日常
「紫苑、聞いたわよぅ。」
そう言って詰め寄ってくる彼女は私の親友である姫川友香。
「何を?」
バシンと私の腕を叩きながら興奮しながら友香は言う。
「そりゃ決まってるじゃない。バスケ部の北条先輩のことよ!」
「あぁ、そのことね。」
「そのことね。じゃないわよ!どうして振ったの?あんなイケメンもったいない!」
そう彼女はいきり立って言うが、私には良く分からなかった。
確かにかっこいい。
だけどそれ以上何も感じないのだ。
「だって、初めて会った人だよ?かっこいいとは思うけど・・・それに私にはもったいないし!」
「はぁ。あんた、顔はいいってこと自覚しなよぅ、いい加減。」
自覚しろというけれど、私は至って真面目。
真っ黒でくせのある髪。
まぁ顔の造作は悪くは無いと思うけど、言うほどいいとは思わない。
親友である友香の方が断然綺麗だ。
それに重度の近視で他人より厚い眼鏡は外せない。
「もう。お世辞はいいって。それは友達の欲目でしょ。」
とまぁ、こんな結論が出てしまう。
「違うって何回言ったら分かるのかねぇ。あんたは。」
そうため息をつく友香を横目に時計をみると16時を過ぎていた。
「ごめん。委員会があるからこの話はまた今度ね。」
それだけ言って私は急いで教室を出て、図書室に向かった。
通常の業務は図書の貸し出しや返却などの受付。
それ以外は基本的に何してもいい。
何してもいいからと言って大声で話したり、暴れたりはできないのだけれど。
私はこの時間はいつも本を読んでいる。
予習や宿題をするのは本当に切羽詰った時くらいだ。
今読んでるのはミステリー小説。
誰が犯人なのか自分でも推理しながら読み進めていくのはとても楽しい。
傾向としてはミステリーが一番読むことが多いけれど、どんなジャンルでも面白ければ何でも読む。
歴史のときもあれば恋愛のときもある。
まぁ要は気分なのだ。
そうやっていつものように本を読んでいると見慣れない姿が図書室に入ってくるのが見えた。
しかし、視線を何も無かったかのように本に戻した。
それは、何かの予兆だったのかもしれない。
誰が入室するかなんて一々見ないからだ。
私はこの時気付かないでいた。