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アイブ  作者: 伊恩
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第8話 明かさない記憶

第8話 明かさない記憶


「よくもこんな服きせやがったな…!いつか殺してやるからな…ひっく」


ゴスロリ風の服を着せられた黒龍はもう泣きだす寸前だ。


そんな不甲斐ない黒龍を見てから遠い目をしてケイは呟く。


「まだショートズボンなだけましだよ…俺なんか…」


ケイはミラノに関してならもっとひどい経験をしている。


自分の名誉のためにも、ケイはこの事を誰にも話したがらなかった。


だが、めでたく(?)この2名に共通点が生まれた。


ミラノがおっかないということだ。


これは、2人だけではなく全員が思っていることなのだが。


「あらぁ、そこの2人なにかいったかしらぁ?」


「いえ!なにも!」


一瞬のずれも無いすばらしいタイミングで2人は言い、背筋を伸ばす。


やはり、ミラノには勝てないのだ。


「お前らそろそろ帰れよ!俺たち任務帰りだぜ?疲れてるんだよ」


見かねたユウが2人に助け舟を出した。


それに、ケイもユウも黒龍の話をじっくりと聞く時間が欲しかったのだ。


ミラノがいたら落ちついて話すことなんて到底無理なことだとユウは判断したらしい。


「はいはい、いわれんでも帰ってやりますよ。なんかあったら遠慮なくいってくれや」


ゼルは拗ねたように口を尖らせる。


ユウは上手くゼルをはぐらかして結局、『アブナイハシ』について深くは話さなかったのだ。


それがこの人物の不機嫌の元らしい。


ケイはゼルが話したときには必ずと言っていいほど頻繁に違和感を覚える。


いくら経っても外人が関西弁で話すのに慣れないのだ。


「あ!そうや」


ケイの疑問を知らないゼルが何かを思い出したようだ。


「ケイにはなしがあるんや」


「俺に?」


ケイは驚いた。


ゼルに話を聞かされるようなことに全く心当たりが無かったのだ。


『もしかして関西弁の理由教えてくれるの!?』


とケイは心の隅で期待してしまったが、勿論そんな訳がない。


ゼル自身が関西弁を話している自覚があるわけが無いのだから。


「あ!ユウ君♪前言ってた本みつけたわよぉ。私の部屋にあるからいきましょぉ♪」


タイミングを計っていたように(計っていたのだろう)ミラノがユウを誘う。


ユウは少し抵抗したが最後は大人しくなって、ミラノにひこずら…ついていった。


ミラノがユウのみぞおちに、見事な右ストレートを入れてからユウが大人しくなったのは、ケイが気づいていたくらいなので全員が気づいていたのだろう。


『ごめんユウ!やっぱミラノは怖い。大人しく成仏(?)してくれ!!』


ケイは心の中でしきりにユウに謝った。


ユウの使い魔である黒龍もユウと一緒に出て行った。


瀕死状態(?)のユウが心配らしい。


それに黒龍はユウの使い魔だから、ここはユウについて行くのが筋というものなのだ。


ゼルはよほどこの話をケイ以外の誰にも聞かせたくないらしい。


そんなゼルの計画通り、モダンな雰囲気の部屋にはケイとゼルは2人きりになった。


「…で、話って?」


ケイは沈黙を破った。


「ユウのことや。」


ゼルは口元にかすかな笑みを浮かべてはいるが、その瞳は今まで見たことの無いほど真剣だ。


「ユウはお前にかなり心を許してるみたいやなぁ。だからご褒美にお前に会う前、記憶喪失になったばかりのユウについて少し話してやるわ」


ケイは度肝をぬかれた。


今まで、何気なく聞いてみても誰もユウの過去について教えてくれなかったし、しつこく聞いて相手の気分を損ねるのを恐れて深く追求したことは無かった。


なので、ケイはユウの過去については何も知らなかったのだ。


ゼルは再びケイとユウが部屋に入ってきたときに座っていた、いつもユウが座る席に足を組んで座る。


ケイもゼルに向かい合う様にゆっくりと自分の席につく。


卓上のクッキーを1枚ほお張った後、ゼルはゆっくり話し始めた。


「2年前、ユウが記憶喪失になってすぐ、俺とユウはコンビを解消したんや。


そんときのユウは一言も喋らんかったし、表情も無くて、まるで人形みたいやったわ。


ユウが記憶をなくしたときには、俺と組んで丸1年経ってたんや。


それでも俺はユウ本人から、あいつがアイブになる前のことを何一つ教えてもらったことが無かったし、あいつ、元々無口なヤツやったからおしゃべりな俺と仲が良かったって訳やなかったんや。


やから俺がユウに教えてやれたことは、本当にあいつの名前くらいや。


そんな名前しか知らない何処の馬の骨とも知れないヤツでも、他に全く知り合いがいないユウにとっちゃ唯一自分のことを知ってる特別な人間やと思ってくれたんやろうなぁ。


記憶が戻らず、任務を1人でこなしてた俺に迷惑かけるんが嫌やと思ったんか、いつも申し訳なさそうに俺を見よった。


俺は、ユウにそんな顔してほしくなかったからコンビは解消したんや。


でも天才少年としても、翼が白い化物としても有名だったユウをみんなが避けよった。


ユウと並んだら自分の力が劣り、自分が霞むことも分かってたんやろう。


それに、記憶喪失の少年に全てを教えながら世話しようなんてだれも思わんかった。


そんな周りの態度を感じたのか、ユウ自身も誰にも興味を示さんかった。


結局ユウのことはパートナーがみつかるまで俺が世話することになったんや。


折角コンビまで解消したのに、結局俺らの生活は変わらんかった。


自分でも無駄なことになってしもと思ったわ。


そんなユウは、時々体が透けて、この世から消えそうになってた。


お前もしっとるやろう?


大切な人が死んだとき、アイブは消えて再び輪廻の輪に戻る。


大切な人が誰かすら分からなくなってもうたユウは、いつ消えても全くおかしくない存在やったんや」


ゼルは紅茶を飲んで一息ついている。


まるで貴族のように優雅にお茶を啜るゼルはケイを焦らしているようだ。


案の定、ケイはその一息の間も待てず、ゼルに聞いた。


「…それから?」


「それだけや」


ゼルは顔色1つ変えない。


「は!?」


「このあとはお前が知ってるとおり記憶喪失になった1年後、ロン毛のジャパニーズ新米アイブとコンビを組んだ。」


「でも、俺と組んだときユウは消えかけてなんかなかったぜ!?それに無口ではあったけどちゃんと話したし、表情もあった!他になにかあったんだろう?」


「いいや、なんもあらへんかった。記憶喪失になったユウが初めて言葉を発したのはお前と初めて会話をしたときや」


ケイは不思議で仕方なかったので、ゼルに聞く。


「誰とも話さなかったのになんで俺と話したんだろう…?」


ゼルは目を細めて深いため息をつき、堂々とした声で言い放つ。


「アホウ」


いきなりゼルに馬鹿にされたユウは呆気をとられた。


「アホいうな!!」


ひとまずケイは言い返したが、なぜアホ呼ばわりされたか分からない。


「はぁ…お前ユウに初めて会ったときのことおもいだしてみい」


自分からユウに話しかけたような気がするが何を言ったか思い出せない。


ゼルは考え込んでいるケイをみてさらに一言。


「ニブチン」


ケイは何度も馬鹿にされて虫の居所が悪いので、すかさず言い返す。


「ニブチンいうな!ゼルは知ってるんだろ?教えてくれよ!」


ゼルはさっきのため息以上に深いため息をついた。


「すぐ怒ると禿げるでぇ。おまえもう16やろ?自分で思い出しな」


そう言うとゼルはふらふらと扉に向かってゆく。


「けちんぼ!」


ケイのの罵声に対してゼルは扉に向かって歩き続けながら無造作に腕を軽くふるだけだった。


流石大人と言う感じである。


ゼルが出て行った後もケイは必死で思い出してみたが、結局思い出すことが出来なかった。


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