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十八話「余韻は風速!舌舐め姿は雅なり!貴方にズュッキューンラブハート!!!」


 

「      」


 正直、少女が何を言っているのかはわからない。視界が霞んで耳もよく機能しない。

 災禍の魔眼を使うとダメなようだ、でも。

 

「ご主人様、大丈夫ですか!!?」

「姉貴、ご主人様っ無事っすよ! ゲロは消えたんで、ほら、」


 ただ、凪のごとき静寂から一石を投じる声が聞こえてくる。

 すると観客席から顔だけひょこっと見せるイレイナ。

 朦朧とした意識でも誰が誰かはわかるのだが、彼女の顔から吹き出した赤い線はなんなのだろうか。

 

「む? あら」


 自分の体をみて、つい眉が上がった。

 服は大半が吹き飛んでいる。

 下半身は無事だが、上半身は裸同然だった。

 それにしても眠い。

 風呂で寝る前の予兆みたいだ。もうこのまま楽になれとさえ思う。


「…………………いやいや。駄目だろ。何言ってんだ」

「…………恥ずか。しく。ないの?」

「? …………こんくらいはな」


 すると頭に降りかかる訓練用ジャケットを嗅ぐ僕様である。

 どうにも巫女さんが投げて届けてくれたのか。

 もはや嗅覚すらズレて、体の感覚すら薄れてくるが数分は持ちこたえれそう。いや。


 この感覚は数日前にあったな。


 ………………その時、僕様どれくらいもったっけ?


「な、なんとお美しい…………あれが巫女さまか?」

「スケッチを。いや、私などが形にすればそれは戯作になってしまうか」

「ご主人様、胸!胸隠して!!」


 巫女さんが貴族たちの心臓を射抜いている最中、アリスはそんなことをいっていた。

 また意味不明な事を抜かしていて「なんで?僕様は男ですよ?」顔を赤らめてドレスを脱ごうとしたので即座に胸元を隠す!

 

「何やってんだアホ!!」

「こっちのセリフですよ!! 自分の容姿に責任もってください!! なんか、ほら、まずい気がしませんか!!?」

 

 まるで頭の悪い子供同士のやりとりだ。

 厄災の毒気にやられているのか、まず巫女の精神状態も関係しているに違いない。

 そう仮定するはいいがはてさて何を根拠に焦っているのだ、うちの馬鹿は。


「…………貴方とっても。綺麗な女の子」

「ん?」

「人形さんみたい。恥部は。隠さないと」

「当たり前だ。そして僕様は男だ」


 へー、と治りつつある意識の中で首を傾げる可憐な巫女さん。

 もっとも厄災としての性質をフルオープンなので、巫女さんの背後を染め上げている華だ。

 …………もしかすると機嫌がよろしいのか。

 向こうの定めた期限は破ってしまっている僕様なのだが。


「目を瞑って。戦った。すごい。どうやって?」

「僕様は目を瞑ろうが360°がキッチリ見えるんだ。すごいだろ?天才だろ?」

「うん。ビックリ」

「うわい、ひゃっほぅ!」


 …………(よくわからんが)よし! 貴族ごようたしの兵器はぶち壊した!

 限界だった二分は越えているのだろうか、もう走ったままでも倒れそうな不安定な意識。

 しかし。

 この状況は僕様にとって好都合だ。旅をする上で必要な【魔法剣】を調整するには、これ以上ない相手。ピッタリなタイム。

 

「お前、ずっと戦わないがいいのか!? 久しぶりに目覚めたおかげでボヤけてんのか!?」

「うん。とっても、とっても、気持ちいい。あなたあと何秒もてる?」

「………………舐めんな。決着はつける」


 僕様は地面から抜いた木剣をなんとか構える。

 微笑んで舌なめずりする少女だ。

 また白いジャケットのない薄着はやけに観客席から目を奪っていた。


 【巫女】佐々霧 檻華(13歳)


 原作にて巫女の有する能力は。

 特定の条件下でしか発生しない魔力災害と呼ばれる現象を無制限に扱えること。


 ………通常、この世に生きとし生きる者たちは例外なく一つの属性を司る。

 それは学問的な計算式に基づき、形や質を変え、人の手によって名前を与えられた。

 わかりやすく例えれば『水球』や『炎球』。

 魔術と総称されるそれら。

 天才的な僕様でも刻まれた属性は一つ、災禍の魔眼に関わらず水球を扱えた要因でもある。


 閑話休題。


 巫女さん自身の経験値が足りないのか『台風』や『魔に関連するモノを射殺す光雨』しか躾けられないようだ。

 おまけに後者は水球を切り裂いた時だけ。

 …………原作開始前だからだっけ。うん。たしかそうなのです。はい。レベルを視認できれば便利なのだが。


 それに、剣先をゆっくり上げてきた時点で判断できてしまった。


 彼女はプくが救い出す一歩手前までいっている。

 もう貴族は言うまでもなく島国の連中も【巫女】を止められない。


 すると刀先から伸びてきた仮想の一直線を避けるために、床の模様が動かないと錯覚するほどの高速で地面スレスレに翻す。


 まるで宙吊りのまま平行移動してるみたいだ。

 案の定。

 先ほどいた地点は見事な線に跡を刻まれており、芸術家が絵をデッサンする手取りで刀をくるくると振った少女。

 こちらは“しなり“を加えた身体強化により低空で超接近肉薄するよう、刀の柄を握る。


「ジェットカッターみたいだな!」

「これ。知ってるの?」

「まあ、終わったら色々話してやるよ!!というか、お前怒ってないのか!!?」

 

 いまごろ僕様は視覚がおかしくなる速度で飛んでいるのだが「うん。さっきの見せて!」小さな頬を熱っぽく赤らめた巫女さんである。

 活発な笑み。

 弾けたような動作は籠から抜け出した鳥のように、次々と新技を繰り出してくる。


 それを超えるほどの速度と身の翻しを要求されるも、覚えたての技術が身に馴染んでいく感覚。

 また形状を変えた嵐が外円の壁を抉りながら、僕様へと真横に薙ぎ払われた。

 すかさず風のビームから体を消す僕様である。


 いや、意識のずれが認識をバグらせているだけだ。

 …………空に固定されたような水飛沫。

 青空を駆ける鳥が瞼の裏に焼きついて、同じく空を飛ぶような感覚に何かの鼓動を掴んだ。


 この世界は広い。


 人も、自然も、魔物も。

 五感ではわからないことばかりだ。

 故に探究したい。

 それらが奏でる奇跡が示した幸福を。

 だから、まあ、こんな今はまだこんな不器用な技術であるが名をつけさせてもらうと。


「刮目しろ世界!!」


 剣の刃を埋めるように配置された水球、それが三つ。

 更にそれを五回にも及ぶ重ねがけ。

 少女が物体に魔力を限界まで流し込むならば、僕様は僕様の体さえ投じてみせよう……………!!


「は!」


 笑えることに自分の手足に爆弾をつけて吹き飛ばすようなものだ。「は!」調整をミスれば終わる。「は!」だが、博打ではない。「は!」僕様は天才だ。

 それらが「は!」先端から先頭まで爆ぜた「は!」水圧エネルギーは一直線の加速へと後押ししていく。


 名義 団子剣術。


 迫りくるは大の触手がごとく打ち下ろされた不可視の刃。まともに受ければビルだって倒壊しかねない威力を、一瞬にして切り伏せ。

 地から。

 天。

 駆ける。

 足先が押し潰されない程度に水球を空中へと重ねがけしていく。落下など問題にならないほどの一線的な推進力だ。


「ふふ。ふはははははははははは!!!」


 瞳を使わず魔法を剣技に落とし込んだ瞬間。

 なにかの道が手の中に落ちた気がした。

 ああ、直感的に判定した制限時間なんてどうにでもなっちまえ。


 残り八秒間の奇跡を踏み躙れ。


 もっと速く。


 ふやけた笑みを溢す巫女に向かって、散った水滴より早く天から地面へと降下した僕様。

 そこら中に敷き詰めるだけ水球を敷き詰めるのだ。

 また王手を打つべく飛来する風の刃を、もう一段の加速を以ってねじ伏せる。


 際限なく加速していく。

 姿が霞む。

 ろくに視認できない剣の軌跡はトンボのように不規則にせばづりあう。


 しかし、両者一歩も引かず。


 少年は水球によって生じたスピードに振り回されることなく、手首、足、姿勢をもって敵を切り刻むのだ。

 巫女の目線だろうが”これは自由自在にも程がある”。

 普通なら一線で終わるはずの捨て身を、なんと八回と持続させているのだ。


 対して少女は直観だけで全ての攻撃を防ぎ切っていた。

 

 予測不能な攻撃は初めての感触。それが少女の覇気をより増幅させ、その直感は新たなステージへと巫女を押し上げる。


 踏み込んだ。


 刀は嵐の鞘へと押し込める。


 手のひらさえ傷つけんと風圧を閉じ込めた、その抜刀の閃き。

 まさに朝露が如し。

 更に“しなり“を加えた身体強化を重点。

 狙いは一つ。

 かの速度は至る。

 空中背後にて迫った少年のフェイントに惑わされず、その着地隙をなくした水球による有無を言わさぬ爆発的初速。


 そこから繰り出される剣を通り抜けた。


 刮目する暇すらなく少年は息を呑む。


 ぱかっと、ブれ動いた刃がステージ外の芝生に突き刺さるのだ。

 こちらが賭けた抜刀は伊達じゃない。

 また辺り一面に配置された水球と少年の体を吹き飛ばしていく余波。


 ならば。


 勝機の全てを台風に持ち去られた故に。


 不敵に笑うのにも。


 その訳は。


 …………遠くにある街中のガラス窓さえ悲鳴をあげるほどの風速だった。

 無論、その範囲は少年を軸に定めてある。

 何重の水球の壁すら打ち滅ぼした最中、生まれた隙を巫女の瞳は捉えているのだ。


 故に見過ごす。


 最初に巫女自身が天井に打ち上げた木刀。

 

 その木刀が水球の爆発によって天井から外され、空を駆け巡り、更に豪速となる。

 今や当たれば巫女の意識を奪うほどの威力だ。


 五感は世界の解像度を上げるためにある。


 故に、この水球で満たされた世界ですら彼は彼女以上に把握しているといえよう。


 そして初めに彼女が天井に上げた一本目の木剣が、そのままゴンっと鈍い音を立てて少女の意識を飛ばすのだった。

 激速の剣幕は静かに。

 あの少年の笑みはこれを仕組ませたことにあるのだと、落ちる暗闇の中で思いながら。


 …………………なんてことは起こらなかった。


 寸前で剣は軌道を変えて石の床に刺された。

 勢いよくぴちゃりと首元に水滴が当たる。

 反応なんてできるはずもない。なにせこの場の誰よりも、地面に倒れ伏す敗北をイメージしたのは少女自身。


「…………? 痛く。ない?」


 握りしめた筈の剣があっけなく抜け落ちる。

 

 どさりと大きな荷物が落っこちる音がすると、気づけばどこかに消えていた少年。


 それに頭の中がこんがらがる巫女さんである。


 事実、予想もしなかった少年の手によって「はいはーい!!ステージ外の芝生に落ちた■■■■ちゃんの負けーー!!」生まれて初めて“ぽかり“と口を開けたのである。


「「お、おおお、…………おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」


 観客にて涙さえ流れる拍手が溢れ出して、貴族たちが巫女の勝利を祝うのだ。

 まるで噴火した火山のよう。

 それでも吹き出しているのはありったけの興奮と歓喜のようである。

 

「歴史に残るぞ!! 素晴らしい激闘をありがとう!!」

「我々の身に余る光栄だ!!」

「巫女様ばんざーい!! ■■■■様ばんざーい!!」


 いつの間にか手に持ったラッパでファンファーレを吹き出すスターリー。

 貴族たちはこれ以上ないほどに手を叩いたり、火薬にも負けない声をあげたりで忙しなかった。


「……………………」


 青空を反射した水を滴らせ、ピクリとも動かない少年に近づいた。

 …………つい変な欲求が腹の下に溜まってしまう。

 下から見ても目の留まるほど美しい容貌は、仰向けになって下顎は支えを失っている。


 妖怪ならば死んだふりして襲ってくるものの、こんなにも隙を晒した誰かの寝顔は初めてである。

 そう。初めてだ。

 なんだか腹下から煮えるような”もやもや”、巫女が一人の少女として振る舞えたこと、自分の力を一年先ほどまで伸ばせたことも。


 こんなに楽しかったことも。


 全部。


 初めて。

 

 では、勝ったということはなにをしよう。


 負けたのならば少年は何かを献上するべきだ。

 山でもそうだし、これが生き物としての掟である。なのだが数秒間、少年の前に立ち尽くすことしかできなかった。

 

 理解できない感情に”もやもや”だけで精一杯。


 すると手すりに足をかけて観客席から飛んでくる人影が三つ。

 私の前に立ち塞がる黒い外套をはじめとして、怖い目をした銀髪のエルフとドレスを浮かせた金髪の少女が彼を担いでいく。

 その額には汗がたくさん滲んでいて、呼吸もなんだか荒い。

 

「すんませんっす。ご主人様が回復するまでしばし待ってくれないっすか?」

「彼が。起きる。まで一緒に。待つ」

「いや、あはは、それは困るっすね。巫女様は巫女様っす。ご自身のお立場を鑑みて欲しいんすよ」


 …………どうしよう、と少女は思った。


 ここで正解を導き出す言葉を知らないのだ。個人としては彼が目覚めるまで、彼をどうしようかと近くで思考を巡らせるつもりなのだが。

 立ち塞がる執事服の男は臨戦体制、どんな理由であれ接近すら許すつもりはないときている。


 男の顔は笑顔に包まれているが、なんだか意識の外にすることもできない。

 …………本当にどうしよう。

 また諦めて、後で会えばいいと言われればそのどうりでもある。でもここで逃せば後がないと胸の太鼓を必死に叩く私もいるのだ。


 まるで心臓が刻一刻を争う速度でどろどろに溶けていく感じ。


 もし本当に何かしらの魔法をかけられたのなら、とっとと解除して欲しいと懇願すればいいのだろうか。

 いやそれこそ変だ。

 だって彼がそんな妖怪じみた魔法を使えるのならば戦闘にでも使ってくるものだし、なにより理由がない。そう。理由。私は彼を一発殴りたいのか、なんでまだ一緒にいたいと思うんだろうか。それもわからない。とにかく。


「…………」

「ちょ、」


 脳内のざわめきが更にざわめきを生み出すも、不意に血だらけの手が持ち上げられる。


 冷たくて柔らかい手つき。


 まるで祈り子のようにその手から緑の光が溢れ出す。


 そこに正常な意識があるのかないのか、先ほどまで担がれていた少年は目の前で項垂れていた。

 

「「「…………」」」


 訂正。


 少年に意識なんてない。


 力なく膝から崩れ落ちて体重を私に委ねてきている。

 じくじくと火傷を引き起こした熱が、コップに移すように心臓へと注がれたようだ。

 治癒の光は彼本人の傷を治すことはなく、私の負った傷を完治させていた。


「ぁ…………」


 なんでか、薄着から張り出した小さな胸に埋もれるその顔をぎゅっと抱きしめていた。

 そうしたいと思ったから。

 よくわからないこの少年にも爛れた鼓動が聞こえているだろうか。


 沢山考えてもよくわからない。


 だからやっぱりこのまま貴方から離れたくなくて、この熱が一体なんなのかを教えて欲しいと思うのである。 

 ならば………………よし、決めた。


「私。貴方が欲しい」


 この人にしか聞こえない声でそう囁いた。

 自然とより強く抱きしめてしまう。

 少しずつ、確かに、歩くようにこの気持ちを知っていくにはそれが最善だと思うのだ。


 でも、思わず彼の髪にうずくめた口をむっとしてしまう。

 底の見えない衝動的な欲望と、この人を狙うのは自分だけではないという危機感。


「……」


 …………厄災としての本能が刺激されるような、知らない匂いがした。

 女性なのは間違いない。

 表面に何かマーキングされた訳ではないにせよ、少年の中身に何か入れられたような感じだった。

 


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