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突撃、隣のオーク砦!

 「やあ、おはよう!みんな元気かい?」


 「おはようございますぅ、レイス先生。今日はやけに元気やんな~。いったい何をたくらんどるん?」


 「ははは、おかしなことを言うな~アヤは。おれはいつだってやる気がないだけで元気だぞ」


 「それはそれで、問題なんじゃ」


 普段あまり喋らないメイに小さな声で突っ込まれたが、あえて聞こえないふりをする。さて、いつまでも昨日の話を切り出さない訳にもいかないので話すことにしよう。



 「今日はおまえたちにギルドからの依頼を持ってきてやったぞ。受けるか受けないかは話を聞いてからでも問題ない。もちろん、受けなかったからと言ってペナルティを受ける心配もない。ちなみに報酬は銀貨五十枚だそうだ」


 「やけに好条件に聞こえますけど、裏はないんですよね?」


 シンイチが疑いの眼差しを向けて訊いてくる。疑り深いのはこの傭兵稼業をやっていく上で重要な能力になる。それが育ちつつあるのは良い傾向だろう。



 「特に裏は無いな。元々はおれのところに来た依頼を、ついでにおまえたちにも手伝わせようと考えただけだし」


 「えと、ちなみにレイス先生のランクはいくつでしたっけ?」


 「おれのランクはAだな」


 「Aランクの先生に来た依頼を、俺たちが手伝えるものなんですか?」


 「カズキの言うことも最もだな。さて、となるとどうするべきか……」


 意外と乗り気ではないようだし、これは話すべきではないのかもしれないな。そう思っていると、今まで黙って流れを見守っていたシズが前に出てきた。



 「一先ず、ししょーの話を聞かない?それから判断しても、遅くはないと思う」


 その一言で、話も聞かずに受けない方がいいんじゃという空気が変わったような印象を受けた。やっぱりこのメンバーのリーダーをするならシズが一番適任だろうと思っていたのが確信に変わった瞬間だった。



 「さて、ようやく聞いてくれる雰囲気になったようだし、順を追って説明するからよく聞くように。質問は最後に受け付けるからそのつもりでな」


 とりあえず、門の傍でいつまでも話し込むのは通行人や門番の迷惑になるのでちょっと離れてから車座に座り、ギルド長からあった話をしてやった。





 ✝




 「んじゃ、この辺がだいたい最後の休息地になるから各自、水分補給と適度に食事を取るように。この後はしばらく気を張っておかないと危険だから、いろいろ済ませておくようにな」


 はぁ~とそれぞれ息を吐いて木の根や岩に腰掛け、水袋から水を飲んで休憩を始める。結局、依頼の話を聞いてシズらは着いてくることになった。依頼内容も離れた場所から敵地を観察し、その規模を調査するということ、そして報酬額が大きいのが決め手だったのだろう。


 まあ、よくよく注意して行動しないと危険であることには変わりはないんだけどっていうのは心中に秘めておく。今回の仕事でそういう部分にも気づいてくれればいいのだが。



 「ししょー。もう一度、今回の依頼内容について確認したい」


 「そうだな。じゃあ、要点だけおさらいしようか。ほかのみんなも休憩してていいから、耳だけは傾けておくように」


 みんなの注意が自分に向いたのを確認し、ゆっくりとした口調を意識して話し出した。



 「今回の依頼内容はオークが占拠している砦の戦力調査が主となる。砦内の戦力に関してはおれが直接確認しに行くとして、おまえたちに頼むのは砦周辺に野営しているオークの数とその配置、監視の役割をしているやぐらは渡した地図に記入するように」


 「話だけ聞くと簡単そうに聞こえますね」


 「そう思うだろ、シンイチ。だけどオークをなめたらイカンよ。あいつらは並みでもCランクの傭兵なら手こずるレベルだからな。Dランクのパーティーなら一体ならなんとかなる程度、複数なら全滅を覚悟しなきゃならない。つまり、ここまで言えばわかるよな」


 「俺たちのレベルじゃ、遭ったら死を覚悟しろってことですね」


 カズキの一言で空気が重くなる。それも仕方ないことであるが、士気が下がるのは好ましくない。



 「まあ、見つからなければ問題ない。それに近づいてきたら全力で逃げろ。そうすりゃまず捕まることはないだろう」


 「あの、オークの特徴について、もう一度確認していいですか?」


 シンイチが恐る恐る聞いてくる。まあ、その意味はちゃんと理解しているつもりだし、わざと明るく語ってやることにしよう。



 「オークは基本的に人間と同じ体の構造をしている。特徴的なのは肌が深緑色であること。身長の平均が2メートルほどで体格はやたらとゴツイな。顔は鼻がつぶれていて鋭い牙が生えているな」


 「それは、ししょーの後ろにいるような奴のこと?」


 シズが指をさしてようやく振り返る。するとそこには少し小高い位置からこちらを見下ろしているオークの姿があった。



 「そうそう、あれがオークだ。あいつは特に装備も充実してないし、刺青いれずみも無い。あれが一般的なオークだな」


 「レッレッレ、レイス先生。レイス先生がいるから、逃げなくても大丈夫なんですよね?」


 「そうだな、カズキ。この場は安心していいぞ。ちょっと対オーク戦の手本を見せてやるから、今後の参考にでもしてくれ。特にシンイチはよく見ておくように」


 「わかりました」


 「オマエラ、コノ俺ヲ前ニシテ、ズイブント余裕ダナ」


 「おう、悪いな。ちょっと付き合ってくれや」


 スラリと片刃の剣を右手で抜いて、もともと持っていた手斧を左に構えた二刀流で歩いてくる。対してこちらは特に武器を抜くこともなく、適度に脱力して近づく。



 「あの、レイスさん。その腰の刀は抜かないんですか?」


 「ん?それじゃ剣を使っているおまえの参考にならないだろ?」


 「ナメヤガッテ!!」


 怒りに任せて大振りしてきた右手を掴み、すかさずオークの側面に回り込みつつ足を引っかけて投げ飛ばし、剣を奪い取ってしまう。うん、あまり手入れはされてないようだな、と錆の浮いた刀身を眺めて思う。とりあえず、現在の立ち位置ではシンイチたちが危ないので回り込む。



 「この手法は参考にしないように。こっからが本番な」


 「ウガァッ」


 「オークはその体格からもわかるように力が強い。だから真っ向から打ち合いをするのは下策だ」


 振り下ろされる斧を横から叩いて打ち払う。この防御方法ならそんなに力は必要ないから、相手の力がどれだけ強かろうとも対抗することができる。



 「この打ち払いはどの武器でもやろうと思えばできる。それこそシズの持っているダガーでも可能だが、リーチの問題もあるから、やる時は気を付けるように」


 「フッ、ガッ、ハァッ!!」


 だんだんとオークの攻撃が単調になり、時にはフェイントを交えて振るわれていたのに今では大振りが多くなってきている。冷静に打ち合えばこの程度のオークならそこまで脅威ではないことが伝わればいいのだが……。



 「コノ、イイ加減ニ当タリヤガレ!」


 「ふむ、そろそろ頃合いだな」


 大振りしてきた斧に合わせて思い切り剣を叩きつけて体勢を崩す。たたらを踏んで前につんのめってきたオークの首がちょうどいい高さに降りてきたので返す刀でバットを振るように振りぬき、首を切り飛ばした。



 「ふぅ、ざっとこんなものかね」


 残心の態勢から力を抜き、オークの首があったところから鮮血が飛び散る前に離れる。剣に付いた血のりを振り払い、別に回収して金に換えるつもりもなかったので無造作に地面に突き刺して放置することにした。



 「とまあ、こんなもんだよ。少しは参考になるといいんだけど……。お~い、ちゃんと意識はあるか?」


 「あ、はい。レイスさんの剣技が凄すぎて、見とれていました」


 「おいおい、今回は特にシンイチの参考になるようにしたんだから、しっかりしてくれよ?」


 冗談交じりに笑いかけてやり、ほかのみんなにも視線を配る。カズキとメイは呆然としており、アヤは相変わらずぽや~っとしていてよくわからない。そういえばシズの姿が見えないが、どこに行ったのだろうと見回してみると、オークの死体の傍らにしゃがみ込んで何かをしていた。



 「何をしているんだ、シズ?」


 「死体から何か情報を得られないかと、調べていました」


 「それで、何かわかったか?」


 「わたしのダガーでは、身体に刃を通すのは難しそうです。やっぱり、筋肉の壁に阻まれて致命傷を与えれるほど、突き刺すのは無理ですね」


 なかなか良い所に目を付けている。ここまで自己判断できるなら教えがいもあるというものだ。



 「そういう時は脇の下を狙うんだ。特に左の脇の下を狙えば心臓を破壊することも可能だ。またこれは鎧を装備している相手にも有効だ。ここだけは防具で固めようにも無理だからな」


 「なるほど、勉強になります」


 「それに一番手っ取り早いのは後ろから取りついて首を掻っ切る。またはあごの下からダガーを突き刺してもいいな」


 「あの、レイスさん。講義はありがたいのですが、このままここにいても大丈夫なんでしょうか?」


 「ん?それもそうだな。よし、移動するとしようか」


 シンイチに促されて移動を開始する。ついでにオークの死体から首飾りを回収する。物によっては魔除けに使われる素材なんかもあるので、それなりの金になるのだ。これを売った金で今日の仕事が終わった後に飯でもおごってやるとしよう。





 ✝




 「さて、おれはちょっくら砦まで散歩しに行ってくるから、おまえらは森から出ないように調査をしてくれ。周りには十分注意して警戒を怠るなよ」


 「せ~んせ~簡単にゆうてはるけど、どうやって砦まで行くん?」


 「ん?どうって、普通に警戒が薄いところをこっそり侵入するんだよ」


 「それでも、結構むずかしそうですけど」


 おっかなびっくり、気に隠れるようにしてメイがオークの野営地を見ている。確かに天幕が点在していて、森から出てくる敵をいち早く発見するためのやぐらが一定の間隔を空けて設置してある。ただオークの砦にケンカを売ってくるようなバカはめったにいないせいか、見張りに立っているのは一体だけだ。



 「じゃあ、改めてここから別行動だ。決して無理はしないように。依頼の達成よりも自分たちの命を大事にするんだぞ」


 「はい、了解しました。ししょー」


 「レイスさんもお気をつけて」


 じゃあな、と軽く手を振ってあいさつし、すぐに気配を消して駆け出す。さすがに新人たちを長時間ほったらかしにしておくのは心配だ。さっさと終わらせて合流すべきだろう。





 「いつも通りと言えば、いつも通りなんだよな」


 だがどうしても今までとは違う雰囲気がするのは気のせいだろうか?嫌な予感を抱きつつ、5メートルはある砦の壁を登る。壁の上の通路に出る前にしっかり確認してから降り立つ。



 「さ~てと、軍備のほどはどうですかね~っと、おいおい今回は本格的に整えてきてるようだな」


 城壁の内側は結構広々としていて、砦のメインとなる建物との間はオーク同士が戦って訓練したり、外置きしていても大丈夫な資材や道具が置かれているものだが、今回はその一角にいつもとは違うものができていた。


 一見すると柵で囲まれて動物たちが入れられていることから食料用の家畜かと誤解してしまいそうになる。しかしながら柵の中にいるのはどう見ても狼にしか見えない。それも体長2メートルはありそうな様子から察するに禍々しいとも恐ろしい狼という意味で語られるダイアウルフに違いない。



 「ざっと数えて百といったところか。こりゃ早めに対処しないとダイアウルフに乗ったオークの騎兵が攻めてきそうだな」


 適当にちょっかいをかけて数を減らしておくのも手だろうが、おれも命は惜しい。野営しているオークと砦内にいるオークの総数を想像するだけで身震いがする。おれだけなら逃げることも可能だろうが、その時はこの近くにいる傭兵たちと都市がかなり危険なことになる。やるなら一度に、しかも徹底的に壊滅させてしまう必要がある。


 それからオークに見つからないよう、こっそりと砦内を歩き回って調査を行う。食料の備蓄状況とその保管場所、武器や防具の量、そして砦内にいるオークの数。区画ごとに数えていき、あとは大体で割り出すしかないが大まかな数が知れていればこちらもそれに応じて軍を編成するだけだ。


 とりあえず一通り見て回って調査を終え、あとは戻るだけとなったところで砦の外がにわかに騒がしくなった気がしたので城壁の上から荷箱などに隠れるようにしてそっとその方角に顔をのぞかせる。


 オークどもが何か獲物を捕まえてきて騒いでいるだけかと思ったら、どうもその獲物が問題だった。ようく目を凝らして観察していると、オークに担がれているのは人間のように見える。担がれているのはその一人だけで、他にはいないらしい。


 運の無いやつもいたものだと思ったが、どうもあの魔法使いの装束に身を包んだ少女には見覚えがあるような気がする。というかある。あれは野営地の調査をしていたはずのメイ以外考えられない。



 オークは種族的な特徴として、どうもメスが生まれにくいらしい。そのためよく他種族の雌をさらってきて子孫を残す、ようは子作りに励むらしい。それ、なんてエロゲ?とか思わなくもない。いや、エロゲとか知らんけど。エロはわかるけどゲってなんだよってね。


 この世界に来たとき、おれたち異邦人はもれなくそれ以前の記憶を失っている。だから思い出そうにも思い出せないのだ。まあ、それでも生活する上での知識だけは残っているのだが。ふとしたときに何か単語を思い出すことはあっても、それが何かまでは思い出せないことがよくある。なんだか懐かしいと思えるのだが、思い出せないものはしょうがない。それよりも明日を生きるために今日を頑張らなくては。



 と、現実逃避を交えつつメイが砦内に連れ込まれ、さらに建物の中へと運び込まれて行くのを追跡する。すぐに助けに行ってやりたいのはやまやまだが、いかんせんオークの数が多すぎる。人一人を抱えて逃走するのを考えたら、どうやっても秘密裏にこっそりと行う必要がある。


 それにすぐに襲われる心配もないだろう。どうもここのボスは現在、砦を留守にしているらしい。奴らは上の階級の者には絶対に逆らわない。その性質上、捕らえた雌をボスに差し出す前に手を出すバカはいない。


 

 「だから、この時を待っていたんだよね」


 捕らえた雌を監禁しておく部屋まで尾行し、部屋に入っていくのを確認してから見張りのオークに一気に忍び寄る。こちらに気づいて武器を構えるよりも素早く顎に掌底を繰り出す。ついでにガントレットに微量の魔力を流して仕込み刃を展開し、脳天まで串刺しにして絶命させる。


 次に部屋に入ったオークが扉から出てきた瞬間を狙って死体から奪った短剣で喉を一突き、声を出せないようにして何が起きたのか把握しきれていないオークの首の骨を折って止めをさした。



 「さ~てと、眠り姫様、助けに来ましたよ」


 特に外傷らしい外傷もなく、ただ気絶しているだけのメイを起こすべく癒しのルーン魔術を発動しながら肩を揺すった。



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