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救出オペレーション

 「お~いメイ、起きてくれ」


 「え?レイス……さん?私は、確か……」


 「まあまあ、とりあえず水でも飲んで一息つけよ」


 まだ少しぼんやりしているメイに持っていた水袋を渡して飲ませる。少し落ち着いたところで部屋の様子に気づいたのか、オークの死体を見て悲鳴を上げそうになったので慌てて口を塞いだ。



 「落ち着いて、メイ。落ち着くんだ。ここはまだ敵地だが、近くに敵はいない。来たとしてもおれが倒して守ってやるから安心してくれ。わかったら一回頷いてくれるか?」


 こくんっと首肯したのを確認してからゆっくりと手を放す。


 「あの、私はオークに捕まった。そうですよね?」


 「そうだよ。ちょうど調査が終わって帰ろうとしたら、メイがここに運び込まれるのを見たからオークの後を追って、この部屋に入ったところで助けた。ここまではいいね。じゃあ、他のみんながどうなったか、何か覚えていることがあれば教えてくれないか?」


 「えと、私が最後に覚えているのはオークに殴られて気を失う直前に、みんながオークに追われている光景でした」


 「数は覚えているかい?」


 「確か、三体のオークに襲われていました」


 「わかった。教えてくれてありがとう。他のみんなが心配だから、あとは移動しながら話そうか。おれの後ろに着いてきてくれ」


 不安そうに瞳を揺らしながらも頷いたメイを安心させるように頭を撫で、近くにまだオークたちの気配がないのを確認してから部屋を出る。びくびくと震えて怯えながらも出てきたメイが、ドアの横に崩れ落ちて息絶えていたオークを見て恐怖感に拍車がかかったのか、動けなくなってしまった。



 「いいかいメイ?手を繋ごう。おれが引っ張って行ってあげるから、メイはおれの背中だけを見ているんだ。そうすれば少しは怖くないだろう」


 「あ、はい。わかりました。……ありがとう、ございます」


 「うん。じゃあ、行くよ」


 左手を差し出して握ったのを確認し、歩き出す。それからはオークが居たら道を迂回したり、部屋に入ってやり過ごしたり、時には奇襲して仕留めて適当な部屋に死体を押し込めて隠しながら進んだ。



 「あの、レイスさん。ここから出たあとも、砦の周りにはオークが居ますよね。そこはどうやって通り抜けるんですか?」


 「ああ、今は少しの時間も惜しいからね。移動手段の当てはあるから、それに乗って脱出しようと考えているんだ」


 「乗って、てことは。馬でもいるんですか?」


 「馬じゃないな。まあ、もう見たほうが早いから、今開けている扉の隙間から外を見てごらん。少し離れたところに柵があるから、そこを見てみればわかるよ」


 場所を譲ってやり、恐る恐る覗き見るメイの後ろ姿を見守る。あいつらを見てどういう反応をするのか、こんな時に不謹慎ではあるが楽しみだ。



 「本当に、あれに乗るんですか?」


 「そう、あれに乗るんだよ。ダイアウルフって言うんだ。あまり一般的ではないが、騎乗できる魔獣っていう分類だからそう心配することはないよ」


 騎乗用にできるのは幼獣の時から世話しているやつだけに限られるのだが、そこは不安になるだけだろうから口にしない。成獣でもできないことはないので嘘じゃないし。それにさっき調査しているときに気になる個体がいたので、ここからメイと脱出するときに一番最初に浮かんだからそいつの所に行くとしよう。



 「さて、ここからは一回建物から出ることになる。それから見えたと思うけど、柵の横に小屋があっただろう?あそこまで一気に走って行くから、しっかりと着いて来るんだよ」


 「わ、わかりました」


 「じゃあ、行くよ」


 見える範囲にオークの姿がないのを確認してから一気に駆け出す。途中でメイが転びそうになったので、小さくごめんと呟いてからお姫様抱っこし、小屋の中に駆け込んだ。



 「悪かったな、メイ。びっくりさせてしまったな」


 「いえ、あの、こちらこそすみません。重かったですよね?」


 「メイくらいの女の子を抱っこして重たいなんて言うやつは男じゃないよ。むしろ役得だったよ。ありがとう」


 「はぅ、あと、その……」


 照れているメイに癒されつつ、侵入者に対して警戒しているのかこの小屋に捕らわれているダイアウルフに視線を向ける。そいつは鎖に繋がれ、小屋の奥に伏せの状態で頭だけを上げてこちらを睨んでいる。グルルルッと唸って牙をむき出しにし、威嚇してきている。



 「あの子が、レイスさんの言っていた当て、ですか?外にいた他の子たちよりも、毛色がずいぶん違うようですけど」


 「そうだね。普通のダイアウルフはだいたい黒か灰色の毛をしている。こいつは紅い毛色をしていたから印象に残っていたんだ。危ないから少し離れていてくれ。これから乗せてくれるよう、頼んでみるから」


 「動物と話すことができるんですか?」


 「できないよ。でも、こっちが信んじて頼めば聞いてくれるかもしれないだろ?」


 「そうですね。気をつけてください」


 首肯し、ゆっくりと紅いダイアウルフに近づく。調べたときにも思ったのだが、こいつは足をケガしているのだろう。いや、他のダイアウルフを従えるために足の腱でも切られている可能性がある。パッと見でも他の個体より1.5倍は大きいこいつなのだ。群れのボスだったに違いない。



 「よう、ケガしているんだろう?そのままでいいから、少しジッとしていてくれ。ケガが治ったら、ちょっとおれの話を聞いてくれや」


 メイにも使った治癒のルーン魔術を発動させる。こいつは神官が使う治癒の魔法とは違うが、効果はそう変わらない。数秒とかからず治癒の効果が出たのかゆっくりと確認するようにダイアウルフが立ち上がる。そして問題ないとわかると、一気に飛び掛かって噛みついてきたので左腕のガントレットで受け止める。眼前でガチガチと何度も噛みついているダイアウルフと視線を合わせる。



 「大丈夫だ。安心してほしい。おれはおまえに危害を加える気はない。少しだけここから脱出するのを手伝ってくれたら、あとはおまえの好きにすればいい」


 ダイアウルフは頭の良い種族だから、なんとなく言葉の意味くらいは伝わる筈だ。それを証明するかのようにゆっくりと口を放し、お座りの姿勢をとった。うん、座った姿勢でも自分と同じくらいの位置に顔がくるほど大きいが、これはこれで可愛いと思う。



 「よし、どうやら契約成立のようだな。今から解放してやるから、そのままジッとしてろよ」


 ゆっくりと警戒させないように近づき、首に付いていた鎖の錠前をピッキングで開ける。後ろ脚にも付いていたから、そっちも一緒に外して自由にしてやる。すると少しは味方だと信じてくれたのか、ぺろっと顔を舐めてきた。それをくすぐったく感じながら、頭や首筋を撫でてやる。


 どうしよう、飼いたい。なんて考えが頭をよぎったがそれはそれ。この契約が終わった後にでも考えるとしよう。ひとしきり撫でてやると満足したのか、乗れとでも言う風に伏せをしたのでメイを手招きして呼んだ。



 「大きな見た目にびっくりしましたけど、意外と人懐っこいんですね」


 「それは勘違いだから注意するように。ダイアウルフと森や草原で遭遇したときは全力で襲い掛かってくるから、いつもこうだと思わないようにしてくれよ」


 「あ、そうですよね。一応、モンスターであることには変わりないんですもんね」


 「まあ、今は一緒にここから脱出するための仲間だ。仲良くしてても問題ないだろ。それじゃ、外も騒がしくなってきたことだし、行くとしようか」


 捕らえた筈の捕虜が脱走していることと、仲間が殺されていることに気づいたのだろう。オークたちの怒鳴り声が聞こえてくる。ここに探しにくるのも時間の問題だろう。



 「メイ、おれの前に座ってくれ。座ったらこいつの毛を掴んで股をしっかりと締めるように。そうしないと体の支えがきかなくて落ちてしまうからね」


 「わ、わかりました。その、失礼します」


 メイがちゃんと座ったのを確認してから、ダイアウルフの腹を軽く叩いて立つように促す。するとゆっくりとおれたちが落ちないように立ってくれたのには驚いた。ますます気に入ってきてどうやったら仲間にできるかと思案しそうになったところで、小屋の扉を開けてオークが顔を覘かせた。



 「吹き飛べ、ケイナズ!」


 火を意味するルーンを刻んだ石を投げ、込められた爆発の魔術を発動する。扉に当たった瞬間に魔術は形を成し、扉ごとオークを吹き飛ばす。派手に爆発音を轟かせてしまったのでもう後戻りはできない。



 「さあ、行こうか!」


 腹を蹴って促すと、勢いよく駆け出して小屋の外に出る。そうしたらよく集まってくるもんだと思うくらいオークが駆けつけてくる。弓矢にジャベリンがこちらに狙いを定めているのがわかる。このままでは非常に危険なので、ダイアウルフたちの柵の一角を爆破して一部を開放してやる。そうなったらあとは現場は大混乱だ。解放されたダイアウルフがオークたちを襲い始めたので隙ができた。



 「とりあえず門のほうに向かってくれ!」


 ウォンッと一吠えし、紅いダイアウルフはオークたちの間を軽快に駆け抜けていってくれるので非常に楽だ。時折、矢が飛んでくるが手で払い、ルーンを刻んだ石を投げて爆発を巻き起こし、混乱に拍車をかけてやる。



 「あ、門が見えてきました!」


 「よっしゃ、もういっちょ派手にぶち壊して……って、勝手に開くってどういうことだ?」


 「ウオオオッ!!」


 門が開いた隙間からこちら目掛けて剣が投擲され、ダイアウルフがとっさに横に飛んで避けることができた。普通、投げてくるなら槍だろうと思うが、わざわざ剣を投げるなんて方法を取るようなオークには一体だけ心当たりがある。デッドマンズ・ソード、死者の剣の異名を持つオークに違いない。



 「ヨウ、モウ帰ルノカ?ヘッドハンター」


 「ああ、今回はおまえに構ってる暇はないんだよ!デッドマンズ・ソードのガルド!」


 ルーンの石を投げて爆発を目くらましにして突破を図る。あれで殺せないのは実証済みだ。奴とは何度も剣を交えているのだ。嫌ではあるが、それくらいの信頼はある。



 「次ノ戦デ決着ヲツケルゾ!ヘッドハンタァーッ!!」


 「おう、その首洗って待ってろよ!今度こそ、その首貰ってやるよ」


 背中越しに言い合い、とにかく野営地を抜けて森に入る。しばらくしてから止まってもらい、今度はシズたちを探すために探索のルーンを発動させるために準備していると、今まで黙っていたメイが口を開いた。



 「あの、先ほどからレイスさんが使っている魔法、でいいんですか?私が使っているものとは違いますよね」


 「ん、ああ。こいつは魔法使いギルドで教えてもらうものとは別物だよ。ルーン魔術と言う、ドワーフらが使う魔法だ。詳しいことは時間が出来たときに教えてやるから、また今度な」


 「わかりました。先ずはみんなを探さないと、ですもんね」


 「そういうこと。すまない、もう少しだけ付き合ってもらうぞ。あの石の後を追ってくれ」


 探索のルーンを刻んだ石を投げてダイアウルフに追ってもらう。シズたちの居場所を教えてくれるように魔術を組んだから、自分たちが居場所を知らなくても問題ない。あとはあいつらが無事でいてくれることを祈るばかりだ。メイが砦に連れて来られた時間から逆算すると、逃げきれていない限りそろそろ危ない頃だろう。





 ✝




 シズたちの捜索を開始してからずいぶんと森の中を駆けている。結構、深いところまで入っていることから察するに、上手く逃げているようで少しだけ安心している。



 「レイスさん、聴こえましたか?」


 「ああ、剣戟の音だな。もう近いのかもな」


 戦闘の音がしているということは生きているということだ。だんだんと近付き、木々の間から戦っている様子が見えてきた。


 シンイチとカズキがそれぞれ一体ずつ相手をしており、アヤとシズが二人で一体の相手をしている。みんな傷だらけで、誰か一人でも倒れれば全滅する一歩手前といった状況だ。



 「メイ、シズたちを助けてくるから、終わるまで隠れているように。メイを頼んだぞ」


 「あ、レイスさん!」


 一人残されるメイが不安そうに声をかけてくるが、ダイアウルフが任せろと言わんばかりに吠えたので信頼して任せる。ダイアウルフの背から飛び上がり、木の幹を蹴って先ずはシズたちに襲い掛かっていたオークの首を腰の裏から抜いた小刀でねる。



 「な、なんや!?」


 「ししょー!」


 「悪いな、遅くなった。すぐに片づけてくるから、もう休んでていいぞ」


 緊張から解放されて座り込んだ二人に声をかけ、おれの登場に怯んだ残り二体のオークを睨みつける。さあ、おれの教え子たちを苦しめたこいつらを解体してやろう。

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