雰囲気がだいぶ変わりましたね
「ふぅ、ようやく着いた」
数時間掛けて、ようやくエルフが住む森の入口へと辿り着いた。
以前訪れた時と変わりは無い。
ローズの記憶にあるエルフの森と同じ風景だ。
とりあえず目指すはアンネルの住む家。
変わり者のアンネルらしく、他のエルフの住む家とは少し離れた場所に位置している。
エルフの森へ入り、左へ曲がり、そこから更に奥へと進むと、ようやくアンネルの家が見えて来た。
久し振りの再開。
知人に会う事へ多少嬉しさと緊張を胸に、家のドアをノックすると。
「ちょっと待っててやっ!」
あれから年月が経ったのに、聞き覚えた声で家の中から返事を返して来る。
間もなくして、バタバタと忙しない音が聞こえた矢先、勢いよくドアが開け放たれた。
「待たせて悪かったなぁ…………って、あんた……ローズかっ?!」
「どうやら元気そうね、アンネル」
「ひっさしぶりやなぁっ! 元気そうやん。それに、そのお澄まし顔も相変わらず」
「あなたこそ、その特徴ある喋り方は健在なのね」
「当たり前や。これはうちのアイデンティティやからな。そんな事より、せっかくやし、上がって行くんやろ?」
「ええ、そのつもりで来たの」
「散らかってるけど、気にしんといてや」
散らかっている、とは宣告されたローズだが、その散らかりようにはさすがに言葉を失った。
うず高く積み上げられた書籍の数々。
散乱する紙。
足の踏み場が無い、とは正にこの事だ。
「…………リンがいたら、怒られるわね、確実に」
「コーヒーでええか? それしか無いんやけどさ」
「何でもいいわよ」
テーブルまでの道のりだけでもどうにか通れるようにして、辿り着いたテーブルの上も、出来るだけのスペースを確保する為、乗せられている本の数々をまとめて並べると、それなりにどうにかスペースを作る事が出来た。
「見た目は何もしなくても整っていると言うのだから、その分こっちの片付けをどうにかならないの?」
「外見、関係あらへんやん。はい、コーヒー」
「ありがとう。それで、あれからだいぶ経ったけれど、魔法の研究はどうなったのかしら?」
「もうほぼ完成しとるで。植物や動物では回復魔法が間に合うようになった」
「後は人間だけって事ね?」
「そうゆう事や。でも、都合良くそんなタイミングは無いしな」
「……転生者の一人や二人、私がどうにかしてあげる事は簡単よ?」
「いや、ええんや。魔法の研究の為に人の命を粗末になんて出来んて。それに……うちは何があろうとも、転生者の奴等を救うつもりはあらへん。うちに取って……敵やから」
「そう」
「せやから、そのタイミングが来た時でええんよ。んで、そっちの具合はどうなんや?」
「上々、かしらね。転生者をこの世界から減らし、理を戻してセリカを復活させる。先は長そうだけれどね」
「お互い、まだ少し時間は掛かりそうやけど、確実に進んでいるようやし、上出来やろ」
アンネルと出会った二年前、ローズは自分の素性と目的を伝えてあった。
自分がエルフだからと言う理由でローズの目的に干渉するつもりは無いわけでは無く、アンネル自身の個人的な思いとして、ローズの目的にアンネルは賛成だった。
友人の命を奪った、憎い相手である転生者を殺してくれるのであれば、賛成する理由として充分であったから。
「アンネル。知っていたらでいいのだけれど、エルフの人間がセリカの城の辺りに来た事について、何か知らない?」
「いつの話しなん?」
「昨日よ」
「…………んー、知らんなぁ。うち、だいたい家の中に籠ってるからなぁ。でも、なんでわざわざそんな遠い所まで行ったんやろ? 後でマルクのとこ行く予定やし、聞いとこか?」
「いや、いいわ。直接聞いてくるから」
「そう言や、うちと出会うより前に会っとる言う話やったな」
「ええ。まだセリカの代理では無かったけれどね」
「ずっと魔王の側近しとったわけや無いねんな」
「そうよ」
「マルクに素性がバレんように気を付けや。干渉せん言うとっても、魔王が討伐された事に内心喜んでるようやから、復活させるなんて言うてみ。何するか分からへんから」
「ありがとう、充分気を付けるようにする」
しばらくアンネルと会話をした後、ローズはエルフの長であるマルクの住む屋敷へとやって来た。
実の所、四年前にマルクと会った時から、マルクの事が好きにはなれなかった。
「どうせ問い質しても本当の事なんて話してくれないでしょうけれど」
マルクの屋敷のドアの呼び鈴を押そうとした矢先、後方から声を掛けれる。
「おや、これは……」
「ご機嫌よう。エルフ長」
「ご丁寧な挨拶、ありがとうございました。えぇっと、あなたは……確か…………」
「ローズよ」
「あぁ、そうでした……でしょうか?」
「名乗ったのはこれが初めて」
「ですが、お会いした事はありますよね?」
「だから言ったでしょう? 名乗ったのは初めてだ、と」
「あぁ、そう言う事でしたか。すみません、我々は基本的に干渉しないものなので」
本音が分かり辛い上に、回りくどくそれでいて、分かったような人の好い物言いが捉えようが無く、どうしても気に入らなかった。
「ローズさん、でしたね。あなた、雰囲気がだいぶ変わりましたね。それに、お連れのお二人はどうされたのです?」
「あの時は魔王セリカがまだ健在だった。だから他に二人いた、と言う事よ。いない者の討伐をする必要がこの世界にはもう無い、ともなれば事情だって変わって来るでしょう」
「あぁ、なるほど、そう言う事ですか」
何がそう言う事なのか、と言うのがローズの内心だ。
「その節はすみませんでした。魔王セリカを倒す手助けが出来なくて」
「分かっているわよ。干渉しない、のでしょう」
「本当にすみません。ですが、討伐出来たようで何よりでした。それなのに、つい最近、魔王セリカを復活させる……なんて噂があるらしいのですが…………。ローズさん、何か知っていませんか?」
「噂でしょう? 気にする程の事でも無いと思うけれど?」
「そう、なんですけどね。気になるんですよ。先日、魔王の城の近くまで行ったのですが、城その物が見当たらなくて、ですね。あれは、何でしょう? 魔力で隠しているのでしょうか?」
(全く白々しい。その白々しさも計算の内なのでしょう?)
口には出さず、そして感情にも出す事無く、ローズは淡々と告げる。
「あなたの知っている私はいったい何者なのかしら? 魔王の配下、とでも認識しているの?」
「いいえ、そんなまさか。何しろローズさんは魔王を倒す為に、四年前、このエルフの森を訪ねて来たのですから」
「それなら私に聞いたって何も知らないし、分からないとしか言えないわ」
「ですよね。ごもっともな事です」
ローズはたぶんマルクが自分の素性をある程度知った上で、話しを振って来ているのだと考える事にした。
「魔王が復活したわけでも無いのに、何故、あのような結界で隠しているのでしょうね」
「気にするような事では無いでしょう? 魔王セリカが復活しようがしていまいが、あなた達はどうせ干渉しないのだから」
「そう、なんですけどね。向こうから干渉して来る事も考えられるわけですよね?」
「何を今更。私にはあなたが、魔王に干渉されるような何かをしている、と言っているように聞こえるのだけれど?」
「いくらエルフでも魔王に喧嘩を売るような事、しませんよ。それよりも、ローズさんは何をしにこちらへ?」
明らかに話題を変えた事にローズは気付いたが、意に介さず質問へ答える。
図らずとも魔王の城近くの森に来た事は、マルクが勝手に話をしてくれた上に、おおよその目的も分かった事もあり、無難な返事を返す。
「知り合いがいるから久し振りに会いに来ただけ」
「おや、知り合いがいたのですね」
「ええ、アンネルとは昔ちょっとね」
「そうですか。アンネルさんの研究には、エルフ族の長として私も協力をしているのですよ。とても素晴らしい事だと感じたので。転生者の人が増えてしまい、世界の情勢や治安があまり良くありませんからね。無駄に命を落とさず済むのであれば、それに越した事は無いと思います。ローズさんもそう思いません?」
「そうね。争いなんて無い方がいいわ」
これ以上は特に聞き出す事も判断し、その場を離れる事にしたローズへマルクが独り言のように、通り過ぎたローズへ振り替える事もせず告げる。
「四年前に来られた時の……ローブ姿の方がお似合いだったと思うのですが…………。あぁ、もうローブ姿ではいられなくなった、と言う事でしょうか。残念です」
「あなたこそ、エルフならエルフらしく見て見ぬ振りをするべきじゃないかしら?」
互いに言う事だけを言った切り、返事を返すわけでも無く、二人は話を切り上げた。
そしてアンネルの家。
「マルクの協力なんて断ってるんや。せやのに、アイツ、何度断っても首を突っ込んで来よる。うちかて迷惑してるんよ」
「出来る限り注意しておきなさい。何を考えているのか分からないもの」
「分かっとる。そう言うローズも気を付けや」
「ええ、そうね。私の素性を何処まで把握しているか分からないけれど、少なくとも、以前の私と違うって事に気付いているようだから、行動は慎重に起こすようにするわ」
「そんで、これからどうするつもりなん? この辺りには、統制者の子、たぶんおらんよ?」
「それが聞けただけでも充分よ。別の地域を探してみる」
「そか。何か情報でも聞いたら、こっちからも教えたるよ」
「それは嬉しいけれど、あなた、どうせ外に出ないでしょう?」
「んーせやな、うはは」
少しだけ呆れつつも、アンネルのアンネルらしい所にローズは安堵する。
「私からたまに来るようにするわ。だから少しだけ、部屋を片付けておきなさい。さすがに散らかり過ぎよ」
「善処はしたる」
あぁ、これは絶対片付けないな、と確信しながらも、ローズはアンネルへ別れを告げてから、セリカの城へと戻る事にした。
マルクの動向に嫌な感じを抱きながら、もしそこへ、セリカの配下である統制者を傷付けるような事が考えられそうであれば、例えエルフの族長だとしても手に掛ける事をも厭わないと決意して。




