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ある日の帰り道にて

作者: 瓜路降

目の前を女の人が歩いていた。

見たところ20代の半ばというところだろうか。髪はやや茶色ががった黒のロング。腰に届きそうなほど長い。服装は白をベースにした大人し目な格好。あいにくファッションには詳しくないので具体的に言いようがない。

そんなことより、そんなことよりだ。何よりも大切なことが、何よりも気にするべきことがある。身長だ。

目の前にいる見ず知らずの彼女は、あろうことか、僕よりも背が高いのだ。

何を言っているんだこいつは?と思われるだろうが、まずは黙って聞いて欲しい。この戯れ言を。この赤裸々を。

確かに僕は同じ男子の中でも身長が高い方ではない。周りの180センチを越える山のような奴らを見上げてはいつか3776メートルになってやるという誓いを牛乳に立てているものだ。だからといってシークレットブーツが欲しくなるほどでもないし、せいぜい写真に映る時に踵を上げるくらいだ。

まあそりゃあ、世間には和田アキ子を筆頭として平均身長を底上げしている女性もいるのだろうけれど、女性は皆小さくて可愛い存在であるだなんて男尊女卑が凝り固まったような思想を振りかざす気は無いけれど、僕にだって一応男としての矜持がある。ええかっこしいで見栄っ張りな感情は確かに持っているのだ。

別にすれ違うだけならいい。一瞬ちらりと見て背が高いなぁ、スラリとして綺麗だななんて思う心の余裕もある。けど、今は完全に見てしまった。そして感じてしまった。あ、負けたと。

一度敗北感を持ってしまうとなかなかそれを払拭できない。劣等感もついてきて、どうして僕はこんな中途半端な身長なんだとやさぐれてしまう。

あれ?何か違和感がある。

その正体はすぐに分かった、目の前の彼女が揺れているのだ。少し足取りが安定していない。どうしてだろうと思いよく見ると、どうやら携帯を触りながら歩いている。いわゆる歩きスマホだ。

画面に集中して他のことがおろそかになる。現代におけるスマホの普及率は凄まじいものがあり今では大抵の人が持っている。その中には今のようにどこでもいじってしまう人はいるのだろう。マナーとしてはあまり誉められたものではないが。

一つ名案が浮かんだ。

今の彼女になら膝カックンが通用するのではないか。

あの無防備な膝を軽く押すだけで意識が別のところに行っている彼女は簡単にこけてしまうだろう。スラリとした足は折りたたまれ、綺麗な髪は乱雑に舞い、たおやかな背中は視界から消え、頭は天から遠ざかる。

それを想像した僕は喜びに浸る。空しい勝利。逞しい妄想。所詮すべて絵空事。だけど僕には確信できた。だから勝ちなのだ。この仮定には確かに価値があって敗北からの課程があるからこそ逆転した時のやりきった感は尋常じゃないのだ。

僕は小さくガッツポーズをして意気揚々と彼女を抜かして通り過ぎた。

少しして後ろを振り返ると彼女は心なしか小さく見えた。

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