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休日の終わりとドラゴンライダー

 「無理難題ってのは事実ですので、否定はしませんよ。で、話は戻るけどやったことは簡単だよ。マンドレイクを見つけて、その周りの土ごと掘り返したんだ」


 「それだけ、ですか?」


 「まあ、そのまま持ち替える訳にはいかないからね。特に街中で悲鳴を上げられたら街に向かってモンスターが押し寄せてくることになって大惨事になりかねないから、その処理はちゃんと行ったよ。具体的に言うと、川まで持っていって水に沈めながら土を払ったんだ」


 「なるほど。その方法ならマンドレイクの悲鳴もあまり響かない、そういうことなんですね」


 「その通り。それがおれの考えられる、一番楽なマンドレイクの採取方法だったんだよ」


 「アタシは必要な物さえ揃えばいいだけだが、こいつはあっさりと物事を解決してくるからつまらんのさ」


 やれやれまったく、なんて言っているが、それを実行するこちらの身にもなってほしい。オリヴィエラ先生から出された課題をクリアするのに、こっちはどれだけ念入りに下準備してから行っているのかその苦労をわかっているんだろうか?いや、わかってやっているんだろう。


 先生の無理難題を克服するために情報収集を行い、足りない分は上の図書館で調べまくった。そこで得た知識は今でも自分に根付いていることから、そこまで計算に入れて課題を出していたのだろうと今なら推測できる。それでも当時は結構無理をしたこともあったから、素直に感謝できない部分もあるのだけれど。



 「さて、それじゃあ今度こそ本題とやらを聞かせてもらおうか?まあ大方、そこの子犬に関することだろうとは思うけどね」


 「先生のおっしゃる通りですよ。今回の用件はこのシンクに関することです」


 「ふん、ただのダイアウルフの子供って訳じゃなさそうだ。わかっていることだけでも話してみな」


 「はい、ではーー」


 それからシンクについてわかっていることを全部話した。オーク砦に捕まっているところを助けたこと。その後にシズらのパーティーを助けて別れようとしたが、妙に懐かれて契約を交わしたこと。街に入る際に、その大きさを懸念して小さくなれないか?と冗談交じりに話しかけたら炎に包まれてこのサイズに変身したことなどを包み隠さずに説明した。



 「先生、先生にはシンクが何なのかわかりますか?」


 「ふむ、確証はない……が、心当たりはあるね。ちょっと待ってな。それに関する書物があった筈だ」


 席を外した先生の横顔が深刻な表情をしていたのが気になる。もしかしてこいつは想像以上に危ないやつなのか?そう思ったが膝の上でこちらを見上げてくるシンクを見ているとそれがバカらしい考えに思えてくるから不思議だ。



 「ししょー、シンクは大丈夫でしょうか?」


 シズの瞳は不安げに揺れていて、心配そうにシンクを見つめている。大丈夫だ、と言ってやりたいところだが、その証拠は自分の中にはないので答えることはできない。それでも何か言わなければ、と口を開きかけたところで先生が一冊の古びた厚い本を持って戻ってきた。



 「あったよ。恐らくその子犬はこいつのことだろう。開いているページを読んでみな」


 「わかりました」


 手渡された本をテーブルに置き、指でなぞりながら読み解く。古い言葉で書いてあるから読むのに苦労したが、内容は以下の通りだ。


 マルコシアス。グリフォンの翼を持ち、口からは炎を吐く狼の姿をしている。生息域は魔族領にある天狼山を縄張りとしている魔獣である。成獣し、契約を交わした相手の命令があれば人間の姿になることもできる。強力な戦士であり、契約者に対しては誠実に向き合う騎士のような存在である。



 「マルコシアス、シンクがそうだと、先生は考えているんですか?」


 「ああ、可能性の1つとしてね。炎を操るダイアウルフのの変異種とも考えられるが、その発見例は聞いたことがない。そうなったら文献に残っている狼系の魔獣で該当しそうなのはそれくらいって話さ。聞いたところ、翼はないようだから幼獣ってことなんじゃないのかい?だから契約を結ぶこともできたと考えられる」


 確かに、成獣した魔獣との契約は一般的に困難であると言われる。契約獣のほとんどは生まれたばかりか、幼獣の頃に契約したものがほとんどだ。その前提条件から考えると納得できないことはない。



 「もし仮に、こいつがマルコシアスだったとして、危険はないでしょうか?」


 「それこそあんた次第だろうさ。その本にも書いてあったろ?契約者に対して誠実である、と。あんたが大事に育ててやれば、裏切るような魔獣ではないさ」


 視線をシンクに落とす。想像以上に強力な魔獣である可能性が出てきたシンク。それでも先生の言う通りに大事にすれば、強力なパートナーになってくれるのだろう。そう考えると不安も消えるというものだ。



 「わかりました。こいつは、シンクはおれが責任持って大事に育てます」


 「そうしてやんな。それよりアタシが気になるのはそいつ捕まえていたオークたちの方だ。幼獣とは言えそんな魔獣をここまで連れてくるということは、親が黙っていないぞ」


 「それはつまり、我が子を取り返しに来るってことですよね」


 シズが言おうとしていたことを代弁してくれたので、口をつぐんで思考に集中する。これは今度の戦、予想できない方向に向かいそうな予感がしてきた。これは非常に不味い。もう一度リンさんと話し合って、偵察に出る必要がある。



 「先生、お時間を頂き、誠にありがとうございました」


 「おや、もう帰るのかい?もう少しゆっくりしていけば良いものを」


 「わかってて言うのはやめてください。もしかしたら次の戦争、思いもよらぬ事態が発生してしまうかもしれない。その前に打てる手はすべて打っておくべきなんです」


 「相変わらず手堅いねぇ。まあ健闘を祈っといてやるよ。くたばらなかったらまたお茶でもしに来な」


 「ええ、そうさせていただきます。では、失礼いたします」


 シズを促して席を立ち、先生の部屋を後にする。シンクの正体がわかれば上出来、くらいのつもりでの訪問だったが、思わぬ収穫があった。戦争は事前の準備と、どれだけ有力な情報を集められたかで勝敗が決まると考えている自分にとって、この情報は間違いなく戦局を左右させるだけの価値があった。あとは確証を得る為にも、さらに情報を集めなければならない。



 「ししょー、これからどうするのですか?」


 「先ずはリンさんに今聞いたことを報告だ。それから各地にいる傭兵から見慣れないモンスターの目撃情報が無いかの確認をしてもらう。シズ、おまえはここで聞いたことは一切他言無用だ。不確定な情報で混乱させるのはよくないからな」


 「了解です。わたしにできることはありますか?」


 「ああ、そうだな」


 外に出るための扉に手をかけ、押し開いていくと外の音がはっきりと聞こえるようになってくる。やけに騒がしい気がすると思いつつ、外の光に目が慣れて最初に映った光景は街を蹂躙しているワイバーンの姿だった。



 「遅かったようだな」


 「そんな、街が!」


 走って図書館の正面まで回ると裏手からは見えなかった街が一望できる。この図書館は山の斜面に築かれた城と併設されているため、それが可能なのだ。そこから街を見たときに六頭のワイバーンが火を吐き、その背に乗っている者が下に向かって槍のような物を投げたり矢を放ったりしていた。



 「ドラゴンライダーか。乗っているのはここからじゃわからないな。シズ」


 「はい、ししょー。奴らを倒しに行くんですね!」


 気炎を上げるシズには悪いが、あいつらを落とすのは一筋縄ではいかない。一緒に連れて行っても足手まといになるだけだ。それを直接言ったところで逆効果になるのは目に見えているから、別の仕事を与えることにしよう。



 「シズ、おまえには住民の避難誘導を頼む。これも重要な仕事だ。おまえならわかるよな?」


 「ししょー、ですが……」


 迷っているのだろう。それでも、答えを待っていてやる時間はないのだ。



 「任せたぞ、シズ。シンク、着いてこい!」


 返事も聞かずに駆け出し、階段の手すりから飛び降りて家の屋根へと着地する。追いかけてきたシンクが元の大きさに戻って並走してきて、乗れとばかりに吠えたので飛び乗った。



 「シンク、一番近い奴から落とすぞ」


 「ウォンッ!」


 建物の屋根を疾駆するシンクの背から下を見下ろせば、我先にと逃げ惑う人々でパニックになっている。所々で火災が発生しているせいもあり、黒煙が立ち上って視界が悪い。街に残っていた傭兵や辺境軍の兵が対処しようと頑張っているのか、魔法が時折放たれてはいるものの当たりはしない。弓矢や槍を投げて攻撃しようにも外したときに落ちた住民に当たる可能性を考えれば使うことは躊躇われるのだろう。結果、有効な攻撃を加えられないまま蹂躙されてしまっている。



 「これ以上、おまえらの好きにはさせない。飛べ、シンク!」


 背後からワイバーンに近づき、一棟だけ高くなっていた建物の屋根から跳躍させる。高度を十分に稼いだところでシンクの背からさらに飛び、ワイバーンの背に届いた。



 「好き勝手やってくれやがって、ワイバーンともども落ちろ」


 刀の戒めを解き、鯉口を切る。こちらに気づいて振り返ったオークと目が合った瞬間、抜刀して駆け抜け、ワイバーンの頭を蹴って跳ぶ。血振りをして刀を鞘に納めたところで、オークの首が飛び、ワイバーンは翼を根元から切り離され、さらに首も落とされて墜落した。



 「残りは五頭か。いや、もう逃げて行くのか」


 シンクが戻ってきて次の獲物へ向かおうと辺りを見渡せば、一頭が落ちたのを見てすぐに撤退を始めたのか街の外へと向かうワイバーンの姿があった。



 「さて、後始末が面倒だな。リンさんに依頼するか」


 「ヘッドハンター!親方様の獲物を横取りするとは何様のつもりですか!?」


 「何様って、ただのアサシン様だよサル」


 「サルと僕のことを呼んでいいのは親方様だけなのです!ヒデヨシと呼びなさい!」


 ああ、うるさいのにからまれたものだとため息を吐く。それが気に食わなかったのか、またキーキー言っているが聞こえないふりをしておく。しかしこいつがいるということは、あの女傑もこの近くにいるということか。ほら噂をしたつもりはないが屋根に上ってきた足音が五人分。どうやらパーティーが揃ったようだ。



 「よう、今日もド派手な登場を決めてくれたねぇヘッドハンター。そろそろあたいの傘下に加わる気はないかい?」


 「それも何度目の問答ですか、ノブナ殿。あなたの下につく気はないと、何度も申し上げている筈ですが」


 「あらあら、また振られてしまいましたね、ノブナさん」


 「そうだな、ケンシン。だが、諦めることはせぬぞ」


 「それでこそワシらの親方様じゃな。なあ、ヨイチ殿」


 「ですなぁ。親方様のそういうところに惹かれて私たちも集まったようなものですし」


 「フッ、いずれ貴様にもわかる時がくるさ」


 最初の人物はヒデヨシ。三節棍を武器とし、小柄な体躯を活かして戦場を駆けまわり、敵を翻弄するのを得意としている。職業は確か盗賊だったか。


 ケンシンさんは名前は男性のようだが女性であり、神官だ。物腰柔らかく、女性の理想形のような人だが、怒らせると怖いので要注意。


 ワシと言っていたのは三十代半ばくらいのおっさんで、名前はシンゲン。武器は鉄扇だが魔法使い。しかも苦手な属性はないというオールマイティさ。見た目はガッチリしているのにそれは意外性を狙い過ぎだろと突っ込みたい。


 ヨイチは弓の名手で、男か女かわからない容姿をしている。ちなみに男だ。職業は狩人。このパーティーではヒデヨシと並んでまだ十代後半だった筈だ。


 最後に厨二臭いセリフを吐いていたのはマサムネ。なぜか右目に眼帯を付けているが、別に目が悪い訳ではないらしい。なんでも外すと真の力が目覚める!とか言って無双するらしい。二刀流の戦士で見た目は良いのにその言動がダメににしている。年はタメの24とか言っていたから、たまにぶん殴りたくなる。



 そしてこのパーティーのリーダーであるノブナ。彼女はこの奇妙なパーティーをまとめるだけあって度量も深く、新しいものに目がないといった性格をしている。赤い髪をポニーテールにし、黒い鎧を身に纏い大剣を振り回す。その姿に惹かれる者は少なくない。


 また、クランのマスターもしておりその名称は戦国同盟。名前の由来は最初のメンバーがなんか戦国武将っぽいな、でも戦国武将ってなんだ?でもかっこいいからこれでいこう!そうしよう!みたいな感じで初期のメンバーが中心となり、あとから加入してきたメンバーを家臣と称して軍隊を作り、それぞれが得意分野で指揮していることからそんな名前を付けたのだとか。ぶっちゃけどうでもいい。他にも指揮をする将軍の地位にいるメンバーはいるが、普段は交代でパーティーを組んで狩りをしているらしい。



 長々となったが、この戦国同盟と昨日、ギルドであったセイジが率いる十字軍クルセイダーズが現在このキサラギ要塞都市の近辺で活動している最大規模のクランであることは間違いない。どちらも五百人程度の団員を抱えていた筈だ。よくもまあそれだけの人員を集めて活動できるものだと感心してしまう。あ、セイジだけは嫌いだからどうでもいいけど。



 「ノブナさんが凄いことはおれにもわかってるよ、マサムネ。それでも下につくかどうかはおれの気持ち次第だ」


 「まだあの女狐に飼われておるのだろう。もう恩義は十分に返したのではないか?」


 「別に飼われているつもりはないですよ。ただ十分な報酬がもらえるから仕事を受けているだけです。ノブナさんから依頼を受けて、それに見合った報酬を頂けるのでしたらいつでも仕事をお受けいたしますよ」


 「そうか。その時はお願いするとしよう」


 「ええ、お願いします。さて、ここからは自分からのお願いなのですが、ワイバーンの後始末を頼んでもいいですか?」


 「貴様!言うに事欠いて親方様に「少し黙れ、サル」はい、失礼しました」


 ヒデヨシがノブナに窘められて下がったところで、続きを言ってみろと促されたので口を開く。



 「おれはこれからギルドに報告に行かないといけません。しかしこのワイバーンを放っておくこともできない」


 「ふむ、お主はいくら出す?取り分は?」


 「ワイバーンの素材などを売ったときの価値の三割、でどうですか?あなた方の取り分は残りの七割、素材はすべて金に換えてもいいし、そちらで全部引き取ってお金だけ渡してもらっても結構です」


 「ずいぶんと気前がいいな。こちらの取り分は一割でも十分過ぎると思うんだが?」


 確かに、実際に落としたのは自分なのだからこの条件は破格だろうというのもわかっている。しかし素材を剥ぎ取って売りに出す手間や片づけを考えると面倒なのが上回る。そしてワイバーンの素材にも興味はない。すでに装備としては理想形に近づきつつあるので、必要ないのも理由の一つだ。



 「あなた方も見たでしょう?敵はワイバーンを最低でも五頭保有している。今度の戦争は今までよりも厳しいものになります。ここで得た資金で、対空装備の準備に少しでも当ててください。それで戦争が少しでも有利になるのなら、これくらい安いものです」


 値踏みするような視線に晒されるが、どうってことはない。打てる手は打っておく。この考えは変わらないのだから、その為に必要な出費を惜しむほど愚かではないつもりだ。



 「わかった。お主の好意に甘えておくとしよう。サル、至急団員に通達!ワイバーンの回収に人手を回すよう指示せよ。ケンシン、下でケガをしているものの治療に当たれ。シンゲンは火災の鎮火へヨイチとマサムネは火事場泥棒が来ぬよう見張りだ。ほら、すぐに動け!」


 応!と散っていくメンバーを見送り、再度ノブナと向かい合う。ちゃんと周辺住民のことも考えて指示を出すあたり、本当に人が良いのだろう。まさしく王の器というものかもしれない。



 「さすがのご指示ですね。お見事です」


 「うむ、惚れ直したか?」


 カカッと笑って言っていることからもちろん冗談だろう。でも、それに乗るのも悪くない。



 「ええ、惚れ直しましたよ。やはりあなたは素晴らしい女性だ。では、おれはこれにて失礼します」


 「え?あ、ちょっと、それはどういう!?」


 何事かを言っていたが無視して駆ける。途中でまたシンクに跨り、ギルドへと目指して走ってもらいながら最後に見たノブナの表情を思い出す。顔を赤らめて動揺している様子は年上の女性にしては可愛らしかったとだけ思ったのは秘密にしておこう。誰かに言ったりしたら後が怖そう、というのも内緒だ。



ワイバーンを倒す描写が味気なくなってしまい、少々不本意気味な作者です。


もうちょっと書きたいなぁと思いつつ、文字数を見ていたらこれ以上は分割するかしないかを考えるレベルだったのでこのままでいこうと思います。


その代わり、戦争編ではもう少し頑張りたいと思います、はい。


それでは今後とも応援をよろしくお願いいたします。



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