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Pursuer and the pursued

 すっかり太陽が落ちた現在の時刻は夜の九時。

 三時間前には人で賑わっていた駅前もすっかり静かになっている。この賑わいが冷めるのが早いところは所詮田舎といったところだろうか。まぁ、失恋の悲しみを癒すにはちょうど良いと言えるな。

 歩道橋の上から見る景色にも飽きたし、そろそろ両親も心配している頃だろう。僕は遠くに見える都市の夜景に別れを告げ、きびすを返そうとした。

「!?」

 背中を向けた時に一瞬見えた人影。

 あれは、佐藤さんだ。

 誰かと一緒にいるみたいだ。

「………」

 しばらく呆然とその様子を見ていたが、ハッと我に返る。

 何をそんなにマジマジと人の様子を見ているのだろうか。

 あの人と僕とはもう何の関係もないんだ。あの人が新たに誰と付き合っていようと関係ないんだ。

 関係ないんだけど――

(もう一つの人影もどこか見たことがあるような気がするのは気のせいだろうか)

 何で佐藤さんとあいつが関わっているのかは知らないが、付き合っている奴があいつとなればちょっと気になる。

 僕はそのまま歩道橋の反対側に向かって走り出した。




 あたしは今、とてもつなくピンチに立たされていた。

 何があったのか…て?

 簡単に言えば人に追われている。ただし、『ただの人』ではなく、あたしの体に憑いている悪魔によって操られた人にだ。あたしの中の悪魔の仕業なのにどうしてあたしが追いかけられないといけないのだろう。

 そこだけは何度そういう目に遭っても納得できない。まぁ、その度にあたしのしなやかでバネのある足で逃げてきたからいいんだけど、今回あたしを追いかけているこの人は何か違う。何が違うのかなんて言われてもわからないけど、何だかあたしを目の仇にしているような――

「くっ…」

 しまった、逃げ込んだ路地は行き止まりだったか。

こんな時に限ってしょうもないミスをしてしまった。

「逃げ、られな…い……ぞ?」

「へぇ、今日の人は多少喋れるみたいね。でも、人を追い詰めておいて逃げられないことを質問されても困るんだけどなぁ…」

 流石に今回はちょっとやそっとのことじゃ逃げられないか。

 人通りが少なく裏通りだけど、万が一こんなところで一揉めしているところを見つかるわけにはいかない。

「適当にやりあってさっさと逃げなきゃ」

 あたしは姿勢を低くして相手の出方を待つ。それにしても、気になるのが対峙している相手とその武器。あの鞄はどう見てもうちの高校の鞄だ。

(予想としては部活帰りか何かの人を悪魔が操ったんだろうな)

 もう一つ気になっているのは対峙している相手その人だ。さっきは逃げるのに夢中だったから顔もよく見なかったけど、この人は確かあの変態男の友達だったような気がする。

「貴方も大変だねぇ。あんな奴の友達やっているなんてさ」

「グ?ガァァァウ!」

 一応反応してくれたけど、その直後に襲い掛かるのは止めてほしいな。でも、ただの体当たりなんか元須磨高スマップのバックダンサーだったあたしにとっては軽く避けられる。

 変態男の友人は肘からバランスを崩してよろめいている。

「じゃあネ」

 あたしはそのまま全力疾走をして路地を抜け出そうとしたのだが、逃げようとしていたあたしの足の下に何か硬いものが滑り込んできた。

「うきゃあ!?」

 そのまま滑って転ぶ。

「あいたたた。今のは何?」

 あたしの下敷きになっているものを引っ張り出してみる。

「鞄?」

 鞄を滑り込ませて転ばせましたか。

頭がいいなぁ……。

「やッパ、か…ワイイ…」

 ありがとうございます……と本当なら素直に喜びたいところだけど、言っている人がこんな危ない目をした人なのだから素直に喜べない。というか襲ってきた奴に可愛いと褒められて浮かれるあたしも問題あるよね。

 ていうか、何ちょっと!?

 この人、あたしの上に乗っかろうとしているわけ!?

(流石にこんな仕打ちは聞いていないよぉ!)

 そうだ。

 よくよく考えればこの人はあの変態男の友人。

 この人が変態でないわけがないんだ。

 流石にこれはちょっとピンチっぽい。

「たすけて……」

 怖くて声が出せない。

こんな、こんな終わり方って酷すぎるよ。

「フオオオ!」

「いやあああ!」

 やっと悲鳴をあげることができた。しかし、男の体は容赦なく上から迫ってくる。

 あたしはあまりの怖さに思わず目をつぶった。

 どうしてあたしの男運ってこう最悪なのよ!

 声にならないような声を上げて、あたしは必死に身の危険を周囲に伝えた。当然聞こえるわけはないのだが。しかし、まさか効果があったのか相手はいつまで経ってもあたしの上にのしかかっては来なかった。

 恐る恐る目を開けてみると、男は斜めに倒れようとした体勢のままピタリと動きを止めている。よく見ると、男の後頭部には矢のようなものが刺さっている。

(マジですか!?)

 誰かが助けてくれたのだろうけど、さすがに後頭部を矢で射抜くのはやりすぎだよ!

 死んじゃってたら貴方が刑務所に入れられちゃうんだよ!?

(ちょっと待てよ…)

 混乱する前にあたしは平静を取り戻し、落ち着いて考えてみる。こんな時間に人通りのない裏路地でしがない高校生のあたしを助けてくれる人がいるだろうか。普通の大人だったらけしからんとか言ってそのまま放っとかれそうなのに。まさかとは思うけど……。

「あんた……なの?」

 あたしは男の向こう側にいる人影に尋ねてみる。

「佐藤さん、大丈夫ですか!?」

 向こうにいる人影が叫ぶ。

 やっぱりあいつの声だ。まったく、どうしてあたしはつくづくこんな男と縁があるのだろう。

(うん?)

 あたしはさらによく考えてみることにした。

 どうしてあたしがあいつの友人に襲われそうになったら都合よく助けに来てくれたのか。どう考えても行き着く答えはひとつしかない。

「ちょっと変態男!こんな下手な芝居であたしの機嫌を治そうってわけ?」

「え?な、何を言っているんですか!?」

「あぁもう、頭悪いわね。だから、こいつはあんたの差し金かって聞いてんのよ!!」

「そんなわけないじゃないですか!歩道橋の上から佐藤さんが園田といるのを見たんだ。だけど、何だか様子がおかしかったから降りて確かめようと思ったんです!」

「それにしてはやけにタイミングがいいじゃんか?」

「僕だって急いで駆けつけてきたんです!あと一歩遅かったよりかはマシでしょう!?」

 う、それは言えてるかも。

「じゃあ、こいつはあんたの差し金じゃない。そういうこと?」

「ああ、その通りです!園田も悪ふざけは止めろ!佐藤さんにこれ以上危害を加えるつもりならいくらお前と言えど……」

「け、ン、一?ど、して……おま、えが?」

「園田?ま、まさか…」

「そうだよ。園田君は悪魔に操られている」

「そんな。今日の部活のときまで普通だったのに…」

「とにかくあたしはこいつからもあんたからも逃げないといけないからね。まずはてっとり早く手前から片付けていきましょうか!」

「そ、そんなぁ。僕は佐藤さんの…」

「うっさい、だまれ!来るよ!」

 矢のダメージがすっかり回復したのか園田君はすっかりあたしを襲う気満々の様子である。こんなところで無駄な青春を過ごすわけにはいかないんだから!

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