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ルーキーズの戦争

 Sode:シズ


 シンクを残し、リンさんと話をしてマントの人と去って行く師匠の背を見送る。ギルドの後から師匠と話す機会はなかったけど、戦闘が始まる前に話すことができて良かった。あのとき言われたことについて、いろいろと考えたけどまだ答えはでていない。



 「みんな、ししょーの言葉通り、生き残ること最優先に行動しよう」


 「そうだね。もう少しで戦場に着く。各自、装備の最終点検をしておこう」


 シンイチの言ったことに頷き、ダガーや投げナイフの位置を確認する。荷物は最低限の物しか持ってきていないので身軽なものだ。皆それぞれ点検が終わり、周りの先輩方に倣って森の向こうに見えるオーク砦を見据える。


 日が昇り始め、山の稜線からうっすらと光が漏れてきている。それに合わせて大地を蹴る蹄の音が聞こえてきた。


 

 「さあ、先ずは辺境軍のお手並み拝見だな。騎兵隊と魔法使い、弓兵による先制攻撃だ」


 いつの間にか近くにきていたリンさんが呟いたように2人乗りした騎兵が街道から突撃して一気に展開、魔法使いがファイヤーウォールを唱えて上空に炎の幕が広がる。そこに向けて弓兵が一斉に矢を放ち、ファイヤーウォールを突き抜けて火矢となり、天幕に刺さって燃え上がる。



 「すげぇ……!!」


 「防御用のファイヤーウォールの魔法をあんな風に使うなんて」


 カズキとメイと同じで、本当に凄いと思う。本来の用途とは違うやり方を考え、実際にそれを運用して戦果を上げる。あれを考えた人は本当に天才なんじゃないかと思う。



 「あれを考案して最初にやったのはレイスだよ。もともとは火種が無いところで火矢を射かけようとしたのが始まりだったかな。でも、矢羽や木の部分が燃えないように加工しないといけないから、コストを考えるとあまり多用はできんがな」


 リンさんの説明に耳を傾けていると、今度は大勢の足音が聞こえてきた。千人にも上る人間が大地を踏みしめ、隊列を崩すことなく突撃を開始する。



 「「「「ウオオオオォォォォオッ!!!!!」」」」


 鬨の声を上げ、辺境軍の兵士たちが槍部隊を戦闘に突っ走る。天幕から慌てて出てきたゴブリンやオークがひとたまりもなくひき殺されていく。



 「これ、辺境軍だけでも勝てるんじゃないか?」


 「だったら傭兵なんか雇ったりしないさ。そら、敵も本腰を入れてきた。両翼のクランが動くぞ」


 砦の正門を開け放ち、オークとゴブリン、それにスケルトンの軍勢が展開される。こちらの方にはゴブリンがメインのモンスターが向かってくる。その後ろにはホブゴブリンとオーガがゆっくりと近づいて来る。



 「さあ、お前たち!一気に食い散らかすよ!!」


 「「「「おおっ!!」」」」


 ノブナさんの声に応じるように、声の限り叫びながら戦国同盟のメンバーが襲い掛かって蹴散らしていく。それに続く形で野良パーティーの傭兵たちが駆けていく。



 「ぼ、僕たちも行こう!遅れるな!」


 「おう!」


 「しゃーっ、頑張るでぇ!」


 「うんっ」


 この勢いに遅れまいと剣を抜いてシンイチが駆け、それに続いて槍を構えたカズキが続く。アヤはメイを気にかけながら走り、離れないように2人で着いていく。わたしも短弓に矢を番えて追いかける。


 シンイチがゴブリンを一刀のもとに切り殺し、カズキは勢いに任せて突き殺す。横合いからカズキに迫ったゴブリンにメイがファイヤーボールの魔法を放って仕留める。



 「シャアッ」


 「えい!」


 メイに襲い掛かろうとしたゴブリンに矢を放ち、腹に突き刺さって怯んだところへアヤがハンマーを振り抜いて頭蓋骨を陥没させて撲殺する。次の矢を矢筒から引き抜き、番えながら目を配る。



 「シズやんナイスアシスト!って、後ろ!?」


 「っ!?」


 アヤの警告に振り向くと、オークが剣を振り上げながら迫っていた。咄嗟に矢を放つも剣で弾かれ、返す刀で切り上げられた剣を間一髪で避けるも足元に落ちていた誰かの剣を踏んでバランスを崩して尻餅をついてしまった。


 あ、これは死んだな。そんな考えが頭を過ぎったが、それでも目だけは逸らすまいと見開く。ダガーを抜いても間に合わない。それでもどうにか生き残ろうと体を動かそうとしたそのとき、横から元の大きさに戻ったシンクがオークの首に食らいついて引き倒し、喉笛を噛み千切って仕留めてしまった。



 「シンク、ありがとう」


 「ウォンッ」


 まるで気にするなとでも言いたげに吠え、周りを威嚇するように唸り声を上げて睨み付ける。そんなシンクの威容に恐れを為したのか、オークもゴブリンも物怖じして近づこうとしない。その間に立ち上がって弓を拾い、矢を番えて周りを警戒する。



 「シンイチ、いったん戦国同盟の人たちと合流しよう。少し孤立してきてる」


 「わかった!下がりながら右の方へ!カズキ、近づけさせるなよ!」


 「了解!おらおら、死にたくなかったら下がりやがれ!!」


 槍を振り回して牽制するカズキ。殿を務めつつ、ゆっくりと下がるシンイチ。前の敵は2人がカバーし、それ以外の場所はシンクが時折飛びかかって蹴散らしていく。そうして移動していると近くにいたパーティーから声が上がった。



 「気をつけろ!ダイアウルフに乗ったオークが攻めてきたぞ!!」


 「ワイバーンも出てきやがった!いったん下がれ!でないと死ぬぞ!」


 見るとオークの騎兵が辺境軍に襲い掛かり、蹂躙していく。何人もの兵士が倒れ、屍が積み重なる。さらにワイバーンの竜騎兵が3騎、それぞれの軍へと襲い掛かってきた。



 「走れ!少しでも離れるんだ!」


 シンイチに言われずとも、体が先に動いていた。やはり本能的な恐怖には耐え切れなかったということか。それでも周りを見ると同じように走っている傭兵たちがいる。そのことにこれは恥ではないと安堵しつつ、それでも戦国同盟の人たちは迫ってくるワイバーンに怯むことなく、むしろ気にも留めずにただ目の前の敵を屠っていく。



 「なぜ?」


 つい、言葉に出てしまった疑問は次の瞬間に鳴り響いた雷の音にかき消された。



 「うそ……」


 「あれはノブナさんがやったのか?」


 突如おきた落雷に打たれてワイバーンが墜落し、それに群がって息の根を止めにかかる戦国同盟の人たち。その中心には大剣をワイバーンの額に突き刺して確実に殺しにかかっているノブナさんの姿があった。



 「さあ、ワイバーンを討ち取ったぞ!一気呵成に攻め立てよ!!」


 ノブナさんの号令に勢い付いた傭兵たちがさらに激しく攻勢に出る。こちらに向かって辺境軍を突き破ったオークの騎兵が駆けてくるが、一斉に放たれた何十という魔法が吹き飛ばす。


 オークやダイアウルフの体の一部が飛び、周りはもうモンスターと傭兵の屍が散乱していてひどい有り様だ。鉄さびのような血の臭いに鼻がおかしくなりそうだ。



 「これが、戦争」


 戦場の高揚感に酔って気にも留めていなかったが、ふとこうして常識外れのことに遭遇して我に返ると気分が悪くなって吐きそうだ。



 「やあ、ルーキーども。元気に働いているようだな」


 「あ、リンさんや~。お疲れ様ですぅ」


 「ああ、お疲れさまだね、アヤ。どうだ?初めての戦場は?なんともひどいものだろう?」


 「はい、とても。うぅっ」


 気持ち悪そうにしているメイの背中を擦りながら、まだ戦っている先輩たちを見る。ワイバーンをノブナさんが落としたことで士気が上がったのか、押せ押せムードで前線が上がっている。たまにこちらに向かって矢が飛んでくるが、途中で風に吹き散らされて落ちてしまう。たぶんだけど、リンさんが風の魔法を使って防いでいてくれているのだろう。



 「君たちはこれからもこういう戦いに身を置くことになる。この凄惨な光景を目に焼き付けろ。そして常に念頭に置くんだ。ここで君たちやほかの傭兵、辺境軍が敗れれば、目の前に広がる屍の山はあの要塞都市の人たちだということを。そうさせない為に、我々は戦っているのだと誇りに思え。そうすればそれが戦う勇気となる」


 リンさんに言葉に耳を傾け、言われたようにその光景を想像する。都市で出会った人々の生活を守るため、そう思えば少しだけ力が湧いてくる気がした。



 「さて、いつまでも立ち話をしていては埒があかない。私は先に進むが君たちはどうする?」


 「僕たちも行きます!」


 「ああ、先輩たちに負けてらんねぇぜ!」


 気炎を上げる2人に、なんとか気を持ち直したメイが頷く。アヤはハンマーを肩に担いでやる気に満ちた表情をしている。わたしもマフラーで口元を隠しつつ、戦場の真っただ中を見つめて戦う意志を固める。



 「よろしい。では、着いてきたまえ」


 散歩にでも行くような気軽な足取りでリンさんは進み、歌を口ずさむような調子で呪文を唱えて魔法を放つ。近寄ってくるオークは杖でさばいて迎撃し、殴って蹴って沈ませる。



 「ふふん。準備運動はこれくらいにして、そろそろ本気でいくとしようか。それにレイスの方も始めたようだしな」


 「あれは!砦の方から煙が上がっているぞ!」


 「ししょぅ……」


 カズキが言った通り、砦の裏手に黒煙が立ち上っているのが見える。あれがそうなのだとしたら、師匠たちは敵軍の本拠地で派手に戦っていることになる。無事でいてほしい。遥かに実力が上であることをわかっていても、そう願わずにはいられない。


 その想い胸に、前線を突破して迫る敵に狙いをつけて弦を引き絞った。







 ✝






 Side:レイス



 「あの階段の先が最上階だ。気を引き締めろ」


 「無論だ。決着をつけるぞ」


 スケルトンの頭骨を砕き、オークの首を切り飛ばす。少しでも蘇りの可能性を無くすため、首を落としていない相手はあえて生かしておくか、手足を切り落とすなどをしておく。アンデッドを相手にするにあたってもっとも気を付けないといけないことは、殺した相手がゾンビとなって襲ってくるのを考慮して仕留めなくてはならないことだ。


 階段を上りきった瞬間、ファイヤーボールの上位魔法。フレイムランスが殺到したのを跳んで回避する。ロビンとは逆方向に行ってしまったので上手く分断されてしまった。



 「ガハハッ!ヤハリ、コチラニ来タカ!」


 「お前なら前線に出て大暴れしていると思っていたのに、予想が外れて残念だよ」


 「オ互イニ探ス手間ガ省ケテ良カッタダロウ?サア、今日コソ貴様を殺シテ刀ヲ奪ワセテモラウ!」


 剣を両手に構え、今にも飛びかからんとしているデッドマンズ・ソードのガルド。ロビンの正面には赤い肌の大鬼。レッドオーガが重厚な鎧に身を包み、両刃のバトルアックスを肩に担いで睥睨している。あいつがゴブリンたちを率いてきた大将なのだろう。


 そして、その2人の中央。一歩引いた位置で杖をつき、黒いローブを身に纏った骸骨が偉そうに立っている。眼窩には赤い光が灯り、不吉なものを想像させるその姿は死を振りまく象徴のようだ。



 「ふん、人間ごときがここまで辿り着くとはな。だが、ここで死ね。殺して我が下僕に加えてやろう」


 声帯もないのにどこから声を出しているのか?そんな疑問も思い浮かばないほど、怖気が走るような声に身を震わせる。これだから不死族のモンスターとは関わりたくないのだ。



 「死にぞこないごときが偉そうに。すぐに首チョンパして火葬してやるよ」


 シャドウ・ボックスからハルバードを取り出し、一振りして構える。ロビンもミスリルのショートソードを構え直す。



 「ほざいたな人間。やれるもんならやってみろ!」


 「ハハッ。ソンジャ始メヨウカ!!」


 「ウオオオォッ!!」


 魔法を放つために詠唱に入るリッチ。嬉々として襲い掛かってくるガルド。咆哮を上げるレッドオーガ。


 こちらは2対3と不利だが、それでもここに、決戦の火蓋が切って落とされた。



え~、この話を書くにあたって千文字単位で保存に失敗すること数回。書き直しのたびに文章が変わり、心が折れかけました。


それでもこうして更新できて良かったです。


さて、次回からはレイスたちの戦闘に戻ります。


自分が思い描いているラストに向けてどうやって持っていくか、未だに考え中ですが納得のいくものにしますのでどうかお楽しみに。


では、失礼いたします。

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