Battle1
完全に一人で突っ走っている佐藤さんを止める意味も込めて僕は練習用のお手製の矢を使って謎の女の子を威嚇する。
「ひゃあ!」
とか叫んでいるくせに手にしている大剣で僕の練習用の弓矢があっさりと二つに両断される。結構力作だっただけにショックだ……なんて言っていられないか。僕は頭の中から悲しみを消しながら、佐藤さんと謎の女の子が激突する瞬間を見た。佐藤さんは相手の持っている武器にひるみもせず、真っ向から持っていたナイフ一本で女の子の隙を狙っている。僕だったらあんな大剣を持っている相手にナイフ一本で立ち向かう勇気なんて一片もない。どうして彼女はあんなにも勇敢に立ち向かうことができるんだ?今の世の中では考えられないような珍出来事に直面しているというのに何であんなにも混乱な――
「羽鳥君、危ない!」
我に返った僕に謎の女の子の剣が迫っている。
今から弓を構えたんじゃ間に合わない!
「ごめんなさい!」
「!!!」
死ぬ!?
僕は直感でそう感じた。目の前の刃はさっきよりも近いところまで来ている。のろまな僕ではまずかわせない。
ここで死ぬの、僕は……?しかし、刃は僕の体を頭から両断しはしなかった。というのも、また意味もなく謎の少女の動きが止まっているからだ。
「え?この人からは力を感じない?力を感じるのは向こうの女の人のほう…?」
な、何だ?何をぶつぶつ言っているんだこの人は。とにかく今のうちに逃げ――
ガス!
この鈍い音の後、さっきまで騒がしかった墓地に再び静寂が戻った。と同時に謎の女の子がふらつきながらその場に倒れてしまった。
「佐藤さん…?」
「大丈夫だよ。急所をナイフの柄で突いただけだから」
「よかった……殺しちゃったのかと思ったよ」
「殺すわけないでしょ。正当防衛とはいえ殺しちゃったら犯罪者だよ」
明らかに殺意をむき出しにしていたくせによく言うよ……。
「それより羽鳥君こそもう少しで死んじゃうところだったじゃない!」
佐藤さんは僕の体をペタペタと触り、異常がないことを確認した。
「もう、この馬鹿!ノロマ!ボ〜ッとしてるな!」
「ご、ごめん……」
あ〜あ、彼女を止めるつもりが何て様だろう。彼女に助けられてしまうなんて、かっこ悪いなぁ。それにしても――
「この人はどうして僕達を襲ってきたんだろう?」
佐藤さんに力があるとかどうとかってことらしいが……。
「そんなのあたしのほうが知りたいよ。いきなり力がどうとか言われて斬りかかられたんだから」
「何にせよ、今のうちに逃げるにこしたことはないな。こんなところで戦って墓石に傷でもついたら呪われるかもしれないよ?」
「バカ!へ、変なこと言わないでよ」
あら、ちょっと脅かしただけなのに以外と効果抜群だった?
「へぇ、佐藤さんって…」
「ほら、さっさと逃げるよ!」
僕が全部言う前に彼女はすたこらと帰り道を走っていってしまった。
「ちょ、最後まで言わせろよ!」
ちょっとだけ勝てたと思ったのに、マイペースな人だな。
「う…」
「立てますか、妙さん?」
「あ、アーミルさん…」
妙はゆっくりと体を起こしながら周囲を見回した。
「あ〜!あの二人がいない〜!!」
「静かになさい。今はもう夜更けですよ」
アーミルと呼ばれた男は自分の唇に人差し指を当てて妙に見せた。
「ごめんなさい…」
「わかればいいんです。しかし、困りましたね。悪魔憑きの人間を逃がしてしまうとは…」
「あと一歩だったのにアーミルさんが急に向こうの女の子を狙えなんていうからですよぉ」
「すみません。あの時点では少年と少女のどちらに力が注がれたのかわからなかったんです。悪魔め、恐るべしです」
アーミルはそう言うが、妙にはなんとなく自分の失敗を悪魔のせいにしているようにしか思えなかった。
「これからどうするんですか?」
「そうですね。今回は逃げられてしまいましたが、恐らく悪魔に憑かれたので寄る中心の行動に出るはずです。そこを狙いましょう」
「そうですか……。はぁ、クラス委員の仕事もあるのに…」
妙は憂鬱そうにため息をつく。
そんな彼女をアーミルは仕方がないと言わんばかりの表情で黙ったまま俯いていた。