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第十五話「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!」

 

 その場の八割は何が起きたのか理解しておらず、二割は僕様に対して何やら騒ぎ立てていた。

 黄金が天井にも床にも敷き詰められており眩しい。

 やっと立ち上がった少年は、生まれたての小鹿みたいに震えてこういった。

 

「貴様!! 貴様、誰だ!!!」

「誰だと? お前こそ僕様を誰だと思ってる?

  見てわかれ。匂いで分かれ。聞いてわかれ。空気の味はどうだ。鳥肌を立たせろ。お前のようなモブでもそのくらいは許してやる。そして疾くね」

「っ~~~~~~~~~~!!! 貴様っ、僕を、バートン家を愚弄するか!! 家柄を言え!!」


 わー言いたい放題だねー、と後ろから声を掛けてくるローブの女性。

 どんな魔法を使ったのかは後で解析するとして、だらしなく下から指を刺してくる少年を吹き飛ばす僕様。

 一点強化したデコピンの感覚がじわじわと残る。黒騎士ほどの風圧とはいえないが十分だ。

 

「ぐ。あぁ”ぁ”ぁ”ぁ”…………!!」


 まあ嗚咽させるほど衝撃を与えるつもりはなかったのですよ。

 ただ存外、奴の強度が弱かった。

 ドンマイ。可哀そうに。残念だ。やつれているよう。お前の親父が見ているぞ、眉間を指で掴んでいるぞ。さて。どうする。


「なん、なんなのだ、急に、急に、現れて、こんな、僕様に、恥を…………!!!」

「奴隷制度になんかに頼らず、初恋は真面目に実らせるんだな。それに指の使い方がなってない。震えるようなデコピンアタッ~クふははははははははは!!!そんな付け焼刃の技に虐められるそいつじゅふひゃははははははははは!!!」

「ご、ご主人さま。血が」


 風邪でも引いたのか頬と耳を真っ赤にするアリスだ。

 僕様はーなんだか変なテンション!

 片腕で抱き締めていた少女を上着の中にいれて「お前、他にけがはないか? なにもされてないな?」耳元でそう呟いた。


「ピィっ…………!?」

「ぴい?…………とにかく、そこにいろ。存分に僕様を感じるといい。またまた宣言するが、守ってやる」 


 僕様は服越しにかかる息を感じると少女の青くなった腕を治す。

 なぜか、コイツの心拍は逆に跳ね上がっているが。

 ローブの女性が肩に顎を乗せてくる中……………………少年を避けるように人波が移動しており、こんな声が聞こえた。

 

「あ、あの顔、ぼ、暴虐ぼうぎゃく王子だ…………」

「全身、血、血だらけ」

「様々な学園からの招待状を蹴ったっていう」

「あの方が来ていたのか?」

「東洋戦争で活躍された英雄のご子息であり、歴代でも類をみない天才児…………彼が……」


 これだけ騒げばスターリーも気づいているだろう。

 青髪の少年がこちらに走ってる中で「■■■■ちゃーん。遅かったじゃなーい!!」なんて真っ逆さまに降りてくる始末。

 向こうから迫り来る二つの足音に対して、安堵のため息が出てきた。


「【我、炎王の魔守り手にして、かの毒主を滅却せん!!】」

「ガッツある子だね? 私がやろうか? しっかり依頼はこなすよ? 私はね」

「お前はじっとしてろ。正直、この場で一番厄介なのはお前だ」


 青髪の少年の詠唱によって生み出された炎球。

 開かれた両目は殴られた跡みたいになっており、怒涛の勢いで走ってくるもヒョロヒョロだ。

 もう無詠唱で眼前に生み出された水球に呑みこまれた後は。


「ごががが……ぼばっば…………」


 炎球ごとしばらく悶えて溺れるだけだった。

 周りでは唾をのみこむ音や、少年を心配する囁きが聞こえてくる。

 穏やかに着地してきたスターリーは顎先を指でついていた。


「うーん、私、乱暴者でも貴方は嫌いじゃないけど。こんなことしてたら正義の味方が来るわよ?」

「上等です」

「あらよかった~。実はあなたが放っとくなら私がやろうとしてたのよ。でも、なんだかこんなチャンス珍しくってね。興奮してきちゃった☆」


 同時、水球を剣が切り裂いた。

 単なる鉄板ではない。

 魔力が風のように透き通った非冷な刀、それが中心で溺れる少年に十分な酸素を与える。

 清廉な光のように反射する刀は瞬く間に鞘に収まっていた。


「見たまえ!!!」

 

 先ほどまで鼻筋を掴んでいた貴族の男がそういった。

 人体を丸ごと覆うほどの水球が割れ、青髪の少年が床に着地している。


 そして、見覚えのある少女がそこに立っていた。


 風に触れるは赤い帯で結ばれた白衣。艶が掛かった容貌と目先まで均等に切られた前髪。

 また後ろに結ばれた長髪が凛となびく。

 前世にて見覚えのある顔が、泡を吹き始めた意識で鮮明に蘇る。


「我らが星に愛された巫女殿が刀をお向けになった!!」


 このホールの空気を掌握するような可憐な存在感。

 まさしく、物語の重要人物。

 旅ぷくにおいて有数のヒロインでもあり、この世界に数えられる厄災の内が一人。名を佐々霧 檻華。


「星の意思を代行する巫女様が矛先を向けたのだ!!貴殿らも知ってのとうり!! 彼は類なき才能に落ちぶれ、耳に痛い非情な行いを繰り返してきた!!」


 …………つまり、これは星の采配なのだと。


「ゆえに私は暴虐王子を刑に処すことを薦める!!」


 こういう奴を空気の読めないのだと人はいう。

 傍のアリスはピタッと息すら止まったし、僕様から離れて大きく手を広げるローブの女性にもビックリ。

 なにより。

 死んだような目で茫然とこちらを見つめてくる巫女だ。


「ではお二人が剣を交え、戦うべきだと私は提唱する」

「………なに?」

「生まれたばかりの赤子でもわかる議論だよ。この少年が才気に溺れたのか、否か。星自体が彼を処刑する気ならとっくに全員死んでる。じゃあ何かっていうと試練だよ、試練。これは星からの試練さ」


 その最中でも、ただ刀を手に置く巫女は何かを話すこともしない。

 まるで何もかもどうでもいいような目だ。

 自分のこれからを勝手に決められようが、一寸とも真っすぐな姿勢を崩さない。


「はいはーーい!! なら私の屋敷の中庭で試合開始ーー!! 檻華ちゃんはそれでいいかしら??」

 

 まじで何も話さないのかコクコクと頷く巫女。 


「んじゃあ、武器はお互いに木製で! どーせ、■■■■ちゃんが負けてもぼっこぼこにされるだけだし! これでいいかしら?」

 

 ダンスホールにいる貴族たちは口を閉じている。

 下手にスターリーの会話を遮ることが怖いのか、一人一人の声が穏やかに響き渡るのだ。

 あと全身がビチャビチャになった少年は惨めに震えていた。

 

「ちょ、ちょっとまってください!!!!」


 僕様の上着の中で発された声が重く沈んでいく。 

 悶えて脱出しようとするアリスの声は、ダンスホールの人々には届いていない。

 すると、ふと電話をする素振りで耳元に手を当てるスターリーだ。

 

「んーー? はいはいもしもし、アラスカ。今いいところ………え、うっそ、そう………ちょっとまって」


 さて、ローブの女性がどんな魔法をつかったのかは知らない。

 だが確実に眠い。

 現によく思考できないのです、今。

 ただ三つ編みのアリスが上着から抜け出ると、――――――――――――漫画の巻き足みたいに出入口へと駆けたスターリー。


「「「…………」」」


 どうにも暴走気味らしく、足と足が絡まって上手く前に進めないでいる。

 空気が凍り付いたというべきか。

 興奮した犬よりも慌ただしい走り方に、会場にいる貴族が一人の漏れなく立ち尽くしていた。 

 

 無論。


 巫女殿は直立不動。ローブの女性はこちらに歩いている。

 …………巫女の連れらしき和服姿の貴族はどっかに消えてるがな。まあ、あれらとやり合うにはいつでもいいが。

 すると、口元を変に歪ませてこういったアリスだ。


「ご主人様!! ほら、逃げましょう!!」


 何か嬉しいことでもあったのか、と僕様は眉を上げる。

 お姫様みたいな少女は白い頬を赤くして、シルクのような純白のドレスが乱れてもこちらを引っ張りだす。

 …………まるで飛び跳ねたい思いを必死で堪えている顔だ。

 

「元気だね。君のそれは変顔かい? こんな土壇場で」

「な、なに言ってるんですかアンタ!! ご主人様いいから早くぅぅぅ!!」

「誰があんな巫女にやられるか、僕様だぞ?」

「「「「「…………」」」」

 その疑問の声を一号に顔色をぞっと青くしたり、舌を出すほどに色々騒がしくなった会場だが――――――――――――結局。


「僕様は許可する。今すぐやるぞ」


 画面の中でしか存在しなかった巫女を前にそういった。

 

(((((((((((((((((((((((((((

 

「んで、目的はなんっすか」

「はあ。はあ。はははは」


 四肢の断面が焼け焦げた男の瞳は揺れてなどいなかった。

 丸太ほどの首元が壁に押さえつけられているのに、だ。

 片腕で男を持ち上げるライオットも表情は変えず。対してラキラスは腕を組んで壁にもたれ、アラスカは床で足を伸ばしていた。

 

「はあ、はあ、まぁ、仕方ねえわな。俺ァ、女も子供も老人も邪魔する奴はぶっ殺してきた。だから、俺が死んでも仕方ねえ」

「質問に答える気があるんすか?」

「はははは、あるさ…………今回の主犯は俺だけってことぐらいだな…………まあ落ち着けよ。さっきの気狂ったバケモンはテメェのか?」

 

 ライオットは瞬きもせず男を凝視している。

 腹の底から煮えくり返るほどの憤怒が、ぎりっと握った剣の柄を鳴かせていた。

 そこからじっくりと、男から零れる声の一つ一つを拾っていくのだ。


「俺は、人を殺してきたが、その意味も、重みも、忘れたことはねえ。だがあの餓鬼は違う。散々人を殺してきておきながらそれを何とも思ってねえのさ。きっと星を滅ぼそうがどうとも思わんよな。はなからイカレてるんだよ。テメェも気づいてんだろ?」


 それはライオットにとって拷問に近い時間だった。


 筋肉が痛いほど軋めく。


 瞳孔が焼けるほど唸っている。


 正直、相手の声すら怒り叫びたくなるほどに要らないものだ。

 

「誰だって気づくぜ、アレは殺した方がいい。俺はその為にここにきた。俺ァ、世界を狂わす化け物をぶち殺しにきたヒーローさ。お前も、そこのお前らも、いずれ近いうちにアレと殺し合うことになる」


 また魔力がぷくぷくと皮膚までも膨れ上げさせる、その瞬間。

 

「知らないだろうがな。俺たちは一人残らず、本来の軸からズレ始めてんのさ」


 男の骨肉を突き破った爆発が辺りを吹き飛ばした。

 だが、それもなかったように消える。

 人体を吹き跳ばすほどの爆発よりも、ライオットの中で弾けた怒りの圧が膨大であるように。

 心臓だけではなく、小さな肉片すら即座に切り刻まれていく。 


「「……………………」」


 剣を振っていくライオットの背中だけが二人の目に映る。

 どんな表情をしているのか、将又、意識を保てているのだろうか。いずれ死体としての原型が溶け切った頃だ。


「…………魔女の使徒に属する者は、情報漏洩を塞ぐためにこういった手を使うんす。なんで、少しでも情報が欲しかったんすけど無駄だったっすね」

「………………」

「向こう側もひと段落した様子。某の本体は事件の根幹を探っておる。一時間と掛からぬうちに結果は出てくるだろうが、ライオット殿」


 眉を少しだけ潜めるラキラスは鼻を布で覆った。

 すると剣を鞘に納めるライオット。

 眼球まで刺激する血の匂いが漂う空気の中、アラスカは立ち上がった後にこういったのだ。

 

「其方の主が巫女殿と決闘をする行うそうだ」

「!!」


 ライオットが寸ともいわずパッと消える。

 ぶんと乱暴に頭を下げて瞬きの間に居なくなっていたのだ。それを横目に何処かに歩いていくラキラス。

 また呑気にストレッチするアラスカが首を傾げた。


「お主はどこに? 決闘の観戦はよいのか?」


「戦況を確認するついでに、あの男の戯言について一応考えておこうと…………それに決闘の結果は視えています…………”厄災”たる巫女様に敵う人間はいません」


「そうか。お主の保護者はさぞ、楽しいだろうな」


「……はい?」


「お主より上手な嘘つきは、僅かな声色でも調整する。それか自分自身を完全に騙す者か…………なにはともあれ。口端も12度ほど曲がっているぞ、お主」


 ラキラスは軽く深呼吸をすると、閉じた目の睫毛を指で伸ばす。

 心を鎮めたいときの癖みたいなものだ。

「私めが授かった依頼は貴族様方の護衛ですので、これにて失礼します。手始めに地下から手を進めますので。用があればお申しつけください」


 (((((((((((((((((((((((((((((


「わったしーーー!!今まで300人近く歴史に刻まれた魔法使い見てきたけど…………こぉぉぉんなすっごいの初めて見たわああああああああ!!!!! フォオーーー!!ちょーーーーサイコーーーーーーー!!!」


 ダンスホールから出た後はまさに怒涛の嵐だった。

 

 なにせ、アリス含めた中の人たちは何が起きていたのかも上の空。

 プラズマ熱で焦げ上がった廊下も。

 木々から漏れる斑な日差しに包まれた都市も、ホールの外壁に代わっていた大樹のことも。


「な、なんだ、これは…………空が」

「スターリー様の…………魔法ではないですよね。だって、あんなに楽しそうにしていらっしゃるのに」

「お母さま。これって、暴虐王子様がやったの?」


 廊下の窓から届いた景色に貴族たちは腰を抜かしていた。

 大人は数秒ほど立ち尽くし、袖を引く子供たちのことすら忘れているようだ。

 僕様はふふんと鼻を鳴らして傍にいるアリスにこういった。

 

「どうだ? 凄いだろう?」

「やっぱり…………これ、ご主人様がやったんですか?」

「当たり前だ。この場で誰が僕様以外にできる? 無論、誰もいない。ゆえに僕様となるのは――――」


 世の必然、というよりも早く飛びついてきた《《人影を転ばす僕様》》。

 痺れた足をぶらぶらさせる。

 知らない内にイレイナと喧嘩したのか、勢いよく壁と激突したライオットが駆け抜けてくるのだ。

 

「はあ。はあはあ、あ。はあ、ごしゅ、じん。様ッ」


 おまけに片膝に手をつけば肩で息をしているではないか。

 またもや空気をぶち壊すルールブレイカーに、演奏者たちは疲れた顔でライオットを見ているのである。

 僕様は男の髪についたホコリを手で取っ払った後にこういった。

 

「言っておくがイレイナとの仲介役はしないぞ。僕様とイレイナは四日間に続く鬼ごっこ中だからな! あははははははは!」

「………………そう、っすか。はは、そりゃ、よかったっす」

「と、とにかくご主人様!こんなあり得ない魔法を使ったんなら…………」


 まあ留まらない視線を泳がせておでこを合わせてくるアリス。

 なんの魔法を授かったのかは知らんが「ま、魔力は満タン。体力も、心拍も安定してる……」そんなことを鼻先で呟いていた。

 災禍の魔眼は代償なしに効果を発揮するので、あながち間違ってはいないが。

 

「言っただろう。僕様は天才なんだ」


 ………………であるならば、今も意識を奪いつつあるコレは一体なんなのだろうか。

 この正体不明の症状が当てられるのではという悪寒。

 背筋から汗が滴ってくる感覚が、二人と僕様の間に距離を生み出していた。 

 

「みんな中庭の闘技場に先行ってて! 今からぴったり20分後に試合開始!!■■■■ちゃん!!この大樹どこまで続いてるの!!?登っていい!!?」

「ええ。お構いなく」

「いよっしゃあああああああ!!…………む、そうだ。演奏してくれた皆ありがとう。貴方たちの今日の演奏もとびっきりよかったわ。報酬は後程送るから、今日もお疲れ様」


 それじゃあねえ♡、と加えて窓からジャンプしたピエロ。

 さて、ここまでくると貴族のイザコザの問題点が浮き彫りになってくるというものだ。

 ローブの女性が一人でに囁いた言葉がよく耳に通る。


「規律は大事だと思わないかい?」

「真っ当な内容だったらな」

「…………」


 少しだけ下を見ていた巫女が目を閉じていた。

 残念ながら、勘違いではない。

 僕様はこんな状態でも五感は優れているのだから。

 マトモな感性が巫女にまだあるらしく、地面に向けた力が強まってくる。


「戦う前に聞いておきたいがお前。そんなに運命が好きか?」


 すると、一斉に、聞き覚えのある声がした。

 既に五感レーダーから反応は拾っているも、駆け足でやってくる人影に足は凍り付く。

 ………………。

 すると、僕様の後ろに立った巫女が発音したのだ。まるでロボットみたいに。

「おっしゃっている意味がよくわかりません」


 流石にピキッと青筋が走るが、時すでに遅し。

 返答を返す前に父上と母上に体の制御を奪われてしまった。あまりにも飛びつくようなハグである。

 

「▮▮▮▮!! 血が!!」

「大丈夫!? ■■■■が強いのは分かってたけど、いやでも、ええい、くっそお鬼ごっこ僕も参加しておくべきだった!! それならいう事聞いてくれたのに! 今度こそ怒るからね!! でもよかった! 無事だーーーーぁ!!」

「ええ。兎に角、無事で…………ぶじ、よね? 何かあった? 体調とか悪くない?」


 僕様は腕を両親の背中に伸ばすことはせず、ただぎゅうっと抱き締められていく。

 二人の心臓の音は暖かくて聞くだけで息が漏れでる。

 でも、なんだか、その暖かみすら。

 どんどんどんどん。

 知らない場所に沈んでいっていく気がして、心臓が凍るような感覚に口は閉じていた。

 

((((((((((((((((((((((((((((


「規律がなければ人はああなる。

  巫女を使っても何も不都合なことは起こらない。むしろ、自分に都合のいいことを起こせる。なら、もうおしまいだ。覚えたばかりの言葉を使いたがる子供みたいに、人は事を進めてしまう」


 それが《《星に愛された》》という事実が生んだ一つの『劇』である。


 ローブの女性は部屋の外でそんなことを言っていた。


 この建物にいるのなら貴族で間違いないだろうに、やはり変な奴である。


 一般的な貴族ならば巫女を敬遠する一方、公共物のように扱うものだと思っていたのだが。 

 

「それで、お前が僕様にかけた魔法はなんだ?」


 試合開始前の準備室にて服装を整える。

 ぼんやりとした意識の中で鼻ちょうちんをつくりながら、あの巫女さんのことについて考えていた。

 ゲーム開始前だろうと巫女様は無気力極まりない。


 ………………さて、『旅ぷく』にはどうしても避けなければならないイベントが存在した。

 ゲームでよくある負け確と言えば判りやすいだろう。

 特に貴族たちと交友を重ねる場合、好感度を一定値まで下げてはいけません。


 理由は簡単です。


 貴族どもが金や人材を巧みに使って、星に愛された巫女が刑を処すよう仕向けるのです。

 よってプレイヤーは問答無用のデットエンド送りなのです。

 

「君に施した魔法は身体の疲れを取る魔法と、瞬間移動の類だ。あと肺を損傷してたので治癒を少々」


 …………本来、巫女は人々から崇められる聖なる存在だ。

 もっともその本質は”厄災”。

 世界各国で畏怖の的ともされており、幼いうちだろうと人類が手綱を握れるように。

 かつての師匠以外からは教育のろうを垂らされてきた巫女だ。

 

「君が今日まで何徹したかはしらないけれど、大抵、殆どの疲れは一瞬で吹きとぶハズだ。今だって素敵だったクマは完全に消えているよ?」


 この世界に数えられる厄災は”基本的”に二組揃い。

 勇者がいれば魔王が。

 巫女がいれば獣が。

 太陽と月。

 陽と陰。

 故に、それぞれには必ずしも意味がある。


 勇者と魔王が誕生したのなら、人類と魔族の種を懸けた争いの幕開けとして。


 巫女の訪れならば、星を反逆させる深淵の獣が誕生する前触れだ。


 それらに例外はなく”時代を変える”ほどの大一番。

 

 故に”厄災”を操り人形にできるのならば、人間が飛びつかない理由などない。

 

「私は君を蝕む靄を取り除くことはできなかった」


 また先刻と同じく、役目を決定付けられた『少女』を『巫女』としてしか扱わない奴ばかりだ。

 原作でもそんな感じである。

 彼女が主人公に冷たいとかいう次元ではなく、ただ兵器としてそこにいるような感じ。

 だが単なる道具では獣に対抗し得る”巫女”にはなれない。

 

「戦闘なんてことができても2分が限度」


 いずれ訪れる”最悪”を潰せるのならば、二分間で巫女様をぎゃふんと言わせるなんて余裕である。

 まあ、ここにいる理由はそれだけではない。

 僕様は単にアイツらが愛用している道具をぶっ壊しにきているのだ。 


 パーティーは好きだが、そこは好きじゃないから。

 

「…………君!! 自分の状態なんてどうでもいいって思ってるだろ? 私はこれでもだいぶ譲渡している方だよ!? それに無視するな!」

「…………ごめん。めんどちくて」

「並みの人間だったら、今の一秒とて待たずに倒れ伏すんだから……! 自分に関心を持ちたまえ!!」


 わはは、たしかに意識は変な感じです。

 不安定に揺らぐ五感レーダーだって、大樹の上ではしゃぐスターリーや屋敷内で多忙な父上と母上とラキラスを映している。

 シュレイドは不明。

 先ほど散らした男の血痕やら魔女の月に関する調査だろうか。


 正直、どんな結果が出る前に期待はできない。

 

 大陸で最も優れた賢者アトラスでさえ足取りを掴ませない奴らだ。


 原作通りに幹部クラスがここに現れていることはないが、イレイナとライオットが喉に引っかかる要素である。

 二人は観客席でアリスの横に座り込んでいた。

 父上の命令があってー、とか余計なことは謹んで欲しいのである。

 

「…………」


 なによりコイツの声だって聞こえているのに、五感の景色が知らない場所を掛け合わせているのが。

 慣れない。

 空をミタ。そのうえに街をカケタ。

 そこで待ち構える巫女がいる。

 経験上だけどね、と加えるローブの女性は壁に世垂れているらしい。音ではわかるのだが、もっと厄介なことに知らない歌が脳を伝う。



「君はなにかのツケを払ってない」



 誰もが生まれて初めて暖かみを知るような歌。



「”厄災”の一つに数えられる巫女とて、所詮は子供だ。貴族の傀儡にされた状態では下手に君を殺しかねない」



 何か変だ、という絶対的な警告を押し殺して体を動かす。



「それでも君は行くんだね、期待から外れないな。本当」


 部屋から出た後はただ道を進んだ気がした。

 理由はある。

 眠たいけど。

 僕様は単にあの巫女が嫌いだからだ。そんなことする貴族も嫌い。そして、そして、そして……………………。


 ふと観客席でドレスのスカートを握りしめる金髪の少女をミタ。


 汗を流したライオットがその頭を撫でていて、なんでか涙を流している少女の目元を拭うイレイナ。

 ……そうか。

 だよな。

 腕。

 痛そうだったな。おまけに初公演会だったのに、まったくだ。


「僕様は、天才なんだ。お前の予想くらい超えて見せるっての」

「…………」


 というか本当、こいつに僕様は何をすればいいのだろう。

 まず誰なのかを知る必要があるのか、それとも、確認せずにこいつが欲しいものを当てればいいのか。

 それと抱きしめたくなる花の匂い。

 ただ、何処かでこの女性と会ったような気が……………………しなくもないが、ともあれ。

 

「とにかく。ありがとう」

「ん? うん?」


 重たい意識ではステージに繋がる道すら果てしない。

 試合用の服から伝わった新鮮な感触に、これからお前は二度と戻れないのだと釘を打たれた気がした。

 ………………別にこれらは放っておいてもいいが。


「英雄を越えた英雄である僕様は忙しい身でな、お前のおかげでまだ僕様は立てる。だからありがとう。お前と出会えてよかった。今度お前が困ってたら助けてやる」

「………………………………………………」

「素直に感謝ができる僕様は凄いだろう? 天才だからな。たった今でもお前の予想を超えていたわけだははははははははは!!」

 

 脳内ではしばらくあの歌が鳴り響いている。

 足を止めるほど、それは魅力的に思えた。

 残された思考を持っていくほど大切な音だろうけど、それを振り切ってやるべきことを為したのだ。

 笑えて来るのはそのせいだろうか。

 

「ぼーく様はーてーんさーいでー!! 最強でー!」


 すると光の門の前に備えてあった木剣を二本、それぞれ腰に装着した後で僕様はこういった。


「そう!!この僕様の前では星すら慄く(おのの)ッ!!」


 終始無言のままこちらの背中を覗くローブの女性。

 何をいう訳でもなく、この試合が終わるまでずっと門の前にいるのだろうか。

 そんなことをステージ上の巫女と対峙するまで浮かばせていた。


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