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不完全である事

「いやはや、即興の改良にしては、とても上手く機能しているようで安心しました」

「…………」

「ふむ、リンさんにはどうやらこの魔法がお気に召さないようで。でも、せっかくですし、軽く経緯を説明して差し上げましょう」

 マルクの話しを聞きたくは無かったが、これは時間稼ぎになると思い黙って聞く事にした。

 まずは自身の体力を回復出来る事。

 そして、その間にローズが特訓を終えて来るかもしれない事。

 外で音を立てていれば、きっと気付いてくれる。

 リンに取っては、メリットが大きい。

「元々はこちらのアンネルさんが、人助けの為に開発をした魔法なんです。争いに巻き込まれて理不尽に命を落とす人が後を絶たない。だから致命傷を負っても、回復魔法の効果が出るようにする為の魔法を、自分で開発したんだそうです。素晴らしいと思いませんか?」

「…………」

 今の内容が本当の事であれば、確かにスタープラムの世界では有用だとリンは感じた。

 でも、腑に落ちない。

 何故なら、今、目の前で起こっている事は人助けとは程遠い使われ方をしているから。

「本当、実に、素晴らしい…………そして実に……くだらない。争いの中で死人が出る事は仕方の無い事でしょう? 必然に起こり得る事です。弱者が命を落とす事は当たり前だと思いませんか? 負けた者の命を救おうだなんて……私には、なんて馬鹿げた魔法を作ったのだろう、と思う他ありません」

「…………」

 言いたい事はいくらでもあった。

 人を助ける為に作り出した新しい魔法を、さも愉しそうに歪んだ笑顔で語るマルクに、心底嫌悪を抱いたから。

 けれど、リンは一言も発する事無く、マルクの話しを聞く事にする。

 眼の前のエルフが、生かすに値する人物なのか、それとも、切り捨てるべき人物なのかを、しっかり見極める為に。

「だからこそ私がアレンジして、新しい使い道を作ってあげたのです。それが、リンさんも目にした”アンデッド化”なんですよっ! どうですっ?! 死んだ人間を駒に使い、しかも、何度だって立ち上がるっ! これ程っ有効な使い道等無いでしょうっ! しかもですよっ! 催眠系の魔法をも受け付けるんですっ! 一切否定もしないっ、一切拒否もしないっ! これはもう究極の兵器ですっ! 魔王セリカのいない今、私がっ! 私こそがこのスタープラムの支配者となるっ! くくくっ! くははははっ! はははははっ!」

「狂ってる…………」

「ええ、そうですっ! 狂ってますよっ! そうでもなければ、世界の支配者等とは決して発言なんてしませんからねぇっ! ですがっ! リンさんっ! あなた達魔の者の居場所は……ありませんっ! 私の理想とする世界には邪魔ですからっ! さぁ、リンさんを殺してしまいなさいっ!」

「くっ!」

 細剣とボーガンを手にしたエルフが、マルクの言葉に従い動きを見せる。

「あなたが死んだ後、せっかくですので私の駒、にして差し上げましょうっ!」

 アンネルが加勢した事により、三対一の状況となったリンはだいぶ苦しい戦いを強いられる事になった。

 絶対回避の効かない魔法を放つアンネルが一番厄介な存在なのに、そのアンネルを庇うように二人のエルフがリンを執拗に攻撃して来る。

(何とかしなくちゃっ! このままだといずれ魔法攻撃に当たってしまう。でも、どうしたら。生憎私は近接特化型。ローズさんのように魔法を使えたり、遠距離での戦いが出来る程器用では無い。無い能力を願ったって意味が無いんだから、私の持つ出来る限りの力を使わなくちゃ)

 リンは考えた。

 ローズのような強さが無くても、それでも、あのローズに認めて貰ったのだから、例え複数人が相手であっても必ず打開する術があるはずだ、と。

「連閃光っ!」

 今回放った連閃光は、速度を全く落とさず全力で放ったもの。

 陽は落ちていないと言っても、森の中はかなり暗い。

 夜目の効くリンとは違い、エルフ達には相当視界が悪い上に、高速で放ったリンの連閃光を防ぎ切る事は不可能に近かった。

(よし、まずは一つ)

 そのリンの狙いは、音震グラディエーターナイフの特性を活かした、武器破壊。

 放たれた弓矢を避け、間合いに飛び込んだ後は、ボーガンを一瞬の内にして切り落とす。

(あとは)

 再度マルクへ向かい間合いを詰めるが、そのマルクの前にはアンネルが魔法を放つ行動に入っていた。

 だからと言ってリンは詰め寄る速度を落とさない。

「クリムゾンフレア」

 一粒の光の粒子がリンの眼前に迫る。

 それはもう避ける事が不可能な距離。

 でも、リンの考えの中に、避けると言う選択肢は無かった。

「レベル1っ、オーラブローっ!」

 魔力を解放し、クリムゾンフレアを拳で迎え撃つ。

 爆風と爆炎、そして、爆発音。

 その中から間を空けず飛び出して来るリン。

 標的はアンネル。

 レベル1とは桁違いに上がっている魔力を込めたオーラブロー。

 難しい小細工を必要としない、リンの素早さを乗せたとても分かり易い攻撃力を上げる方法。

「レベル2っ、オーラブローっ!!」

 アンネルを叩き伏せ、次にマルクを無効化する。

 上手く行けばその後でローズに相談して一件落着。

 それがリンの描く最善手。

「撃ち砕けぇぇえええっ!」

 アンネルに避ける素振りは一切無い。

 それはマルクに催眠魔法を掛けられているからでは無く、リンの速さに追い付けないから、ただそれだけの理由。

 思い描いた最善手は上手く行く、はずだった。

「えっ?! わっ!! きゃあああああああぁぁぁっ!」

 突然割って入った人物により、リンのレベル2オーラブローは容易く破られてしまう。

 舞い上げられたまま、受け身も取れず地面へ思い切り叩き付けれたリン。

 その衝撃による痛み等どうでも良く、それよりも、納得出来ない事に対して呻きながら立ち上がり声を上げた。

「あううう、いたたた…………。突然出て来て、な、んて事をするんですか……ローズさん」

 すぐ目の前に歩み寄って来た人物、ローズへと非難の質問を投げ掛けた。

「説明、してくれます、よね……?」

「悪かったと思っている。けれど、ああでもしないと、あなた、確実にアンネルを殺していたでしょう? 全く、おかげで腕が飛んでしまったじゃない」

「え……? あ、あぁぁあああっ! わ、私ってば、何て事をっ!」

 言われて見ると確かに、ローズの右腕が無くなり血がダラダラと流れ落ちている。

 それとは対照的に、涼しい表情をしたローズ。

「慌てないの。こんなの回復すれば事足りるでしょう?」

「…………ご、ごめんなさい」

 回復魔法に寄って、あっと言う間にローズの腕は元に戻った。

「そのオーラブローってのは、いったい何処まで能力が上がるものなのかしら?」

「レベル3、までです…………」

「それを、アンネルの後にマルクへ放とうとしていたのね?」

「はい……」

「たぶん……いえ、きっと、マルクは身体が粉々になってしまったんじゃないかしら」

「…………すいません。余裕が無かったので、加減が出来ませんでした」

「まぁ、いいわ。それよりも、説明してくれるのよね。アンネル」

「やっと現れましたか。お待ちしていましたよ、ローズさん」

「あなたに用は無いのよ。話があるのは、アンネルの方」

「困りましたね。アンネルさんは、とても返事が出来る状態では無いので」

「あの、ローズさん……その、アンネルさんは…………」

 アンネル、マルクの代わりに、知っている事をローズへ伝えるリン。

 時折マルクが割って入りながらの説明になっていたが、起こっている全ての事を把握する事が出来た。

「アンネル、本当にあなた死んでいるの?」

「…………」

「だから言っているでしょう? アンネルさんは、返事が出来る状態では無いと。催眠魔法を使って開発した魔法の事、それから……ローズさん、あなたの事を聞き出すのも大変苦労したんですよ? アンネルさんの頑固さには驚きましたね」

「以前から気に入らなかったけれど、正真正銘のクズね、あなた」

「おやおや、これはこれは、まさかあなたからそんな事を言われるとは思いもしませんでしたよ? 人間であるあなたが、魔王セリカ復活に加担しているのですからローズさんだって大概でしょう?」

「なんとでも言いなさいな。でも、これだけは今まで以上にハッキリした。セリカはこのスタープラムの世界に必要だと。あなたのような人間が増え無い為にもね」

 ローゼンギルティを構えたローズの前に、立ち上がったエルフが素手で飛び掛かるが、たった二人ではローズの相手にならない。

 いくつかに切り刻まれたエルフの身体が、地面へばたばたと落ちる。

「可愛らしい外見とは違い、残酷なんですね~。まだ子供だと言うのに。あなた、いったい何歳なんです?」

「11よ」

「本当ですかっ?! よくもまぁ、こんな残忍な子供を育てたものですねぇっ! 親の顔が見たいとは、正にこの事ですよっ!」

「元より私の両親は壊れていた人達よ。だからこそ、私のような子供が育ったのでしょうね。それに、私は魔王の配下ですもの、当然の事じゃない」

「怖い怖い。大人であるさすがの私ですら、恐怖を覚えますし、そんな残虐な殺し方はさすがに出来ませんでしたよ」

「…………」

「何か不満でも? 私がこの世界の支配者となる為に、必要な事だったんです。犠牲は必要不可欠じゃないですか」

「ど、どう言う事ですか……?」

 わざわざ問う必要がリンには無かった。

 でも、信じたく無い、嘘であって欲しいと思う気持ちが声となり、自然と発していた。

「決まっているでしょうっ? 私がっ、この手で……殺したんですよぉっ! アンネルさんの魔法を試す為にねぇっ!」

「そん、な…………同じ、種族なのに……」

「本当ならリンさんっ! あなたのようなモンスターの統制者で試したかったのですが、見付からなくてねぇっ! 仕方無かったんですよ? だって、いないんですからっ! その二人やアンネルさんが犠牲になったのは、あなた達がいないせいなんですっ!」

「ここまで酷い責任転嫁は呆れる以前に、感心してしまうわね」

「でもほらっ、ご覧なさいっ! 三人はそうしてエルフ族の為にいくらだって貢献出来る身体を得たのですよっ! きっと大変嬉しく思っているはずですっ!」

 切断した身体は元に戻り、二人のエルフがローズの前に立ち塞がる。

「本当に復活するのね…………ならば、どれくらい持つのか試しましょうか。リン」

「……え、あ、はい。何でしょうか……?」

 装具を解除したリンの表情が、明らかに優れない事をローズは気付いていた。

「これから起こる事を見ないようにしなさい。目を瞑り、耳を塞いでしばらく私の後ろで大人しくしていなさい」

「でも…………いえ、は、い。分かりました」

 見届ける、そう伝えようと思っていたリンだったが、ローズの真剣な眼差しに従う事にした。

「恨むなら、あなた達の狂った長を恨みなさいな」

「アハハハハッ! 無駄っ! 時間の無駄ですよっ! その人達は制限無く起き上がって来ますからねぇっ!」

 それから何度も何度も、二人のエルフは崩壊と再生を繰り返した。

 切り刻まれても、魔法で焼き尽くされても、言葉を一言も発する事無く、立ち上がり続けた。

 起き上がり、無言でローズへ向かって行く度、マルクは狂喜に満ちた表情で笑う。

 何度も、何度も繰り返し、しばらくの時が過ぎてからの事。

「哀れね」

「そ、んなバカな…………」

「マルク、あなた、アンネルからしっかりと話を聞かなかったでしょう?」

「き、聞いたに決まっているじゃないですかっ! 催眠魔法で自白させたのですからっ! 全部聞きましたよっ!」

「大方『魔法の発動方法を教えろ』とでも言ったんじゃなくて?」

「それさえ分かればっ事足りる事ですっ!」

「アンネルはね、”ほぼ完成した”とは言ったけれど、その魔法が”完成した”とは、言っていないのよ。要するにまだ不完全だった、と言う事。知らなかったでしょう?」

「そ、んな…………う、嘘だ、嘘ですよ……」

「その姿を見て、嘘だなんて思えないでしょう?」

 二人のエルフ”だったもの”の慣れの果てが、ローズとマルクの間に存在していた。

 崩壊と再生を繰り返したある時を境に、人間の原型を留められず、みるみる内に、元がいったい何であったかすら分からない存在へと変貌した二人のエルフ。

「あ、う、げぐ……」

「ううあぐ、ぎぎ……ぐあ」

「こんな姿になってようやく意識が戻るだなんて。可哀そうに、その苦しみは想像も出来ないわ」

 何処から発しているか分からない以上、声と言うべきなのか、音と言うべきなのかは分からない。

 それでも漏れ聞こえるそれは、苦しみ呻き、ようやく発しているのだと言う事だけは、ハッキリとしていた。

「ま、まだ生きているじゃないですかっ! ならば……ヒーリングッ!」

「止せばいいものを」

 マルクは回復魔法を唱え、二人のエルフの治癒を始める。

 一度は人型を形成したようにも思えたが、崩れ落ち、その有様は悪化を辿る。

「ご、ぎぃ、ぎぎ、っぐがぁぁああう」

「ひ、ぎゃう、ああぐぅう」

「…………」

「だから言ったじゃない、止せばいいと」

 二人であった事すら分からない姿となり、一つのモノから、別々に声が放たれている。

「……せめてもの救いは完全消失が可能、と言う事ね。さようなら、火葬華」

 火葬華の炎は燃え続けた。

 その間、再生はもう始まらない。

 ただただ崩壊して行くのみ。

「さてと、それじゃあ……次はあなたの番ね。アンネル」

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