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Uninvited visitor

 夏休みも八月に入り、いよいよ夏本番といった感じの暑さが続いた。そんな中、今日も僕は市民体育ホールで弓道の練習に励んでいた。

「こんな暑い中、よく胴着なんか着ていられるよねぇ…」

 練習を見に来ていた佐藤さんはそう言うが、この太陽がサンサンとしている中を黒いTシャツで歩いてきたアンタのほうがよくそんな服着ていられるよねといえる。が、当然それは言わないお約束。言えば何千倍にもなって反撃が返ってくる。ちなみに下は短パン風のミニスカートという、どう見たって市民体育館には合わない格好だ。

「佐藤さん、よく来るねぇ」

 弓道部の女の子達も佐藤さんと意気投合していて、休憩時間になるとしょっちゅう彼女と話しに来る。

「お盆前になってうちの部活が休みになったからね。弓道って見ていておもしろいし」

 佐藤さんの言葉に女子達が「じゃあ、入っちゃいなよ」とか言って完全に会話に障壁ができてしまった。僕は特にすることなくぼんやりとしながら、彼女達の話を聞いていた。

「よう、色男!」

 近寄ってきたのは夏には余計近寄って欲しくない幼馴染の園田だった。

「今日も可愛い格好だな、都子ちゃんは」

 園田の目がチラリと佐藤さんのほうに向く。明らかに見ているところは一箇所だったが。

「あいつ、結構胸あるな。高二のくせしてグラビアアイドルみたいだぜ」

「はいはい、わかったわかった。まったく、お前は女の子を胸でしか見ることができないのかよ?」

「悪いか?男なら胸に惹かれてなんぼだぜ?でかくなきゃできることもできねぇじゃんか」

「昼間からその手の話は聞きたくないんだけど」

「バカヤロ!夏にこそ燃えるのが男じゃないか!お前ももっと燃やせ!自分の内に秘めたエロスを!」

 はぁ、駄目だこいつは。中学生の頃から毎年この台詞を聞いている僕にとってはもう耳タコでうんざりな話題だった。でも……僕はチラリと佐藤さんを見た。園田の意見に賛同するわけではないけど、胸は大きい人なんだよな。それに顔立ちだって可愛いし。私服の彼女を見るたびに、やっぱり彼氏がいそうだなと思ってしまう。だって、こんな田舎のほうでもこれだけの人の群がりができるんだ。都市部に言ったら一発でナンパとかされそうだよな。さてと、あんまり見ていると変な目で見られそうだからさっさと目線を戻そう。その後も園田と色々話したが、何を話したのかは忘れてしまった。

 いつも通り夕方まで弓道の練習をした僕は園田や他の男部員達に冷やかされながら佐藤さんを送るために市民体育館を後にした。

「いやぁ、今日も楽しかったねぇ」

 佐藤さんはそう言うが、僕らの練習を見ていてどこが楽しいんだろう。僕や他の弓道部員達にとっては好きで弓道をやっているから楽しんだけど。

「それでも楽しいよ」

 佐藤さんは機嫌よく言う。

「弓道に興味があるなら夏休みの間だけでも入ったら?皆、喜ぶと思うし」

 特に僕が、ですけど。

「う〜ん、別に興味があるから入りたいってわけじゃないんだよ。ただ、なんていうのかな、暇つぶしみたいなものかな」

「うわ、ぶっちゃけった」

 僕が言うと佐藤さんは「へへへー」と子供のように笑う。普通の人が言うと明らかに虫の居所を悪くするような言葉でも彼女が言うと全然そう聞こえない。やっぱり、そこら辺も彼女の性格が成す業なのだろうな。

「ふぅ、ちょっと疲れたから休んでもいいかな」

 墓地についた辺りで彼女がそんなことを言った。休憩時間のときを中心にはしゃいでいたから無理もないか。僕は了承すると、一緒に墓地の階段に腰掛けた。

「市民体育館の椅子って硬いでしょ。そこに昼からずっと座っていたら佐藤さんでも疲れちゃうよね」

「佐藤さんでも、て何かひどいよね?」

「そ、そう?別に何か意識して言ったわけではないんだけど…」

「ふ〜ん、まぁいいけど」

「それより、おなか空いているんじゃないのか?ずっと座ったままだったし。皆との食事にも付き合えばよかったのに」

「そうしたいのは山々だったんだけど、何かおなかいっぱいでさ」

女の子がこう言って食事を断る時ってもしかしたらダイエットか何かしている時なのかもしれない。夏は太りやすいらしいし。夏バテというわけではないだろう。特にこの人には夏バテなんて言葉は無縁そうだし。そう思うと何だか笑みがこぼれた。隣に座っている佐藤さんは「君、怪しいよ?」と言うが、こればかりは笑いを抑えられなかった。

『!?』

 何かの気配を感じ、僕は笑うのを止めた。佐藤さんもこの不気味な気配を感じているのか顔にじんわりと汗が滲んでいる。

「ガァ!」

 後ろ!?幸い掛け声のようなものを出してくれたのですぐにそいつの攻撃を避けることができた。

「な、何この人!?」

 佐藤さんが叫ぶのも無理はない。なぜなら、この人は木こり用の斧を手にしていたからだ。

「グワァ!」

 斧を持った中年親父は僕達を分断させるかのように二人の間に斧を振り下ろした。

「ちょっと!ただ酔っ払っていました程度じゃすまされないよ!」

 佐藤さんが中年親父に向かって怒号を浴びせるが、親父はまったく聞かずに三度斧を振りかぶって攻撃に出る。それにしてもあの人のあの目は何だろう。まるで焦点があっていない。止まっているときも斧を持つ手は震えているし、口からはよだれを垂らしている。それに特筆すべき点は、さっきから佐藤さんしか狙ってこないことだ。

もしかしてこの人はこの間の女の子の仲間か!?

「佐藤さん、もしかしたらその人はこの間の女の子の仲間かもしれない!」

「あたしも今、それを考えていたところだよ。さっきからこの人、あたししか狙ってこないしね」

 佐藤さんは息を切らしながら「あたしが囮になる」と宣言した。なるほど、そこを弓で狙えって事か。確かに斧を持っているから動きは鈍いはず。僕は弓道用の弓を構えて、中年親父の隙を狙う。振り下ろした直後のわずかな硬直後がいいだろう。

「ガァ!」

 中年親父の振り下ろした斧は空を斬る。

「今だ!」

 僕が持っている矢から手を離そうとした刹那、後ろから何かが振り下ろされ僕の背中を直撃した。

「羽鳥君!!」

 あまりダメージがなかったのが功を成したのか、僕は体勢を崩した程度で膝をつきはしなかった。

「くっそー、二人いたのか…」

 時間差で現れるなんて卑怯だなぁ……なんて悠長なことを言っている場合じゃないな。僕と佐藤さんは一度、同じところに集まった。挟まれたままではこいつらにはまず勝てない。

「いったい何だあんた達は!」

『………』

 反応なし、か。やっぱり操られているのか。

 いったい何のために僕らを襲うんだ?

 えーい、考えていたってしょうがない。まずはこの状況を打破することだけを考えよう。


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