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アイブ  作者: 伊恩
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第3話 使い魔

アイブが人間に戻る方法を教える。

そんな取引にケイとユウは…。

3話 使い魔


ここはもう東京じゃないのかもしれない。


ケイは生まれた時からずっと東京に住んでいるが、こんな場所が東京にあるなんてケイは全く知らなかった。


龍を森の奥開けた場所まで追い込んだが、ここはそう思うほど深い森なのだ。


人々の開発の手から逃れている証拠に人工物は何一つ見受けられない。


『この辺でいいだろう』


ユウが目でケイに合図した。


ケイは小さくうなずきながら飛ぶのをやめ、翼をしまいながら詠唱を始めた。


アイブの翼はアイブ自身の意思で背中にしまうことができるのだ。


背中に吸い込まれるように翼が消えていくのは何度見てもなれない光景だが、自分の翼をしまうのはそれとは全く別である。


ユウは龍の下に下りる。


「なんだ、もうあきらめたか?ならばここがお前らの墓場だ………!」


龍が低い声で唸る。見かけ以上のすごい迫力だ。


現にケイは詠唱はやめないものの、怯えきっているのが現状だ。


反対にユウは


「それはこっちの台詞だ!」


と挑発混じりの漫画のような台詞を吐く。


『おいおい…挑発なんかするなよ、ただでも怖いのに』


ケイはビクビクしているのを表に出さないように心がける。


だが、一方のユウの中には恐怖などと言う感情の欠片も無かった。


逆に少しは楽しめそうだと言う嬉しい気持ちで胸が一杯なのだ。


龍はユウを見て、静かに笑っている…のかよくわからないが、嬉しそうにしているのは確かだ。


だが、これは正に嵐の前の静けさと言うものだった。


「そういう馬鹿は嫌いじゃないぞ。だが時には命取りになることも覚えておけ!」


『――――おけ!』のあたりで龍は激しい灼熱のブレスを吐き出した。


熱っ、と思ったのもつかの間、そのブレスが真っ直ぐユウに向かっているのを見たときは逆に体温が一気に下がったように感じた。


ブレスはユウに当たった…様にケイには見えた。


自分は叫んで詠唱をやめてしまうかと思っていたが、不思議と心配は無かった。


ユウと組んで2年が経つが、こんなに簡単にユウが死ぬわけ無いことを本能は知っていたらしい。


予想通り、音にできないような高笑いをしている龍の前に突如、黒い影が躍り出た。


黒い影は風を斬ったような音を立てたが、ケイには何をしたのか全く分からない。


だが、その瞬間、龍の高笑いは苦痛な悲鳴に変わった。


急いで黒い影から龍に視線を戻すと、龍は左目を押さえて地面に倒れている。


そして黒い影…ユウの右手には紅い血液がついた小型のナイフが握られていた。


ケイは身震いを抑えながら思った。


『いつ動いたのか分からなかった。キャリアが違うとはいえユウと俺は同い年なのに、こんなにも力の差があるのか…。』


ユウは相棒だが、ケイはばっちりライバル視している。


…かなり一方的なものだが。


「大口叩くな!」


ユウは脅すような声が響いた瞬間、ケイの詠唱は終わった。


「――――クロスチェーンっ!!」


ケイが叫んだのと同時に巨大な鎖が龍の体にきつく巻きつき、拘束した。


成功した安堵感で、ケイは尻餅をついてしまった。


空中で無傷の龍を拘束するのは至難の技だったが、そこはユウの気転でどうにかなった。


ユウが相棒の顔も見ず、無造作にケイに手を差し出す。


座り込んでいるケイは一瞬、手を取ろうとしたが、思いとどまり、自分に問いかける。


『思い出してみろっ、ユウがそんなことするたまか?』


ユウが軽く目を向けてケイに諭す。


それでやっとケイは、ユウが自分の腰にかけてある長剣を求めているのだと分かった。


少し恥ずかしかったが、別にユウが何かをした訳ではないので、何も言えず、ケイは黙って差し出す。


「俺の勝ちだな」


『俺たちの訂正しろっ!』とケイは言おうとしたが、ユウの迫力に思わずたじろいだ。


と言ってもユウはケイを威圧したわけではなく、ただ龍を威圧しただけなので本人には全く悪気が無い。


ユウが紅い目で龍を威圧しながら剣を鞘から抜く。


そして龍の胸、おそらく心臓があるであろう場所に刃をむけた。


「ま、まってくれ!!」


龍は血だらけの右目瞑ったまま呻く。


体を大きくくねらせて、必死に鎖から逃れようとしているが無駄だ。


ケイの術、チェーンクロスの鎖が更にきつく黒龍を締め付ける。


苦しさから無意識に呻いてから龍は叫ぶ。


『馬鹿でかい声っ、そんなに叫ばなくても聞こえてるってば』


そう思ったがそんなことは叫んだ内容の驚きにかき消されてしまった。


「俺はアイブが人間に戻る方法と消した存在を戻す方法を知っている!!」


「!」


ケイもユウも驚きを隠せなかった。


『人間に戻ればまた明日奈に会って普通の生活を送ることができる!!』


そんないろいろな思想がケイの頭一気にを駆け巡った。


「本当に知っているという証拠はあるのか!?」


少し取り乱しているが、無理に落ち着いた声音を作り、ユウが尋ねる。


「あぁ!俺は黒龍一族の生き残りだっ、そこの銀髪、その強さだと上位アイブだろ?知ってるよな!?」


「!神と共に生命を造ったと言うあの黒龍一族かっ…この伝説を知っているのは 極わずかな上層部のアイブだけ…本当みたいだな…。」


ユウは顔をしかめ、頭を掻き毟る。


黒龍一族と言うのは地上で始めて生まれた生物である。


知識の量は世界一とも言われている。


ユウはそれを知っていたのだ。


ケイとしては土下座してでも教えてもらいたいくらいの気持ちだ。


だがそんなことユウが許してくれるか…横目でユウをみて口を開く。


「ユウ…。」


「…分かってる。だが、これは魔物と取り引きしたことになるからアイブの掟では完璧に違法だ…だからと言ってこいつが黒龍だと言うことを上層部に報告したらこいつは実験体として隔離され、もう二度と聞くチャンスは訪れないぞ!…くそっ!いったいどうすればいいんだ!?」


もう、ぶつけようの無いもどかしさを隠そうともしない。


こんなユウは初めて見る、余程悩んでくれているのだろう。


大切な人を記憶喪失で失ってしまったユウは人間に戻ろうなどとは更々思っていないのだ。


つまりこれは全て相棒のケイをのことを想って悩んでくれているのだ。


そんなユウの健気な行動に報いるためにも、ケイもなけなしの(?)知恵を絞る。


「!そうだっ」


ケイが大きな声で叫ぶ。


「俺は位が低いから禁止されてるけどユウならこいつを使い魔(要するにペット)にすること許可されてるだろ!?」


ユウはしばらく『何言ってるんだ?こいつ』


と言う感じにぽかんとしていたがハッとして明るい顔をケイに向けた。


思考が追いついたみたいだ。


「その手があったか!それならこいつをひとまず天界につれて帰れるわけだし、自分の使い魔と取引することなんて禁じられていない。それに黒龍ならば俺の使い魔にしても不足はない!!」


ユウは黒龍視線を戻すといきなり目つきも声色も鋭くなる。


「分かった黒龍。手を結ぼう。その代わり、お前に使い魔の刻印を打ち付けるがいいか?」


「なっ!!」


『そんなのごめんだ!ペット(奴隷)になれといっているような物じゃないか!』


黒龍はそう思ったが、ユウの握っている剣は未だ心臓に向けられている。


そしてユウの眼が『これは頼みなんかじゃない。命令だ。』と語っている。


黒龍はしぶしぶ了承した。


というか了承しなきゃ殺されるのだが。


「よし。ケイ、刻印。」


黒龍に言ったのと同じように命令口調で言って、剣を捨ててケイの顔も見ず、手を伸ばしてくる。


ケイは抗議しようとしたが、すかさずユウが睨みつけてきた。


『うぅ…こいつ、怒らせると怖いんだよなぁ…』


仕方なくケイは、言うとおりショルダーバックからユウの言う刻印を取り出して渡した。


ちなみにユウは殆ど武器を持っていない。


この少年は天才少年と言われるほどの人物で、破壊力のある多彩な術が使えるので武器など無くても全く困らずに戦うことができるのだ。


その分、基本の術しか使えないケイがたくさんの武器をもっている。


…だが、実際ケイ持ち物の8割がユウの武器や術の小道具なのだ。


だがケイがユウの荷物もちというわけじゃない…多分。


そんなケイの気持ちなど無視してユウは自分の二の腕ほど大きさの刻印を黒龍の首に近づけた。


バン!!


ユウは黒龍に使い魔の刻印を打ちつけた。


その瞬間、ケイがかけていた『チェーンクロス』の術が解けたのを感じた。


黒龍に打ち付けた刻印から白い煙が出て辺りを覆いつくした。


煙が晴れたときユウはへぇーっという感じに黒龍を見たが、ケイはそんな落ち着いた反応をすることが出来なかった。


「な、なんだこりゃ?」


ケイは顎が抜けるほど口を開けて驚いている。


無理もない。腰を抜かすほどの大きさだった黒龍50cmほどの小さな龍になってしまったのだから。


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