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第一話「エンジェルheartはロックに跳ぶぜ!!」


 

 うーむ、しかし、なんと書けばいいのやら。


 転生なんてフェニックスでもあるまいし。


 でもこうして前世にて朽ち果て、この新しい人生を持っているという現実は日記に記載する『前座』を進めてくれる。


 順序を立てて日記では筆を走らせていく。


 自分に関することは思い出せないことが多々あるが、前世にて世界で誰よりもプレイしていたゲームのことは記憶から引き出せた。

 『旅路のプく』。

 それが前世にてやり込んでいたオープンワールドRPG、そして言わずもがな。


 この世界はその物語の主人公やヒロインが生きている。


 実際に歴史や世界観を振り返ってみれば『旅ぷく』と合致する点は多い。

 違うのはコントローラーがないこと、自分のHPバーや主人公の『ぷく』を操作している訳ではないこと。

 またチュートリアルもクソもない事。

 本作はマルチエンディング方式であり選択肢次第ではヒロインなんて死ぬし、世界が滅んだりもしてしまう。

 

 前世では画面越しでも旅プくのキャラクターが死ぬたびに、心を痛めたものだ。

 それが転生した今では現実としてやってくる。

 

 しかし主人公やヒロインが死ぬのなんて御免だ。


 迎えるのはハッピーエンド一直線。それがいいに決まっている。

 

 だから、この世界にきたときから力をつけてきた。

 

 全ては死んでいく数多くのヒロインを救うため、そして旅たちの日は近い。僕様はヒロインや主人公と会えるなんて思っただけで、大笑いしてしまうのだ。

 

「ぷ、うふふ、ふははははははは!!」

「…………」

「わーっはははははははははっははあーはははははははははッッ。あはーーーはーーはっはーー(笑)!!!」

「…………。…………、」

「……………………、ふぅ」

 

 昂る気分を一息ついてリフレッシュする。

 なにせ廊下を横で歩くアリスの沈黙が痛い。

 いや別にその鋭さは気にしていないのだが、どうにも自分より幼い子供に呆れられるとストッパーが掛かるのですよ。


「落ち着きました?」

「うむ、」


 日記から目を離してアリスの方を向いた後に適当に促す。

 …………糸目なので瞳孔がどこを映しているか判りにくい故、ちゃんと聞いてますよーアピールみたいなものだ。

 アピールだけである。意識は今だこの日記にありありのあり。

 

「……あの、ご主人様少しいいですか?」

 

 すると不意に頭に生えた癖毛をのぞかせて、こんなことを言うアリスだ。

 

「――――さっき、ご主人様がいってた『転生』のことですけど、一度死んじゃったら『魂』だけですよね?」


 ……………………頭に流れていたピアノソナタが止まる。

 ………………………………………前世では色んな転生ものの小説と出会ってきたが、たしかに。

 ………………………………………………………。

 

 実際に、廊下の置き鏡に映る自分は前世とまったく違う姿だ。

 艶っぽい黒髪は短く整えられ、線のように目を細めた今は12歳後。

 背丈も声もそして鋭すぎる五感すら前世の名残は皆無。

 

 さて、ここで問題が生じる。


 アリスとの会話が少々苦手に感じる理由は二つある。こういった手合いでは、僕の手を止めるような質問をしてくること。


 もう一つはそれが考えるに値する価値がある質問だということ。


「―――ま、」


 い、今は気持ちのいい時間なのだ。

 邪魔をするなと手を挙げようとするも、”思考”が空に浮いていく。

 まるで”シャボン玉”のようなイメージだ。そして、

 

「――――それって乗っ取ってないんですか?」


 案の定、パンッと割れた。


「……」

「その物語の主人公はどっちですか? 主人公の前世? それとも新しく生きていく体を手に入れたから、前世の話はどうでもよくなっちゃうの??」


 かちりと、見事に思考回路が切り替わる音が聞こえてくる。

 まるで流していたレコーダーを変えられた感じ。

 足が向かう方法が切り替わる。

 考えを一通り回した後に、これは一人では解けない疑問だと理解できたのだ。


「なるほど、これは重大な疑問だ。見方によっては僕様は《《悪霊》》か…………よしアリス!うちの数少ない使用人共のとこに行くぞ!!」

「りょ……了解!」

「僕様はこういった手合いに弱い! 自己分析ができなくもないのも僕様の魅力だが、これは一人で勝手に決めて勝手に静めるには惜しい話だ!!!」


 日記は書かなくていいの?とお前がいうな定食を出してきたアリス。

 そのままちゃぶ台返しを極めた後、屋敷から聞こえる慣れない足音を避けて近くにいる使用人に向かっていく。

 …………客人が誰かはわからんが接触禁止令が出てるからな。


「こんな山奥にくるなんて、僕様のファンだな間違いない」

「友達になれたらいいですね」

「バカにしてる?」

「してない、してない!」


 今は父上が相手しているようだし、万が一にも応戦できる余裕はつくれるだろう。

 僕様はとある理由でいろんな人間から有名なのだ。

 ………………音源の距離からして、ここから暴れられても十秒かからずに鎮圧できる。

 故に、今は議題に取り掛かるべきとみた。


)))))))))))))))))))))))))))


 歴代でも類をみない天才は他でもみない変人である。


 …………と。


 鼻歌交じりなスキップで跳んでいく少年の背後で、金髪の少女は預かった日記の最後のページに記載した。

 メイドがしていいことではないことは重々承知している。

 …………いるけれども、あんなに楽しそうなご主人様は周囲への集中力を欠いているのだ。


 ――――悪戯をするには今しかない!

 

 きっと、こんなことをしても怒るだけで暴力は振るわない少年の信頼を裏切っている背徳感が後押ししているのだ。

 日記の内容を見ても内容なんて内容はなかった。残念!


 女性の趣味とかはこれから書くのだろうか。


 自然とため息が漏れるもタイムオーバーらしく、突然と中庭から流れる風が長い金髪をふわりと運んでいった。

 

 どうにも周りからみた自分は美少女らしいが、そんな自分が何をしてもいいという考えは三割程度しかない。

 だからこそ、こうやって日記の《《最後から》》自分の気持ちを綴っている訳だ。


「っ、へへ」


 兎にも角にも中庭に入るとご主人様の気分は平常運転に戻ってしまう。

 いつも変なことをする彼だが、こと善悪の天秤においてひっくり返されると説教垂れることもできなくなってしまう。

 

「…………」


 私はささっと最後のページから最初のページへと指を挟んだ後、優しく羽ペンを栞代わりにして差し入れた。

 途中で何かの文があったが気のせいだろうか。

 いや、待て。

 本当に中間ほどの位置になにか書いているということは重要な事項なのではないか、では見るべきだろうか。

 

 スキップしていくご主人様をチラチラ覗いてはページを開いていく私。

 

 年中ご主人様への悪戯を成功してきたことで授かった『魔法』が度々警告してきているのだ。

 完全に常習犯の手つきだなと自分を客観視してみる。


 旦那様や他の方には誠実を尽くすことができているので、こんなことをするのは彼が変人で遠慮する必要がないのも一つ。

 また中途半端に優しい面が唯一の欠点でもあるが………………いつか。

 

 成長して大人になれば変わるのだろうか。

 

 その時までお供するには他の貴族が邪魔をする。

 なにより彼はいつか遠くに行ってしまうのだ。

 甘えてばかりはいられない。

 それをわかってはいるが願うならずっと悪戯してたい。いつかバレて、また本音でケンカしたいけど、それを勘づかれていない今の時間も大切で。



 「遅いぞー!アリース!」



 …………………………しまった。

 心の整理がつかずに慌てた足取りでついていき「また考えすぎか?!こっちだぞぉ!」曲がり角の先で躓いた私である。

 

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