第2話 運命の任務
2話 運命の任務
ケイに急かされて、2人はアレから5分で出発と言う記録的な速さで出発する羽目になった。
ケイが術を発動されるため、ルーンを超っ早で詠唱する。この詠唱速度もアイブ史上でも指5本に入る速さだったかもしれない。
それから、日本の雲の上にある天界の島までワープした。
ワープの術は島と島の間でしか使うことができないのだ。
そして、その後はアイブの持つ翼で飛んで移動し、ケイは方向感覚抜群のユウについていった。
ケイは任務に出るときはいつも機嫌が頗る良い。アイブは任務のとき以外には地上に降りてはならないのだ。
逆に言うと、任務の時は地上に降りられる。それだけがアイブたちの唯一の心の支えだ。
他にもいろいろと掟があるが、掟を破ったら最悪の場合、この世から消されてしまうかもしれない。それは即ち消滅、『死』と同義語である。
今日のケイはいつもとは一味違い、恐ろしいほど機嫌が良く、ユウが気持ち悪いと思うほどの満面の笑みを終始浮かべ続けている。
無理も無い。今回の任務を終えればその足で妹と2年ぶりに再会することができるのだ。
2人が渋谷の上空あたりに来たときだ。
ユウが何も言わず急降下していった。
ケイの目の前にユウの純白の羽がゆっくりと落ちてきた。
アイブの翼は通常黒だ。
だが、なぜかユウだけが純白の翼を持っており、おまけには銀色の髪に紅い目と言う風貌だ。
これらの理由でユウはアイブの間で迫害の対象になっている。
まあ、相棒のケイは全然気にしていないのだが。
ユウの話はさておき、今回の任務は魔物の駆除だ。
ユウは標的の魔物をみつけたに違いない。
そう思ったケイは、ユウに続いて長い黒髪をなびかせながら急降下した。
30秒後、ケイはユウの後を追って着陸する。
優しく春風がケイの長い髪を乱す。前の任務から暖かい地域を望んでいたケイにとっては、利にかなった気候だ。
だが、臭いで全てが台無しだ。ガスやら生ごみやらの恐ろしい臭いが春風に乗ってぷんぷんしてくる。
溝の臭いを100倍濃いくした臭いとでも言えばいいのか。
ここは渋谷の路地だ。昼間だと言うのにビルの間のため、とても薄暗い。
路地にしては広さがあり、路地を抜けたらすぐ渋谷のメインストリートに出るようになっている。
ケイはメインストリートを見る。
ケイは東京出身なので、アイブになる前ここは彼にとって庭のようなものだった。
感動やら悲しみやらで胸を一杯にしたケイはゆっくりと口を開く。
「ただいま…日本…もうあれから2年も経つのか…」
また考え事を始めようとしているケイを先制して、相棒の背中をユウは容赦なく、力一杯平手で殴った。
「っ!!…そうだっ!!魔物はどこに居るんだ!?」
ケイは懸命に痛みを堪えるが顔に出ている。
「あそこだ」
ユウは薄く不敵な笑みを浮かべている。
「!」
ケイは腰を抜かすほど驚いた。
本当に腰を抜かしたらユウに笑われるのがおちなので足に力を入れてどうにか踏ん張ったが。
そこには想像をはるかに超えた大きさの黒い龍が悠々と暗い路地の空中を泳いでいたのだ。
この路地はかなり大きさがあるのだが、それでもこの龍には狭いようだ。
蛇のような体をくねらせて狭そうに空を泳いでいる。
この龍がもし隣にある超高層ビルを壊そうと思い、巻きついたならば、豆腐より簡単に崩れてしまうに違いない。
「こっ、こっ、こいつらよく平気でここを歩けるよな!?」
ケイは龍の周りを平然と歩いている人間を指差しながら言った。
路地とはいえ道幅は人5人が肩を並べて歩けるほどの広さがある。
しかもメインストリートに通じているので、それなりに人通りがあるのだ。
実際生前(?)ケイも人ごみを通らずすぐにメインストリートに出れるのが便利だったので、しばしばここを通っていた。
アイブも魔物も人間には見えないのだから仕方ないのだろうが、それでも龍を無視して楽しそうに歩いている人々に違和感を感じられずにはいられなかったのだ。
「仕方ないだろ。人間には魔物も、俺たち(アイブ)も全く視えないんだから」
『お前そんなことも覚えてないのか?』とでも言うふうにユウは冷ややかに返してきた。
『それぐらい俺でも知ってるっつーのっっ!!』といつもなら真っ先に叫けぶが、さすがに凶暴な魔物の前でそんなのんきな会話をする勇気も度胸もケイには無い。
「…でこの龍を駆除するのが今回の任務。ってわけか?」
ケイはユウの冷静さを見て少し落ち着いて言う。
ケイも年頃の少年であり、しかも人一倍見栄っ張りである。
『自分だけ取り乱してたらなんかかっこ悪いじゃん!』と言う気持ちが強いのだ。
「まっ、そう言うことだ」
ユウはあっさり答えた。
このでかさの龍を前にしても世間話をしているときとなんら変わらない声色。
いつもこの神経の図太さには驚嘆させられる。
ケイは正直にユウに聞いてみることにした。
ぶっちゃけると、ケイはこの龍むちゃくちゃおっかない。
「む、無理に決まってるよな!?」
ケイは無理に笑顔を作るが、完璧に強張っている。
ユウは不敵な微笑のまま薄暗い路地の壁にもたれかかり、ゆっくり腕を組んだ。
「お前が無理でも俺にはできる。」
ユウ自信満々は声でケイをからかっているとしか思えない。
こういう挑発がケイには1番効くことをユウはよく知っているのだ。
「なっ、ユウにできるなら俺にだってできるさ!」
ユウの予想どおりケイはやけになってる。
「じゃあ早速そのヤル気を生かして龍をを戦っても被害が出ないところまで追い込むのを手伝ってくれ!」
ケイの意地につけ込む所がユウの意地悪なところである。
誘導尋問の類はユウの得意分野なのである。(特にこの単純なタイプは扱いやすい)
『うまくユウに利用されてるような…』
ケイもつくづくは分かっていたが口に出すのが恥ずかしい。
口にだすということは、ユウに顎で使われているの認めるのと同じなのだ。
そんなのはごめんなので勿論口にはださなかったが、苦い顔をして見せた。
「さっさとやるぞ!」
表情の事に触れるとケイが駄々をこねはじめそうなので、ユウは完全に無視する。
ケイが駄々をこねはじめると流石(?)のユウでも手に負えない。
ケイは、黙って鞄からクロスボウと矢を取り出す。
だが、龍と比べたら矢が注射針よりも小さく思える。
それでもユウの手前、やらないわけにはいかない。
ケイの表情は相変わらずだが、クロスボウで威嚇しながら黙ってユウと2人で龍を誰も居ない山奥へと追い込んだ。