encounter
「この本借りたいんだけど。」
そう声がしたからいつものように顔を上げ、応対しようとした。
「ん?どうかした?」
それは衝動となって胸に押し寄せてきた。
この人だ、と思った。
あの方に似ている。
だけれど、似ているだけかもしれない。
そんなことが頭をよぎったが、あまりの不自然さに声をかけられ、はっとした。
だめだ、だめだ。
こんなことではいけない。
そう頭に叩き込んで、いつものように応対する。
「では、お預かりいたします。」
預かった本の背表紙にあるバーコードを読み取り、差し出された学生証にあるバーコードも読み取る。
高橋芳樹。
そう、彼の学生証には書かれてあった。
不自然にならないように本と学生証を返却すると、いつものように「ありがとうございました。」と機械的に挨拶をして、また視線を本に戻した。
内心心臓はバクバクだ。
どうにかこの動揺を悟られまいと振舞ったが、緊張は彼が部屋を退室するまで続いた。
もう、本どころじゃない。
あの方に似ている、ただそれだけで私は動揺する。
自分はこんなに軽い女だったろうかと思ったが、まだ、動揺しているだけだと思い込ませ、未だにあの方を思っている自分にため息がでた。
こんな叶うことのない思い、早く忘れてしまいたい。
そう思う反面、あの方を忘れたくないと思ってしまう。
こんなジレンマに押しつぶされそうになりながら、前にも後ろにも進めずにいる。
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今日の君はいつもと違う。
あの高橋をぼぅっと見ていた。
‘また’か…。
そう思わずにはいられなかった。
やっと、やっと彼女の傍にいることができると思ったのに、やっぱり奴がいいのか。
近衛団長、ウィリアム・ハーディが。