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アイブ  作者: 伊恩
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第16話 癖有る男女

第16話 癖有る男女


「ねぇ、ユウ君♪昨日貸した帽子と眼鏡無くしたって、本当なのぉ?」


そう言いながらミラノはケイとユウに1枚の紙を突き出す。


声はいつもの甘ったるい声だが、顔とは全く合っていない。


この紙は、昨日部屋に帰る前にユウが一筆書いてミラノの部屋の郵便受けに入れたものである。


ユウは書いてすぐ投函してしまったので、ケイは全く目を通すことが出来なかった。


ケイは、昨日読めなかったその内容を読んだ。


―――――――――――――――――――


ミラノへ。


悪い、借りてた道具なくしちまった。


今度埋め合わせする。


ユウより。


―――――――――――――――――――


短い文章だったため、ケイは一瞬で読み終え、今の状況を理解することが出来た。


つまり、昨日ユウが変装に使っていた帽子と眼鏡はミラノからの借り物だったのだ。


それを落としてしまったユウは『いつかはばれるのだから早いうちに…。』と思い、帰りにミラノの部屋の郵便受けに手紙を投函したのだ。


そして、手紙に書いた『埋め合わせ』が今日来たのだ。


ユウは、覚悟はしていたがそれでもミラノがおっかないことには変わりは無いらしい。


かすかに震える声でミラノの問いに答える。


「わ、悪かった。弁償するからさ…。」


ユウの引きつった笑顔がさらにケイの同情を誘い、ケイは急いで哀れな相棒を弁護しに回る。


「いや、あの、ユウだけが悪いんじゃないんだ。俺にも責任はあって・・・俺が驚かせちまったから…てか、俺のせいかもしれないし。だからさ―――――。」


話しながらミラノの視線を浴びたケイは、だんだん話す声が小さくなり、最後の方は何を言っているか他の3人には聞き取れなくなってしまった。


そんな子供のようにもじもじと話すケイに、ミラノは、今までの形相が嘘のような上機嫌な満面の笑みを浮かべて言う。


「あらぁ♪ ケイ君は優しいのねぇ。でも安心してぇ、弁償しろなんていわないからぁ〜。その代わり、手伝って欲しい任務があるの♪ ケイ君にも責任があるんだったら、2人ともに手伝って貰おうかしらぁ!」


「任務?お前らが手伝って欲しいなんて珍しいな。」


やっといつもの冷静な状態に戻ったユウが、安心して胸を撫で下ろしながらミラノに聞く。


「えぇ、いつもの任務なら2人に頼んだりしないんだけどぉ、今回は特別任務を受けようと思ってるの♪ 」


ケイとユウは大きく目を見開いてニコニコと話すミラノを見る。


特別任務と言うのは、いつもアイブが受けている普通の任務とは違う上級アイブがいるチームしか受けられない難易度S級の任務だ。


ケイとユウが驚いたのは、普段特別任務を好き好んで受けるようなアイブは滅多にいないし、ミラノとゼルは多数派に入っているはずだったからだ。


ケイもユウもミラノたちの意図が分からず、ただ困惑している。


「なんで特別任務なんか受けるのさ?」


ケイは顔をしかめながら首を傾げた。


「ぇー♪ だってこの任務すっごくコレ(・・)が良いのよぉ〜。」


そう言ってミラノすごく嬉しそうにクスクスと笑い、は親指の先と人差し指の先を引っ付ける。


2人は通常任務と特別任務の最大の違いを思い出し、ケイなんて思わず小さく声を上げてしまった。


「・・・金が欲しいのか。…生活難か?」


ユウが両手を椅子の後ろに回し、自分の体を楽な体勢に変えてから言った。


そう、お金。特別任務では通常任務の比ではないほどの高額な報酬が出るのだ。


アイブは洋服や食事、術の道具など生活必所品以外は人間界で購入する。


通常任務だけを受けていると、任務の回数にもよるがアイブの組織に食事代を収め、任務に必要な道具を天界で買い求めたら、だいたいそれだけで金は全部飛んで行ってしまうのだ。


この事をふまえてケイは再び目の前のミラノの格好を見る。


どう考えても自分でつけたとしか思えないレースが背中以外にたっぷりと付いたゴスロリの服に、(レースは自己負担だろう)天界の市場では絶対に売っていない飾りの沢山付いた靴や帽子、高そうな装飾品・・・・特に胸元に光る黒薔薇のネックレスなど、人間界に売っているのかすら疑ってしまうような豪華さで、ケイから見たら変(良く言うと個性的)なデザインである。


『なるほど。こりゃ生活難にもなるわな。』


そう思い、ケイは視線を机の上に戻し、頬杖をついて大きなため息を吐く。


「だってぇ、ユウ君が無くした帽子だって人間界で買ってきたばかりでこれから飾りをつけようと思ってたところだったのよぉ?女の子にお洒落するなって言うほうが無理なのよ♪」


「・・・・何処に女の子がいるんだ。」


ケイがぼそっと呟いた次の瞬間、ケイの体は椅子ごと宙に浮いていた。


そして、すごい音と痛みと共に派手に床に落ちる。


ミラノが全く笑顔を絶やさず、今朝ユウに殴られたのと同じ顎の下に目にも留まらぬ速さでアッパーを打ち込んだのである。


虫の息のケイにクロが急いで駆け寄り、半ベソを書きながらケイの体を揺すり、急いで反応がないケイの治療を始める。


何度間違えを繰り返しても、教訓を得られないのがケイと言う少年の悲しいところである。


そんな相棒を横目で見て、ユウは身を引き締めて話を続ける。


「で、どんな任務なんだ?もしかしてまた討伐任務とか言わないだろうな。」


「安心してぇ。今回の任務はなんと・・・・・!パーティーに出席よぉ♪」


自分の聞き間違いかと思い、お互いの顔を見合わせるが、全員同じ顔をしているので、聞き間違えでは無いことを確信する。


「パーティーっ!?」


3人がいっせいに聞き返した。


だが、ミラノは全く関係のない意味が分からない言葉を吐く。


「花の都パリで花のような私を取り合う男たち・・・・・あぁ・・・。」


ミラノは幸せそうに目を瞑むる。既にパーティーまで心が飛んでいってしまっているようだ。


「俺が説明したるわぁ。」


ミラノが開けっ放しにしていた扉から颯爽とゼルが入ってきた。


普通に見たら格好良く見えるのだが、この男もクロと一緒でミラノの怒りが静まるまで扉の向こうで非難してた口だ。


そう思うといくら格好つけていても全く格好良く思えない。


そんな視線を本人は感じてはいたものの、軽く咳払いしただけで、無視して話始めた。


「今回はパリの極秘で行われる世界サミットのパーティーに参加するのが任務や。かなり異質な任務やと思うとると思うけど、今回の任務は人間の間の情報を探るのが目的やからサミットの参加者が参加しているパーティーは情報を集めるのにはもってこいなんや。重要な任務と言うことで特別任務に指定されとるだけで簡単な任務や。」


「へぇ、人間のパーティーかぁ。でも、簡単なら俺たちは行かなくていいんじゃないの?」


ケイが言い終わるのと同時に、ユウもゼルに質問する。


「そうだ。それに人間のパーティーに参加して情報収集なんて任務聞いたことが無い。・・・・何か隠してないか?」


それを聞いたゼルは気さくに笑ってユウを茶化す。


「あぁ、昨日ケイの買いだめのお菓子全部持って帰ったことかいな?」


「ええええええっ!!」


ゼルの言葉を聞いたケイは飛び上がり、自分のベットの下にあるお菓子入れが空になっているのを確認してガックリと肩を落とした。


この様子ならもうミラノに殴られた場所も完治してしまったようだ。


「そんなことじゃなくて・・・・・。」


「!もしかしてこの前、共同でやった任務の報酬ちょろまかしたのばれたか・・・・?」


ゼルはユウから目を逸らして大袈裟に驚いて見せた。


この行動でユウのただでも小さい堪忍袋の緒が切れた。


椅子から立ち上がったかと思うと、つかつかとゼルの前まで歩き、背伸びをして強引に両手でグッとゼルの顔を自分の方に向ける。


「茶化すなこの馬鹿がっ!!この任務、なにかあるんだろ!?」


ゼルは大きく目を見開いてユウを見てから小さくため息をつき、両手でユウをなだめる。


「分かっとるわ、やっぱり俺はお前にだけは隠し事は出来んな。・・・・人間がやばいことに気づいたらしいんや。」


ゼルは、珍しく真面目な顔をして自分の顔から手を離し、直立しているユウの肩にそっと手を置く。


「やばいこと・・・・?」


大切なお菓子をゼルに取られ、目に薄っすらと涙を浮かべているケイがクロと一緒にユウの隣まで歩いてきて不機嫌に聞く。


「人間がアイブの存在を確信したらしいんや。」


「!?っ」


3人は動揺を隠せなかった。アイブは人間がこの世界に生まれた時から存在し、決して人間に知られることの無かった秘密の集団であり、これからも存在を秘密にしていくはずだったのだ。


言葉が出ない3人の代わりにゼルが口を開き、詳細を説明する。


「アイブが視える男がいるらしいんや。そいつをがアイブの会話を聞いて俺たちを異世界人かなにかと勘違いしとってなぁ。それに、サーモグラフィーにアイブが何度か写ってしまったりしてるのもあって、自分たちの生物としての地位が揺らぐのを恐れている人間たちは、急遽『地球防衛』の極秘サミットを開くって訳や。」


「今回の任務はぁ、人間たちが何処までアイブのことを知っているのかの探りを入れる調査名によぉ♪」


やっとこっちの世界(?)に戻ってきたミラノが付け足した。


「それでも、正体がばれることなんてまずないんだから、お前ら2人で行ってくればいいんじゃないのか?」


クロは首を傾げて言う。ケイとユウも同感である。


ゼルはその質問を聞いて苦笑いを浮かべた。


「あー・・・・実はなぁ、パーティーに参加するお偉いさんの親戚の名義か女性2人分しか手に入らんかったんや。」


「女性2人って・・・・・1人はミラノとして、もう1人はどうするのさ?」


「やからお前らに手伝ってもらいたいんや。」


ゼルは相変わらず苦笑いを浮かべながら両手を合わせる。


「も、もしかしてっ!!」


「そう、お前らどちらか女装してミラノと一緒にパーティー会場に潜入して来てくれやっ!!」


『冗談じゃないっ!!』そう思ったケイは無意識に隣を見たが、そこにはもうユウの姿は無く、ユウはミラノに床に押さえつけられて身動きが取れなくなっている。


察しの良いユウはもうとっくに話の落ちに気づいており、ケイが話している途中に1人逃走を計ろうとしてあっけなくミラノに捕まったのだ。


光速と言われるほどの速さを誇るユウを捕獲できるのはこの世の中にもこの恐ろしく勘のいいミラノ以外にいないだろう。


「ユウ!!お前俺をおいて1人で逃げるつもりだったのかよっ、卑怯者ぉー。」


「喧しい!こうなったら逃げた者勝ちなんだよ、とにかく俺は絶対にやらないからなっっ。」


ユウは床に押さえつけられたまま、じたばたしながら叫ぶ。


「俺だってやだよっ、ゼルがすればいいじゃないか!」


「あかん、あかん。俺みたいな長身の男が女装なんて出来るわけないやろ。」


この醜い擦り(なすり)付け合いは10分ほど続き、最後にはクロにまで擦り付けようとしたほど男衆は女装を嫌がった。


その間、ミラノはずっと楽しそうにニコニコしているだけだった。


だが、結局口の達者な2人には勝てず、この役はケイのものとなった。


決め手になったのはユウの


「変装道具の紛失は『俺にも責任はあって・・・』って言ってたじゃないかっ。全部お前の責任だろこの馬鹿野郎っ、責任取れ!!」


と言う言葉だった。


昨日の事では後ろめたいことが多いケイは言い返す事が出来ず、そのまま擦り付けられたのだ。


「じゃぁ、ゼルとユウ君とクロちゃんは会場の外で待機ねぇ♪パーティーは今日の夜だから、それぞれ準備を整えておいてねぇ。ケイ君は出発の前に私の部屋で着替えること!」


ミラノがてきぱきと指示を出している間にケイは重大なこと思い出した。


「ちょっと待て!俺存在証明イグジステンスプルーフの術まだ使えないんだけどっ!?」


それを聞いたゼルがにっこりと不気味な笑みを浮かべた。


「そうかいなぁ。丁度いいわ、ケイ、安心せい。俺の新しく発明した訓練マシーン・『術10倍速度習得クン』の第一号の体験者にしてやるわぁ。」


ゼルは重度のメカオタクなのだ。


『それって実験体って言うんじゃ・・・・・』とケイは思ったが、ゼルにいきなりハンカチに含ませた変な薬品をかがされ、力が入らなったところをゼルに担ぎ上げられた。


『俺の知り合いは何で皆、人を無理やり拉致るんだっ!!』とケイは叫びたかったが、意識が遠のいてゆく。


哀れなケイが最後に見たのは手を振ってゼルとミラノ、そして自分を手を振って見送るユウのクロの裏切り者2人組だった。


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