第8話 さきおくり
彼の家に泊まり始めて5日が過ぎようとしていた。2日目に外食してから学校にも、いや外に一歩も出ていない。ここの家にいるようになってから世界が縮んだ。そう憂鬱になるなかそれを振り払うように音がした。スマホの着信音。
「母さんから…。」
きっと心配しているのだろう。分かってる。私が間違ってる事くらい。だけどこれに出る気にはなれなかった。だから電源を切った。
「分かってるよ、間違いなんて。でも私はもうどうしようもないんだ。」
そうだ、分かっている。これは問題を先送りにしていることくらい。こんなことをしても現状なんて変わりようがないくらい。だから逃げている。逃げていまっている。
自らを誤魔化すように家事をする。洗濯をして、洗い物をして、ベッドを整えて。ああそうだ、現状を最悪にする一手があった。
そんなこと知るか知らずか帰ってきた彼の手には何かがあった。
「ただいまサキ。」
「お帰りなさい、お兄ちゃん。何かお買い物?」
「お買い物って程のものじゃないさ。これは。」
「カードゲーム?」
「ああ、そういえば小さい頃お兄ちゃんと遊びたいってサキも一緒にやってたっけ。」
このカードゲームは知っている。昔兄と一緒に遊んでいた。子供の買うパックからでは寄せ詰めでしかないから唯一兄と対等に出来た遊び。
「懐かしいね。」
涙が溢れてしまった。これはある意味で昔の家族の日常の象徴であるかもしれない。
「俺もしかして地雷踏んだ?」
「いえ、泣きたいわけではないのに、なんで止まらないの?」
拭いても拭いても涙が止まらない。
「ごめんない、迷惑かけて。」
「大丈夫。だって俺はお兄ちゃんだから。」
「ご飯作ります。お兄ちゃん、晩ごはん何がいい?」
「なんでもいいよ。」
「なんでもいいが一番困るの!」
「ふふっ。」
「「あははは。」」
「それ、サキもよく怒ってた。」
「だろうね、そう言われても思いつかないから言ってるわけだし。」
彼が帰ってくる前何考えてたんだっけ?忘れちゃった。
「ご飯食べ終わったら2人でこれ開けるか。」
「私、カードゲームの箱開けるの初めてなんだよね。」
「へー、最近のカードってこんなカッコよくなったんだ〜。」
「これ終わったらやってみるか?俺も新デッキの調整とかしたかったし。」
「そこまではいいや。でも眺めるくらいはしようかな?」
「でもさ、久しぶりにやってみたらハマるかもよ?」
「そこまで言うならやろうかな?」
そう、今世ではよく兄がなにかをいじっているのを眺めること多かった。母から女の子らしくしろと言われそれほどカードゲームやらなくなった関係上兄が友人とやるためにデッキを触るのを見るのが趣味になっていた。けれでも、正直なところ兄と一緒に遊びたい私もいた。
「ほとんど初心者みたいなモノだから手加減してよね。」
「善処する。」
「はは、信用できな〜い。」
この時期のこのゲームの環境は知っている。いや、知っていたと言うのが正しいのだろうか?前世、高校生になりアルバイトを始めて数少ない自由な時間を使った趣味だった。
「サキ、結構上手くないか?と言うよりなんか小慣れてる感じするな。」
「そう?昔ちょっと触ってたからじゃない?」
「それにしてはプレイングに躊躇いがないんだよ。使い慣れてる感じすらする。」
「気のせいだよ。あ、リーサルだね。」
「なんかめっちゃ負けてる気がする。」
「気のせい気のせい。五分五分だよ。」
嘘だ。7、8割は勝ってる。そりゃそうだ。この時期のデッキは大体触った。友人と調整を無限にしていた。学校の休み時間、たまにあった放課後が暇の日、ショップ大会の後。ずっと対戦し続けていた。数すくない学生時代の思い出。
「なぁ、今度」
「やだ。」
「聞く前から答えるなよ。」
「どうせ3on3あるから一緒に出ないかとか言うつもりだったでしょ?」
「よくわかったな。」
「私はやる気ないよ。それにカードショップで私みたいな女の子に話しかけてくるのなんてろくなのいないから。」
「そう言われたら仕方ないか。」




