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第十三話「僕様ディザスタ―・ゼロリミッター」


「ぷはははははははははははははははははは!!」


 せっかく用意した机椅子がガタガタと揺れていく。

 しかし紅茶だけは足蹴にする気がないのか、それだけもって自分に用意されたパンケーキは形を崩している。

 それに眉を下げる金髪の少女が躾けるようにこういった。

 

「………………食べ物、粗末、ダメ」

「くくくく、ああ、ごめんなさい。いやでも、くくくくあはははははははははははははははははは!!! お前も笑ってみろよ、ほら!!」

「………………」 


 まるで水泳初心者のバタ足のようだ。

 机から食器を下ろせば茶髪の男に合わせるように額を覆い、口を開け、激しく踵を机に叩き続ける。

 少女の棒的な笑い声がする中で角剃りの男がこういった。


「計画を途中で変えたとはいえ、あの黒騎士は強いよ。魔女様は偉大だ。あれならアラスカだって一筋縄ではいかない。戦争を経験した兵士でも瞬きする間もなく死ぬ。学園に送り出すのも面白そうだ」

 

 だが、と。


「ここには歴戦の猛者が多すぎる」


「ああ!! 今ピンっと!! きた!! もう感度ビンビン!!」


 《《あの剣の匂いだ》》、と獰猛な獣のように瞳を見開く男。

 机上を壊すように暴れる足は止まることがない。

 笑い声も、だ。

 今は結界が周囲を覆っておらず、耳に重たいほど響き渡る音楽が彼らの存在を隠している。


 ここは数秒ほどの安全圏。


 現場の脅威存在は指揮を執ることに全身を捧げている。

 英雄も、巫女も、エルフも、あの護衛も。

 このダンスホールの中に充満していた魔力は、一瞬にして各フロアへと到着しているのだ。


 強者たちは死地にて足を置く。


「魔王四天将が一席、”巨躯のバベル”率いる侵攻軍を殲滅した英雄”クロウル”」

「星の寵愛を受けた巫女”檻華(おりか)”」


 開いた扉から双剣は煌き、廊下にて抜かれた太刀。


「最果ての氷季に喉を奪われたエルフ”イレイナ”」

「魔女の月にて貴方に並ぶほどの剣の腕を持つ人間”ライオット”」


 冷気は咲き、世界までも昂るような振動は爆ぜていく。


((((((((((((((((((((((((((((((((


 全方位に流れ伸びる黒い波が刃を模している。


 頭なんて真っ白。

 

 つまり何が起こったのかよく理解が追いついていない。

 心臓の爆音はつま先まで鳴り響いている。

 端的に、限界。

 本の文字一つすら読む気にはならず、立っているのさえ限界。あの少年の黒い靴が視界に入り――――――自身も驚くほどの速度で繰り出した。


 廊下で漂っていた魚とナイフで一斉に床を落盤させたのだ。

 

 内臓がふわっとするような浮遊感に体が押し倒される。

 あの仮面を壊して眼球に届いた剣の先端は解け、まるで自壊したかのように断片する剣の波である。

 誰がやったかなんて考える間はなく。


 仮面の少年の足先は消え。


 天井には穴が開いていた。

 

 黒い外套をはためかせる執事服の男が剣を振るう際。

 その瞬間に。

 剣の先端に鎖を巻き付かせ、――――――――遠心力で宙を駆けたのだ。

 半端な力を越えた怪力は子供すら容易に投げ飛ばせる。その瞬間であろうとあの黒騎士は形を取り戻しているが。

 

「鎖…………っ、ご主人様!!ち、血が!!」

「返り血だ!! 気にするな!!」

「………………ッ!」


 僕様は意識を下に向けながら「ちょいと」四方より突かれる剣を躱し、舞うままに一本の鎖で「邪魔だ」黒装束どもを薙ぎ払うのである。

 が、全身疾走は止まらず。

 部屋の端まで拘束された大男たちの半数が…………まるであの猪みたいだな、ボルテージ上がってきたか?…………全身から魔力を滾らせ鎖を押し退けるのだ。

 

 右手は下に向け、左手で剣を構えた。


 動かした手に沿って鎖が展開されていくイメージをする。

 しかし潮が引き戻されるような感覚だ。

 ただ床一面と共に崩壊を始めていた黒水が収縮していく。黒騎士としての原型を取り戻すのに数秒は掛からない。


 故に、このイメージはステップ式に進む説明書の如く。

 

 まあ何を作るのかというと、それは黒騎士とライオットを囲むように配置された鎖である。

 求める形は正六面体。

 ダイヤルを回すような手動作に応え、鎖は両者を密室に閉じ込める。その最中に着地したラキラスはこめかみを痛めていた。


 先ほどいた場所は三階――――――変人とアラスカは無事か。あの男は増援? なぜ、結界は――――と言葉を脳裏に並べて。

 何かの音を聞いた。

 まるで空気が悲鳴を上げるような振動が内蔵まで伝ってくる。

 

「…………其方の使用人の出番まであと17秒だ!!」


 隣で着地するアラスカが目を見開いて天井まで声を上げていた。

 まるでこれが自分のしなくちゃいけないことみたいに。戦闘中。いずれも敵が放つ一手は死に直結する。

 が――――――体から力を抜いて地面に倒れていたのだ。


「なんの話ですか!!?」

「やや、ここで伝えた方が賢明と思ってな。この事件は夜明けまで続くと踏んでいた故」

「………………」


 逆にしっかりせねばと脳の糸がピンっと張る。

 黒騎士は再生と形状変化を並行させ、心臓を落ち着かせる間もなく標的を殺しにきていたのだ。

 つまり、欠片も残さぬ滅殺を要求されている。

 

 というか。


 …………鎖の中では何が。

 

 周りが。


 …………廊下の果ては青空に覗かれていた。

 

 静かすぎないか。

 

 …………まるで世界そのものが音もなく息を吸っているよう。

 

 一体、何が。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――黒騎士は。

 大盾を手元に召喚する際、顕在する空間と重なる場合にてその箇所を抉り取る。

 害的に対する対処法は。

 殴殺。

 圧殺。 

 斬殺。

 黒花による枯殺。

 

 背中の剣は空気中の魔力を吸収し、己が力として溜める。


 際限はない。

 

 出力は大盾の召喚速度に変換され、高速で生み出されたことにより生じる余破は下手をすると使用者本人すら壊しかねない。

 ――――が。

 黒騎士においてその枷は亡く。


 形を取り戻した黒騎士は敵と対峙する。


 黒い外套を纏った害敵は微動だにせず、ただ両者は指先一つ動かすことなく機を待っていた。


 瞳に意識を向けることすら蛇足。

  

 男は剣柄をからんと指先でつまみ、動かなくなった玩具のように背中を鎖に預けている。


 距離こそあれど、こと密室において全速は殺される。

 

 勝負は一瞬。

 

 いずれ、垂れさがっていた黒騎士の指がぴくりと動き。

 

 予告なしに死が放たれる。

 

 音速を越えた盾の召喚が可能にする膨大なプラズマによる――――――――余破。

 だが、剣を下げた男は黒騎士の後ろに立っていた。

 まるで盾を召喚したこと事態がなかったかのように。屋敷そのものを吹き飛ばす熱波が殺されたように。

 

 何事もなかったように。


 手先を虚空に向けた黒騎士は動くことはなく、今度こそ灰として消えていった。


「何やってんだか、俺は」


 まるで始まりの狼煙のように屋敷の廊下全域に発生する楽器。


 空から覗かれた床際に見えない演奏者がいるようだ。


 歌手は息を吸い、楽器が鳴りだす。


 ライオットが知る由もない『歓喜の歌(行進曲 第九番《合唱》)』が始まろうとしていた。


「…………」

 

 その召喚剣は”心臓を刈り取る”という意味を為す。

 

 万物にそのものに効果は適応され、一定の条件を満たせばそこに心臓は生まれる。

 先ほどは『大盾』『余波』『本体』の心臓それを穿ちぬいた。

 

))))))))))))))))))))))))))))))))))))))


 前世の幼い頃は、どうにもクラシックの曲と縁があった気がする。


 日常的に聞く曲、悩む時に聞く曲、ステップを踏むほど高揚した時に聞く曲。

 ――――――――ああ。ならば今は。



 心が躍っている。



 周囲孤立。

 終始混相。

 爆発するほど膨れた上がった魔力の塊が、五体。自らの脚を暴発する勢いで殺しに来ているのだ。

 が、腹から溢れる笑顔を止めることは不可能である。

 

「「ガア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”あ!!!!!!」」

「さあ…………ァ!」


 それ(独り)ゆえに全力を出せるというものだ。

 肉を喰らう獣が如く振るわれた剣を弾き、密接する血肉の嵐を脱ぎ捨てた仮面で蹂躙していく。

 更に膨れ上がって内側から爆ぜる黒装束たちだ。

 

 我が心今だ収まらず。 

 

 奴らの骨は皮膚を越えて狂暴な鎧となり、腕の筋線維すら鞭みたいに走っている。

 丸太ほどの筋肉と尖れた骨鎧が血の海を氾濫させるのだ。


 …………鏡身魔法は己とまったく同じ存在を生み出す。


 故に、同鏡身とて魔力のパスは可能。


 おそらくは数体の鏡身から一体の器へと過剰に魔力を注ぎ入れていたのだろう。


 それは虚ろを剥いた目と口から血という血を吹きだすほど。

 

「ォロセ”!!!!」「あがあああああああ!!」「べばぶ!!!」「殺ぜえええええええええ!!!!!」


 負傷なんて構いなしで繰り出される猛攻より速く。

 ほぼ同時に爆ぜる四体を裂き続ける。

 事実、奴らの体は魔力が暴走を続けており、魔物と見間違うほどの膂力と速度を捻りだしていた。

 また海を越えて嵐と見間違うほどの鮮烈とした景色に。

 

「喝采だ!!!!」

 

 天井に足を張り付けて目を全開で開く僕様はそういった。 

 まるで重力が反転するイメージ。

 すかさず風をまとめ足元に溜め、身体に十二分の雷を纏い、剣は火鳥の尾が如く、周囲に展開され――――――花弁が開いた。

 

 部屋中には奇跡が咲き誇る。

 

 それを謳うように『歓喜の歌(行進曲 第九番《合唱》)』が飛び出した。

 豪奢に歌う。

 楽器が派手な音を奏で、世界を振るわせていく。

 部屋の一切を塵に変え――――――――すぐさま、剣を手に雷の速度で上空へと疾走するのだ。


 足場は鎖として、まるで天に続く梯子のように連なっている。


 都市を一望するどころか遠くの国まで視えそうだ。

 もはや原型が溶け、空を爆ぜ走る肉と骨の化け物に「ははははははははは!! 豪華なレッドカーペットだな!!」それに追いつく速度で100本と鎖の群れを地上から射出したのだ。

 

 |心の中でタイマーをセットする《ピッ》。

 

 アラスカが告げた残り時間から既に4秒経過。


 つまり13秒。

 

 あの馬鹿が演奏するまでの時間を制限とする。ふと父上たちがそれぞれ黒騎士と対峙し、殺意に目を細めていた映像が頭によぎった。

 特に気にすることはなく。

 ここを中心として都市を覆った空を稲妻が刻み込んでいく。

 

 それは青空の下に幾千の剣を展開するイメージ。

 

 まるで千年を生きる大樹のように、まるで現実味を喰らうほど広大な空に根を下ろす稲妻。

 その特性上、空に帯電する雷は金属へと引き寄せられていく。


「…………?」


 都市で買い物をする子供の瞳に映る。

 建物よりはるかに高い空には幾重にも伸びる鎖と、脳が理解を拒むほどの形をした龍が天を駆けていた。

 すると雲のない雷が見たこともない密度で編まれていく。


 ――――、一秒経過(ピッ)

 

「ぐぎゃがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 溢れんばかりの雄たけびと共に肉塊の龍が迫る。

 胴体は歪んだ口が並んでおり、こちらに向かってくる頭には複数の目玉がぎょろぎょろと並んでいた。

 ―――――――口頭から尻尾まで寸分なく切り割った音が鼓膜につんざく。


 あまりにも長すぎる肉壁は、機関銃すら超える速度で射出される剣と鎖の群れに跡形もなく砕け散っていく。

 遅れることなく根を張った空からホールへと幹を伸ばす膨大な雷。

  

 ――――――二秒経過(ピッ)


 雷の速度を更に上乗せして地下へと潜っていく。

 手元に握りしめた剣すら、消えて――――――――――――更に、速く。

 また破裂するようにホールを突き破った六体の肉龍。

 それが都市部に飛来する。


 ――――――四秒経過(ピッ)


「「「くぎがあああああああああああああああああああああああ!!!!」」」


 すかさず人を喰らおうと降下する六体の龍。

 巨人の目すら超えるほど剥れ上がった瞳。爛れた筋肉繊維で編まれた胴体には、自らをも傷つけんとする骨の鎧が生えている。

 影に落とされた住宅の屋板は巨体による風圧で飛び散りそう。


 ――――――五秒(ピッ)

 

 屋敷内の絨毯が熱跡によって消し飛んでいく。

 道中にて待ち構える黒装束の群れを矢継ぎ早に切り、地上にて暴れる肉龍を――――――再び鎖と剣が射止める。

 弦楽器は演奏をうねらせ、何十人もの歌声が神々しくあがる合唱だ。


 どこからか息が漏れる音がした。


 手の力が抜けて立ち尽くす人がいた。

 

 子供が空を見上げる。

 

 雨が降るように地上と天空を繋いでいる雷だ。


 体に打ち震える興奮を底上げするよう、更に壮大な音響となって都市中にすら届かせた”歓喜の歌”。

 神々しく鳴き声を上げる雷は空で竜を刺す。

 その刹那、雷から置き換わるように現れる質量を持った大樹だ。

 

「――――――」


 いずれ一階から地下へと途切れることなく熱が弾ける最中。

 本体らしき影を捉えた。

 歯をこれでもかと食いしばって、体を後ろに弾きながらも目は見開いている。お化けにでも遭遇したみたいだ。


 ―――七秒。


「こっ    ち  きや」


 僕様は埋め尽くすように配置された鏡身をバラバラに刻んだ後、剣を持った腕を消した。

 そう錯覚する速度で構えられた防御を崩す。

 あと一振りという距離まで本体に肉薄したのだ。

 

 ―――八秒。


 刹那、鼻筋に剣が迫る。

 体から体が生まれ、剣を持った腕が急ブレーキを許さぬ僕様を迎えうっていた。

 それより速く。

 超えて。

 腕を切り飛ばす。

 宙に舞った血液と踊るように弾ける雷の残像。すかさず、――――――肉壁が如く体からはみ出る鏡身を切り裂き。


    踏

    み

    込

    ん

    だ。



―――十一秒。


 周囲に被害を及ぼさない速度でライオットの横を通り過ぎる。

 有無を言わさずに男を放り投げたのだ。四肢をなくした本体は、涙目のライオットに睨みつけられているところ。


―――十二秒。


 晴れた空の果てには森の天幕が広がっていた。

 風に煽られて都市下に葉を落とすそれら。

 ドームの壁を包み込んだ幹。都市中の上を包むような根っこ。大樹は拠り所(ほうそく)を必要とすることなく天に伸びている。

 

 屋敷にて剣を納める金打ち音が2度響いた。

 

 氷結された廊下ではイレイナとシュレイドが、上階では腰に手を当てて外を眺める父上。

 そして、刀を手に巫女服を揺らす少女が―――――――――



 あの馬鹿が椅子から立ち上がる音がする。

 


 歓喜の演奏はパッと止み、貴族たちはダンスホールでお互いに手を取り合っていた。


 豪快に開かれた赤いカーテンの先の演奏団。

 

 そこの中に金髪の少女はいた。


 古臭いバイオリンを肩に置いて楽譜をとけるような目で覗いている。

 あの目はだいたい怒っている時の目だ。

 大人しそうだがスナイパーみたいな視線でもあり、それは彼女がなんとか気を締めたことの証明でもあった。


「…………」


 指揮に立ったスターリーは浮き足である。

 ここの主演は四大貴族である彼。

 屋敷にて結んだ条件は二つ。一つはスターリーの招待という名目を消すこと、二つ目は、


『だが行くなら何があろうとお前が全力で楽しめる状況を作ってやる』


 舞台を中心とした魔法の使用許可である。


 …………本腰入れてこ。


 僕様は階段の下に座りこんだ後、じりじりと灼ける両目を加速させる。

  

 怪しげな熱を帯びた【災禍の魔眼】が能力を発動。

 緊張? 緊張なんてするはずもない。

 装飾・壁を透過。

 魔素を介したイメージの具現化開始、瞳を奪うほどの星雲がかがやく夜空、アリスがいつも演奏していた場所を生み出す。


 あの風に揺られる草木ですらイメージは決して崩さない。


 寝ている僕を気遣って野外で練習していた馬鹿が、どんな理由だろうがずっと失敗を続けて直して上手くなってきた。

 十分すぎるほどだ。

 それが緊張なんかで台無しになってたまるか。

 邪魔な感情は僕が感動で塗り尽くして、アリスの演奏もダンスパーティーも何もかもうまくいかせてやる…………!


 草木の感触や匂い、そして音までも加えてイメージする。そこは建物内ではなく星の海に照らされた野原。

 演奏が終わるまでの時間だけ、その場にいる全員に魔法をかける。

 

 興奮してステップを踏むものには蝶の光を、華やかに回るものには妖精の舞を。 

 一人残らず夜空の下で笑顔を咲かせるように。

 

 戸惑うものなどいない。


 なぜなら主役は自分自身。


 楽器を演奏するものも全員構わず楽しくやれ。


 僕様が後押ししてやる。


 奇跡ひしめく舞踏会は際限なくエスカレートしていく。

 泡みたいに空中を踊る水とダンスに合わせて宙を泳ぐ蛍火が飛び交う。

 どこからか笑い声が聞こえた。

 体を揺らす金髪の少女は舞い落ちる薔薇の花弁を噛んだ。


 正直、それからのことはあまり憶えていない。


 イメージの持続に集中しすぎてということもあるが、あまりの拍手と歓声にビックリして『瞬き』してしまった。

 それをトリガーにダンスホールの景色が戻る。

 瞼を下ろした後に五感レーダーでひょこっとダンスパーティーを覗けば、耳も頬も赤くするアリスである。

 

「…………」


 小さくバイオリンを抱きしめて手首を激しくぶんぶんと振っている。

 …………どうやら上手くいったらしい。

 口に噛んでいた赤い薔薇はシルクのようなドレスの胸に付けており、ふと目を細めて微笑んでいた。


「……。…………、…………よし」


 【災禍の魔眼】は瞼を開けることで使用可能となる。

 故に、目を閉じている間。

 効果は発動しない。

 そんなことを。

 意識が遠行く中で意味もなく思った。安全確認のようなものだ。しばらく、このままでもいいだろう。あとは父上たちに任せるという奴で。


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 …………体に溜まった膂力がなくなるにつれて。


 戦闘が終わったことを実感して。

 

 何かがどっかに消えていく。


 宇宙みたいな知らない場所に。


 何かがぼろぼろ腐っていく感覚が消えない。


 ふと思い出した誰かの瞳が、黒ずんで焼き付いていく。


 ずりずりと背中だってきっと今は、壁によりかかっているだろう。首ががたんと揺れて、何かを動かそうとしても億劫です。

 …………それをおかしいと思うよりも早く目の前に誰かが現れた。

 

「君、すごいクマだね。

  下手なメイクに挑戦したわけじゃなさそうだし、だいじょうぶかい?」


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