ついに誕生日です
ついにアルベルト様の誕生日です。
魔王様にお会いするのでいつものシンプルなドレスではなく、胸元に大きなリボンと小さな薔薇をあしらい、腰から裾にかけてパールやフリルが沢山付いた豪華なピンク色のドレスを着ています。
お城の中には沢山の女性達がいて、色んなドレスを着ているためカラフルです。でも黒いドレスと紅いドレスの人はいません。
魔王様の瞳と同じ色のドレスを着れるのは魔王様の妻と女性の側近のみです。もちろん次期魔王様のアルベルト様と同じ色もです。
今回、アルベルト様から紅いドレスを送られた時はドン引きしました。もちろんすぐに転移で送り返しましたが。
そんな事を思い返していると声をかけられました。
「リリアンヌ。ここにいたのか」
晴れた空の様な青い髪に、同じく青い瞳の渋めのおじ様。私の父、エドガー・ローレシュタインです。
「お父様。なぜこちらに…」
魔王様の近くでなくてよいのですか。側近ですよね。
そんな事を口には出さず心の中で留めました。
「もうすぐ魔王様が広間にいらっしゃる。お前もこちらに来なさい」
手を繋がれ奥の方へ連れていかれそうになり、
「ご挨拶なら、偉い方々の後で順番に伺いますから」
とその場で踏みとどまろうとする。
「俺の娘だろう。順位は俺達の次なんだから、近くで構わん」
が、大人と子供の体格差ではただ引き摺られていくだけだった。
構います。とか、特別扱いは良くない。と言っても無視されてそのまま奥まで連れていかれました。
魔王様とアルベルト様がいらっしゃいました。
側近達の挨拶が終わり、父に強制的に彼等の前に出されました。
魔王様は短い黒髪に黒い瞳です。微笑が常に絶えない方で、かなり格好いいです。私は近付きたくないですが。
でも挨拶をしない訳にはいかないので、しっかりします。
「エドガー・ローレシュタインの娘、リリアンヌ・ローレシュタインです」
片手はドレスの裾を持ち、もう片手は胸の前においてお辞儀という最上級の礼をした。
「まだ9歳だというのに、しっかりしているな」
感心した様子で魔王がリリアとエドガーを見た。
「私の自慢の娘です故、これ位は当然です。魔力も我が一族の中でもかなり高いです」
「ならば、息子の嫁に丁度良いか」
娘を自慢したエドガーは魔王の一言に満足そうにし、アルベルトは顔を赤くしながらも嬉しそうだった。
もちろんリリアは絶望していた。
この場から一刻も早く逃げたくなったリリアは、なんとか気力だけでアルベルトと側近達に挨拶を済ませ入口近くに向かった。
あと少しで逃げれると思った矢先に何かに躓いた。
ズベッとみっともなく転ぶ。
「あらあら。まさかエドガー様の娘ともあろうと者がこんな所で転ぶだなんて」
くすくす笑いながら声をかけてきた少女。
銀の髪に赤い瞳を持つ美少女は、側近の1人である者の娘だ。
「アイリッシュ様」
立ち上がりながら、躓いた原因である少女を見た。
躓く前にアイリッシュの足がリリアの前に出されて転んだのをしっかり見ていた。
「なに、その目。まるで私が何かしたみたいじゃない」
怖いなんて言いながらもリリアが恥をかいたのが楽しいのか、まだ笑っていた。
「いいえ、私の不注意です。ではこれにて失礼致します」
アイリッシュなんて相手にしている暇はないので、さっさと入口から出る事にした。
まだ彼女は何かを言っていたみたいだが、リリアには魔王の一言が冗談じゃない事の方が一大事なので耳に入らなかった。