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痛みを伴う笑顔

「ふぅ、やっと着いた」

 エルフ族の件から三日後。

 セリカの城から南西に向かった先にある、大都市ナイトシティへとやって来た。

 他のどの街よりも発展が進み、街並みも売り物も、何もかもがスタープラムの世界にそぐわない程の様相をしおり、魔動車を応用した魔動機と呼ばれる人型の機械までもが造り出され治安の維持を担っている。

 それもそのはず。

 このナイトシティは転生者が暮らす街と化し、転生元の様相や景観、技術の応用が成された事によって急激に発展した。

「以前来た時よりも、更に息苦しい街になったわね」

 立ち並ぶ背の高い建物のせいだろう。

 そこへ日の落ち始めたこの時分になると、目が痛くなる程のライトアップが息苦しさを助長している。

「…………」

 転生者の住む街。

 ともなれば、ローズが行う事は、転生者の駆逐。

「さすがに無抵抗者相手に、殺戮は出来ないわね……。まぁ、とにかく目的の物を買ってしまいましょうか」

 自分の思いと行動が伴わない事に多少苛立ちを感じたが、気持ちを切り替えて買うべき物を買いに街の中を散策する。

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 服や装飾、武器や防具、そして雑貨等など。

 色んな店がある上に、似たり寄ったりの店が並び、街中を周り見ているだけで疲れさえ覚え始める。

「まったく転生して来てまで、元の世界を再現しなくてもいいでしょうに……」

 とは言った物の。

「ちょっとくらいは……」

 最初に立ち寄ったのは服飾の店。

 もちろん目的の物では無い。

 今はいない両親から、身なりだけは整えて貰ってはいたけれど、自分好みの服を着た事は一切無かったローズに取って、自分の足を使い入った服飾の店の中の物は、どれもが全て輝いて見えていた。

 手に取って一つ一つ見ては、自分の身体にあてがい鏡を見る。

 服は、悪く無い。

 むしろ欲しいとさえ思う。

 でも、しかし、だ。

「…………」

 11歳の幼いローズの身長には、とてもじゃないが早過ぎる。

 要するに身長が全く足りていない。

 むしろ、11歳にしては低い方だと自覚すらしている。

「はぁ……子供は子供らしく、子供用の服を見ろ、と言う事よね」

 そして、二件目。

 ローズの身長に合う服が並ぶ店。

 所詮子供用だなんて侮っていた、と言うのがローズの正直な気持ち。

 子供用の中にも、落ち着いた雰囲気の清楚な服が置いてある。

 スカート、パンツスタイル、ワンピース。

 与えられた物ばかり着ていたローズに取って、自分で選ぶ事が楽しくて仕方が無かった。

 それでも、ローズはその中で一着も買う事無く、店を後にする。

 次はアクセサリーの店、その次はメイク用品の店、靴の店、と色々一人で見て回った。

 似たような店であっても入って見れば、その店特有の趣向があり、同じ物は一つも無い。

 気に入った物もいくつか見付けた。

 欲しいな、と素直に思う物もたくさんあった。

 それでもやはり、ローズは何一つ買う事をせず店を後にして行く。

 ローズの目的は、セリカを復活させる事。

 その事に関係の無い事は必要無い、と理解しているから。

「あぁ、こんな所にあったのね」

 見て回っている内に、当初の予定としていた店を見付ける事が出来、中へと入る。

 とりあえず目についた商品のタグを呼んでみるが。

「…………何、これ。呪文?」

 書いてある事がさっぱり分からなかった。

 CPU。

 メモリー。

 容量。

 画素数。

 字を読むことが出来ても、その字の意味は分からない。

 幼い頃に両親や周囲の人間が使っていた事は知っている。

 でも、ローズには無縁の物だった為、その機会に興味は全く抱かなかった。

「こう言うジャンルの本も、興味が無くて一切読まなかったものね…………まったく、通話だけ出来れば充分だと言うのに」

 店の人間に聞くのも面倒だと感じ、ローズが取った行動は。

「値段は気にしないから、一番性能の良いのを貰えるかしら」

 果てしなく力技に近い買い物。

 自分の分とリンの分、合わせて2台購入する。

 店から出て来て、ローズが購入した物は、通信デバイス。

「何なのよ……やっと買ったのに、説明書は端末の中に入っている、ですって? この端末の使い方が分からないから調べると言うのに、端末を操作しないと見れないだなんて。罰ゲームなのかしら……」

 歩き疲れた感覚を感じ、目に付いたカフェへと入る。

 頼み方が分からないので、メニューを指差して適当に頼み、空いている席へと座る。

 周囲を見ればほとんどの人間が端末の画面に夢中になっていた。

 知り合いと来ているグループを見ても、結局端末を操作しているばかりで、グループで来ている意味が分からなくなるような人間も多い。

「こう言う時代、なのね」

 見様見真似で端末を操作する。

 どうにか説明書に辿り着いた後のローズは早かった。

 読書を生き甲斐としていただけあり、吸収はとても早い。

 三十分も要せず説明書を読み、内容は全て記憶済み。

「ふむ、操作だけは慣れが必要だけれど、まぁ、確かに便利だわ」

 ほとんどの人間が端末を操作している中で、会話をしている者の話しの内容は意識せずとも耳に入って来る。

「中央タワーのさ、例のショーウィンドウ、撤去するらしいよ」

「ふーん。まぁ、ここしらばらくはわざわざ見る人もいなくなって来てるくらいだし、それでいいんじゃない」

「じゃあ、中に入っているあれはどうするんだろうね?」

「さぁ、分からないけど……処分されるんじゃないの? 好んで引き取る人なんていないだろうしさ」

「いや、でも、マニアなら」

「そのマニアの人はいいけど、周囲の人はそのせいで迷惑するかもじゃない。無い無い、引き取るなんて絶対無いって」

「設置されたからしらばくは、すっごいたくさんの人が見に来てたのに」

「飽きたんでしょ? 二、三回見に行ったけど、今じゃ気にもならないしさ」

 いったい何が飾られているのだろう、とローズは思った。

 話しぶりからして、どうやら珍しい物のようだ。

 ショーウィンドウと言うくらいだから、見る為に費用は掛からないのだろう。

 それならば来たついでだし、その中央タワーへ寄って、せっかくだしカメラ機能を使って撮影してみるのも悪く無い。

 しばらく休憩をした後、カフェを離れて中央タワーへと足を向ける。

 操作はおぼつか無いが、地図の機能を使って難なく中央タワーへとやって来た。

「タワーと言うだけあって、高いわね……地図、使う必要無かったかしら」

 ローズがいる場所は、中央タワーの側面側。

 ショーウィンドウと言うのだから、正面にあるのだろう、と思いタワーの正面側を目指す。

 街の中央に建てられたシンボル的な建物のショーウィンドウに飾られている、ともなれば、さぞ珍しい物に違い無い。

 ローズは少しだけ胸が高鳴った。

 正面に回り、例のショーウィンドウらしい場所がようやく見えて来る。

 明かりが照らされたその中を見て、ローズは言葉を失った。

「…………なに、よ……これ」

 一面真っ白なウィンドウ中には、オレンジブラウンの長い髪の人間が、一切服を身に纏わない姿で入っていた。

 こんな非人道的な事がmどうして許されているのだろうか。

 これだけの人間が過ぎて行く中で、何故、放置されているのか。

 全く信じられない光景を目にしながら、ローズは、ショーウィンドウに歩み寄ると、その答えが直ぐに理解出来た。

「……そう言う事か」

 そして、自分がいかに今でも生温い事を言っていたのかも、身に染みた。

 無抵抗者?

 ここにいる人間は、武器等持たなくとも充分残酷で冷酷。

 生かしておく価値等、微塵も無い。

「ここの人間を殲滅するのは後でも出来るわね」

 ショーウィンドウの目の前に立ち、声を掛ける。

「今、ここから出してあげるから、待っていなさい」

「…………あなたは、誰、ですか?」

 虚ろな目。

 暗く影の落ちた表情。

 生気が感じられない、小さな声。

「どうやら聞こえるみたいね。私の素性は後で話すから、まず、あなたをここから連れ出すわ」

「……ごめんなさい。それは、止めてください」

「どうして? こんな所に、いる必要は無いはずよ」

「いえ、あります。私はここで、お金を稼がなければいけないんです……」

「稼ぐ? こんな中でどうやって?」

「私の姿を見て、少しでも哀れだと思ったら、お金をください。このウィンドウの横に、隙間が空いていますから」

「…………ハッキリ言って、まだ理解出来ないわ。私が連れ出せば、そんな事をする必要は無くなるのよ?」

「…………では、フェーちゃんも救ってくれるのですか?」

「フェーちゃん?」

「はい……私の友達です。その子の為に、お金を稼ぐ必要があるんです。フェーちゃんは大きなけがを負っているから、その為の治療費が掛かります。でも、とてもじゃないけれど、私には出せませんでした。だからこうしてお金を稼ぐようにと言われたんです」

「……誰に?」

「このタワーの中にいる偉い人に、です」

「……それで、ちゃんと稼ぐ事は出来ているの?」

「最近は、ほとんど……」

「友達の様子は見た?」

「いいえ、私はここから出る事が出来ませんから……ただ、回復に向かっている、とは教えて貰っています」

「誰に? 聞いているのは、転生者の一人なんでしょう?」

「はい」

 嘘、とは言い切れない。

 目の前にいるモンスターの統制者に、フェーちゃんと言う友人がいる事は間違い無いのだろう。

 だが、その友人の容態を一切目視していないと考えれば、嘘とは言い切れないが、信じ切る事もまた難しい。

 連れ出してしまうのが手っ取り早いのは確かな事。

 でも、連れ出したせいで、今度はその友人が非人道的な扱いを受けるのは明白。

 安易には動けない、でも、すぐにでも動かなければまた、ラビィのように犠牲を出してしまうかもしれない。

 ローズはしばらく考えた。

 考えた後、出来る事から始めようと思い至る。

「あなた、名前は?」

「レンです」

「その影を見る限り、セイレーン、かしら?」

「はい……」

「レン。私がその友人の様子を確かめて来るから、待っていなさい」

「え?」

「この中にいるのでしょう?」

「はい、そう聞いています。このタワーの中にはメディカルセンターも入っているので」

「そう。それから、フェーちゃん、だったわね? その子も統制者の一人、なのかしら?」

「はい。フェーちゃんはフェンリルの統制者です」

「分かった」

 少し距離を取り、タワーを見上げると、二十階程はある事が確認出来た。

 一つの階がそれなりに広いが、探せない程では無い。

 それにメディカルセンターを探せば良い事がハッキリしているのだから、時間は掛からないだろう。

 ローズは再度レンの近くへ歩み寄って、話し掛ける。

「いい? 必ずここから出して上げるから、もう少し辛抱しなさい。フェンリルの子も、私が連れ出してくるから」

「あの……どうして、人間のあなたが、私達モンスターに味方をしているのですか?」

「影を見て言っているのでしょうけれど、私は影の見え方を変えているだけ。それに、私はあたな達の味方で、セリカを復活させる為に動いているの」

「セリカ様を?」

「ええ、この世界には、セリカが必要であり、その仲間であるあなた達もまた必要な存在なのよ」

「信じても……いいのでしょうか?」

「それは行動で示すから。レン、あなたここにずっと入っているの?」

「はい、これが私のお仕事です」

「…………撤去する話が上がっている事は?」

「え……?」

 それまで淡々と抑揚なく会話をしていたレンの表情に変化があった。

「転生者の人間達がそう言っていたのよ。それが本当なのかは分からないけれど」

「そ、んな……そしたら、フェーちゃんの治療費が…………。最近だって、ほとんど稼げていないのに……どうしよう…………服はもう脱いじゃったし」

「…………服はどうして脱いだの?」

「モンスターの身体を物珍しく見て行く人がたくさんいたので、脱ぐ事にしたんです。その時はとても稼げたんですよ」

 顔を向けられたローズの心がチクリとした。

 その痛々しい笑顔が、見るに堪えなかったから。

「待ってなさい。約束は果たすから、もう、服を着ない日々を送る事が無いように」

 レンの返事を待たず、タワーの入口へと向かう。

 静かに、穏やかに、冷静に、その胸の内に転生者への怒りを押し留めながら。

 レンの身体にあった無数の痣や傷、そして、まだ新しい傷からは血が滲み出ていた。

「反則者ども……私の”読み”がもし現実だとしたら…………一切容赦はしない……」

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