Battle2
「とにかく気絶させる程度に倒すよ!」
「りょ〜かい!」
佐藤さんは何かのキャラクターのポーズのような敬礼をすると、持ち前の瞬発力を活かして敵の中に飛び込んでいった。
基本的に作戦はさっきと同じだ。
奴らの狙いが佐藤さんなら奴らの攻撃範囲に佐藤さんが囮として突っ込み、そこを僕が弓矢で止めを差す。
シンプルながら確実な正攻法だと思う。案の定、二人の武器を持った中年オヤジ達はすばしっこい彼女に攻撃を充てようと必死になっている。そこを弓矢で――
「射抜く!!」
僕が放った練習用の矢がまずは斧を持った中年オヤジの左胸に当たる。先は尖っていないから左胸を刺されても死ぬことはないだろう。
ただ、それなりには痛いだろうけど。
続けざまに僕はもう一人のこん棒を持った男に向けて矢を放つ……が、正面から撃ったため、避けられてしまった。
「いったぁー!!」
代わりに佐藤さんに当たっているし……。
「何すんのよ!人を殺す気!?」
「あわわ、ごめん!まさか避けられるとは思ってなくて…ていうか後ろ!」
僕の警告に佐藤さんは後ろでこん棒を振り上げている中年オヤジに気づいた。
「せぇぇい!!」
練習用の矢をそのまま武器にした佐藤さんは宙寝の男の腹部に相手の勢いを利用して突き刺した。
鋭くないとはいえ腹に大きく矢がめりこんだのだ。
一撃でノックアウトできた。
「ふぅ、もう出てこないみたいだね」
倒れているオヤジ達を冷たい目であしらいながら佐藤さんがつぶやいた。もうさっきまでのような怪しい気配はない。
「この人達はいったいどこからやってきたんだろう?帰っている途中には全然気配がなかったのに…」
「そんなのどーだっていいよ。どうせあの女が原因でしょ?」
やはり、そう考えるほうが自然なのだろうか。
確かに佐藤さんを狙ってきたことからそう考えるのが一番妥当なのだが、どうしてこんな普通の人達を使ってきたんだ?これは僕の直感だが、あの人はまた絶対に自分の手で佐藤さんを倒すために現れると思っていたのだが…。
「何て言っている傍から……羽鳥君、墓地の階段を見て」
佐藤さんがため息をつきながら墓地の階段を指差す。最上段には、見たことのある影が一つ、月明かりをバックに佇んでいる。
忘れようもない、あの大剣だ。
あんなものを持っているというのに、影は軽快にこちらに向かって跳んだ。
「死んでくださ〜い!!」
そう言われたって死ねるものか。僕達は後ろに飛び退いた。
ドガッ!
暗くてよくわからないが、道路の一部が欠けたのではなかろうか。
「あのねぇ、どこの世界に死ねと言われて死ぬ馬鹿がいるわけ?」
必死で逃げ回りながら佐藤が女の子に言う。
女の子も自分で言っていてわかっていたのか眉をハの字に曲げる。
「そ、そんなこと私だってわかってますよぉ。だけど貴方に死んでもらわないとアーミルさんが天上界に帰れないんですよ!」
可愛い顔をして『死ね』を連発するなぁ。
スポーティな佐藤さんとは違って、木陰で読書でもしてそうなタイプだな。
おっとりとした感じのほんわか女子高生なのに残念だよなぁ。
「はぁ?天上界?あんた、頭がやばいんじゃないの?」
佐藤さんがセーラー服の女の子を馬鹿にしたように冷笑する。
「どれだけ馬鹿にされてもかまいません。今は貴方を倒すことだけを念頭におきます」
「ずいぶんと勇ましいじゃない!やれるものならやってみなさいよ!」
佐藤さんは大剣の女の子に親指を下に向けてみせた。