第三話「モアモアレッツgo乱~楽興の詩を添えやがれ!!~」
「シュレイド!僕様は悪霊だ!!」
「…………」
今ピクピクと青筋を立てている僕様はどんな顔をしているだろう。
残りのシュレイドはいいリアクションしてくれるに違いないと、僕様はヤケクソの勢いで門前に来ていた。
「なるほど、イレイナさんやライオットさんのとこにいってたんだね」
いま一人?と全身を鎧で包んだ青年が覗くように周囲を見渡す。
意識と集中力が乱れているせいだろう。
見慣れない馬の息遣い、
森の中を突進する魔物の足音、
二階のベランダから山の方を見つめるイレイナ。
「くそ、」
怒りのせいでフィルターの調子が悪いが、見過ごせない情報があったのは僥倖。
………………だが正直今はそれどころではない。
ここはファンタジー世界であり、山奥に拠点を構えては魔物も普通に出てくるのは理解している。
「ああ!そうだ!!アリスは壁にかけられた鉄の剣をよたれた動作で取った後、床に落ちた毛布をまとめるライオットに手渡している!」
「そっか…………」
空は快晴で暖かな陽射しが肌を包みこむ。
が、気分は良くない。
使用人共はおだけているわけもなく、ただ僕様に疑念の目を向けてくるわけでもないからだ。それに、
「では坊ちゃんは悪霊だとしてどんな反応をして欲しいんだい?」
それに、の先の言葉が出てくるより早くシュレイドの声が思考を過った。
沸騰した頭がゆっくり冷めていく感覚に腕を組みつつも、頭の音楽に合わせて足先が勝手に動き出す。
どうもこうも、すぐに答えが出ない時は音に体を持ってかれるのだ。
「それはだな…………こう、びっくりだ!」
「それはなんでだい?」
「それはだな………………………………それは……」
更に地震のような足音が近づいてくるが、構えもせず僕様は目頭を指で強く掴んで深呼吸する。
……………………すると、なんかちょっと焦ってたかもと空を見上げる僕様。
「たしかにな!!」
耳を超えて喧しいほど脳内にまで響いてくる獣の足音。
空気の揺れすら知覚する肌と360°に展開された視界が、憤怒と血を頭に被った猪の山を降りる姿を捉えた。
「でも、ただ僕様は」
シュレイドに見えないように項垂れて、閉じていた瞼を開いた後。
手のひらに鉄の剣をもつイメージをする。
「その、………お前らに」
手のひらに重たい感触が渡る最中、遠くの街で天高くラッパを吹いた音を聞いた。
二階で洗濯物を干していた銀髪のエルフが強く床を蹴る音、感じたことのない視先にヒリヒリする肌。
「甘えたくない、というか」
その瞬間、猪が噴火の如き猛進で森の迷路を壁ごと突き破ってきた。
「……」
魔力の過剰放出でイカれてる目玉、さんざん肉を喰らったのか成熟した馬なんて一口で喰われそう。
距離およそ右斜め後ろ八メートル、体を揺らすほどの衝撃と全身を黒い魔力で包んだ化け物がブレーキなしに突っ込んでくる。
「っ、なんだ!?」
数秒も待たずに、雪崩がごとく土煙がこちらの体を揺さぶり黒髪と服を荒らした。
「……」
鉄で作られた壁があろうが粉砕は確定。
すると僕様の足元から噴出される冷気、猪が破いたであろう木々の幹がバキバキと倒れ始める音が響く。
……いつか旅に出るなら。
気が付くと僕様はぎりっと痛いほど手のひらで剣を握っていた。
「最後に、後悔はしたくない、というか」
刹那で思い返すに原作でもいたはずである。
角の一本ですら僕の胴体と比較すると余裕で二倍ほどは超えており、ふもふもと息がうるさくてたまらない。
滝のように涎を垂らし丸太ほどの筋肉を隆々させて突進してくる猪に、こちらも迎撃する体制を魔力で編み出す。
が。
「?」
どこからか、鎖で何かを縛る音が聞こえた。
夢でも見ているのか頭がぼやけて真っ白になる感覚。
不意のことに驚いて横身で機会を待つ。
今体制を変えても間に合わない。
魔力の渦が猛々しく放出されているのもあるが、やはり、デカいのだ。
「っ! 坊っ !!」
今更気づいたのか、顔を青くして僕様を突き飛ばそうとするシュレイド。
周囲に吹き荒れる土煙の幕は晴れ、殺意がこもった巨大な双角が幅一メートルはある鉄柵とレンガを粉砕する。そして、
「ほっ」
あっけなく迫り来る角は分解された。
初撃で泥だらけの角を大雑把に切り離し、柄の持ち方を変えて数回切り刻んだのだ。
ひねった腰。
足は重く。
滑るような剣筋。
下手すればシュレイドすら吹き飛びかねないが、向こうの牙は既にミキサーに充てられたように分解されていた。
黒い外套がバネみたいに力強く捻り伏せている。
瓦礫と鉄の柵と断裂した角が銃弾みたいに迫る最中、無詠唱で生み出した水の球をそこら中に張り巡らす。
キーーーンという鉄と鉄が叩き合う音。
このまま本体を斬るべく一歩踏み出して、アクセル全開の身体強化で剣を構えた。
肌の近くから水中に岩を投げ入れたみたいな音が立て続けに起こる。
陽光を映す鉄の刃。
聞き慣れた女性の足音。
視界の端で突き入る黒い剣先。
予め地面から噴いていた冷気が迫り来る肉塊をまるごと凍て尽くすのだ。
それより速く、アメンボみたいに音もなく跳躍する僕様。
構えた腕から視界の奥に吸い込まれるよう。
魔物の背にて同時、隣で黒い外套をはためかせるライオットは目を座らせて納刀していた。
「あー、死ぬかと思ったっす」
「飲み過ぎだ、酒臭」
まもなく前進したエネルギーすら飲み込むほどの爆発だ。
それが猪の筋肉を押し弾くように暴れ回った。
すると三秒間に十二回。
皮と骨を超えて噴出した筋肉すら外気に触れた刹那に凍結され、少しの血飛沫も霜となって消えていく。
…………その最中、女性の細い指先が脳内によぎった。
まるで氷花が施されたドレスを着ているみたい。
芝生の向こうから歩いてきたイレイナからは冷気が溢れ、長い睫毛や露出した肌には不規則に霜が張り付いていた。
そろそろここから離れていくのだし、やはり魔法に関する勉強時間は増やしておいて損はないだろう。
なにより手元の剣は穴ぼこだらけで改善点丸見えだ。
「今日のはでけえイノシシだったっすね~、魔物じゃなかったら酒のつまみになりそうなのに」
「………」
魔物を構成する核を細切れにしたのだ、力の流出に歯止めが効かなくなって肉体が爆ぜ続けるのは当然。
また僕様の剣に対比して、ライオットの黒剣は微細なまでの音から確認するも傷一つもなかった。
「チッ…………ぁしまった。舌打ちが」
パリンと凍結された肉片が砕け散り、跡形もない灰となって風に連れられていく。
それに腰を抜かしたまま口をわたわたと動かしているシュレイドだ。
…………いつもながら思う。
シュレイドならあんな魔物やっつけることができるのに、何をしているのだろうと。
「それはそうとご主人様、また凄い技できてるじゃないっすか。ほら水球を瓦礫とかを防ぐ盾がわりにして…………」
「大袈裟だ!あれは序の口だとわからんか!超序の口だ、序の口なの!!いずれ世界最強になる僕様だぞ! いや、もうなっているといってもいいがな!!」
このまま学園に入らない理由がわかるっすね、なんて剣の柄頭に顎を乗せるライオット。
数分後、屋敷から走ってきた金髪の少女が興味深そうに「ご主人様は何がそんなに気になるんですか?」瓦礫を閉じ込めた水球に手を入れたままそう言った。
「…………別に言う必要はない!」
そう、こちとらそんなことを言うつもりはない。
作ったこともない難関マカロン作りまーすなんて宣誓した後から、ぐちゃぐちゃの悍ましい失敗作をテーブルに出すようなものだ。
僕様は灰となって消えていく剣を捨てて、ゆっくりと相手に伝わるように大きな声でこう言った。
「お前たちに暴露するくらいならゴブリンに声を投げた方がましだ! 故に、帰れ! お仕事だお仕事!」
「ええ、なんですか?口に出すのが怖いんですか?」
「やーだーご主人様のいけずー」
…………この野郎共に痛い目を見せてやろうかと青筋が浮かんできた。
まあ、それはいいとして、だ。
魔物は殺されると魔素に変わる。
それに触れたり過剰に吸引すれば人体に害を与える毒となったりもするのだ。
故に、魔物を狩る剣士にとって属性がない剣とは死に直結する落とし穴となる。
原作においてもネームドのキャラほどある技術を高め、【それ】を土台として近接戦の強さを確立してきたのだ。
能力面に関しては“瞳”を使えば一通り補えるが、次の段階に進む機会が欲しいところ。
例えば強者とのタイマンとか。
「……………はぁー、びっくりしたぁーー」
うちの衛兵は万事順調である。
まるで何を思ったのか、愕然の笑みを浮かべて重荷を下ろすようにため息を吐くのだ。
いつの間にか持っていた紙への執筆は止まることないが。
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本名 シュレイド(年齢不詳)
:女々しい奴。
;なぜいつも弱いふりをするのかわからないけれど、本気になれば敵なしだと僕様にはわかる。いや僕様よりは下か。




