知ることから始めませんか?
委員の仕事を終えて、私は下駄箱に向かっていた。
悶々と彼のことを考えながら。
例え‘彼’が私と同じように生まれ変わっていて、彼だったとしても、私には何も出来ない。
だって、私は彼自身ではなく‘彼’に惹かれているのだから。
そんなのはあまりにも失礼だ。
やはり、こんな想い、捨ててしまわなければ。
そう、考えていたところだった。
「京川さん。」
私は呼ばれた方を見ると、そこにいたのは、あの、北条先輩だった。
「京川さん。今、帰りだよね?」
そう問われて、頷く。
「あのさ、昨日のことなんだけど、俺、やっぱり諦めきれないんだわ。断られたときさ、京川さんは言ったよね?俺のこと知らないって。だからさ、俺のこと知ってもらってからまた答え聞きたいんだ。俺にチャンスをくれないか?」
そう、縋るように言われ、私は頷いてしまった。
あまりにも辛そうな顔をしている北条先輩を無碍にできなかった。
「ありがとう。」
そう言った北条先輩は本当に嬉しそうで笑顔がとても眩しかった。
「じゃあ帰り一緒してもいい?」
「あ、はい。」
先輩は私と帰る方向が同じらしく、一緒に帰れて嬉しいと、これまたいい笑顔で言われた。
私はなんだか申し訳ない気持ちで一杯だった。
もしかしたら、彼を好きになれるかもしれない。
だけど、忘れられなかったら?
彼の努力というかアピールは全て無駄になる。
(優柔不断だな。私って。)
そう思わざるを得なかった。
************
「あら。こんにちは。」
そう君は誰にでもその朗らかな笑顔で図書館に来る人を出迎えていた。
その笑顔にどれほどの人が癒されただろう。
その笑顔を見るためだけにどれほどの人が図書館に通っているのだろう。
そう考えると途端に虚しくなる。
自分だけに笑顔を見せてほしい。
どれだけ願ったか。
その願いは儚く散るのである。
近衛団長に向ける笑顔によって。
今はまだアピールできない自分が悔しい。
こうやって優しい彼女は頷いてしまう。
今世こそは彼女の笑顔が欲しい。
ねぇ。俺に向けて。貴女の特別な笑顔を。