表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイブ  作者: 伊恩
5/18

第5話 戦友

5話 戦友


大声を上げて笑う2人を、謎の男女と黒龍は温かく見守る。


「ミラノ、ゼル!久しぶりだな。…で俺たちの部屋で勝手に何してるんだっ!?」


ユウはいきなり笑顔から真顔になってティータイムを続けるミラノとゼルに追求する。


ユウが凄むと凄い迫力だ。


「何って…見ての通り相棒と2人、優雅に昼下がりのティータイムを楽しんどるんや。」


「そういうことじゃなくて、なんでここにいるんだっ?それに、そのお茶もクッキーも俺のだろ!?」


怒り狂うケイはクッキーを箱ごと机から取り去ろうとしたが、すかさずゼルが持ち上げ、ケイから遠ざける。


そしてケイがカチンと来る一言を吐く。


「硬いこと言うとるとはげるでぇ。」


ケイは色々とこの男に突っ込みたいことと、いくらでも頭に浮かんでくる罵声の数々いっきに押し寄せてきて、混乱してしまい、音にならない叫びを発する。


だが、ゼルは完全無視。顔色1つ変えず、もう一方の手でお茶をすする。


ケイはどう見ても外人のこの男がなぜ関西弁なのか、ずっと疑問に思っているが、いくら考えても全く分からない。


アイブは文字も言葉も全て自分の母国の言葉に翻訳されて伝わってくるはずなのだが、この一癖あるゼルと言う人物が言葉まで染み出てきているのではないかと言う結論をケイは出している。


ゼルは容姿も性格も変わった人物だ。


ハニーゴールドでさらさらのワンレングスの髪に、同じ色の右目。


だが、顔の左半分が浅黒く変色しており、左目は光を映していない。


左からくる攻撃の反応が鈍いとケイは感じたことがあるので、どうやら見えていないようだ。


顔が変色していなかったら美青年の部類に入りそうな顔立ちをしている。


怪しい機械を造るのが趣味で、ケイはしょっちゅう実験台にされており、酷い目にあっている。


そして、ユウが記憶喪失になる前、ユウとコンビを組んでいた元パートナーに当たる。


ケイが知る限りでは陽気で人望が厚い人物だ。


「そうよぉ、ケイ君♪折角綺麗なロングなんだから、絶対はげたりしちゃダメよぉ。」


ゼルと向かい合ってお茶を続けるミラノがクスクスと笑う。


こちらにもケイは色々と言わせて貰いたいのだが、やはり言いたいことが多すぎて奇声にしかならない。


ゼルも相当癖の強い人物だとは思うが、このミラノと言う女性には到底及ばない。


それほどこのミラノと言う女性は強烈なのだ。


ゼルが市販のタバスコだとすると、ミラノは特に辛いハバネロ。


または、もう人間の食べるものではないかもしれない。


ミラノは、ソパージュのかかった黒髪を肩まで伸ばし、パッチリとした大きな漆黒の瞳にケイとユウの姿を映している。


この女性、ゴスロリの趣味があり、今もその手のフリルがふんだんにあしらわれた服を身に着けており、一言で言うとぶりっ子。


メイクが得意で、ミラノがメイクをすると誰でも別人になってしまうほどの腕前だ。


普通の化粧より、ハリウッドでよくしている特殊メイクに近いものをケイは感じる。


化粧のときに顔に何かを貼り付けて顔の形を変えたり、念入りにしわを描いたり…。


そして、唯一、ケイとユウが苦手とする人物だ。


見かけだけだとケイも認めるかなりの美人なのだが。


その証拠に、さっきから黒龍はミラノから目が離せなくなっている。


だが、理由がそれだけではないのはケイにも分かった。


黒龍はミラノが女性であることに大きく驚いているのだ。


アイブになるためには強い決意が必要であり、戦い続けなくてはならないので、女性がアイブになるパターンは本当に少ない。


現にアイブの人口の9割が男性だ。


なので、20歳程度で成長が止まるアイブが住む天界は殆ど男ばっかりなのである。


ケイに言わせれば全く華が無い。


アイブには男性しかいないと思い込んでいる魔物の部族もいるほどだ。


穴が開くぐらいに自分が見つめられているのに気づいたミラノは、黒龍に向かってニッコリと微笑み返す。


そうすると黒龍は急いでミラノから視線を逸らした。


案外初心なヤツだと思い、ユウは思わず口元を緩める。


そんなやり取りを微笑ましく見ていたゼルがクッキーの箱を再び机の上に戻して、黒龍に友好的に話しかけた。


「そっちのあんちゃんは、ユウの使い魔かいな。初めましてぇ、俺はゼルっちゅうんや。こっちは相棒のミラノや。よろしゅうな。」


2人は座ったままではあるが、丁寧にお辞儀をした。


黒龍も慌てて軽く頭を下げる。


アイブは使い魔を奴隷のように使うと聞いていたので覚悟はしていたのだが、少なくともこの2人はそんな部類のアイブでは無いらしい。


そんな事を黒龍が思っていると、ゼルがいきなり立ち上がり、ユウの前まで来るとユウの服に引っかかっていた純白の羽をそっと取り上げた。


「この羽だけは、俺と組んでた時と変わらず綺麗やなぁ。」


ゼルはニッコリと微笑む。


「お前の目は節穴か?俺は心も綺麗だぞ。」


皆がどっと笑う。


ユウは自分の翼の話になることをいつも嫌がるのだが、ゼルだけは例外らしい。


冗談を言った後、無表情に戻り少し顔を伏せたが、無理やり話題を変えようとはしない。


少し寂しげなユウの表情に、部屋中が静まり返る。


軽い羽が窓から入ってきた風に乗って浮かび、くるくると飛ぶ。


ケイを始めとする5人は純白の羽が光を浴びながら宙を舞う神秘的な光景に見とれた。


アイブはみんな漆黒の翼のはずなのだが、ユウの翼だけは美しい純白の翼だ。


アイブは人間が言う悪魔のモデルと言われている。


それに対して天使は人間が空想で造った生物とアイブの中では伝えられている。


だが、ユウを見ていると天使が実在していると信じたくなってしまう。


美しい銀色の髪と真紅の眼、そして純白の翼…少女にも見える容姿…。


人間から見れば天使、いや神にすら見えるかもしれない。


だが、アイブからみれば恐ろしい色なのだ。


動物と言うものは普通と違うものを忌み嫌い、恐れる。


それはアイブも例外ではない。


本人は必死に気にしていないように振舞っているが、裏ではユウを悪く言うアイブも少なくは無い。


だからユウはこの翼の色をとても嫌っているのだが、ゼルはユウに会うたびにこの羽を褒める。


何度か見ているうちにケイにはゼルが言っていることがお世辞などではないことが分かった。


ゼルは


しばらく全員が宙を舞う純白の羽に見とれ、余韻に浸っていたが、ミラノが黒龍を少し観察した後、いぶかしげに口を開いた。


「ねぇ、…アナタ大きさは違うけど昨日本で見た龍にそっくり。もしかして…伝説の黒龍じゃないのぉ?」


黒龍はこんなに早く修羅場が来るとは思っていなかった。


嘘の任務完了報告をし、伝説の龍を天界に連れて帰ったなどと上層部にばれたら、ケイもユウもただではすまない。


黒龍も間違えなく上層部に隔離され、酷い扱いをうけるだろう。


下手するとこの計画自体もばれてしまう。


そんなことになったら黒龍自身も当然困り、ケイとユウもこの世から消されてしまうだろう。


黒龍はわりと仲良くなっていた2人のことも心配した。


黒龍にも良心というものはちゃんとあり、この2人が痛い目見るのは可哀想だと思った。


黒龍がこの2人が最初に思ったよりもずっと優しいと感じたのと同じで、ケイたちもこいつは意外に人情(龍情?)があるとびっくりしていた。


『ひとまずどうにか切り抜けなくてはっ!!』


そう思い、黒龍はゆっくりと顔を上げ、ビクビクしながらミラノの瞳を見た。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ