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何があろうと世界は変わらず続いてく

 さて、結論から言おう。おれは運良く生き残った。いや、この場合は運悪く、と言うべきかもしれない。


 その理由はこれ。首筋についたサーヴァント契約に基づく呪印と、その主であることを示す契約者の刻印が刻まれた右手の甲を堂々と見せびらかし、なぜか誇らしげな表情を浮かべているシズのせいだ。



 あの戦闘から3日、ようやくベッドから起きたおれは自分が生きていることに感謝しているが、これは無いだろう。百歩譲ってリンさんならまだしも、おれのマスターがシズとか有り得ない。どうして年下の、それも女の子に首輪を着けられなければいけないのか。


 しかも目覚めてからのシズの第一声が「これでいつでも一緒ですね。これからは付きっきりでアサシンに成る為に、ビシバシ指導をお願いします。ししょー!」なのだ。



 あまりの現実に絶句し、すぐさまリンさんの元へと向かった。あのとき最後に見た光景ではリンさんも居たのは覚えている。シズにサーヴァント契約の知識が無いのは明白なので、この術式を施したのはリンさんに間違いないのだ。


 そしてギルドへと顔を出し、後ろをちょこちょこ着いてくるシズとシンクをなるべく意識しないようにしながらリンさんの執務室へと踏み込み理由を問いただしたところ返ってきた答えが以下の通りだ。



 「お前は死に急ぐきらいが有り、今回も相手が魔人化を使ったところで逃げに徹するべきだった。しかしそうしなかったのは心のどこかで死に場所を求めているからに違いない。

 だからお前にいま死なれると私が困るから、ちょうど良かったので傭兵としては未熟なシズを主にすることで無茶をしないように、二重の意味で首輪を着けることにしたのだ。

 文句があるのであれば契約の条件であるシズを一人前のアサシンにするという契約を果たすことだな。

 では、私は忙しいので何も言うことがないのらさっさと出て行け。ああ、報酬は帰りに受付で受け取るように。これが交換の割符だ」


 そう言って木片を投げ渡され、シッシッと犬猫でも追い払うかのように執務室から追い出された。そして行儀よく執務室の扉の前で待っていたシズは中の声が多少なりとも聞こえていたのか、満足そうな表情を浮かべていた。


 それに対してどうにもならない現実にため息を吐き、シンクの慰めるような吠え声に余計に悲しくなった。


ああ、そうそう。最後にリンさんが言っていたが、ロビンは報酬を受け取るとさっさとエルフの森へと帰って行ったそうだ。その去り際にケガが治ったらあいさつしに来いと言っていたらしいので、そのうち顔を出すことにしようと思う。



 そして報奨金を受け取る。金額にすると敵の大将をそれぞれ討ち取ったことで金貨500枚近くになっていて、ずっしりと重いのをすぐさまシャドウ・ボックスに放り込んだ。あれだけの額を見たことがないシズは驚きに目を見開いていたのは少し面白かった。


 その後は図書館のオリヴィエラ先生にあいさつに伺い|(シズのサーヴァントになったと言ったら爆笑され)、オズにストライクキャノンを返して試験結果の報告を行って装備の手入れをしてもらい、そのまま宴会をして朝を迎えた。


 装備の手入れをしているときも宴会のときに酒を飲んでいるときも、サーヴァント契約したことをネタにオズには散々に笑われた。また、2人で飲んでいた火酒に興味を持ったシズが一口飲んで酔い潰れ、シンクはつまみだけを食うだけ食ってシズと一緒に寝ていた。オズの面倒なからみを躱しながらそれを眺めていると少しだけ癒された気分になったのは秘密だ。



 そうして二日酔いで潰れたシズが回復したのは翌日で、シンイチらと宿で合流して近況を報告し合い、今に至る。



 「カズキ、右をお願い。シンイチはそのまま2体抑えておいて。メイは隙を見て魔法で仕留めて、アヤはメイの傍を離れないで周囲を警戒して」


 決して大声を出している訳じゃないのによく通る声でシズが指示を出し、それぞれが自分の役目を全うする。シズ自身もゴブリンを一体相手にしながらだから、あの戦争を切り抜けてよく周りが見えるようになっているようで成長を感じられるのは指導者として嬉しい限りだ。


 そしておれはどうしているのかと言うと手近な木に登って枝に座り、戦況を眺めているだけで戦闘に参加する気は全くない。それにおれとこいつらでは傭兵としてのランク差が有り過ぎて、ギルドからの依頼を受けるときも自分が戦闘に参加しないことを条件に通常通りの報酬額を受け取ることができることになっている。


 これはリンさんと強制契約文書を交わしているので、もし受付で嘘の報告をすれば3日間右腕が麻痺することになっている。ただしこれには唯一穴が有り、このパーティーの誰かに命の危険があると判断した場合のみ、戦闘への参加が認められている。



 「ああ、今日も良い天気だなぁ。なあ、シンク。おまえもそう思うだろ?」


 ワフゥ~と寛いだ声で鳴くシンクを膝に抱き、頭を撫でながら木漏れ日が差す頭上を仰ぎ見る。下では未だに戦闘が続けられているが、ここに来るまでもゴブリンを相手に十分にマージンを取って戦えているから、よっぽど油断しなければ死ぬことはないだろう。


 あまりに暇さ加減にあくびを噛み殺していると下でも動きがあったのか、シズがメイの援護を受けて仕留め、シンイチが受け持っていた1体の背中に狙いを定めている。カズキも槍を巧みに扱い、ゴブリンを討ち取るのは時間の問題だろう。



 あんな戦争を経ても、やることは何も変わりはしない。モンスター共の砦を潰したところでその大元であるモンスターの脅威がなくなることはない。強力な敵を倒したところで世界が平和になることはないし、今を生きる自分たちには幸せに暮らしました。めでたしめでたし、なんて終わる訳にはいかない。幸せに生きる為に街の住民は仕事をし、兵士は訓練を重ねて防衛に尽力する。


 そしておれたち傭兵は戦争が無くなればモンスターを狩りに行き、前人未踏のダンジョンや土地を歩いて価値のある資源や宝を探し、日々の糧を得る。


 そうやって人々の営みは、その理由がなんであれ人類の終わりを迎えるまで続いていくのだろう。



 「ししょー!こっちは終わりました。もう少し行った先の河原で休憩を取ろうと思いますので、そこで気付いたことなどのアドバイスをお願いします」


 「ああ、はいはい。わかったよ」


 首筋の呪印を隠すための赤いマフラーを直し、シンクを抱いて木から飛び降りる。そして待っているみんなの顔を順に眺め、最後に口元を黒いマフラーで隠したシズと目が合う。このマフラーを着けることにしてからやたらと機嫌が良いように見えるのは、おれの気のせいではないだろう。



 「せ~んせっ、どや?ウチらも結構やるようになったやろ」


 「そうだな。あの猪突猛進娘のアヤが前に出ずにしっかりと自分の役割を自覚したのは大きな進歩だな」


 えへへ、と笑うアヤの頭を撫でると、誇らしげに胸を張るのを苦笑して見送る。



 「メイも的確に魔法を使えるようになったな。このまま精進を続ければ、そのうち大魔法使いと呼ばれる日も近いかもな」


 「あ、ありがとうございます。あの……もう少し魔法が上手くなったら、レイスさんのルーン魔術を教えてもらえませんか?」


 「そうだな。もう少し魔法を思い通りに扱えるようになったら、ルーン文字の意味から教えてやろう」


 「はい!よろしくお願いします!」


 まさしく花が咲くように、と表現してもいいくらいに不安そうな表情から一変して笑顔を見せるメイに癒される。



 「だったらレイス先生、俺にも槍の稽古をつけてくれよ!」


 「あ、それ僕もお願いします!片手剣と盾のコンビネーションについて、もっと上手くなりたいんです!」


 「それだったら明日からもう少し早起きしてこい。朝から鍛錬してるから、その時だったら相手をしてやる」


 よろしくお願いします!と声を合わせて返事をするカズキとシンイチに苦笑交じりに息を吐き、訓練メニューをどうしようかと考えながら歩いていると、隣にシズが並んで顔を覗き込んできた。



 「シズ、おまえはみんなと話さなくていいのか?」


 先を歩く4人を見やると、カズキとシンイチは周囲を警戒しながら先ほどの戦闘について意見を交換している。アヤとメイはシンクを交互に抱きながら可愛がって話に花を咲かせているようだ。



 「わたしは良いのです。それよりししょー。みんなにはいろいろ教えて、弟子でありマスターでもあるわたしには何も教えない、なんて意地悪は言わないですよね?」


 「わかっているよ。ちゃんと教えてやるよ。そういう契約だからな」


 「契約だから、仕方なく教えてくれるんですか?」


 うっ、と思わず呻いてしまったのは涙目で見つめてくるシズを見てしまったからだ。



 「ああくそっ。そうじゃなくて、だな……」


 「そうじゃなくて……。なんですか?」


 「その、おまえは命の恩人でもあるし……」


 「あるし……?」


 いつも以上に意地悪なシズに妙な迫力を感じつつ、ああもうっと頭を掻き毟る。こういうことで悩むのは性に合わない。



 「とにかく、シズにはこれでも恩を感じてるんだ。それに、おまえにはおれのようにはなってほしくはないからな。いざという時に己の無力さに涙しないよう、みっちりと鍛えてやるさ!」


 「はい!よろしくお願いします!ししょー!」


 「おう、任せとけ!」


 ガシガシと照れ隠しにシズの頭を乱暴に撫で繰り回し、ちょっとだけ気持ちがスッキリした。久しく誰かと一緒に行動するということはなかったが、リンさんはおれにもう一度仲間を作る機会をくれたのかもしれない。




 これはどこにでもある。そしてどこにでもいる、ある1人の男とそれに着いて行く少年少女の物語である。

と言うことで首狩り男と新人共、最終話を無事に迎えることができました。


何気にこの作品が完結した初作品だったりします(笑)


少しでもこの作品が皆さんの暇な時間を潰すのに役立ってれば幸いです。


それでは、今までご閲覧ありがとうございました。


よろしかったら自分の他の作品を見てやってください(笑)


Ps.ご感想など頂けましたらこれからの執筆活動の励みになりますので、「しょうがない。書いてやるか」という心優しい人をお待ちしております。

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