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Awakening

 前のめりの姿勢から倒れた僕は、一瞬だけ佐藤さんの表情を見た。

 背筋が凍るような不気味な笑み。

 三日月を横にしたような唇からはクスクスと笑いが漏れている。

「人間というのは愚かだねぇ、羽鳥君。さっきまで君の事を散々嫌っていた彼女が急に君になびくわけがないだろう?」

 声は佐藤さんのものなのに、その中身は彼女じゃない。

 いくら彼女が僕のことを嫌っているからと言ってそんなことは決して言わないはずだ。

「くっくっく、この娘の体に入ったのは正解だったな。あの時、同胞を倒した者の仲間だったとはなぁ。しかも、操られていた時の名残があるのかこの娘の身体能力は実に素晴らしい」

 悪魔は肩を震わせて笑っている。

 いったい、何がこいつはそんなにおかしいんだ?

「何がおかしいのか、という顔をしているな。下等な人間にわかるはずもなかろうが教えてやろう。私が彼女の気づかないところで下僕を増やしていたにもかかわらず、その下僕達と貴様らを戦わせた理由を」

 悪魔は笑いながら続ける。

「単純に、娘の力を計るという目的もあった。しかし、それ以上にこの娘の身体能力をもっと引き出すための経験を与えたというわけだ。より強くなったらこの体を離れ、呪いをかける。呪いと言っても、前例のような人間を操るだけのものではない。呪いをかけられても、その人間は今までとなんら変わらぬ生活を送ることができる。しかし、そこにこの呪いの意味があるのだ。この呪いは悪魔にしかわからぬ香をもち、人間達は知らず知らずのうちにその香を嗅ぐ。ところでこの呪いの効果だが、先ほども言ったように最初は今までとなんら変わらぬ生活を送れる。しかし、ある時を境に呪いは突然発動する。人間共の憎悪を増し、殺戮・虐殺を繰り返す。一月もすれば地球は死の星となるだろう」

「!!」

「憎悪こそ我ら悪魔の好物。憎悪が最頂点に満たしたところで、今度は天上界へと攻め入るのだ」

 な、なんて話だ。

 とても凡人の僕にはついていけない。だけど、だけど、こいつが僕達の住む世界をめちゃくちゃにしようとしていることだけはわかる。

「なるほど、全ての人間をまずは手駒にする作戦というわけですか」

 夜空から聞こえたあの声。

 伊東さんを乗せて、飛んできた天使のアーミルさんだった。

「ようやく見つけましたよ、悪魔!」

「悪魔なんて呼称はよしてくれよ。私にはちゃんとした名前があるんでね。まぁ、天使の貴様や人間にはとても発音できない名前だがな。そうだな、借りの名としてシャドウとでも名乗るとしよう」

「シャドウ…!」

「羽鳥君!しっかりしてください!」

 伊東さんが僕に駆け寄る。

「彼に何をした?」

「別に?ちょっとした波動系呪文を食らわせたまでさ」

 波動系……呪文?

 ファンタジーかよ、てツッコミを入れたいけど、天使と悪魔が現実に存在する時点で既にファンタジーなんだよな。

 アーミルさんは僕達にわからないような単語を紡ぐ。

 するとどうしたことだろうか。さっきまでひどい激痛が走っていた僕の背中から痛みが消えた。

「健一君、立てますか?」

 アーミルさんがシャドウを睨みつけながら、横目で僕に尋ねる。

 僕はゆっくりと立ち上がることでアーミルさんの質問に答える。

「グ…ガ、が……きさ……ウぬ、ゥ…」

 何だ?

 シャドウの様子がおかしい。

「どうやら、まだ完全に体が乗っ取られたというわけではないみたいですね」

 アーミルさんが冷静に解説する。

「叩くなら今しかない!二人とも準備はいいですか?」

「はい、準備万全です!」

 そう言ってガッツポーズを見せる伊東さんに対して、僕はただ――

「健一君?」

「……ここで佐藤さんを倒したら、彼女は救われるんですよね?」

 僕の質問に何らかの意味を感じ取ったのか、アーミルさんは少し間をおいてから「その通りです」とつぶやいた。

「なら……最初から全力でいきます!」

 佐藤さんを倒すことに最後の迷いを吹っ切った僕は、背中の弓を構えた。

「作戦は決まったかな?」

 僕達の前にはさきほどの苦しそうな様子がすっかり消えたシャドウが立っていた。

「念のために言っておく。今、立ち去れば君の命は少なくともしばらくは取らない。そこの天使が憑依した(はいった)娘は論外だがな」

「立ち去る気なんて毛頭ないさ!僕が、佐藤さんからお前を追い出してやる!」

「やれやれ、穏便には済ませられなかったか。なら、君にも悪魔の恐怖をじっくり味合わせてやろう!」

 シャドウの体からは人間の僕にでもわかるくらい異質なオーラを発していた。

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