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Past hero

 伊東さんを公園のベンチに寝かせて回復を待つ間、僕達は互いに一言も口を開かなかった。言いたいことはいっぱいあったのだが、佐藤さんとアーミルさんの険悪な雰囲気を見てしまうと萎縮してものが言えなくなってしまうのだ。

「あのさ、どうでもいい話かもしれないけど…」

 そう言って口を開いたのは佐藤さんだった。

「アーミルさん、あんたさっき一年前に悪魔を感じたとか言っていたよね?実はさ、あの事件にはあたしも関わっていたんだよね」

「なっ!?」

「それは本当ですか!?」

「本当だよ。と言っても解決したのはあたしの友達二人で、あたしは今まで闘ってきた人達と同様、操られて二人と戦わされた」

「その二人は…」

「もちろん人間だよ。妙ちゃんみたいに何かが憑いていたなんてこともなかった。ごくごく普通の高校一年生」

「詳細を聞かせてもらえませんか?」

「去年、まだあたしが須磨高にいた頃の話。入学してクラス分けがあったんだけどそのクラスがまた悪い意味で独特でね。揃いも揃ってクラスの中に一歩踏み出す勇気がなかった人達の集まりだったんだ。六月に学園祭があって、一クラス必ず出し物を何かしなくちゃいけないときになっても誰も動かなくて、結局先生が私たちをまとめようとしたんだけど、その時に先生も同じ光の球を見たんだって。疲れ果てていた先生はふらふらと誘われるようにその光に近づいて手を伸ばしてしまった。そうして悪魔の力を手に入れたってわけ。もちろん、あたし達生徒はそんなことに気づきもしなかったよ。しばらくして、先生が出し物の練習を提案して皆を体育館に集めたんだけど、意外と皆時間通りにきていたんだ。来ていなかったのはこの後、あたし達を救うきっかけとなった二人だけ。今、考えてみるとあの二人がもし時間通りに来ていたらどうなっていたんだろう、て思うよ。その時に、あたしもさっきの人達みたいに感情をほとんど抜き取られた状態の操り人形にされた」

 何てことだろう。

 まさか、佐藤さんがアーミルさんの言っていた一年前の事件に関わっていた人だったなんて。

 経験があるというのもこのことを言っていたのか。

「結局、その二人があたし達のクラスメート全員を倒して、最後には先生も助けた。事件の後で先生が言っていたんだけど、光の球に手を伸ばしたときに何かささやかれたんだって。先生はそのささやきを受け入れてしまってああなったと言っていた」

「佐藤さんが光の球に手を伸ばしたときは何かささやきかけられた?」

「ううん、何も。ただ、その次の日からやたら空腹感に見舞われたんだよね。でも、お菓子やご飯を食べてもちっとも満腹感が得られない。さらにニ、三日経つと今度はやたらと体がしんどくなった。ちゃんと寝ているはずなのに体がだるくて仕方がなかった」

「それはそうでしょう。今の症状は完全に悪魔が貴方の中に憑依(はいって)いる証拠です。食事を食べても得られない満腹感、それは物欲的な満腹ではなく魂を食することで得られる満腹感なのです。そして、その行動はもっぱら夜です」

「そういえばあたし、たまに夢でこの町を歩いているのを見たことがあった」

「じゃあ、やっぱり夜中に出歩いていたってこと?」

「そういうことになるでしょうね。悪魔は魂を食した者を自在に操ることができる能力を持っています」

「食べられた魂はどうなるんですか?」

「悪魔は人間の魂をいくつ持っているかで位が決まるといいますから食してもすぐに観賞用として吐き出すのだそうです。ただ、都子さんに憑いている現在、精神(なか)の悪魔にそれはできないはずです。ですから……」

「あの人達はもう生き返らない……と?」

 アーミルさんは俯いたまま何も答えない。

「僕達のせいで関係ない人を何人も殺してしまったのか?」

「………」

「君があの光を興味本意で取ったりするからいけなかったんだ!!」

「あたしが悪かった、ていうわけ!?」

「違うのかよ!?」

「くっ…」

「落ち着きなさい、二人とも!それに、まだ死んだとは限りません!悪魔や天使も身体や精神能力の差こそあれ、体の作りは基本的に人間同様です。ですから、奴が胃にためた人間達の魂もそう簡単には消化されないはずです」

「それは本当ですか!?」

「ええ、ただしあまり時間はありません。それにこれ以上都子さんの中の悪魔に人間を支配させるわけにも行きません!」

「具体的にはどうすればいいんですか?」

「それは簡単なことです。昼夜逆転の生活をすればいいのです」

「それだけ?」

「ええ、それだけです。今も昔も悪魔が光に弱い事実は変わっていません。ですから昼間に都子さんが寝ていても悪魔は外に出られないわけです」

「そんな古典的な方法で悪魔が外に出るのを防げるとはなぁ…」

 まさに意外としか言いようがない。

「でも、それって結構大変なんじゃない?」

「そう?夜更かしくらい皆するでしょ?」

「そりゃするけど、これだけ戦った後で佐藤さんは眠くないの?」

「そう言われると、眠いような……」

「わわ、寝ちゃだめだってば!」

「わかってるよぉ…。だけど、急に疲れが出てきて…」

「まさか、今の話を悪魔が聞いて都子さんを眠らせようとしているのではないでしょうか?」

「そ、それってまずいんじゃ…」

「ええ、大ピンチです!都子さん、起きてください!」

「佐藤さん、起きてよ!朝ですよー!」

 彼女の肩を大きく揺さぶっても佐藤さんは眠そうに唸るだけでまったく起きてくれない。

「このまま悪魔が出てきちゃったらどうするんですか!?」

「対決するしかないでしょう。ただし、私は本来の力を使えない。妙さんもこの分では起きるのはまだ先になるでしょうし…」

 非常にまずいぞ。

今までは佐藤さんと伊東さんが攻撃を凌いでくれている間に僕が弓矢で後方から支援するという形でやってきた。しかし、今は本来の力が使えないアーミルさんと僕だけ。

アーミルさんがどのくらい耐えてくれるかわからないけど少なくとも二人と一緒に戦ってきたときより格段に戦力が落ち、隙も大きくなるだろう。このままでは確実に悪魔を止めることができない。

「佐藤さん、頼むから起きてくれよ!!」

「健一君!このままでは彼女の意識を悪魔に取られてしまいます!何か強烈な刺激を彼女に与えられれば目覚めてくれると思うのですが…」

「強烈な刺激〜!?」

 いきなり強烈な刺激と言われても困る。

 まさか弓矢で威嚇射撃なんかしたら強烈過ぎるだろうし、何より当たってしまっては意味がない。でも、僕の手持ちの道具をいくら探したところで彼女に強烈な刺激を与えることなどできない。

 


 いや、あるぞ!

 瞬間的に僕の頭の電球が光った。

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