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第二十九話「ぶっ殺す!!」



 死者が走馬灯なぞ見るのか少女は思う。


 溜まりに溜まったエネルギーの衝撃波は一度見てから避けるなど不可能。

 そこから速さの問題だ。

 近くにあるはずの泥のゲートすら少女にとっては、生きた心地がしないほど彼方である。


 だがそれは危機感による錯覚。

 自らが生み出した爆発に巻き込まれる覚悟はあっても、骨まで消し飛ぶなんて恐ろしい。

 だからこそ。

 

 この爆撃は必ず成功させる。

 

 放った爆撃に中断はなく、よりエネルギーを発散するよう遠隔で操作した少女。

 最悪のケースはここで自分の命惜しさにエネルギーを無に返す事。


 そして自分の状況は鮮明にわかっていた。


 じきに巨大な氷の苗床にされた後遺症がくる。

 突如の眩暈で思考の行き場を失うだろう。


 故に、準備は済ませたのだ。


 まあ現在戦闘中の彼なら逃げられなかった時でも、なんとか生き延びることはできよう。

 ここで自分が生きて帰れる確率は、高が知れているのだが。

 また………………いずれ。


 それがやってきた。


 予想していた以上に、心身を絶え間ない閃光が蝕んでいく。

 それより速く、ことを進めていた。

 イレイナにのけぞられた鉄の部品を、抜け殻のような自分の体に激突させるのだ。


 打ちつけた皮膚にアザが残る程度の威力である。


 それが何十回も一瞬で駆け抜けるのだ。

 …………痛いし怖いけど、自分が飛んでいく計算を間違えればそれこそ終わりである。


 金髪の少女は痛みを堪えるために歯を食いしばった。


 しかし顎とか肺すらまともに動かない。

 そもそも怯えるように、からん、と地面にキスをしていた鉄の歯車や鉄の板。

 酸素が底知れない重さを持ったような感じ。


 金髪の少女は息すら一ミリとも許されず、苦しみにもがく意識は落ちていく。

 そして、少女の瞳がはじめて揺らぐのだ。


 …………幻覚を起こされたのではない。


 現実であるなどとは到底理解が及ばないにせよ、これまでの一切が淘汰されていく。


 先ほど放った一槌の余波。

 闇に覆われた視界。

 酸素を求めてもがいた意識。

 例外はない。

 建物の崩壊すら静寂に埋められていく。

 ………………それらが“厄災”といわれる所以とはすなわちそこにあるのか。



 “だーるま さんがー こーろんだ“



 生と死を司る世界の法則が何者かによって書き換えられた。

 動けば絶対に死ぬという世界の強制。

 金髪の少女はイレイナの足元に倒れたまま、子供のように“はしゃぐ声“を聞き取った。


 ………………………時に。


 山すら消し飛ばず爆発の威力。


 神都にて観測された圧力の数値により計算すると100キロパスカルをそれは、超える。


 5キロパスカルでは木造建築は大きく損壊。


 20キロパスカルは住宅地の倒壊。


 50キロパスカルともなれば堅固な城であろうと根も残さず吹き飛ばす。


 それらを大きく上回る100キロパスカルともなれば、破壊の規模は言うまでもない。


 …………ここで疑問。


 ならば。


 それすら覆い殺す風速とは?


 もはや自然に発生する竜巻や台風すらお手上げな出力が必要となるだろう。

 兵器すら超える“手の届かない空想”。

 だが、現に。

 まるで風のような何かに押されたように、屋敷を手始めに破壊した波は収束していく。

 

 だからこそ人々は彼らを“厄災“と呼ぶのか。


 天地無体の存在。


 しゃりん、と鈴の音が刀を彩った。


 残酷と憐憫が手を取り合う。


 常識の外から覗かれた牙は世界というキャンパスを喰らい祓う。

 すると……………………………千切れた天幕から屋敷周辺に灯りをもたらした月光。

 

「………………」


 その場を目撃したアリスの瞳が、こう脳内を説得せざるを得ない。

 至極単純。

 爆発が、風に凝縮されていた。

 如何にして私たちを傷つけないのかは不明。


 ただ、きゅるきゅると風に縮められた炎は焼き跡だけを残して消えていく。


 それと黒騎士が指先を動かせば血液さえ残さず消え去り、しばらく訪れる静寂。

 瞳ある者は戦慄する。

 動けば死ぬと本能が告げているのだ。

 ………………だが、そんなことよりもご主人様だとアリスは思ってしまった。


「…………」


 少女が動けども風殺されることはなく、白髪の少年はわずかに呼吸をしている。

 すると開いた窓から飛んできた蝶が、ゆっくりと鈴鹿様の指先に止まった。

 ……………………ご主人様が決して離れないように抱きしめるアリス。


 何かに隔たれることはない。


 人々の瞳に彼女は映る。

 

 ここら全ての現象が言葉を失う中で、屋敷の屋上にそれは現れていた。


「………………動ける人。いるんだ」


 星に寵愛された巫女。

 佐々霧檻華。

 その脅威を感じ取った紅蓮の剣士が、即、優先事項を変える。


 だが剣を咥えたライオットは威圧に押されることなく、全速記録を更新し続けている。

 もはや原型のない形相だ。

 茶髪の男はそれすら凌駕する速度と膂力で、せめぎ合いの末に軽々と獣を吹き飛ばした。


「石礫でも死ぬぞ。じゃな!」

「マ…………デ!!」


 すかさず倒れ伏した金髪の少女に迫る風の太刀先。


 まるで刀先の全てを薙ぎ払う風刃のレーザーだ。


 しかし赤い剣がそれを弾き続け、周囲の地形が流れ線で切り刻まれる。

 あれは走れば間に合う速度でもない。

 たんにコマ飛びのように、男の位置が金髪の少女の元へと移動したのだ。


「ああああああああああああ!!! 楽しくなってきたなほんと!! 最高だぜ!!」

「…………っ」

「あ! 起きた!?」


 冷や汗を垂らして獰猛に笑う。

 下手にいなしているせいで背骨がバシバシとひび割れていき、数秒の出来事が底なしの地獄に思えてくる。

 また形を変えるように風の太刀は軌道をずらし、男の右目を掻っ攫っていった。

 

 …………あー、おもっ! これ無理!! 


 金髪の少女と瞳が合う。

 もはや阿吽の呼吸だ。

 しかし少女は酸欠に加えて心臓に入り込んだ氷の魔力が膨張していくので、もはや立つどころではない。

 

 だが刹那、鉄の部品を召喚する。


 巫女が保有する魔力は星そのもの、消えゆく意識の中でも位置なんて手に取れるのだ。

 するとネジ一本だけが屋敷の屋上に産声を上げた。

 おおよそ巫女の背後十メートル。

 それに男はウィンクをして「疑って悪かったな!すげえ集中力だった!」泥のゲートへと少女を抱き落とす。


「……」


 …………………少女の視界が閉じていく上空を捉える中。

 茶髪の男は屋敷の屋上へと転移すれば、着地隙を最小限に駆け抜けたのだ。


 同時に、沼地にハマったように傾き出した屋敷の屋上である。

 あと数秒で斜めに倒れると予想。

 この屋敷を飲み込むほど広範囲に張られたのだろう…………泥のゲートがだ。


 驚きあれども減速はない。


 ふんわりと刀を下方向に向けていた巫女、その隙に滑り込むよう切り掛かっ【斬】た手の指に糸のような違和感が駆け巡る。


 すかさず、元から離れた5本の右手の指だ。


 …………だああくそ、いつの間にか斬られた!! と男は笑みを深めていく。

 また巫女の少女が詠唱するその刹那。


 心臓が壊れるほど鼓動を重ね、更に全身を深くまで金槌が鍛えまくるのだ。

 声をだす暇すら与えない。

 与えてはならない。

 それが巫女と俺が戦闘をする上で課せられる絶対条件、昨日ステージで魅せた『縫喰』の阻止。


「……」


 あれは【災禍の魔眼】と水球を併用した剣技でようやく防げたものだ。

 自らを取り囲む裁断の糸は流石に無理。

 あの時の少年は本当になんで立っているのか、わからないほど疲弊していたのだがな。


 ………汗が滴る暇なく、指の断面から入り込む風の刃。


 自ら進んで致命こそを避ける。 

 痛みなんて怖くはない。

 だが相手の巫女服が当たるほど近くても、まるで遥か遠くにいるみたい。


 それでも左手の剣の召喚は間に合った。


 巫女の喉が酸素を代価に声を発する最中、何段階も加速した全身で斬撃を放つ。

 …………と。

 気づけば傾いた屋敷の部屋にいたのだ。

 刹那を超えて、俺は巫女と足場が崩れるほどド派手に剣を交えたのだろう。


 左手の痺れた感触だけが残る。


 鮮明な意識が持たないとはこのことか。


 確かなことは巫女は詠唱をしない。

 防げたのだ。

 しかし侮るな。

 なんか腰にやばそうな刀が追加で一本あるし、…………ああああああ何より俺の心臓が破れそう!!

 

 それほどまでに弾ける鼓動を鳴らす、我が原動力。

 

 百年にわたる修行の日々が段階を経て体をよりすさまじく鍛えていく。

 すると魔法を使うことなく構えた巫女だ。

 また更に拡大を続けていた泥のゲートに、この部屋までもが呑み込まれていく最中。

 

 茶髪の男は魔女の言葉を思い出す。


『万が一、厄災と戦うことがあっても逃げちゃいけないよ。

 なにせ私の使徒の中で君は唯一、彼らと戦える。

 君は自分の限界を知らないだけだ。またまだ本領を引き出せてないだけだ。君だって本当はわかっているんだろう?』


 無論、俺の目標に達するには“厄災“すら凌駕する必要がある。

 その為に百年を犠牲に鍛えてきたのだ。

 言われるまでもない。

 何考えてるかわからない巫女を目前にして、こうやって笑えている。


「貴方。あの人。しってる?」

「あ? 誰ですかァ?」

「瞳を。ずっと隠してる人」


 なるほど、巫女は災禍を探すのに全力なだけか。

 それなら好都合だ。

 俺は巫女の口元から視線を外さず、いつでも全速を出せるように瞳を研ぎ澄ました。


「さあな。死んだんじゃないか? 空みたろ」

「死んだ?」

「ああ」

「…………そう。彼。自分で。殺したんだ」


 激昂してくれればよかったが案外、いや少年に性格を叩き起こされたのか冷静だ。

 ステージで魅せてきたあの世界もない。

 しかし。

 俺の心臓がバクバクと弾ける中でも。体が浮遊感に襲われる中でも。


 ふと、向けられた青空の瞳には我慢ならない。


 巫女に向けられる殺意の熱。

 まるで青い火の如し。

 声の落ち着きように反して巫女の殺意は、澄み切った瞳に現れていく。

 

「貴方たちが。そう仕向けたんだ」

「ビンゴ」

 

 その言葉を最後に意識にかるい爆発が起こった。

 繰り出される白い刀に対して、ギアを上げ続ける体は更に壊れるように駆け抜ける。

 

「ぶっ殺す…………!」

「ははははははは!! 俺に触れると火傷すんぞ…………!!」


 一斉に、瞳がお互いを映し出す。

 ありったけの熱がこもった殺意の宣告が、押し付け合った剣をより盛り上がらせていく。


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