第11話 図書館の猫兄弟
第10話 図書館の猫兄弟
食べ盛りの16歳2人と6000歳の子供(?)は食堂の料理を全て食べつくす勢いだ。
特にケイの勢いには2人と料理を作っている使い魔たちも驚かされる。
というかユウとクロが食べた量などケイに比べたら雀の涙で、食べつくそうとしているのはケイ一人だ。
ケイが大喰らいだと言うことは食堂にいる全員が知っていることではあったが、今日はまた一段とすごい。
その証拠に、ケイの目の前には既に巨大な皿が積み重なり、皿の山に妨害され、ケイと向かい合って座っているユウとクロはケイの顔が殆ど見えなくなっている。
こいつの体はいったいどういう構造をしてるんだ…。
前にも同じことを思っていたクロの疑問は解決などせず、更に深まった。
それに対してユウは呆れ顔で皿まで食べかねない勢いの相棒を見る。(正しくは相棒が平らげた皿の山)
こいつは頭を使うと食欲が更に増すんだよなあ…。なんて思っているうちにまたケイのおかわりの声がもう殆ど誰もいない広い食堂中に響き渡る。
ユウは腕を組んで、大きなため息をつく。もう呆れて声も出ない。
ユウもクロももうとっくに食べ終わっているのにケイは全く気づかず、ただひたすら1人で食べ続けるのだ。
初めてこいつの食べっぷりを見たとき、自分の食欲が嘘のように引いていったことを思い出したユウは、初めてこの食べっぷり(しかも食欲増加期)を見たクロはさぞ気分がが悪いだろう…そう思い、クロのほうに顔を向けたが、隣にあるはずのクロの顔がない。
代わりにクロはユウが座っている長椅子をベット代わりにして可愛い寝息を立てて寝ている。
瞼に昼間ユウが切りつけた跡が残っているが、目蓋が赤く腫れているため目立つだけで、治癒が速い龍族なだけあってもう殆ど治っている。
「ごちそうさま!あー食った、食ったっ!!」
空気を読まない鈍感な大きな相棒の声がまた食堂に響き渡る。
幸い、クロは疲れていたらしく、眠ったままだ。
ユウは思わず拳を握り締めたが、殴るとこいつは更にうるさくなるだろうと思い、ぎりぎりで思い留まった。
「ケイ、俺は少し用事があるからクロを連れて先に部屋に帰っててくれ。」
驚くべきバランス力で皿の山をいっきに返しに行くケイにユウは声をかけた。
声が怒りで軽く震えている。
「え?いいけど…用事って…。」
「いいならさっさと片付けて部屋に帰れ!」
夢の中にいるクロのことを考えて、ユウは怒鳴りはしなかったものの、静かな言葉からはひしひしと恐ろしいほどの威圧感が滲み出ている。
ケイは今日の恐るべし右ストレートの威力を鮮明に思い出した。
思い出しただけで吐きそうになる…。
もうあんな目にあうのはごめんだと思ったケイは大人しくユウに従った。(従わなきゃどんな目にあうか)
眠っているクロを起こさないように、出来る限り優しくおぶる。
本当にあんな巨大だった生物なのか…そう思うほどクロの体重は軽く、ケイの耳元で安らかな寝息を立てている。
「じゃあ、頼むな。」
そう言い残し、ユウは先に食堂を足早に立ち去った。
アイブの住居はアパートのような建物で、この島にだけでも住居用の建物が数え切れないほどある。
そのうちの1つである特別新しくも古くも無い建物の最上階である5階にケイたちの個室はあった。
ちなみに、ゼルとミラノの部屋は3つほど隣の建物にある。
2人の部屋に着くと、ケイは自分のベットにクロを寝かし、毛布をかけてからしばらくクロの寝顔を見ていた。
とても幸せそうに眠るクロの細く柔らかい茶色の髪を繊細なガラスを扱うかのように優しく撫でながらケイは呟く。
「お前が頼みの綱なんだ…今日はゆっくり休んで、明日から俺の力になってくれ…。」
返事をするように大きな寝返りを打ったクロを見てケイは思わず顔を綻ばせる。
それから、ケイはクロの眠る灯りをけした暗い部屋を後にした。
そして向かったのはさっきいた食堂の横の建物…ケイとは全く無縁のもので、これからもそうだと思い込んでいた巨大な図書館である。
図書館は任務以外では、地上に行けないアイブたちの唯一の娯楽の場として、多くのアイブに親しまれているため24時間開いている。
その広さと言ったら・・・日本の国会図書館なんて比べ物にならないほどの大きさだ。(行ったこと無いけど)
アイブは世界中から集まってくる。
従って色々な国の本が沢山そろっているのだ。
ケイは図書の受付にいる猫のような使い魔におもむろに話しかける。
「あのさぁ、『記憶の書』って本どこにあるか分かる?」
使い魔は少し上目遣いになり、腕を組みながら考え込む。
「ああ!『記憶の書』ですね?運が悪いですねぇ。滅多に借りられることのない本なんですがこの図書館にある1冊はついさっき、帽子を深くかぶった制服を着た人が借りていきましたよぉ。」
使い魔は頬を自分の爪で軽く掻きながら『残念ですねぇ。』と言う風な苦笑いを浮かべている。
「そっか。じゃあ、この本はあるか?」
ケイはポケットに入れていたぐしゃぐしゃになったメモを使い魔に見せた。
「えぇ、ございますよ。少し待っていてください。これから交代なので私の兄に頼んでおきますね。」
そういい残して使い魔は本棚の間に消えていった。
この本は、食事に向かう途中ユウが教えてくれたものだ。
『記憶の書がなかったのは正直痛いが、俺が人間に戻るためにはこの本も必要だ。』
そんなことを思っているうちにさっきの使い魔にそっくりの使い魔が来た。勿論ケイがリクエストした本を抱えて。
その本は、実物の猫ほどの大きさの使い魔の姿が隠れてしまうぐらいの大きさがあったが、対比物が悪かっただけで、特に大きいと言うわけではない。
ただ厚さは別だ!他の本と比べてもそんなに厚いわけではないのだが、それでも小説を1ページも読みきらないうちに寝てしまうと言う特技(?)を持つケイには十分すぎる量だ…。
まぁケイの本嫌いはさておき、大きさも普通、厚さも一般人からみたら普通と言うホンッッットに見かけは平凡などこにでもある本である。
ただ、内容はケイにとって他の本とは比べられないほどの価値がある。
「これを借りるのですね?」
声まで弟とそっくりだ。
「あぁ!ありがとよ。」
使い魔は器用に肉球の間に羽ペンを挟み、利用記録の大きな本にケイの登録番号を書き込む。
「あれ?俺登録番号言ったっけ?」
ケイは机の上から本をとりながら聞く。
使い魔は手を休めずに、軽く笑いながらそれに答えた。
「いえいえ、紅眼のユウのパートナーとしてあなたは有名ですからね。それに私たちは登録番号は丸暗記しているんです。」
なんだか計は複雑な気持ちになった。
ケイは元々目立つのが好きな方で、人間だった頃はよく目立ちたくて有ること無いことぺらぺらと話したものだ。
だが、相棒のユウのおかげで有名になると言うのは…。
そっか。っと言ってケイは苦笑いを浮かべた。
「それだけじゃありませんよ。あなた方2人は使い魔にも分け隔てなく接してくれると言うので使い魔の間では頗る評判が良いのですよ!…なぜアイブたちは見かけなどで貴方の相方様を判断してしまうのでしょう。」
使い魔は悲しい表情を浮かべ、目を伏せた。
『アイブなんかよりも使い魔たちのほうが余程話が分かる!』とケイはいつも思う。
図書館や食堂で働いている使い魔たちは主人に捨てられたのだ。
逃がすのはもったいないので…とアイブたちの雑用に使われている。
アイブの社会は使い魔が回していると言っても過言ではない。
これが使い魔が奴隷といわれる理由だ。
そんな境遇の分、苦労しているので人の事も親身に考えられるのだろう。
「そうだよな!ありがとう。」
ケイは再度お礼を言ってこの場を辞そうとして、使い魔に呼び止められた。
「あの!…本当は個人情報は漏らしてはいけないのですが、ユウさんも今日ここにいらしましたよ。」
「ユウが?」
今日早く食堂を出たのはここに来るためだったのだ。
ケイは猫の使い魔に対して軽くお辞儀をしてから図書館を後にした。
このとき、ケイの頭がもう少し良かったらなぜ使い魔がユウが来たことを教えたかすぐに理由が分かっただろうに…。