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冒険と無人島の謎

 次の日の朝目を覚ますと、僕は真っ先に港へと向かう。昨日乗った船よりかなり小さいやつに乗って、例の海賊船が沈んでいるという海域へと進んだ。

 僕は甲板に出て、外の様子をうかがう。空はすっかり晴れていて、絶好の怪盗日和だ。僕はオリジナルの金属探知機で海の中を探る。しかし、さっきから全く反応がない。ポジティブかつしぶとい僕でも、さすがに投げ出したくなる。やっぱりもう少し調べてから来るべきだったかな。 僕がそう思っていると、どこからか聞き覚えのある声がした。

「おい! カミーユ!」

 振り返ると、そこにはフレッドとアンナがいた。

「君たち……! どうして、ここに」

「どうしてって、お宝を探しに来たに決まってるだろ」

 そう言ってフレッドが遠い景色を指差す。

「あの向こうにある無人島が、絶好のお宝スポットっていう話を聞いてな。それでいてもたってもいられず、探しに行くことにしたってわけさ」

「もしかしたら、海賊船もその近くに沈んでるかもしれないしねえ」

 フレッドはアンナの言葉に頷くと、先の曲がった長い棒を取り出して見せた。

「そうだ。それでこれを使って、お宝を引き上げよう、ということさ」

 するとそれを見てアンナはふう、とため息をつく。

「そんな古典的な方法で、本当にうまくいくのかい?」

「そ、そうかもしれないけどよ。やってみないと分かんねえだろ?」

 確かに、いたって単純な方法だけど。でも僕が金属探知機で見つけられなかったんだから、そっちの方がいいかもしれない。無人島にも、すごく興味があるし。

「分かった。それじゃあぼくも一緒に行ってもいいかい?」

僕が尋ねるとフレッドは満面の笑みで答えた。

「もちろんさ! それじゃあ行こうぜ」

 

 それからしばらく海を進むと、例の無人島にたどり着いた。陸に降り立ってから、ぐるりと辺りを見渡す。人のいる気配は、まるでない。

「本当に、何もないところだねえ」

「それどころか、人が来た痕跡もほとんどねえぞ」

 アンナの言葉にフレッドが答える。僕は少し離れたところに立って、手で太陽の日差しをさえぎりながら声をかける。

「とりあえず、少し島の様子を見てみよう。もしかしたら、誰かに会えるかもしれないし」

 こうして僕たちは島の探索をすることになった。

 

 僕たちは島の東側にある森の中を、ただひたすらに歩く。足元にはびっしりと草が生え、頭上からはたくさんの鳥の鳴き声が聞こえてくる。ここにいると、海の向こう側がレベッカの港町だということを忘れてしまいそうだ。

 どれだけ歩いただろうか。僕たちは疲れたので、少し岩に腰かけて休むことにした。しばらくしてふとガサガサと音がしたかと思うと、近くの茂みから何者が現れた。

 見ると、年老いた女性が杖をついてそこに立っていた。

「ここに人が来るなんて、珍しいですねえ」

 老人は目を細めると、しゃがれた声で口を開く。

「あなたは?」

「私はこの島に住んでおるものです」

僕の問いかけに、その人が答える。

「まさか。こんな場所に、住んでいる人がいたとは」

 確かここは、無人島だと聞いていたはずだけど。見ると、隣にいるフレッドとアンナも、驚きを隠せない表情をしている。老人はそれを気に留める様子もなく、淡々とした調子で答える。

「人の多い場所は、向かないものですから。それであなたたちは、どうしてここに?」

 するとフレッドが、横からいきなり口をはさんだ。

「俺たちは、この辺りにあるっていう沈没船を探しに来たんだ!」

 初対面の人にこんなことペラペラしゃべって、大丈夫だろうか? 僕はそう思って老人の方を見る。すると老人はそれを聞くと、なぜだか急に暗い表情に変わった。

「沈没船、ですか……」

「どうしたんですか?」

 その人はしばらくの間口をつぐむと、思いつめたような顔で口を開いた。

「やめておきなさい」

「な、何でだよ!」

 フレッドが勢いよく声を上げる。すると老人は少し考え込むような仕草をした後、ためらいがちに口を開いた。

「実はその海賊は、今も生きているという噂があります」

「何だって?」

 その言葉に、それまで黙っていたアンナが思わず声を上げる。フレッドは声すら出さず、驚いた表情で老人の方を見つめていた。僕も、信じられない気持ちだった。だってずっと昔に沈んだはずの船に今もなお海賊がいて、海を渡っているなんて。老人はこちらの反応をうかがってから、僕たちに向けて言い放った。

「このあたりにはもう、近寄らない方がいい。あなたたちも、早くお帰りになったほうがいいでしょう」

「でも……!」

 フレッドが何かを言おうとして口ごもる。僕は腑に落ちない気持ちで、老人に尋ねた。

「じゃあどうして……あなたはここにいるんですか?」

 すると老人は一瞬ハッとして、僕の方に目を向けた。そしてそれから、厳しい表情で下を向いて黙り込んでしまった。僕はそれを見て、体をこおばらせる。まずい。これはきっと、聞いてはいけない質問だった。

 その様子に気付いたアンナは笑みを浮かべると、その場を取り繕うように口を開いた。

「まあ、あんたがそこまで言うなら、考え直してみるよ」

「そうしてください」

 そう言うと老婆は先ほど来た茂みの中へと消えて行ってしまった。


 それから僕たちは島の反対側へと向かった。青い空、白い雲。そして、どこまでも続く青い海。こうしていると、先ほどの話などまるで嘘のように思えてくる。

「見つかんねえなあ」

 フレッドが先ほどの棒で海を探りながら言う。

「まあ、今日は情報が得られただけでも良しとしよう。成果が得られないことなんて、ハンターには日常茶飯事だからね」

 アンナがそう言って遠くを見ながら、ふう、とため息をついた。

 僕たちは船に乗って、港へと戻る。二人とも疲れているのか、それとも先ほどのことを考えているのか、口数は少ないままだった。


 宿に着くなり、僕はベッドの上にあおむけに寝転がる。無機質な部屋の白い天井を見上げながら、僕は今日のことを思い返していた。

 もし、海賊たちが今も生きているとすれば? さすがの僕でも、今まで海賊と戦ったことはない。お宝の入手は、かなり難しくなるだろう。 

 でも。どうしてだろう。こんなにも胸が高鳴るのは。あの老人の話を、完全に信じたわけではない。でも。海賊というものに、会ってみたい。海賊船を、この目で確かめてみたい。僕はそんな気持ちでいっぱいだった。こんなときでも、僕はわりと余裕だな。僕はそう思って、そっと目を閉じる。そしてそのまま、深い眠りへと落ちていった。


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