赤いチューリップ
「赤いチューリップはさぁ、好きでもない子に渡しちゃだめだよ。例え、私が好きな花だとしてもさ。」
彼女は、下を向いて喋り続ける。
彼女のふわふわの髪が風で揺れている。
「花を渡す時はさ。花屋なんだから、花言葉を調べて渡そう。そうじゃないと勘違いする子もいるよ。私みたいに。だから、私は受け取らないよ。受け取れない。じゃあ、もうすぐ電車が来るから行くね。」
泣きそうな声でぎりぎりの笑顔を僕に向けてから、彼女は駅のホームに走りだした。僕は、慌てて腕を伸ばして掴んだが、空を切っただけに終わった。
彼女は、行ってしまった。
「僕は、知っていたよ。チューリップの花言葉を僕は、知っていたんだ。」
彼女に渡すはずだった手に持ったチューリップが静かに、静かに揺れていた。