第7話 心地よさと
お互いがお互いを代わりとして認識してることを知った私たちの関係は一日で変わった。
まず、家の中では私は彼をお兄ちゃんと、彼は私を妹の名前であるサキと呼ぶようになった。彼の妹と私は似ていたらしい。私と同じように読書が趣味で私と同じように家事が出来て、よく出来た妹だと言っていた。
「サキ、今日のご飯は?」
「今日はお兄ちゃんが好きなハンバーグにしようかと思ってるんだけど、どうかな?」
「いいと思う。ありがとうな。こんな妹を持てて俺は幸せ者だよ。」
彼のこの笑顔も私のこの笑顔もどちらも貼り付けたような作り笑いだ。こんなことをしても辛いだけなのは分かっている。でも、この辛さの中にある甘い毒は、私たちには優しすぎた。
「サキは、学校は大丈夫なのか?」
学校、目を背けていたモノ。本来なら行くべき場所。この問いはきっと、
「それさ、サキに対しての言葉?それとも私に対して?」
彼は目を伏せる。やっぱりそうだ。
「じゃあ、私が学校行くって言ったら君はどう思う?」
苦虫を噛み潰したような顔をする。
「やっぱり、安心して。私は何処にも行かないよ。だからお兄ちゃんも何処にも行かないでね。」
そう、私たちはお互いを必要としてる。だから私は何処にも行かない。
「晩ごはんはちょっと奮発して外食でもしないか?」
「珍しいね。お兄ちゃんが外食しようだなんて。」
沈黙を破った彼の言葉は不器用な父親のようだった。
「そうだね。たまには外食もいいかもね。何食べよっか。」
「サキが食べたいモノに合わせるよ。」
「そっか。じゃあ自分ではそんな作らないし中華でもどう?」
中華は父の好物だった。だから私はたまの食事には中華をよく選んでいた。分かっている、こんなことに意味はない。これはただ自分を慰め、傷口を抉ることでしかないことぐらい理解している。それでも、ほんの小さな事でも家族を感じたいと思ってしまう弱い私がいる。
「本当にこんなのでいいのか?」
「いいよ。中華ならなんでもよかったし、値段なんてそこまで気にしない。」
「ならいいんだが…。」
「満足してなさそうに見える?」
「そういうわけじゃない。ただ寂しそうだったから。」
「なら余計なお世話だよ。これに関しては君の関わる余地はない。」
そう、これは私の問題。他人にはどうしようもない私自身の問題。
「じゃあ帰ろうか、お兄ちゃん。」
「帰りにアイスでも買って帰るか?」
「わーいおにいちゃんだいすきー。」
「そんな棒読みで言われても嬉しくないわ。」




