第14話 虎穴に入らずんば虎児を得ず
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第13話 虎穴に入らずんば虎児を得ず
ケイが翼を広げ、なんとか2人で陸に戻ったとき、ユウの息使いはかなり荒くなっていた。
無理も無い。自分よりも重いケイの体重を一人で支えていたのだから。
ケイは心配し、大きく上下するユウの背中を見た。純白の翼がユウの背中に吸い込まれる様に消えていく。
アイブの洋服は特別製なので、翼が貫通するようにできているのだが、何回見ても洋服が破れていないのにケイは違和感を感じずにはいられない。
まあ、ユウだけではなく、ケイの服も同じ仕掛けなのだが。
ケイはまだ息使いの荒いユウに肩を貸し、2人で隣り合わせにベンチに座り込み、背もたれにもたれかかる。
幸い、記憶の書はユウがケイを助けに入るとき、ケイの借りた本のうえにユウが投げ出していたため無事だった。
俯いて肩を大きく上下させ、大きな呼吸をしているユウの顔をケイは心配そうに覗き込む。
だがユウは弱っている自分を見られたくないらしい。自分の顔を見ようとするケイを右手で頑なに拒む。
なんだか変だ。ケイはユウの左側に座っているのだから左手を使えばいいことなのになぜわざわざ右手を使うのだろうか。
不思議に思ったケイはユウの左手に視線を移す。
見た目では殆ど分からないが、ケイにはピンと来た。
ケイがユウの左手をゆっくり持ち上げるとユウが表情を歪ませる。
ケイの体重を支えた際、筋を痛めたらしい。
「ちょっと、じっとしてろよ。」
そう言うとケイは持っていた飲み水で自分のハンカチをぬらし、それをユウの左手にそっと置いてやった。
「・・・・・悪いな。」
やっと呼吸が落ち着いていたユウが弱々しくケイにに微笑んだ。
「全くだ。よくも俺を騙したな。」
ユウはお礼の意味を込めて言ったのだが、ケイはわざと自分が意味を間違えているように振舞う。
ユウがわざわざバツが悪くなるような必要はどこにもないのだ。
その気遣いがユウにも分かったので、ケイの好意に甘えて、わざとケイにあわせて話を続ける。
「たまにはできの悪い相棒の実力を試してやろうかと思ったんだよ。」
言葉の後、ユウにしては珍しく声を立てて笑った。
「できが悪くて悪かったなっ!それよりお前、なんで変装なんかしてたんだよ。全く分からなかったぜ。」
「食堂は毎日行くから仕方ないとしても、図書館まで行ってアイブの見世物になんてなりたくないからな。」
ユウの容姿はいい意味でも悪い意味でも、とにかく目立ち、人ごみに出るといつも注目の的になるのだ。
ユウはこれが嫌で堪らなかったのだろう。
ケイは隣に座るユウをを相手にばれないようにちらっと横目で盗み見する。
整った顔立ちをしたこの少年がいったい何をしたというのだ・・・・・・最初は少し驚いたが、銀色の髪も紅い瞳も、純白の羽もどこが悪いのか全く分からない。
この少年を気味悪がるのは人の中の醜い嫉妬心からではないのだろうかとケイは思う。
たしかにユウは異端な存在ではあるが、どちらかと言うと、人々はこの少年の才能や美貌に嫉妬心を抱いているのではないだろうか。
そんな嫉妬心を抱く対象なんて数え切れないだろうが、ユウの容姿が変わっていることをいいことに、彼だけを目の敵にしているだけなのでは・・・・・・・?
こんな恥ずかしいことを本人にそのまま話すわけにはいかないが、なにかせめて気の聞いたことを言おうとケイは口を開こうとしたが、先にユウがいつもの憎まれ口を叩いた。
黙っていれば文句無しの美少年なのだが・・・・・・そう、黙っていれば。
「けど、馬鹿なお前でもたまには調べごとなんてマシなこと思いつくこともあるんだな。」
ケイの考えなど露知らず、いつもどおり憎まれ口を叩き、不敵に笑ってみせる。
「たまにとはなんだ!たまにとは。お前が知らないだけで、俺はいつも自分の溢れんばかりの才能を頭の中だけで押しとどめるのに必死なんだぞっ!。」
ケイの芝居がかった物言いにユウも、言った本人も大いに笑った。
「で、お前は何を借りたんだ?」
ユウはケイの隣に積んである本に目を落とす。
ケイは記憶の書の下から自分の借りた本を抜き取り、ユウに投げて寄越したが、投げた後にユウが左手を使えないことを思い出し、ハッとしてケイはユウに急いで視線を移す。
だが、そんな心配は無用だった。
ユウは『なめるなよ。』と言う風にユウは口を綻ばせ、投げられた本を負傷していない右手で受け取り、器用に右手だけでページを開いてみせる。
「・・・・!『存在証明』か。」
ユウは何ページかに目を通した後、顔を上げケイに向けて驚きの表情を見せた。
存在証明と言うのは人間がアイブの姿を見れるようになる上級クラスの術のことだ。
今まで日本行きの任務が無く、大切な人に会うことの無かったケイには全く無縁だった術である。
彼が借りて来た本はその術の説明やルーンが書いている術書だったのだ。
「いやぁ、やっぱり呪文が全部そろったときには自分の手で明日奈に渡したいからな。」
ケイは恥ずかしそうにはにかみながら頭をかく。
「そのことなんだが・・・・・そう簡単にはいかないみたいだ。」
ユウはケイの顔を見ないで済むように、俯いて小声で呟いた。
ケイは驚いたが、一刻も早く話続きを聞きたかったため、黙って体をユウの方に向け次の言葉を待つ。
そんな落ち着いたケイを見て、ユウは緊迫した声でゆっくりと自分の考えを語りだした。
「おかしいと思わないか。沢山の犠牲が出たと言うのになぜ上層部はクロの正体を知らなかったんだ?普通なら龍の正体を調べて、上位アイブの特別任務に指定するはずだ。
なのに今回はそうしなかった・・・・・・多分俺が思うに、上層部はクロの正体を知っていたんだと思う。」
「っ!!」
大きく目を見開いたケイを見てはいたが、ユウはあえてそのまま話し続ける。
「知っていたのにあえて上層部はそのまま一般任務に部類していた・・・・・・まるでクロに会ったヤツに人間に戻れと言っているかのように。理由はまだ分からないが、そんなことをさせられる権力を持っているアイブは1人だけだ。
アイブのトップ、ジョーカー。こいつが絡んでるのならセットでもれなくジョーカーの3人の配下、スリーカードも今回の件に絡んでいるのはまず間違えない。」
「ジョーカーは知ってるけど、スリーカードって・・・・・唯一上の上に部類されているアイブ3人だよなっ!ユウより強いやつらが絡んでるのかよ!?」
ケイは思わずベンチから立ち上がり、座ったままのユウの正面に回りこみ、ユウの表情を伺う。
ユウは軽く頷く。動揺している様子などは微塵も無く、いつものポーカーフェイスのままケイと目を合わせ、次の言葉を待っている。
「・・・・えーっと、こういうの何って言うんだっけ?こけ・・・」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず。か?」
「そう!それだよ。罠だと分かってるけど、やっぱり俺は目の前の可能性を諦めたくない。」
ケイは堅く拳を握り締め、いつにも無く真面目な表情で言う。
そんなケイを見てユウのポーカーフェイスが解けた。
ユウは呆れたように目を瞑むり、肩をすくめたが口元が微笑している。
「やっぱりお前って変なヤツだな。俺も同意見、思いついた言葉まで同じだよ。虎はお前が思っている以上に強大かつ凶暴だ。覚悟はできてるか?」
「俺は勿論できてる。でも・・・・・・ユウ、こんなことにお前まで無理やり巻き込むつもりは無い。お前が望むならコンビを解消・・・っ!!」
『コンビを解消―――』のところでユウがいきなりベンチから立ち上がり、右手の本でケイの後頭部を思いっきりどやしつけた。
これが本当に容赦ない一撃で、ケイは頭がくらくらし、しりもちをついてしまった。
ケイの頭がはっきりするのを待たず、ユウはケイを見下ろす形で怒鳴り始める。
「この馬鹿っ!お前みたいなひよっ子がいったい一人で何ができるんだ!?『巻き込むつもりは無い。』だって?遅いっ。俺はもう十分お前の馬鹿ぶりに巻き込まれてるんだよ!それなのに今頃コンビ解消なんて言いやがって!」
ここでユウは大きく呼吸をする。勢いで怒鳴って言ったため、台詞の間ずっと息を止めていたのだ。
そして最後に付け足すように言う。
「今更抜ける気なんて更々無いね。」
ユウはいつもと同じ不敵な笑みを浮かべる。それにつられたケイも思わずユウに微笑む。
「よし!じゃあそいつらの思惑にはまってやろうじゃないかっ。でも最後に勝つのは俺たちだっ!!」
ケイは拳を空に突き上げた。
再びベンチに腰をかけたケイに、隣に座ったユウが話しかけた。
「なあ、・・・・答えたくなければ答えなくてもいいから、1つだけ聞いていいか?」
「?ああ。何でも答えるぜ?」
ユウとの絆を再認識したばかりのケイは全くためらい無く言う。
「今日の昼間、お前は自分のことを『黒森 桂』って言ってたけど、お前の妹の名前は確か・・・・。」
「・・・・・『高倉 明日奈』だ。俺も『高倉 桂』になる予定だった。」
そこまで言うとケイは漆黒の空に光る星を見つめ始める。
「明日奈は俺の新しい親父の連れ子なんだ。だから俺とは血が繋がってない。」
「じゃあ、お前は血の繋がっていない妹のために・・・・。」
「そう、あいつのためにアイブになった。俺と明日奈は元々知り合いで、お袋とあいつの親父が再婚するって初めて聞いたときは驚いたなぁ。それに、超ショックだった。」
ユウは腕を組み、しばらく考え込んだが、ストレートに聞いてみた。
「お前、もしかしてその子のこと好きだったのか?」
「あたり、やっぱりお前に隠し事はできないな。今は全然好きじゃないって言ったら嘘になるけど、もう昔の事さ。」
ケイは気さくに笑ってみせる。
そんな笑顔の中に寂しさを感じたユウは何か言おうとしたが、どれも言葉にならない。
「さあ、もう遅いし本を読むのは明日にするか!帰ろうぜ。」
何も無かったかのようにケイが言う。無論、ユウに気を回したのだ。
2人は徒歩で帰る間、人間に戻るためにどうすれば敵の目を欺けるか話し続け、明日奈の話題には一切触れなかった。
部屋のベットに倒れこんだケイは柄にも無く、『カミサマ』などに祈った。
『俺が人間に戻れますように。明日奈にまた会えますように。そして・・・・・俺にユウと言う最高の相棒を与えてくれてとても感謝しています。』
ケイがそんなことを思っていることなど露知らず、ユウは隣のベットで健やかな寝息を立てている。
いろいろなことがありすぎて、思い出しきれないほどの容量があった今日と言う日の幕がケイの目蓋と共にやっと降りた。