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アイブ  作者: 伊恩
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第1話 発端

さて、これから一組の少年たちの物語が始まります。

これは自分が6年前に原案を思いついた初めて自分で考えた話です。

こんな未熟な自分の作品に目を通していただけるなんて感激です。

そして、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

アイブとは、魔物に大切な人を殺され、自分の命と地上の自分に関する記憶を代価に大切な人の蘇生を行った者たちである。



従ってアイブとなった人間のことは地上に生きる全ての生物の記憶や、記録から全て完璧に抹消される。



それは蘇生した大切な人の記憶も例外ではない。



それでは命を懸ける意味がないと思うかもしれない。



だが、それを望む人々もいる。



皆に忘れられようとも、自分が存在しなかったことになろうとも。



大切な人が生き返れるのならば…。



そんな自己犠牲を厭わなかった人々は黒い翼を持ち、こう呼ばれる。



『アイブ』と―――




第1話 発端


天界とは空中に浮いた幾つかの島のことを言う。


この2人はアイブの支所のある、天界の中でも一際小さな島にいた。


黒い長髪を風になびかせる16歳の少年、ケイは散歩道として整備された島の岬の美しい手すりにもたれかかり、足元に広がる景色を見つめている。


足元に広がるのはマリンブルーの美しい海と白い砂浜…などではなく、真っ白な雲の塊ばかりである。


この岬はかなりの長さかあり、ここに来るには大変な時間がかかるため、ケイとその相棒との2人だけの場所として、独占することができる。


今は怖い相棒もおらず、本当にケイだけが、それなりの広さがある岬のスペースと天国のようなパノラマを独占している。


その天国のような景色が目に染みたのか、心に染みたのか。


ケイは泣きこそはしないが、目を潤ませる。


この少年の心にはぽっかりと穴が開いている。


それが顔にも表れたのだろう。


この顔だけを見知らぬ人が見たら『両親でも亡くしたんだろうか』なんて思ってしまう様な悲しい顔をしている。


ケイは、妹である明日奈という少女を生き返らせるために自分の存在を消したアイブである。


そんな決意を持つには若すぎると思うかもしれないが、アイブになる資格は年齢が10代の人間にしかないため、14歳の時にアイブになったケイは特別若かった訳ではないのだ。


アイブになって2年、ケイは一度も妹に会ってはいない。


会いたいのは山々なのだが、ケイの祖国である日本と言う国は魔物などがあまり出没せず、平和なため、任務の地としては滅多に名前が挙がらないのだ。


仕事以外で地上に降りられないと言うのは不便この上ない。


それに、アイブや魔物は特殊な術を使わない限り、人間には姿を見られないのだ。


元々サボリ癖があるケイはその術を習得していないので、今のケイでは直接会って話すことはできず、ただ相手の姿を見ることしかできない。


どうせ日本行きの任務など来ないのだから…と思って術の修行もせず、ただ故郷や妹に思いをはせているのがケイの今の状況だ。


後ろから誰かが歩いてきたのにも気づかないほどに集中しているケイは、小さく呟く。


「明日奈…元気かなぁ……」


「ケイ!!」


このケイに後ろから話しける少年こそケイの言う怖い相棒、ユウだ。


ユウは誰にでも聞こえるような大きく、ハッキリとした口調で言う。


だがそんなことはお構いなし、ケイはユウに見向きもせず、独り言を続ける。


「みんな本当に俺のこと忘れちまったのか…」


ケイはアイブになる前の日々の思い出にどっぷり浸かってしまっている。


その証拠に、目が死んだ魚のようになっており、焦点が定まっていない。


そんなケイにユウはもう一度声をかける。


「ケイ!!」


ユウはさっきよりも大きな声…叫びに近いもので相棒の名を呼んだが、当の本人は全く聞いていないようだ。


「みんなに…明日奈に会いたいなぁ…」


ユウはお世辞にも気の長い方ではない。案の定もう頭に血が上ってきている。


「このうっすらトンカチ!人の話をききやがれっっ!!」


ユウはついに怒りだして持っていたファイルで力いっぱいケイを殴りつけた。


この少年、一見小柄で少女の様な容姿の持ち主なのだが、すごい馬鹿力の持ち主でもある。


「痛っっ!!」


こうして、ユウの声はやっとケイに届いた。


無論、痛みと言う悲しい代償つきだが。


「…え、あ。ユウ!!ごめん!!考え事してたもんだから…」


ケイはユウの緋色の瞳をみつめながら必死に謝る。


ユウの瞳は怒りで白目が赤くなっているわけではない。


虹彩が真紅の赤色なのである。


ユウはアイブになってから記憶喪失になったと言う悲しい経歴の持ち主だ。


だから記憶喪失になる以前の記憶は全く無く、自分の出身国も大切な人も分からないのだ。


ケイは柄にも無く、しばらくユウの美しい瞳に見入ってしまった。


これがユウではなく、普通の少年だったならばケイは絶対に見入ったりはしないが、本当にユウは容姿が良く、誰が見とれてもおかしくないほどなのだ。


だが、それを中断したのは瞳の持ち主だった。


「…?ケイ、仕事だ!!さっさとしろ、置いてくぞ!!」


ケイにじっと見られてたので、自分の顔に何か付いていると思ったらしく、ユウは洋服の袖で自分の顔を拭いながら言う。


こんな行動を取られると、なんだか自分が悪いことをしてしまったかのように思い、ケイは少し申し訳ない気持ちになった。


「ああ・・・わかった、わかった。今日はどこの国だ?」


申し訳ないとは思っていても、ケイはさっきユウにファイルで殴られたをケイは忘れてはいない。


従って少し不機嫌である。


アイブはワープの術が使えるので、世界中の任務がこの2人にも回ってくるのだ。


前の任務はアラスカで、2人とも寒さで死にかけた。


もうあんな目に合うのは真っ平ごめんなので、ケイは少なくともと凍死など絶対しない暖かい地域を心のなかで望んでいた。


だが、返ってきた相棒の言葉に、気候のことなんて一気に頭から飛んで言ってしまった。


「おまえの祖国、日本だ。」


「日本・・・?」


ケイは半信半疑に聞き返した。


それは紛れも無く一日も忘れたことなど無かった祖国の名だが、なんだか聞いたことのない魔法の言葉のようにケイには聞こえた。


ユウはそれを聞いて軽くうなずいてから微笑する。


「そう、日本だよ。なんだ、まだぼーっとしてるのか?」


ケイは今、辛うじて美少年の部類に入る顔が台無しになる、なんとも間抜けな顔をしているが、それに劣らず声も間抜けになってしまっている。


「会えるのか?明日奈に…」


ケイは口の開いた間抜け顔のまま首を傾げる。


「ああ…でもアレを会―――――」


「ユウ!!早く行こうっ!!」


ユウの言葉を上からかき消すようにケイが叫ぶ。


さっきの間抜け顔はどこへやら。花も顔負けの恐ろしいほど明るい笑顔を浮かべている。


表情がころころ変わってしまうのがこのケイと言う少年なのだ。


話をすることはできないとはいえ、ひと目でも妹を見ることができればケイは十分幸せなのである。


「こらっ、人の話を最後まで聞け!!」


だがケイは全く聞いていない。


ケイは考え事を始めると人の話しを全く聞かなくなると言う酷い癖がある。


最初にユウに呼ばれても気づかなかったのはその為だ。


決してユウを無視していたわけではく、本当にケイの耳には届いていなかっただけなのだ。


ユウはケイに対しては特に短気なため、この癖を極度に嫌っているが。


―――このとき、二人はこの仕事が運命を大きく変える仕事になることになるとは知るはずもなかった。


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