを使った十階になりますが、面会時間は終わっているのでまた後日として頂けますか?」

「少しだけだから、急いでいるのよ」

 受付の言う事を無視して、十階へ。

「…………全く、ボタンの位置が高過ぎるっ」

 どうにかこうにかして、飛び跳ねながら十階のボタンを押す。

 面会時間を過ぎているのは誤算だったが、あまり気にせず十階へ着くのを待った。

 その短い間、ローズはどうやってフェンリルの統制者の事を聞き出そうか考える。

 そもそもモンスターの統制者へ面会を求めるのだから、怪しまれる事は確実だろう。

 それを覚悟でどう情報を引き出すべきか、それが重要となる。

「まぁ、でも、人の顔色を見るのは得意な方だし、どうにでもなるでしょ」

 程なくしてメディカルセンターへと到着。

 受け付けに待機している看護師姿の女性へローズは話し掛けた。

「少しいいかしら? 面会に来たのだけれど」

「えっと、ごめんね、もう面会時間は過ぎているの。お嬢ちゃん、一人?」

「…………」

 確かに11歳なので、子供扱いされるのは当然だろう。

 それでも本ばかり読んでいた自分に取って、大人と対等に会話が出来る程度の知識は持ち合わせていると自覚はしている。

 一言言ってやろうと思ったが、これはこれで上手く会話へ繋げる事が出来そうだとローズは判断をした。

「友達に会いに来たのだけれど、今しか時間が無いから少しだけでいいの」

「ん、んー、困ったわね。また後日、ではダメなの?」

「この街から距離のある所から来たから、今しか無いのよ」

 嘘は何一つ言っていない。

 友達、と呼べる仲では無くとも、仲間である事は確かな事だ。

 看護師はしばらく考えてから、何処かへ連絡を取り始めた。

 たぶん上の者に判断を仰いでいるのだろう。

 ダメならダメで他にもやりようがある、としばらく待っていると、連絡を終えた看護師が話を続けて来る。

「ちなみに、患者さんの名前は分かる?」

「…………」

 そう言えば、しっかりと名前を聞いていなかった。

 愛称で呼び合っているだから、本名を推測するのは難しい。

 確かリンも本当の名前は結構長かったはず。

 困ったな、とローズは思案をする。

「フェーちゃん」

「ふぇーちゃん?」

「そう、フェーちゃん」

 考えても名案が浮かばない以上、そのまま伝える事にした。

 そして、その名前の後に付け加えて伝える。

「モンスターの統制者よ」

「え?」

「フェンリルの」

「…………」

 看護師は一瞬戸惑いの表情を見せてから、ローズに問い質して来た。

「え、っと……モンスターの統制者って、統制者、だよ……ね? 人間の姿をしていて、影がそのモンスターの姿をしているって言う」

「そう、その子」

「ごめんね、そう言う患者さんはここにはいないのよ」

 ローズはジッと看護師の表情を伺ったが、一瞬の内にして、この看護師は嘘を言っていないと判断する。

 実際にはメディカルセンター内にいるけれど、この看護師には伝えられていないのかもしれない、と思い至り、更に会話を続けて、情報を引き出す事にした。

「下のショーウィンドウに閉じ込められている子、知っているわよね?」

「え、えぇ……それは、もちろん…………」

「あの子の知り合いでもあるのだけれど、聞いた事は無い? このメディカルセンターで治療を受けているって事になっているの」

「……う、んー、ごめんね。やっぱり私は聞いた事が無いなぁ」

「他の人に聞いてみて貰ってもいいかしら? それでダメなら帰るから」

「ちょ、ちょっと待ってね」

 看護師はそう言って、再度また連絡を取り始める。

 埒の明きそうの無い会話に対して、他者への連絡をして貰う提案を出し、その提案でも無駄な事が分かれば帰る。

 提案に対しての解答があれば、あの看護師は人間の心理的に従わざるを得なくなる、そう踏んでローズは先のように看護師へと会話をした。

 どうやらそれは上手く行っているようで、看護師はあちこちへ連絡をしている。

(この姿も役に立ったようね。子供相手なら、余計な勘繰りをしたりしないでしょうし……自分で子供だと言い切るのは少し癪だけれど……それはそうとして、雲行きが怪しい)

 看護師の様子は明らかに不自然になっている。

 時折ローズの姿を見ては、ローズに背を向けて声を潜めながら会話をしている。

 ただ、その事から分かるように、フェンリルの統制者がいる事まで分からなくても、何かすらの意味があった事は明白となった。

(簡単には帰れない事を覚悟しておく必要はありそうね)

 さらに五分程してから、看護師がようやくローズの下へと帰って来る。

「んっと、ご、ごめんね。やっぱりここにはいないみたいなの」

「そう、それなら私はこれで帰る事にするわ」

「あ、ちょっ、と……待ってくれる? あなた、人間なのよね?」

「ええ、そうだけれど?」

「それならどうして、モンスターの統制者が友人だなんて言うの……?」

「理由なんて、友人だから、としか言いようが無いわ。あなただって転生者なのにどうして看護師なんて事を? 身体能力は高いのに」

「え、え? 私? 私は、別に転生したくてしたわけじゃないもの。戦う事なんてしたく無かったし……」

「理由なんて人それぞれでしょう? だから私が友人だと言えば友人なのよ。理由なんて無くともね」

「え、っと、うん……そう言う事、なんだよね……」

 ローズの多少回りくどい言い回しに、困惑した表情で返事を返す。

「でも、一つ勉強になったわ。転生したからと言って、殺し合いに参加したいわけじゃないって事にね」

「そ、れはそうよ……。傷付け合うなんて事、私にはとてもじゃないけれど……出来ないもの」

「その相手がモンスターだとしても?」

「………………」

 長い沈黙。

「戦えばあなただって、相手を捻じ伏せるだけの能力はあるはずよね? もしモンスターの大群が押し寄せて来たらどうする?」

「…………分からない。その時になってみないと」

 目を伏せて考え、ようやく出て来た言葉。

「そうよね。自分の命が関わるとなれば、戦いたく無い、なんて言っていられないものね。あぁ、ごめんなさい。意地悪が過ぎた。気にしないで」

「…………」

 そして、また沈黙が訪れる。

「さてと、時間稼ぎが出来たようで良かったわね?」

「……え?」

「大方、私を引き留めろ、と言われたのでしょう? あなた、隠し事が出来るタイプじゃないもの。とても分かり易い」

「…………ごめんなさい」

「そこで謝らなければまだ時間稼ぎをしていた事を、少しは否定出来たのに」

「…………」

「嘘を付け無いタイプでしょう? まぁ、でも、そう言う人は嫌いじゃないわ。だから、あなただけは何があっても……殺さずにいてあげる」

「……こ、殺す?」

「それじゃあね、優しい看護師さん」

 穏やかな笑顔を向けて、ローズはエレベーターの前へと移動した。

 そこには黒服にネクタイを合わせた眼鏡姿の転生者が一人と、そして、その後ろには魔動機が二体佇んでいる。

「初めまして、私、アルファと申します。以後お見知りおきをください」

「面倒臭いわね。遠回しにせず、ハッキリと要件を伝えてくれないかしら? 大体の経緯は聞いているのでしょう?」

「そうおっしゃるのでしたら、単刀直入に聞きます。あなた、何者です?」

「名前はローズ。魔王セリカの代理」

「冗談、として受け止めるべきなのですか?」

「いいえ、真実よ」

「そうですか。では、私はこれからあなたを拘束しなければいけません」

「それは、フェンリルの子と同じように、と言う事かしら?」

「はい、そう言う認識をして頂ければ、と」

 厄介な相手、そうローズは感じた。

 マルクのように自身に自惚れた人物が相手であれば、不利な状況に陥ると勝手に自滅をしてくれる事が目に見えている分、あまり面倒は掛からない。

 それに引き換えこのアルファと言う男、一言で言えば”食えない奴”と言った所で、会話で誘導し情報を引き出そうとすれば、それを逆手に取られしまい、痛い目を見る場合も考えられる。

 だからこそローズは敢えて、素性を隠さず下手な芝居を打つ事無く、会話をするべきだと考えた。

「どうやらいた事は確かなようね。でも、その子は”今も”いる、のかしら?」

「それはお答えしかねる質問です」

「そう、それならば、今から私はあなたを殺して、レンをあのショーウィンドウから連れ出しても構わないのよ? 今もいるのかどうか、を答えてくれれば、とりあえずは大人しくしていてあげるけれど?」

「…………」

 ローズの真意を確かめるように、アルファはジッとローズを見据えた。

「言っておくけれど、その気になればこのタワーごと破壊して、あなたを殺す事も出来るだけの力はあるわ」

「…………分かりました、では、一つ提案になりますがお互いの主張をバトルで決める、と言のはどうでしょうか」

「勝った方の言い分を飲む、と言う事ね」

「はい、その通りです」

「そっちが出した提案に乗るとなると、さすがに二つ返事で決めるには納得が出来ないけれど、まぁ、手っ取り早いからそれに乗ってあげる。でも、私が勝ったら、フェンリルの子も、レンも連れて行かせて貰うわよ? 提案に乗るのだから、構わないわよね」

「贅沢な方ですが、こちらもそれで構いません」

 どちらもお互いに、負けた場合の事等一切考えてはいない。

 更に言えば提案したアルファでさえ、勝とうが負けようが、相手の言い分を一切聞くつもりも持ち合わせていなかった。

 そんな事はローズも重々承知している上の事で、分が悪いようであれば、最悪レンだけでも連れ出す覚悟を決める。

 ローズがした”読み”の中には、すでにフェンリルの統制者はこの世界にいないと、判断をしているから。

(レン……悪いわね。きっとあなたの言うフェーちゃんはもう……残念だけれど、生存していない……)

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