表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

ヒーローは遅れてやって来る

始めはシズ目線からです。

 Side シズ



 「じゃあ、改めてここから別行動だ。決して無理はしないように。依頼の達成よりも自分たちの命を大事にするんだぞ」


 「はい、了解しました。ししょー」


 「レイスさんもお気をつけて」


 じゃあな、と軽く手を振ってあいさつしたと思ったら、レイスさんはいつの間にか見えなくなってしまった。いや、見えなくなった訳ではないだろう。ただレイスさんの気配を消す技術が卓越していて、知覚することができないだけだ。いつかわたしもあの人の背中に着いていくのが当面の目標だ。



 「よし、ぼくたちも仕事に取りかかろうか。シズ、先行して偵察をお願い」


 「わかった」


 千里の道も一歩から。一つ一つ積み重ねて、あの背中を追いかけよう。






 ✝





 レイスさんに出会ったのはこの地に来て傭兵としてギルドに所属し、盗賊ギルドで基本的な動きを仕込まれて活動を開始して、三日目くらいだったと思う。この頃は一緒に傭兵になったカズキだけ先輩の傭兵に着いて行って、四人だけで活動していた。


 どうしても稼ぐことができず、ギルド長のリンさんに相談した時だ。そのとき何故かギルドの事務所にパーティー同士やメンバーで情報交換や相談をするために用意されたテーブルに突っ伏して寝ていた。しかもその理由が二日酔いで頭痛がしていたからというものだから良い印象を受ける訳がなかった。



 リンさんにレイスさんを紹介してもらい、どうにか戦う術を教えてもらえないかと頼んだところ、最初はすっぱりと断られてしまった。それも結構迷惑そうに。さらに印象を悪くしたのが、リンさんが何とか引き受けてくれないかと代わりに頼んでくれて、ギルドから報酬も出すという話をしてからようやく引き受けてくれた。それも今やっている仕事を片付けてからというものだったから、実際に指導を受けれるようになったのは三日後だった。しかも先輩たちに着いて行ったカズキも一緒にだ。


 久しぶりに会ったカズキは最初のイメージとずいぶん違っていた。自信家で好戦的、そういう印象だったのに、再会した彼は何かにひどく怯えていて戦闘にも消極的になっていた。何故そんな風に変わってしまったのかレイスさんに後で訊いてみたが、どうやっても教えてくれなかった。それは今でも変わらない。いつかカズキ本人の口から話してもらうしか真相を知ることはできないだろう。



 それからは5人で狩りを行った。イーストシティに赴き、ひたすらゴブリンと戦う。実地で戦いながら都度指導を受けた。その指摘が的確で、一匹だけでも苦労していたのにすぐに三匹までは同時に相手をできるくらいにはなった。


 そしてレイスさんを師匠と呼ぶ切っ掛けになったのは元盗賊という経歴から、偵察のやり方や注意点を見せてもらっているときの洗練された動き、敵に自分の気配を悟らせずに背後から一撃で仕留めるその手際に感動して、どうしても同じ領域に辿り着きたくて弟子入りを志願した。未だに認めてもらえていないが、いつか必ず弟子にしてもらうつもりだ。



 今までレイス師匠に教えてもらったこと、見せてもらったことを思い出しながら森の中を歩く。偵察に適したポイントを見つけては、ギルドから借りてきた双眼鏡などを使いながら地図に情報を書き込んでいく。半分くらい済んだところでみんなの緊張が解けてきたのか、会話も少し増えてきていい感じになってきた。



 「これで銀貨五十枚の仕事なら、結構楽だよな」


 「そやね~。これで正式に団証も買えるし、やっと見習いを卒業や~~」


 「そうだね。そのためにも、この仕事はしっかりやり通さないと」


 カズキが楽観的なコメントをし、アヤは純粋に喜んでいる。それをシンイチが引き締めている。この光景をレイス師匠が見ていたら、緊張感が欠如していると注意を受けただろうか?



 「そうだよ、みんな。しっかりと見張ってて。ここは敵地の近くなんだよ」


 「わかってるって。でも、近くに来たら気づきそうなもんじゃ~~」


 「きゃあ!!」


 「メイ!」


 バッと双眼鏡から目を離して振り返ると、メイが刺青いれずみの入ったオークに腕を掴まれて肩に担がれようとしていた。またメイを取り返そうとカズキとシンイチがそれぞれ武器を構えていたが、メイとの間を阻むように三体のオークが立ちはだかっていた。



 「シンイチ、いったん退こう」


 「でもシズ、メイが!」


 「そうや!メイっちを助けたらな!」


 臆病なカズキが珍しく勇気を見せ、今にも飛び出さんばかりにしている。アヤもスタッフを構えており、戦う姿勢を見せている。シンイチは連れ去られるメイを苦渋に満ちた表情で見送り、決断したのか一転して逃げの姿勢を取った。



 「退くぞ!全滅する訳にはいかないんだ!シズ、先導しろ!アヤ!カズキ!シズに着いて行け!」


 「くそっ、わかったよ!」


 「メイっち!絶対に助けたるからな!」


 後ろ髪を引かれる思いで駆け出す。ここに来るまでにいくつか隠れるのに適した場所は見つけてある。どうにかしてオークを振り切り、レイス師匠と合流できればメイを助け出せるかもしれない。


 それだけを希望に、決死の逃走劇を開始した。





 ✝





 あれからどれくらい逃げ回っていただろうか。数分な気もするし、1時間は経ったような気がする。隠れて休んでは見つかって逃げ、また隠れて休んで逃げる。それを何度か繰り返していたら森の中でぽっかりと開いた広場の所で囲まれてしまった。



 「シンイチ、これはもうやるしかないよな?」


 「ああ、これ以上は無理だ。ぼくとカズキで一体ずつ受け持つから、シズとアヤで一体を引き付けててくれ」


 「う~~、メイっちを助ける前にうちらがアカンやん」


 「とにかくやろう。生き残ることを最優先で」


 ダガーを両手に構え、目の前のオークに集中する。武装は片手剣にラウンドシールドを構えている。なんとか後ろに回り込めないかと思うが、こちらの動きに合わせて移動してくるのでどうにもやり辛い。シンイチとカズキはレイス師匠に見せてもらったように攻撃を打ち払って防御している。こういう窮地のときにレイス師匠の教えは活きてくる。



 「アヤ、悪いけど正面をよろしく。わたしはなんとか後ろに回ってみる」


 「了解や。任しとき!」


 アヤとスイッチして入れ替わる。アヤの後ろで気配を消す。アヤにオークの意識が集中したところで、背後に回って仕留めてやる。そう意気込んでダガーを構え直した。




 「くっ、うっ、はぁっ!」


 「やぁあっ!!」


 レイス師匠は刺青のないオークは並みのオークだと言っていたが、並みでもゴブリンの数倍強い。いや、それ以上だ。だんだんと攻撃がかすったり、当たったりしてみんな満身創痍になりつつある。かく言うわたしも何度か背後に回って攻撃しようとしたが、即座に反応されて反撃を受けてしまっていた。



 「くそっ、このままじゃ埒があかねぇぞ」


 「せやけどどうしようもないやんか!」


 「アヤ!前!」


 「ふぇっ!?」


 カズキの言葉に反応してアヤの意識がオークから逸れ、その隙をオークが見逃さずに切りかかる。アヤはなんとか一太刀目を防御したが体勢を崩して尻餅をついてしまっている。


 間に合わない!


 再びアヤ目掛けて剣が振り下ろされそうになり、それを防ごうと駆け出すも間に合わない。全てがスローモーションのように見えるなか、ゴトリッとオークの首が突然落ちて、鮮やかな赤いコートが目の前に広がった。



 「な、なんや!?」


 「ししょー!」


 助けに来てくれた。それだけで嬉しい気持ちになり、安心感に包まれる。今まで張り続けていた緊張の糸がぷっつりと切れて、膝に力が入らなくなって座り込んでしまう。



 「悪いな、遅くなった。すぐに片づけてくるから、もう休んでていいぞ」


 レイス師匠は一言だけ声をかけ、すぐに残りの二体のオークに視線を向ける。たったそれだけなのにオークたちはまるでヘビに睨まれたカエルのように怯えて後ずさった。






 ✝






 Side レイス



 「シンイチ、カズキ。よく頑張ったな。あとは任せろ」


 「はい、わかりました」


 オークらに切っ先を向けながら下がる二人と入れ替わり、正面から対峙する。武器はそれぞれ斧と剣。小太刀で攻撃を防御すれば簡単にし折れてしまうだろうが、打ち合わせる気は毛頭ない。



 「ウッ、ウォオッ!」


 緊張感に耐えられず、斧を持ったオークが振り上げながら襲ってくる。剣のオークはその後ろから突き刺そうとでもいうのか、腰だめに構えて突進してきた。


 斧の一振りを躱しざまに一閃、両手首を落としてさらに一振りして今度は首を落とす。突き出された剣を左のガントレットで受け流し、踏み込んで首を切り裂いた。



 「相変わらず先生ってスゲーわ」


 「そうだ、レイスさん!メイが!メイがオークに!」


 「せや、メイっちがオークに連れ去られてもーたんよ!早く助けに行かな、どうなるかわからへん!」


 「あ~はいはい、おまえたちの言いたいことはもっともだが、先ずはケガを治せ。メイなら大丈夫だから」


 仲間を大切に想う気持ちは素晴らしいが、自分たちの心配も少しはしろよと言いたい。全身に傷を負っていて、出血多量で死んでも知らないからな。そう思いながら口笛を吹いてダイアウルフを呼ぶ。


 その動作に何の意味があるんだろうという視線を送ってきたが、現れた深紅のダイアウルフの大きさに先ず驚き、そしてその背に乗っているメイに気づいてもう一度驚いていた。



 「メイっち!無事だったんや!良かったな~!」


 「うん、ありがとうっ。みんなも無事で良かった!」


 ダイアウルフに物怖じせずにアヤが走り寄り、背から降りたメイと抱き合ってお互い無事だったことに喜び合っている。男どもはダイアウルフに警戒しているのか近寄ろうともせず、逆にシズは興味深そうに近づいていた。



 「ししょー、この子に触っても大丈夫ですか?」


 「それはおれじゃなくてダイアウルフに訊け。脱出仲間であって、主従関係ではないからな」


 「ダイアウルフさんと言うのですか。ではダイアウルフさん、良かったら少しだけ触らせてもらえないでしょうか?」


 クゥンッと鳴いて目線を合わせる為に膝をついていたシズの顔を舐める。それをくすぐったそうにしても受けながら、優しく首筋や頭を撫でていた。



 「さて、感動の再会もその辺で良いだろ。アヤ、みんなのケガを治してやってくれ。ある程度休んだら街に帰るとしよう」


 「は~い、了解や~」


 アヤがシンイチたちの治療に向かい、メイも一緒に着いて行って二人と言葉を交わしている。シズも一頻ひとしきり撫でたあと、みんなの輪に戻っていった。



 「んじゃ、ここまでありがとう。あとは契約はこれにて終了。あとはどこに行ってもいいぞ」


 お別れだと言っているのにその場から動こうとせず、しかも近寄ってきたかと思うと手に頭を擦り付けてくる。これはまたずいぶんと懐かれたものだと感じたが、そんなに悪い気はしない。



 「そこまで言うならおれと一緒に来るか?おまえにとっては少し窮屈な思いをすることになるかもしれないぞ?」


 それでも構わないと言わんばかりに一鳴きし、お座りの姿勢で何かを待っている。これは名前を付けてもらえるのを待っているのだろうなと結論付けたが、さてどうしたものか。いざ名前を付けるにしてもすぐには思いつかない。



 「ししょー、二人で何を話してるんです?」


 「ん?ああ、こいつに名前を付けてやろうと思ってな。だけどすぐにはいい名前が浮かばなくてな」


 「だったらシンクはどうですか?ししょーの深紅のコートと同じく、鮮やかな赤色ですし」


 ふむ、深紅。シンクか。悪くない名前だ。よし、こいつの名前はシンクにしよう。名前が決まったらあとは契約だ。シンクに近づき、その頭に手を乗せて魔力を流す。



 「我、汝との契約を求む。汝の名はシンク。この名を受け入れるならば我に従え」


 ウォンッと力強く吠え、魔力光が辺りを包んでそれがシンクに収束していく。またシンクの頭に乗せていた右手の甲に痛みが走る。ガントレットを外さないとわからないが、おそらく契約の証である紋が刻まれたのだろう。



 「わぁ~今のなんなん?」


 「この子と、契約したんですか?」


 「そうだよメイ。おれもこいつも別れるのはお互いに寂しくなってね。契約することにしたんだ。今度からはシンクって呼んでやってくれ」


 「はい。これからもよろしくね、シンク」


 「よろしゅうしてな、シンク」


 二人に撫でられて気持ち良さそうにしているシンクから視線を切り、シンイチとカズキの所へ向かう。二人とも鎧がぼろぼろだ。よく持ち堪えたものだ。この二人がそれぞれ一体と打ち合えたからこそ、なんとか間に合うことができたと言っても過言ではない。



 「二人ともよく頑張ったな。オーク相手に見事しのぎ切ったんだ。誇りに思っていいぞ」


 「ありがとうございます。それもこれも、レイスさんに一度オークとの戦い方を見せてもらっていたからこそですよ。そうじゃなかったら今頃死んでいたと思います」


 「シンイチの言う通りです。レイス先生の教えがあったらばこそってやつです。助けていただき、ありがとうございました」


 改めてシンイチも礼を言って二人して頭を下げてくるので、どうにも居心地が悪い。元はと言えば自分がこの危険な仕事に誘ったのだから、こうして窮地を救っても感謝されるのはどうも違う気がする。



 「とにかく、みんなが生きていてくれて本当に良かったよ。もう動けそうか?」


 「はい、問題ないです」


 「俺も大丈夫です」


 「よし、では街に帰還するとしよう。いろいろと訊きたいことはあるだろうが、道中で説明するから勘弁な」


 よろしくお願いしますと声を受け、シンクと戯れていた女性陣に声をかけて出発する。こうして一人も欠けることなく、なんとか無事に帰れそうでホッとした気分だ。


 仲間を失った経験があるからこそ、そう思う。こいつらにはそんな経験をさせたくないと思うのと同時に、やっぱりあと一人はメンバーを増やした方が良いだろう。さて、どこかに良い人材はいないものかと考えながら帰途についた。



どうも、作者のサツキです。

現在、土日を挟んで連続投稿中。このペースがいつまで続くのか疑問ですが、頑張ろうと思います。


特に皆様からの感想やブックマークを頂けると励みになります。大事なことなのでもう一度。励みになるんです!


では、今後ともよろしくお願いいたします。






ぶっちゃけた話、ここでカズキを殺そうと考えていたのは内緒の話だったり……(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ