Deserted theater
謎の物真似パフォーマーに連れられてやってきたのはどこかの劇場のようなところだった。
当然、表の入り口からは入らずに裏口を通って中へ入る。
「この部屋の中にワタシの仲間イル。この中で勝負ネ」
「オッケー。劇場だからそれなりに衣装もありそうじゃない」
「ハッハッハ、何でもあるヨー」
さっきから物真似パフォーマーと佐藤さんだけが楽しそうに会話をしている。
また僕は置いてけぼりですか……?
佐藤さんと一緒にいられるだけマシなのかもしれないけど、これはこれで自分の存在が忘れられているようで嫌だ。
そんなことを考えていると、物真似パフォーマーが扉を開けて僕達を中に招待する。
一見、控え室のように見えたこの部屋も実は立派な稽古場のようだ。小さいがちゃんとした舞台がある。
「ヨォー、戻ったヨ」
「アルフレッド、今夜の獲物になったのはその子達かイ?」
「そうトモ」
「女の子のほうはリズム感よさそダガ、男の子のほうは何だありゃ?身のこなしがまるでなっていないじゃないカ?」
えぇー?
リズム感がないのは頷けるとしても、そこから普段の身のこなしまで文句をつけられるのか。しかも、この人達の言葉は片言の日本語だから悪魔に操られているのかどうかもよくわからない。
目つきとか顔つきとかは普通っぽいけど……。
「あんた、酷い言われようだね」
「うぅ…」
「いいじゃない。これからの勝負であいつら見返してやりなよ」
「そう簡単に言いますけど僕、物真似とかダンスは……」
得意じゃないんですけど。そう言おうとする前に僕達を連れてきた物真似パフォーマー、アルフレッドさんが「チュ〜も〜ク!」と声を張って全員を注目させる。
「今宵もワタシの放浪癖が災いして人を二人も拉致ッテきたネ」
放浪癖って……。それに、今宵もってことは悪魔に操られる前にもこの人はそこらを歩いてきた人達を拉致していたってことか?
(か、軽く犯罪だ…)
「しかも、今日のお客さんはチョ〜豪華!何と、そちらのお嬢さんはかの有名な須磨ヶ岳高校のバックダンサーをやっていタ御仁!」
アルフレッドさんの説明に外国人パフォーマー達が歓声を上げる。
「あの、佐藤さん。須磨ヶ岳高校ってそんなに有名な学校なんですか?」
「いや、めちゃくちゃ普通の公立高校なんだけど…」
外国人の話術、恐るべし。
多分、須磨ヶ岳なんて言葉を聞いたことも無いんだろうなぁ。
「そして、コチラの少年ハ弓道をやっていたそうネ!」
「ヘイ、アルフレッド!きゅーどーとは何か?」
「クラスター、それはアーチェリーのことさ」
「オゥ、アーチェリーか!俺の息子もアーチェリーのサークルに入っているゾ!」
「腕前はどのくらいなんですか?」
僕はつい外人パフォーマーに尋ねてしまった。
アルフレッドさんはそれを丁寧な言葉で遮ると、説明を続けた。
「こちらの二人にやってもらうのは我々の稽古でハ、オナジミのモノマネだんすネ」
『物真似ダンス!?』
聞いたことのない単語に僕達の声が思わず揃う。
「ルールは簡単ネ。ワタシ達が踊るダンスを見て、それをマネして踊ればいい。たったそれだけヨ」
「ほんとにそれだけなのぉ?悪魔に操られているからって後で適当なルールつけ加えたりするんじゃないでしょうね?」
「ものまねぱふぉーまー、嘘つかナイ。ワタシはただ純粋に貴方達とモノマネだんすを楽しみたい、ソレダケ」
「ふ〜ん…。嘘はなさそうね」
「佐藤さん、どうするんですか?」
「面白いから受けてたとうじゃない。元バックダンサーの実力を見せてあげる」
佐藤さんはニカッと笑うと、そのまま軽いステップで壇上に上がった。
「アルフレッド、彼女の相手は誰にするんダ?」
クラスターと呼ばれたパフォーマーがまるで自分を指名して暮れと言わんばかりにわざとらしく言う。
「クラスターでいいヨ。お前、この子達のこと少し侮っているようダ」
「へへへ、よくワカタな。そんじゃあ、一丁やったルぜィ!」
長身のクラスターさんは軽快なジャンプで壇上に上がった。
「お嬢サン、安心してイイよ。まずはウォーミングアップに簡単なのからいくからサ」
クラスターさんは自信満々の笑みを見せると上着を素早く脱ぎ捨てた。