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アイブ  作者: 伊恩
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第10話 驚きの方法

第10話 驚きの方法


「ぐす、ぐすん。」


黒龍ことクロ(ミラノ命名)はまだ涙ぐんでいるがあらかた落ち着いてきたようにユウには見える。


正直、もう泣き止まないかと心配したぐらいだ。


何とクロはもう3時間も泣きっぱなしだったのだ。


クロに言わせれば5900年の悲しみを、たった3時間で終わらせれたのだから褒めてもらいたいぐらいなのだが。


だが、流石のユウもそこまでは考えておらず、もう1人の変なヤツに目をやった。


それは無論、ベットに座り込み、未だ考えにふけている相棒、ケイのことを指している。


6歳児が泣いているのは見ていて微笑ましいくらいだが、16歳の大の男がぶつぶつ言っているのは気味が悪い。


なんと、この少年も信じられないことに、クロがさめざめ泣き続けた3時間、2人に気づかず、時々独り言を口にするだけでずっとそのままなのだ。


もう呆れたというか…なんというか、これはもう賞賛に値するレベルなのではないだろうかと、ユウは思いながら深いため息をつく。


ユウが殴らないと、この少年は一生を考えに更けて過ごすことになるだろう…。


『さて、そろそろ起こすか。』


とユウは思い、部屋を見渡して、相棒の目覚めに必要な手ごろな凶器(?)を探す。


凶器を探すため、少し背伸びをしたら、ユウの腹部が軽く痛んだ。


ユウは思わず腹部を押さえてしゃがみ込む。


この場所はミラノに右ストレートを入れられたみぞおちである。


ミラノと言う女性はかわい子ぶっているくせに、恐ろしい馬鹿力の持ち主で、彼女にかかれば象でも虎でも瞬殺だろうとユウは思う。


『くそ!ミラノめ…覚えとけよ!』


ユウは表情をいがめながら復讐を堅く決意した。


…と言ってもミラノに復讐なんかするのなら命1つ捨てる覚悟がいるのだが。


それはさておき、ミラノの事を思い出したら、ユウはだんだん腹が立ってきた。


『手ごろな凶器も見当たらないことだし…。』


ユウは探索をやめ、ケイにズカズカ歩み寄る。


ケイの目の前まで来ると、左手でケイの肩を掴み、状態を起こさせる。


そして右手でミラノに倣ってストレートをケイのみぞおちに一直線。


流石の鈍感なケイも現実に戻らないわけにはいかなかった。


いつもなら「痛っ!」とか「なにするんだよっ!」とかひとまず反応を示すケイだが、今回だけは言葉を発する余裕もなく、ベットに倒れ、腹部を押さえて悶絶している。


ユウはクロが口を縦に開けてあっけらかんとしているのを見て、クロがすっかり泣き止んでしまうほどの満面の笑みを浮かべて一言。


「あぁ!スッキリした!」


クロはユウに対して『ちょっといいやつじゃん』なんて思っていた自分がなんだかとても馬鹿らしくなった。


前言撤回。見かけに惑わされるなっ、こいつは悪魔の中の悪魔だっ!


これにてユウの腹癒せはめでたく終了した。


だが、何もしていないのにいつもより重い攻撃を受けたケイにしてみればいい迷惑だ。


文句の1つでも言いたいが、それどころではない。


『さっきの1発は効いた…小柄なユウの体のどこにこんな馬鹿力があるのだろうか…ぅう。』


「さて、クロ。人間に戻る方法について話してくれ。」


ユウはケイの隣に座わりながら『夕飯まだか?』みたいな軽さで言う。


だが、ケイにとってはそんな軽い話題ではない。


証拠に、それを聞いた瞬間、ケイは痛みを忘れて凄い勢いでユウの横に座りなおす。


『そうだ。人間に戻れる方法があるんだ!』


「早く話してくれよ!」


さっきまで悶えていたのが嘘のような溌剌とした表情だ。


ケイは子供のように目を輝かせてクロが話し出すのを待っている。


クロはもう何回ケイに驚かされただろうか。


『こいつの体はどんな構造をしてるんだか…。』


クロは苦笑いをしてからケイの望むとおり話を始めた。


「簡単なことだ。大切な人がアイブのことを思い出せばいいんだ。

お前の場合は妹がお前の事を思い出す。たったそれだけの事なんだよ。」


並んで座っている2人の表情はクロから見たらとても愉快だった。


2人とも『は!?』と言う感じの表情を浮かべながら首を傾げる。


それから同時に顔を見合わせてまた首を傾げる。


そしてまた『は!?』と言う感じの顔をこちらに向けてくる。


この動作が3回繰り返され、なんだか可哀想になってきたので、クロは2人に助け舟を出した。


まあ、結局助け舟の内容の意味をしっかりと理解できたのは博学なユウだけだったが。


「記憶の書を知ってるだろう?」


クロのその言葉を聞いてユウは非常に驚いたが、ケイは全く意味が分かっていない。


可哀想なことに、1人だけ更に疑問の表情を深めた。


アイブの基本知識さえあれば十分理解できることのはずなのだが。


『ここまで無知だと哀れだ…。』


なんてクロは思いながら哀れなケイを見守る。


そんなことを思われると、ケイは更に哀れになるのではないのだろうか…。


ユウはクロのヒントであらかたの事は理解できたようだ。


いつもの表情で眉間にしわを刻んでいるケイの横顔を見つめている。


さて、2人の目線の先にいるケイは実は、『思い出してもらう方法なんて俺は知らないっ!!』ととっくの昔にさじを投げていた。


今、眉間にしわを刻んでいるのはユウの見事な右ストレートのせいで中断された考え事を再開していたからだ。


現にケイは2人の視線になど全く気づいていない。





ユウに初めてかけた言葉…。


たしかに自分から話しかけたのだが、心を閉ざしていたユウに対してそんな特別な言葉をかけた覚えなど全くないのだ。


それでもどんな言葉だったのか気になって仕方ない。


自分が初対面の人にかける言葉なんて『こんにちは』とか、『初めまして』とかありきたりなものしか思いつかないのだが、そんな言葉で口を開いてくれるわけがない。


ユウに聞いたら1番早いのだが、そんなことをしたら本当にゼルが言うとおり自分が『ニブチン』になってしまうような気がする。





そんなことをケイが考えている頃、2人はなんとなくこいつが考え事の世界に行ってしまっているのが分かってきた。


またぶつぶつと聞き取れないような独り言をケイは発し始めていたのだ。


内容は妹に自分のことを思い出してもらう方法だと思い込んでいるが。


今度はユウに殴られる前にクロが小さな手でケイの両耳を思いっきり左右に引っ張った。


「―――――っ!!」


クロのおかげで少しの痛みでこっちの世界に戻ってくることが出来た。(でもやっぱ痛いっ)


ケイが正気に戻ってすぐ、痛みから立ち直るのは待たず、ユウが話し出した。


「お前の頭で考えても分からなかっただろう。『記憶の書』って言うのは古すぎて作者も分からないアイブの本だよ。有名な本なんだが、読書と無縁のお前が知る分けないか。この本はタイトルの通り記憶のあり方について書いた本なんだが、少し非現実的な内容なんだよ。俺もただの伝説だと思ってたから詳しくは読んでないんだけどな。」


「へぇ…そんな本があったのかぁ。非現実的ってどんな風に?」


この問いに答えたのはクロだ。


「省略して言うと、世界のどこかにある4つ呪文を1枚のアイブの羽にこめ、その羽を大切な人に渡す。って感じだ。」


「おいおい、それってホントに伝説みたいな話だなぁ。」


ケイはこんな身近にに方法が有った事への驚きとその伝説がかった内容への疑いが混ざって、不思議な気分になっている。


そんな苦笑いのケイに同じく苦笑いのユウが諭す様に言う。


「俺も最初はそう思ったけど俺たちはもう既に伝説の黒龍に会い、その伝説の存在が言ってるんだ。もう疑っても仕方ないだろ。それに、本当なんだろ?クロ。」


ユウが聞くと、クロはユウの紅い瞳から目を離さず、深く頷いた。


「ほら、本人もこう言ってるんだ。間違えないだろ。」


ユウはケイに微笑みかける。


つくづく自分の単純さには呆れてしまう。


ユウに微笑みかけられただけでケイは『ダメで元々!やってやろうじゃないか!』と言う気分になったのだ。


ケイは『お前には負けるよ。』と言う感じに優に微笑み返した。


「よし。決まりだな。」


「あああああーーーーーー!!」


この奇声はケイだ。


『せっかく一段落したのにうるさいやつだ』と言う風に2人はケイを見る。


「いけない、もうこんな時間だ。食堂が閉まっちまうっ!もう貰いおきの食べ物はないんだ、急ごう!俺もう腹ペコペコだよぉ。」


ケイはオーバーアクションとも言える様に目を瞑って頭を抱える。


2人は思わず笑ってしまった。


「この状況で腹の心配が出来るなんてよっぽど神経が太いんだな。面白いヤツ!!」


ユウの気持ちも代弁してクロが言う。


「うるさい!腹が減ってはなんとやらって言うじゃないか!!そうと決まれば飯だ、飯!!早く行こうぜ!」


「仕方ないな。行こう!」


ユウは笑って賛成した。


なんだかケイをを見ていたら自分まで腹が減ってきたのだ。



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