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Summer days

「よぅ、最近どうした?ずいぶん疲れているようじゃないか?」

 夏休みに入って数日後の部活の帰り道、電車の中で同じ弓道部にして幼馴染の園田が見かねて声をかけてきた。

「別に、どうもしやしないよ」

「どうもしやしなかったらお前の弓はもっと張りがあるぜ」

 さすが幼馴染。この程度の突き放し方では折れてくれない。

「放っといてくれよ。疲れているんだからさ」

 少し苛立った感じで園田から顔を背ける。しかし、園田はというと特に気分を害した様子もなく「そういえば」とおどけた口調で続けた。その口元は若干、自分の勝ちを宣言しているかのように緩んでいたように見えた。

「お前、少し前は一時期電車に乗って帰らなくなったなぁ」

 ギクゥ。音で表すとこんな感じに僕の肩が一瞬揺れた。園田はにんまりとした表情のまま僕に歩み寄る。

「それと何か関係があるのかなぁ?」

 頼む、それ以上近づかないでくれぇ!

「そういや、その頃のお前のシャツ、妙にいい匂いがしていたなぁ」

 え、匂い?

「それと同じ匂いが終業式の日にもしたような…」

 そ、そういえば終業式の前にやたらと佐藤さんの顔が近くにあった。僕は急いでシャツの襟元に鼻を寄せた。

 うえ、自分の汗の臭いしかしない。

「ダハハハ!ぶぁーかが!そんなもんするわけねぇだろうが!!」

 勝った!まさにそう言いたげに、いや半分以上そう言ったも同然の表情で園田は僕を指差した。謀られた、と僕が気づいたのはその後だった。

「やっぱり女が原因だったな」

「園田、いつから気づいていたんだ?」

 ここまで来るとこいつにこれ以上隠すことはできない。不服ながら、僕は観念して園田に聞いた。

「お前が電車に乗って帰らなくなってからだよ。その頃のお前、妙にテンションが高かったじゃねぇか。ところが夏休みに入ってからは……」

「わかった、もういい」

 僕は深いため息をついた。

「もういいってことは俺の推理を認めるってことだな」

「ああ、その通りだよ」

「ついでに言うとその女ってのは新学年になってから入ってきた佐藤って奴だろ?」

「何で知っているんだ?」

「弓道部の女子達がたまたま見たらしくてな。二年を中心に噂になってるぜ」

 なんてこった。既に弓道部の女子にはばれているって事じゃないか。

「そういうことだ。しかし、佐藤を好きになるなんてお前も意外と面食いだな。というか何があってあいつと一緒に帰るようになったんだ?」

「不良達に襲われているところを通りかかったから助けたんだよ」

「不良に!?あの辺りに不良のたまり場なんてあったのか?」

「バイクが置いてあったからたまたま来ていただけだと思う」

「ふ〜ん、とにかくそこでお前が助けに入ったと。しかし、お前喧嘩は最弱級じゃなかったっけ?」

「………」

 黙ったままの僕の表情を察したのか園田は「なるほどな」と頷いた。

「けっこう優しいところがあるんだな、佐藤は。だけどな羽鳥、これは俺の見立てだからあてにならないかもしれないけどあの女はやめておけ。まず、誰にでも分け隔てなく接するし、明るいし楽しいし、悪い部分がどこにもねぇ。あんな奴が彼氏なしでホイホイその辺を歩いているわけがないだろうが」

「…確かに」

 僕が納得すると園田も「だろう」と得意気に言う。

「でも、彼氏のいる女の子が他の男と帰ろうとはしないんじゃないか?」

「わからねぇぞ。そのうち、男のほうから報復がくるかも…」

「脅かすなよ!」

「脅かしてねぇよ。特に夏休み中はお前、佐藤と一緒に帰ってないんだろ。一人になったところをやられるかもしれないぜ」

「そんなことはないって」

 僕はこれ以上話がややこしくなるとあれなので適当に園田の話を聞き流すことにした。園田はこの手の泥沼話が好きだからこうやって僕を脅かしているだけなのだ。まったくもって困った幼馴染だ。


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