海賊船の秘宝
「それで、これからどうするんだ」
フレッドの言葉に僕は答える。
「今から、海賊船を探しに行く」
「でも、海賊船はさっき……」
「君たちも見ただろう? 僕に倒された人たちの姿が、その場で消えていくのを。あれはきっと、幽霊船だ」
僕はそう言って、シャツの襟元を整えてから立ち上がる。
「この下に、本物の海賊船が沈んでいるはずだ。だからそれを見つけないといけない」
「でもどうやって……」
「だからそれを今から……」
僕がそう言いかけた、その時だった。
緩やかな波が押し寄せて、あたりが少し揺れた。しかし、先ほどのような激しさはない。見ると、海の底から真っ黒な影が浮かび上がる。そしてそれは大きな水しぶきを上げて、僕たちの前に姿を現した。
それは先ほどの夢の中で僕が見たものと同じ。サーヤがいた、海賊船だった。かなり古びてはいるものの、ほとんど当時と同じであろう外観をとどめていた。船の底の方には淡い色のサンゴがあしらわれている。
しばらくの間僕たちは、ただ圧巻としかいうことのできないその風景を眺めていた。何度か波が揺れて、僕たちがのる船を揺らした。
「じゃあ、入ろうか」
僕が呼び掛けると、二人も頷いて後に続いた。僕たちは海賊船の甲板に降り立って、下へと続く階段へと向かう。
不思議と中には、水は入っていなかった。僕は広い船内を、手当り次第探索しながら前へ進む。
すると角を曲がったところで、目の前に十何人もの海賊たちが現れた。彼らは僕たちに気付いたかと思うと、それぞれ武器を持って僕たちの方に向かってくる。
「危ない!」
僕は二人の前に立ちはだかると、懐からナイフを取り出して投げ放つ。相手は一瞬にして消え、ナイフがカラーン、と床に落ちる音があたりに響き渡る。しかし、あまりにも数が多い。僕は上着の反対側にしまっていた鎖を取り出すと、盾のようにして目の前に広げる。するとこちらに向かっていた敵が、一瞬足を止めた。僕はそのまま鎖を大きく動かすと、彼らの体をからめ取った。鎖に締め上げられて、彼らの体は砂になって消えていく。行き場を失った鎖が、地面に崩れ落ちる。
「カミーユ! どいとくれ!」
後ろを振り返ると、そこにはどこから持ってきたのかアンナが大きな樽を、フレッドが缶詰やら食料品が入った箱を持って立っていた。アンナが海賊に向けて勢いよく樽を転がすと、相手は大きく隊列を乱してぶつかり合う。そこにフレッドの投げた缶詰が、見事に彼らの体にヒットしていく。
「カミーユ! 俺たちも手伝うぜ!」
「あたしたちだってやるときはやるんだよ!」
フレッドとアンナが勇ましい顔で僕に呼びかける。僕はうなづくと、また敵に向けてナイフを放った。
一体何人倒しただろうか。僕たちは息を切らしながら、古びた廊下をただひたすらに進む。
すると一番奥に、ある部屋があるのを見つけた。ドアの大きさが、他の部屋よりも一回り小さい。僕はゆっくりと、そのドアを開けた。
僕が泊まっている部屋の半分くらいしかない、とても小さな部屋だ。何だかここだけとても静かで、神聖な雰囲気すらある。そして奥には、一人の少女が壁にもたれかかって眠っていた。
「サーヤ」
僕は彼女に呼びかける。すると彼女は少し瞼をふるわせた後、ゆっくりと目を覚ました。
「君は、気づいてほしかったんだね」
彼女は何も答えなかった。まだ少し、意識がもうろうとしているようだ。
「そうだろう? サーヤ」
サーヤはこくりと頷くと、床に手をついて立ち上がる。
「私は、誰かに見つけてほしかったの。ずっとここで眠っているのは、嫌だったから」
サーヤの言葉に、僕は答える。
「そうか。でもならどうして、僕を呼んだんだい?」
僕がそう言うと、彼女は少し間を置いてから答えた。
「あなたなら、見つけてくれるような気がしたから」
そして、ふと僕の方を見つめる。
「ただ、それだけよ」
サーヤはそう言って、ドアの方へと歩き出す。
「渡したいものがあるわ。ついてきて」
そう言って彼女は部屋の外に出る。後ろからは、フレッドとアンナが追いかけてきていた。僕たちは一緒に、彼女の後について船の中を歩く。しばらくすると、倉庫の前にたどり着いた。サーヤがゆっくりと、重いドアを開く。
するとそこには、船の中とは思えないほどの広々とした空間。そして何百本ものワインボトルと酒樽が、部屋いっぱいに敷き詰められていた。
「何だ、これは!?」
フレッドが思わず声を上げる。
「どうりで、金属探知機じゃ反応しないわけだ」
僕はあたりを見回した。
「すごいねえ。これは資料としても、ものすごく価値のあるものだよ」
アンナがワインボトルに近寄りながら言う。
「この船の秘宝とは、まさにこのことよ。もっとも、多くの人は金銀や宝石と勘違いしていたようだけれど」
サーヤの言葉に、僕は思わず笑顔で応える。
「ははっ、僕もそう思ってたよ」
するとサーヤは何も言わずに、ふっ、とほほ笑んで見せた。
「じゃあ、行きましょう」
サーヤがそう言って、部屋の入口の方に足を向ける。
「行くって、一体どこに?」
「あの島に。私、会いたい人がいるの」