strange boy
一体全体どうなっていると言うんだ。
どうして園田が佐藤さんを襲っているんだ?
それにこいつまで悪魔に操られているなんて。
昼間まで普通に接していたはずなのにどうして?
とにもかくにもこれ以上こいつに佐藤さんを辱めさせるわけにはいかない。何としてでも止めなくちゃ!
「ウオおお!!」
園田は鞄を大きく振りかぶって僕に殴りかかる。
まずい、弓を構えて盾にするにはいささかあいつの攻撃のほうが早い。でも、もしかして振り下ろせるのが早い分、中には何も入っていないんじゃないだろうか。僕はあえて、園田の攻撃の直撃を受けてみる。
案の定、振り下ろされた鞄は僕の頭の上でパコンという可愛らしい音を出しただけでたいした痛みは襲ってこなかった。
「く…」
「残念だったな、園田。その鞄じゃ盾にはなっても武器にはならないよ」
「くソー!」
園田は鞄を投げ捨てると、今度は鍛えられた拳で僕を殴ろうとする。しかし、後ろからの素早いナイフ裁きでその動きを封じられる。
「あたしがいることも忘れないでね、園田君?」
「チィ…」
しかし、園田はこのくらいでは諦めない。僕達二人と距離をとり、じっとこちらの出方を伺っている。
少し時間が経過しても園田はまったく動かない。
こちらから仕掛けるべきか?しかし、向こう側にいる佐藤さんが小さく首を横に振っている。
やはり、園田の動きを待つしかないのか?
「あ!アレは何だ!!」
「え?」
僕は園田の声につられて真上を見上げるが、空にはじっとりと蒸し暑い夜空にはまばゆい星々が輝いているだけで何もない。
「隙アリ!」
好機とばかりに園田が大きな体を丸めて僕に突進してくる。
「コレぞ、園田家に伝ワりシ伝説の猫だまし奥義!」
なんて言っているけど園田の家って普通のサラリーマンの家系のはずだよな。
「スタークラッシュ!」
「ぐえー!!」
ただの体当たりにこんな力があるなんて。やはり星々を味方につけられたのは痛かったか……。
「て、なんでやねん!!」
思わずのってしまったけど、どうしてただの体当たりが園田家に伝わりし秘伝の技(※園田本人はそこまで言っていません)
なんだよ。
確かに大きく吹っ飛びはしたけど、それはもともとこいつの馬鹿力のせいだ。しかも攻撃が当たって調子に乗っているのか、二回目をやろうとしている辺りがこいつの馬鹿さを物語っている。
「こレゾ園ダ家二伝わりし……以下略!」
せこっ!
技を出すのなら、決め台詞くらいちゃんと言えよ!しかし、どうみてもただの体当りだから避けるのになんら苦労はいらない。
「スタークラッシュだか園田クラッシュだか知らないけどさ…」
「!!」
完全に僕のほうに集中していた園田は佐藤さんの気配に気づくのが一瞬遅れる。しかし、その頃には佐藤さんは既に園田の懐の中にいた。
「都子、殺人鬼になりまーす☆」
はいー!?
園田のスタークラッシュとかいう名前の体当たりもすごいと思ったけど佐藤さんのその台詞も正直どうかと思うんですけど。しかし、佐藤さんのほうが技の腕前は上だった。
懐に入り込み、その場で素早くナイフを動かし相手に回避不能の連続斬りを打ち出す。
早い、早い!
とても常人じゃない瞬発力は彼女が以前悪魔との事件に関わったという話が事実であることを決定付けるいい証拠となった。
「またつまらぬ物を斬ってしまった…」
さらに、はいー!?
決め台詞はパクリですか?
ついでに言うと思い切り腹を突いてたし……。
「どうせ技を出すならこのくらいの決め台詞とインパクトがないとね」
「そ、ソウだっタのか……。さスガ、以前悪魔ノ事件に関わッた奴は違…がハァ!」
園田はそう言って口からに血……の代わりにあらかじめ大量に口に含ませておいた唾液を吐いてその場に倒れた。
何で操られているくせしてそんな縁起ができるんだよ?
「そうそう。そのくらいやらないと」
佐藤さんは楽しそうに微笑んでいる。何だか僕一人だけおいていかれている感じである。
何はともあれ佐藤さんを救い出せた。
「佐藤さん、大丈夫…」
差し伸べようとした僕の手を佐藤さんは冷たくはたいた。
「気安く触らないでくれる?あたしに近づくなって言ったでしょ?」
「………」
「じゃあね」
「ま、待ってください!」
「何?」
「僕のことは変態男でもなんでもかまいません。でも、園田だけは変態扱いするのをやめてください!」
「はぁ?何それ?」
あれ、何か違う。
僕が言いたいのは園田のことなんかじゃないはずなのに。
佐藤さんも呆れたような顔をしている。
「あんた馬鹿じゃないの?せっかく引き止めたんだからさぁ、そこは普通自分のこの間の失態について弁解するところじゃないの?何、自分の友達をかばってんのよ。あたしと深い関わりがあるわけでもなし」
まったくもってそのとおりである。しかし、男子に仁言はなしというように一度口から出てしまった言葉を今更取り消せない。不本意だけど、ここは園田の弁解をしまくって、何とか場を持たせよう。
「それはそうだけど、このことで君が園田のことを悪いように言ってしまっては困るし…」
「はぁ?つくづくあんたって馬鹿だよね。脳みそ入ってるの?だから、あたしと園田君は何も関係ないんだからそもそも彼の話しなんかするわけないじゃない。名前ボカしてネタにすらしないよ」
佐藤さんは軽蔑したように「それに」と続ける。
「今、あたしが園田君のことを悪いように言われると困るって言ったよね?つまり何、あたしは人の弱みをそこら中にばら撒く口の軽い女だって言いたいわけ?」
「え?そんなつもりじゃ…」
「つもりじゃなくたってそう聞こえてんのよあたしには!」
まずい。
いよいよ佐藤さんの声が苛立ち始めた。
駄目だ。今の僕が何か言うと、余計に佐藤さんを逆なでしてしまう。ど、どうしたらいいんだろう…。
「はいは〜い、そこの険悪ムードのお二人さ〜ん」
険悪ムードの……と口にしている割には険悪ムードの意味をわかっていないっぽいんですけど。
この状況によく、割って入ってこれたなこの人……。
「けんかはよくないよ。一緒に踊って陽気になりまショー!」
「…悪いけどそんな気分じゃないから」
「ちょっと取り込んでいるんです。酔っ払いは少し向こうに…」
「酔っ払い〜?ワタシ、酒なんか飲んでいないよ。夜に飲むのはミ〜ズ〜!昼に飲むのはサ〜ケ〜じゃないですか!」
はっきり言います。
その思考は百八十度間違っています。
「そんなのあたしの知ったことじゃない。じゃあね、あんた達に付き合っているほどあたし暇じゃないんで」
佐藤さんは機嫌悪そうにそう言うと、僕とこの変な人に背中を向けた。しかしどうしたことだろう。この変な人が突然僕の視界から消えたではないか!
「お嬢さ〜ん、ワタシから逃げられると思ったら大間違いヨ?それとも高校でバックダンサーやったのは嘘なのかナ?それともやったのは事実だけどしょぼすぎて語れないのかナ?」
「あんた、どうしてそのことを知っているの?あたしの記憶を知っているってことはまさかあんたも悪魔の…?」
「そうで〜ス!しかし、今はそんなことはどうでもイイ!ワタシは彼方の国から来た物真似パフォーマー。お前達、日本に来てからちょうど七十七回目のお客。こんな縁起のいい数字、逃すわけにはいかないヨ?」
「つまり縁起がいいついでにあたし達からしこたまお金を踏んだくろうとわけね?」
「さぁ〜?ワタシ、そこまで言ってない。ただ縁起がいいと言っただけヨ」
「物真似パフォーマーだか何だか知らないけど悪魔の手先が相手ならやってやろうじゃない。あたしだけを馬鹿にするなら蹴りの一発で勘弁してやろうかと思ったけど須磨高を馬鹿にするのだけは許せないからね」
「くっくっく、吠え面かくなヨ〜?」
「それはこっちの台詞だよ」
あのぉ、憤っているところ悪いんですけどこの先僕はどうすればいいんでしょうか。何かまた二人だけの空気になって僕だけのけ者にされている。これもこれで立派に
いじめなんですけど。
「何やってるの羽鳥君!さっさと行くよ!」
「へ?え、どこに……ですか?」
「こんな寂しいストリートで勝負つまらない。ワタシがねぐらにしている場所があるからそこへ行く。そこにはワタシと同業の仲間達もいて楽しいネ!」
「そゆこと。ほら、さっさと歩く!」
「は、はい〜!!」
何だか知らないけど、今の会話の間だけ先週までの僕達の関係が取り戻せたのかな。