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Boy meets girl

ムーンナイトウルフの第2弾です!前作よりもさらに手をかけた(つもり)のバトルにご注目ください。

 彼女との出会いは墓場だった。

 今思うとずいぶんとムードのない場所だと思う。いや、そもそも恋の始まりが墓地だ何てムード以前の問題だ。でも、彼女の顔を初めて見たその瞬間だけは周りが墓地だろうが何だろうが関係なかった。

自分の顔が熱くなっていくのがはっきりとわかる。それはもう風邪を引いた程度のおでこの熱さなんか比にならないくらいに熱い。「大丈夫?」と聞く彼女に僕は早口で大丈夫としか言えなかった。

 ことの始まりは三十分くらい前に遡る。僕の家は今歩いている場所からずっと先で、高校の最寄りにある駅から電車で帰るほうが早いのだが、この道は僕が幼い頃からずっと変わっていない唯一の道で、たまにこうして一人でゆっくり歩いて帰ってみたくなるのだ。ただ、人気のあまりない道だから夜になると少し怖い。恐怖を後押しするかのように道中には墓地がある。この墓地も今では慣れたものだけど、小学校を卒業するまで一人で歩くのは怖かった。夏休みになるとよくここで友達と肝試しなんかしていたっけ。怖い怖いといいながらなんだかんだ言って女の子に抱きつかれたりすると嬉しさのあまり怖さなんか忘れてしまうしね。

ただ、今日だけはこの墓地が再び怖いと感じた。なぜならいつもならしんと静まり返っているあの墓地で女の子が不良達に襲われていたからだ。

 どうする!

 どうする僕!?ていうかまず落ち着いて考えてみろ。どうしてこんな場所に不良がいるんだ?こんなところに不良達のたまり場なんてなかったはずだ。ふと、墓地の近くに目をやるとバイクが三台ほど置いてあった。やはりたまたまこの辺りを走っていただけのようだ。こんなところで女の子がいくら悲鳴をあげても近くに民家はないため助けなど誰も来ない。

 今、この場に居合わせた僕はどうすればいい?僕のとるべき行動は――

 気がついたら僕は大声でわめきながら武器も持たずに不良達の中に突っ込んでいっていた。不良の一人に低い姿勢から体当たりをかまし一人の体勢を崩すことに成功するが、すぐに他の二人に周りを囲まれて、あっという間に僕は四つんばいになって必死に身を守るしかなかった。幸いわめき声を上げながら突っ込んでいったのが功を成したのか民家のおじさんが一人警察に連絡したと不良達を脅したため、そのまま彼らはバイクに乗って逃げていってしまった。

「大丈夫?」

 初めて声をかけられた。顔を上げると女の子が手を差し出していた。情けないことながら僕は彼女の手を借りてようやく立ち上がった。そのまま僕達は助けに入ってくれたおじさんにお礼を言って、墓地を後にした。

 周りに誰もいない静かな道に気まずい空気が流れている。勝っていたなら得意気にかっこいい台詞でも言おうと思っていたけど負けてしまったのに「君こそ大丈夫だった?」なんて聞けないよなぁ。

「それにしても君も無謀な人だね。喧嘩が強くないのに不良を三人も相手にするなんてさ」

 情けない僕の代わりに女の子のほうがこの気まずい沈黙を破ってくれた。それにしても一応助けたというのになんていい草だと思ったが、その通りなのでまったく反論できなかった。僕だって、助けるからにはかっこよく勝ちたかったさ。そう言いたいのを必死でこらえた。「でも…」と女の子が続けた。

「助けに入ってきてくれたときは嬉しかったよ。だって、今時女の子が襲われていても助けに入らずに逃げる人だっているじゃない?君はやられっぱなしでかっこ悪かったけど、でもすごく勇気のある人だなって思ったよ」

 女の子なりの精一杯のフォローなのだろうが、今の僕にはかなり辛いフォローだった。

「こういうのは勇気なんて言わないよ。ただのバカさ」

 情けなさと悔しさに任せて僕はついそんなことを言った。

「かもしれないね。でも、君にとってはバカでも、それで人を助けようとしたならそれは立派な勇気だよ」

 女の子はそう言ってにっこりと微笑んだ。その瞬間、僕の顔が急激に熱くなった。この時初めてお互いの顔を見たわけだが、僕はすぐに彼女の素直なその笑顔に恋心を抱いてしまった。そのまま僕は彼女の家につれていかれて怪我の手当てをしてもらった。聞くところによると、彼女はいつもこの寂しい道を一人で歩いて帰っているということだった。

「他にこっち方面に帰る人はいないの?いないなら理由を話して男の人にでもついていってもらったほうがいいよ」

 僕がそう提案すると、彼女は「こんなへんぴなところまで送ってもらうのは悪いじゃん」と苦笑するだけだった。

「それなら僕が送っていってあげるよ」

「は?」

「僕はずっとここに住んでいてあの道のこともよく知っているんだ。僕の家はこの先だから気にしなくても大丈夫だよ。あの道は夜に女の子が一人で通るには危ないよ」

「でも、また不良が出たらどうするの?あたしはけっこう足速いから逃げられるけど君はそんなに速そうじゃないよね?」

「そこらへんは努力するから!それにいざというときは君を守ってみせる!」

「今日、コテンパンにされたのに?」

「それも努力する!時間は掛かるかもしれないけどきっと君を守ってあげられるようになるから!」

 今日はどうしたことか思うように口がまわる。我ながら臭い台詞かもしれないけど、これだけ必死なら彼女も説得されてくれるかもしれない。しかし、僕の意に反するように彼女は首を横に振った。

「やっぱり初めて会った君にそこまでしてもらわなくてもいいよ。さっきも言ったけどあたしは足が速いから戦うより逃げたほうが早いもん」

 な、何て人だろう。僕の必死の説得を軽々と足蹴にするなんて……。僕はがっくりとうなだれた。そんな僕の頭の上から「ただ」と明るい声で彼女が続ける。

「一緒に帰る友達が欲しかったんだ。だからあたしを守るとかそんなのはいいからこれから一緒に帰らない?」

「え?」

 僕は泣きそうな顔になりながら顔を上げた。てっきり完膚なきままに叩きのめされて終わりかと思った中での一筋の光だった。

「ほーら、そんな情けない顔をしないの!あたしを守ってくれるんでしょ?」

 彼女はそう言って僕にウインクをした。僕は泣きたいのをこらえて必死に頷いた。別にふられたわけではないのにどうして泣きそうになっていたのかわからなかった。わからなかったけど、僕はとても温かい気持ちになれた。


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