第4話 置いてきた笑顔
第4話 置いてきた笑顔
ひよりが転校したのは、小学四年の終わりだった。
「……転校?」
陽が驚いた顔で聞き返すと、
ひよりは小さくうなずいた。
「うん。お父さんの仕事で……来週には」
「来週!? 急すぎだろ……」
陽は言葉を失った。
ひよりは笑おうとしたけれど、
目の奥は少し揺れていた。
「……はるくん、今までありがとう」
「なんだよそれ。まだ来週まであるし、また遊べるだろ」
「……うん」
ひよりはそう言ったけれど、
その声はどこか寂しそうだった。
転校先でのひより
新しい学校。
知らない教室。
知らない顔。
ひよりは、前の学校と同じように、
お気に入りのワンピースを着ていた。
休み時間、近くにいた男子がひよりを見て言った。
「その服、なんか似合ってないよ」
軽い調子だった。
悪意なんてなかった。
ただ、思ったことをそのまま口にしただけ。
でも、その瞬間――
「だよなー」
「なんか変じゃね?」
「うん、ちょっとダサ……」
周りの男子が、面白がるように笑って加担した。
ひよりは固まった。
(……似合ってないんだ)
(私、変なんだ)
胸の奥がじんわり熱くなって、
でも涙は出なかった。
ただ、
“自分の選ぶものに自信がなくなった”。
服も、髪型も、話し方も、
全部「間違ってるのかもしれない」と思うようになった。
(はるくんは……そんなこと言わなかったのに)
ひよりは、
“昔のひよりちゃん”をそっと胸の奥にしまった。
ひよりの独白
(大学で、はるくんを見つけたとき)
(声をかけようなんて……思えなかった)
(だって、今の私は……あの頃の私じゃないから)
だから、
ひよりは陽に気づかれないように距離を取っていた。
(でも……部室で近くで見たとき)
(あの頃のままの声で、困った顔で……)
(……気づいちゃったんだよ、はるくんだって)
胸が痛くて、
でもどこか懐かしくて。
(気づかれなくてよかった……)
(でも……少しだけ、寂しい)




