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Funky drive

 伊東さん達と別れ、僕達は劇場からさっきアルフレッドさんに連れてきてもらった時とは反対方向に進んだ。

 この辺りは僕もあまり来たことはないのだが、この先に向かうと確か駅があったはずなので、帰りはそこから電車に乗って帰れば楽ができるというわけだ。

 僕たちの間に会話はない。

 やっぱり、さっきのは一時的なものだったのか……と思うとそうでもない。今は黙々と歩いているだけだが、時折会話は交わしていた。

 あまりに何気ない会話すぎて何を話したのかは覚えていない。でも、僕も佐藤さんも一週間前のことについては話そうとはしなかった。

「それにしても…」

 佐藤さんがまた重い口を開いた。

「こうやって歩いているだけで敵が出てくるとはそうそう思えないんだよねぇ」

 そりゃあまぁ、そうだろうな。

「ちょっと、気がついてたのなら言いなさいよ!」

「だ、だって佐藤さんが自信たっぷりに歩いていくから僕も何かあてがあると思ったんだもの!」

「あてなんかあるわけないじゃんか!」

「威張って言うのはどうかと思うけど…」

「うるさいうるさーい!羽鳥君も男なら何とかしなさいよ!」

「何でそうなるんだよ!?」

「困っている女の子がいたら男の子が助けるものでしょ!」

「そ、そんなこと言われてもこればかりは…」

 どうしようもない、そう言おうとした僕の目線にあるものが入ってきた。

「バイク…?」

 僕の目線の先、大きな公園の入り口にポツンと置かれている一台のバイクが無性に気になった。

「これで探したら早いかな?」

 先が見えない仕事だが、自分の足で探すよりかは効率がよさそうだ。

「と思うんだけど、どうかな?」

「いいんじゃない?ただ、羽鳥君はバイクの免許を持ってなさそうに見えるのはあたしだけかな?」

「うっ…」

 確かに僕はバイクの免許を持っていない。

 年齢的にはバイクの免許は取れるのだが、危ない乗り物ゆえに乗ろうとも思わない。

「まぁ、いいか」

 佐藤さんの追及がくるかと身構えていたが、彼女は僕の予想とは逆に軽く受け流した。

 そして、バイクに近寄りメーターの辺りをまじまじと見回している。

「キーもついているみたいだし。この時間で車も少ないだろうから無免でもばれないよ」

 そういう問題ではない気がする。でもまぁ、今の僕達は事情が事情だから警察に追いかけられても悪魔がとりついていたとか理由をつけて倒すこともできる。それはそれで罪悪感があるけど……。

「で、どうするの?本当にこのバイクを失敬してドライブに出るつもり?」

 一応聞いてはいるものの、佐藤さんのほうは既にバイクにまたがってエンジンかける姿勢に入っている。

「………」

「……なに?」

「…佐藤さんが運転するの?」

「そうだけど?」

 何か問題ある、とでも言いたげな顔だ。こういうときにあまり逆らいたくはないのだが…。

「佐藤さん、バイクの免許は…?」

「そんなものないよ」

 やっぱり……。

「だーいじょうぶだって。ゲーセンのバイクと一緒だってこんなもの」

 いや、だいぶ違う気がするんですけど。

 それに、女の子が運転するバイクに男が乗るなんて、なんかかっこ悪い。しかし、そう言ってどいてくれる彼女じゃないこともよく知っている。

 僕は仕方なく、彼女の後ろに座った。

「しっかり捕まっといてね。初めてだからどんな運転するかわからないし」

 ああ、頼むから発進する前にそんなことは言わないでほしい。

「いっくよぉ!」

 佐藤さんはアクセルをふかし、クラッチを踏むバイクをゆっくりと動かす。

「なぁんだ。やっぱりゲーセンのと変わんないじゃん。足の操作が面倒だけど」

 そう言ってのける佐藤さんの順応力の高さはやはり恐るべし……。




 そのままバイクで夜のドライブに出かけることになった僕達。

 現在の時刻は既に翌日の0時。 歩道から車道に出ても人口密度(自動車密度?)はそれほど変わらなかった。

 佐藤さんはアクセルを回し、スピードを上げていく。

「しっかり捕まっといてよ。もっとスピード上げるからね」

 たぶん、こんなことを言っていたのだろうがヘルメットをかぶっているのと風のせいでほとんど何を言っているのかわからない。

 捕まっていてという言葉だけは聞こえたので、スピードを上げるのだろうと思い、佐藤さんの腰に掴む力を少しだけ強めた。

 間違っても胸はさわっていない。

 それはそれでシチュエーション的に残念ではあるが……。



 それにしても、この人には警戒心というものがないのだろうか。

 この間、僕のせいであんな目にあったというのに、バイクだなんて。(しかも、自分が運転する側になるなんて)

僕は佐藤さんの背中をぼんやりと見つめながらそんなことを考える。

 けっして、背が高いほうではない彼女の背中だが、こうして腰まわりに手をやるとけっこう大きく感じる。




 けっして、太っているなんて言ってないのでそこは誤解をしないように。




「!?」

 なんだか辺りが騒がしくなってきた。

 といっても今は真夜中。

 いきなり街が活気付くはずなんてありえない。

 ヴォンオーン!

 静かな真夜中に響くアクセルの音。

 あぁ、せっかく佐藤さんとドライブをしているというのに、どうしてこんな目に遭うんだろう。

 僕は自分の不運さをとことん呪った。

 出会ったのが不良だけに今年の夏はふりょう(不調)だ…なんちゃって。

「羽鳥君、スピード上げるよ!」

 佐藤さんがアクセルを思い切りひねる。

 もしかして今の駄洒落、聞いていたのかな?

 僕のそんな考えをよそに、佐藤さんは怖いほど真剣な表情でバイクを走らせる。

「へいへーい、そこのカノジョー!」

「男を乗せて闇夜のドライブとは粋だよなぁ!」

 不良達がそんなことを叫ぶのが聞こえる。

「そんなもやしみたいな男なんて放り捨てて、俺達の愛車に来いよ?サービスしてやるぜ?」

 く、くそ!

 お前らみたいな奴が佐藤さんにナンパなんて百年早いんだよ!

「それもいいかもね」

 ゴーン!!

 佐藤さん、貴方ってそんな人だったんですかぁー!?

「だけど、それはお断り。今からあたしはこいつとやることがあるからさ」

 断ってくれたことにはホッとしたが、『コイツ』扱いですか…。

「そんな連れないこというなよぉ」

 不良グループの一人がバイクを寄せて、佐東さんの腕を掴もうとする。

(この野郎!)

 僕はいつものように弓を構えて一瞬、佐東さんの腰に回している手の力を緩めた。

 刹那、僕の体が一瞬フワリと浮いたように感じた。

「うわわ!」

 僕は急いで佐東さんの腰に再び手を回した。

「………」

 つもりだったのだけど。

(…こんなに柔らかかったっけ?)

 いや、そんなはずはない。それに、僕が回していた手は腰よりも数段高い位置にある。

 これには手を伸ばそうとしていた不良も呆れてものが言えなくなっている。

「ば……」

「……」

 僕の全身に嫌な汗が流れる。

「馬鹿か貴様はぁ!!」

 さすがに運転する手を離すわけに行かないのか、そのままの状態で佐東さんの肘鉄を食らった。

「わぁ、いたた!落ちるってー!」

「いっそ落ちろ!そして死ねぇ!!」

「そ、そんなわざとじゃないのに…」

「故意だったらなお悪い!」

 僕たちがそんなやり取りをしていると、不良達はさすがに自分たちが無視されていることに気づいたのかドスの聞いた声で「無視するんじゃねぇ」と佐東さんの腕を掴もうとする。

「チィ!」

 佐藤さんは鋭い見交わしで、バイクごと不良たちの魔の手を避わす。

「こうなったら意地だ!全員であの女を捕まえろー!」

 あぁ、どうしてこんなことに。

 と、とにかく今は佐藤さんの運転にすべてをかけるしかない。

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