仮題
この世界は、荒廃と衰退と云う諦観的概念の下に、緩やかな死を迎えつつある。
それでも残された人々は未だ争いを止める事が出来ず、今も尚、世界の至る所で戦火は拡がり続けている。
大破壊より300年。種としての滅びに瀕しても尚、人は、未だ何も学んではいない。
旧シティ市街区 夕刻
最初は2対4。最終的には1対1になった。
僕が2機墜とし、僚機の傭兵が1機墜とした。その直後に彼の機体のコアは橙色の光に貫かれ、4回ばかり小さな爆発を繰り返した後、動かなくなった。僕がもう少し早く敵の2番機を墜とし、注意を促していれば、或いは彼は此処で死ぬ事はなかっただろう。彼は最近僕等の組織に雇われた駆け出しの新参傭兵で、若いながらも腕は立つし、将来を嘱望された有能なパイロットだった。このまま後1年でも生き残る事が出来れば、きっともっと素晴らしい実力を持った傭兵になっていた筈である。そんな彼を、この交戦で失ってしまった事に関して少しだけ後悔した。抑もこの交戦事体、数の上でこちらが不利なのだから素直に避けるべきだったのだ。だが、それでも僕等は敢えて交戦を選んだ。僕たちなら勝てると思ったし、事実として全4機中三機を墜とし、今正に最後の一機を墜とそうとしている。戦果で考えれば、まあ悪くない。が、所詮そんな事は人間としての僕が考えた話。ただ単に事実と理屈を数秒で纏めた話。パイロットとしての僕が今考えているのは、彼を墜とした相手を僕が墜としてやろうと云う事、そのたった一つだけ。これは憎悪や仇討ちなんて云う下らない感情的な理由に起因するものではなく、唯単に、彼程のパイロットを墜とした相手と戦ってみたいと云う、謂わば興味本位の様なものだ。戦いたい。それ以外に、僕は理由を捜そうとはしなかった。リコンを射出。コアの右後背部から、ワイヤーバルーンに吊るされた探知機が機体の直上に射出される。敵機反応1。
「居た」
直線距離にして凡そ500m弱。廃墟と化したビル上に屹立する奴の機体は重量型の逆関節機。右手に彼を一撃の下に屠ったレーザーライフルを構え、左手にロングバレルのバトルライフル。右肩部ハンガーに大口径のガトリングガン、左肩部には携行型の曲射砲を吊るしている。中近距離をソツなく熟せる機体構成だが、そう云った機体は往々にして扱いが難しく、そのポテンシャルを最大限に引き出すには相応の腕を要する。僕の乗っている近距離格闘戦に特化した軽量型の機体を相手に、どんな戦い方を魅せてくれるがろうか。
奴もこちらの機影を捉えたのだろう。機体をこちらに向け、様子を窺っている。